YAMAHA TC-800GL
STEREO CASSTTE DECK ¥75,0001976年にヤマハが発売したカセットデッキ。イタリア人デザイナーがデザインしたパネル面がスラントした形状
のデザインが非常に個性的で,カセットデッキ史上最も美しいデザインの1台ではなかったかと思います。実際,
このようなスラントパネルを採用したカセットデッキは,他にナカミチの600くらいしかなく,カセットデッキ史上,
非常に珍しいデザインでした。TC-800GLの最大の特徴は,上記のように特徴的なデザインにありました。当時,工業デザインの分野で奇
才といわれていた世界的イタリア人デザイナー「マリオ・ベリーニ」によるデザインで,機能と美しさを両立させた
というものでした。TC-800GLは,純粋な据え置き型デッキというより可搬型の要素も含んだ製品であったため
様々な場面での使いやすさを考慮されたデザインであったともいえました。スラント(斜め)したパネル形状により
机上や野外にセットした場合でも,立っていても座っていても操作しやすいという特徴を持っていました。また,軽
量設計(5.0kg)で,持ち運びも考えられていたため,脇の下にはさんで持ち運ぶことも考えられた形状でした。
デザインの美しい機器の多いヤマハの面目躍如という感じでした。
TC-800GLは,基本的にワンウェイ2ヘッドのシンプルなデッキでしたが,基本性能をきちんと練り上げたしっか
りした中身を持っていました。走行系は基本に忠実に精度を上げて作られ,当時としては驚異的なワウ・フラッター
0.057%以下を達成していました。キャプスタンは真円度誤差0.1ミクロン以下というもので,キャプスタンおよび
キャプスタン軸受けのクリアランスが0.1ミクロン単位で極めて高精度に研磨されて仕上げられたものでした。
モーターはDCサーボを採用し,トルクを従来の2倍(ヤマハ社内比)に設定して,テープのバックテンションの変動
や摩擦抵抗の影響を受けにくいようにしていました。また,モーターの回転をキャプスタンに伝えるベルトには高精
度の平ベルトを開発して搭載し,熱処理による精密仕上げの直径75mmの大型フライホイールとあわせて,高精度
な走行系を形成していました。ヘッドは,磁気特性に優れたパーマロイの耐摩耗性を高めたスーパーハード・パーマロイヘッドを搭載していました。
コンターエフェクト(形状効果)による低域のうねりを抑えるため,独得のカーブのヘッド形状を採用していました。
ヘッドに続くイコライザープリアンプには,SN比に考慮をはらったICとヤマハの当時最新の回路技術でまとめていま
した。これらにより,SN比58dB,歪率1.5%以下を実現していました。TC-800GLは,可搬型の性格も併せ持たせたデッキであったため,軽量で堅牢な設計がなされていました。ボディ
には強度が高く軽量のABS樹脂を使用し,流麗なフォルムと軽量化を果たしていました。また,AC100V以外に
乾電池やDC12Vでの稼働も可能で,野外での使用も容易になっていました。マイクロホン,カセット,乾電池などと
もにTC-800GLがぴったり収まる専用キャリングケースも別売で用意されていました。
操作系や機能で変わったところでは,録音レベルのコントロールが,ライン入力,マイク入力それぞれ別個に付いて
いて,ミキシング録音が可能となっていました。また,野外での生録(今や死語?)時の急な過大入力に備えて,リ
ミッタースイッチが付いていたこと,再生時のピッチを±3%可変できるピッチコントロールが付いていたことなど,この
デッキの性格を物語るものだったと思います。
NRはドルビー(B)を搭載し,テープセレクターは,NORMALとFeCrの切り替えを,FeCrスイッチのON/OFFで行
い,Crテープについては自動検出するようになっていました。以上のように,TC-800GLは個性的なフォルムの中に,据え置き型としてだけでなく可搬型デッキとしても使えるよ
うに過不足なく機能を搭載し,走行系などの基本性能をしっかりとおさえた使いやすいデッキでした。音の方はヤマハ
らしい洗練されたバランスのとれたものでした。
また,TC-800シリーズには,ドルビーNR,マイクミキシング機能,3電源方式など,一部機能を省略した弟機TC-800
(¥59,000)もありました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
■基本性能■◎ワウフラッター0.057%以下●走行系●
最も敏感な耳でもふらつきを感知できません。
◎真円度誤差0.1ミクロン以下のキャプスタン
◎2倍トルクのDCサーボモーター
◎高精度の平ベルトと高精度の75φフライホイール
◎ABS樹脂を使い,リブを多用した強構造のボディです
◎SN比50dB以上,歪率1.5%以下●電気系●
マニアックな耳にも十分の音質(クオリティ)です
◎新開発のスーパーハード・パーマロイヘッド
◎コンターエフェクトを
十分にコントロールしたヘッドです
◎SN比抜群のイコライザ・プリアンプICと
オールオーバーに低歪率設計
◎見事に「ヤマハの音」です。■音■
■操作性■◎ただスムーズで簡単であるための
「ベリーニ・アングル」です◎純機能のTC-800,多機能のTC-800GL
■機能性■
いずれも性能は同一
■デザイン■◎「極限のフォルム」と呼びたくなる美しさです
TC-800GL | TC-800 | |
テープ速度 | 4.8cm/sec | ← |
ワウフラッター | JIS-W.R.M.S 0.057%以下
DIN-W.T.D 0.2%以下 |
← |
ピッチコントロール | ±3% | ← |
速送り,巻き戻し | 80sec以内(C-60) | ← |
録音再生周波数特性 | LH 30〜13,000Hz
Fe-Cr・CrO2 30〜15,000Hz |
← |
入力感度 | LINE 50mV/50kΩ
MIC 0.5mV/10kΩ |
← |
SN比 | 50dB以上(DIN-0dB)
58dB(DOLBY-ON) |
50dB以上(DIN-0dB)
58dB(HIFILTER-ON) |
総合歪率 | 1.5%以下(1kHz,0VU) | ← |
バイアス周波数 | 85kHz | ← |
チャンネルセパレーション | 30dB以上 | ← |
出力 | LINE 0.4V(0VU)
PHONES 1mW/8Ω,3mW/150Ω |
← |
付属機構・その他 | ドルビーシステム,メモリーリワインド
ピッチコントロール,クロームテープ自動切換 MIC-LINEミキシング,デュアルピークインジ ケーター,リミッター,三電源方式, 留守録音可能 |
メモリーリワインド,ピッチコントロール,
クロームテープ自動切換,テープセレクター スライド式コントロール,ハイフィルター |
使用半導体 | Tr45,IC6,ダイオード38 | Tr31,IC2,ダイオード18 |
消費電力 | AC16W | ← |
寸法 | 312W×98(150)H×312Dmm | ← |
重量 | 5.0kg(電池別),5.4kg(電池含む) | 4.6kg |
※本ページに掲載したTC-800GL,TC-800の写真,仕様表等は
1976年10月のYAMAHAのカタログより抜粋したもので,日本楽
器製造株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意
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