SONY TC-D5
STEREO CASSETTE CORDER ¥99,800

1978年にソニーが発売したカセットレコーダー。可搬型のテープデッキを1951年にいち早く開発し,
プロの現場で「デンスケ」と呼ばれ,独壇場とも言えるほどの強みを見せていたのがソニーでした。そ
のソニーが従来の機種に比べて大幅な小型化を実現したのがTC-D5でした。小型化と高性能を両
立した名機としてロングセラーとなった1台でした。

TC-D5は,大幅なメカニズム部の小型化のために技術が投入されていました。特に,カセットデッキ
として回転精度を高く保ちつつ小型化をするために回転系の技術に努力が払われていました。TC-D5
のキャプスタン駆動方式は「ディスク・ドライブ・キャプスタン・サーボ」という方式で,通常駆動用のモー
ターにつけられるFGをキャプスタンからかけることで,高い回転精度と安定性を実現していました。キャ
プスタンの軸受部とフライホイールの内周部に144歯のバリアブルレラクタンス型FG(周波数発電機)
を内蔵し,キャプスタンの回転をダイレクトに検出,サンプリングホールドテクニックにより広いサーボ周
波数帯域をもつサーボアンプでフィードバックをかけ,キャプスタン自体に強力なサーボがかけられるも
ので,小型のフライホイールでも高い回転精度を保つことができ,アンチローリング効果もすぐれていま
した。サーボアンプには,複合フィルムコンデンサーや金属皮膜抵抗が使用され,温度特性に対する安
定性も高められていました。

TC-D5のFG内蔵フライホイール

テープトランスポートの心臓部であるキャプスタンを駆動する方式として,ベルトやプーリーを使ったものが
通常で,高級機ではダイレクトライブが使われていますが,TC-D5では,メカニズム全体の小型化薄型化
をするために独自の「ディスク・ドライブ方式」が開発・採用されていました。これは,フライホイールの底面
に円盤状(ディスク)に弾性材を密着させ,モーター軸を圧着させて駆動するもので,駆動部のスペースが
小さく,小型のメカニズムが実現しやすいという利点を持っていました。また,ベルトやプーリーなどの伝達
機構がないのでトルクロスが少なく,しかも,モーターのトルクを回転比(約5.7倍)だけ拡大しているので
起動も早く,アンチローリング効果も高められていました。さらに,弾性材のコンプライアンスとフライホイー
ルの質量によってメカニカルフィルターが構成され,100Hz以上のフラッター成分も低減されていました。

ディスク・ドライブ方式小型コアレスモーター

また,TC-D5の小型化は,駆動方式に加え,モーターの小型化が大きく効いていました。TC-D5のモーター
は,コイル自体を円筒状に固めた回転子と,強力な希土類マグネット使用で,できるだけ小型で,低消費電力
強トルクをねらった新開発のコアレスモーターで,応答特性が良くモーターノイズの少ないすぐれた回転性能を
実現していました。信頼性においても,同社のコンポデッキのグリーンモーター等と同等の耐久性を実現してい
ました。

F&FヘッドDC-DCコンバーター

ヘッドには,コア部だけでなくガード部にも同質のフェライトを使用した「F&F(フェライト&フェライト)ヘッド」を搭
載し,すぐれた周波数特性,リニアリティ,磁気飽和特性,高い耐久性を実現していました。
また,ダイナミックレンジの広いアンプ部を実現するための駆動電源には比較的高い電圧が要求されることと
電池を少なくして軽量化を図りたいこととの相反する条件があるため,TC-D5では,DC-DCコンバーターを搭
載し,電池電圧3V(乾電池2本)を12Vと4倍に昇圧して用いるようになっていました。

テープポジションは,バイアスがNORMALとHIGHの2段,イコライザが3種類でFe-Crテープにも対応してい
ました。また,CrOポジションは,カセットの検出口により,自動的に切り替わるようになっていました。
ノイズリダクションとしてドルビーNR(Bタイプ)が装備され,19kHzのFMパイロット信号をカットするMPXフィ
ルターも装備されていました。このMPXフィルターは,マイク録音時にはワイドレンジな録音を実現するために
不要となるため,マイク端子にプラグを挿入すると自動的にOFFになる仕組みになっていました。

レベルメーターはVU型で,スイッチひとつで,電池の残量をチェックするバッテリーチェックメーターになるように
なっていました。また,LED使用のPEAKインジケーターメーターも上部に装備されていました。さらに,不意
の過大入力に対応して,オーバーレベル分を自動的に抑える設定になるリミッタースイッチも装備されていまし
た。また,録音レベルボリューム以前のマイクアンプへの過大入力を抑えるため,マイクアンプ回路の手前で
20dB減衰させるマイクアッテネータースイッチも装備されていました。

TC-D5の内部の図

モニター音量が調節できるモニターボリュームが装備され,ヘッドホンによるモニターの他に本体にアンプと小型スピ
ーカーが内蔵され,スピーカーによるモニターもできるようになっていました。
電源はACアダプターを使用してのAC100V,乾電池(アルカリ乾電池の5.5時間),カーバッテリーコードによる自
動車からの電源と3電源方式を採用していました。
筐体は,アルミダイキャストやアルミ板による堅牢な構造で,主要な操作スイッチやジャック類もできるだけ埋め込み
式にして筐体のフラット化を図り,野外での使用に対しての安全性・信頼性を考慮した設計になっていました。

以上のように,TC-D5は,外形寸法237W×48H×168Dmm,重量1.7kg(乾電池含む)と,それまでの可搬型
デッキ(ソニーの商標ではデンスケ)と比較して大幅な,小型化・軽量化を実現しつつ,高機能と高性能を両立させた
1台でした。その後1980年にはメタル対応化を図ったTC-D5Mが登場し,その優れた性能と使いやすさから,1990
年代に入っても超ロングセラーを誇ったまさに名機でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


過酷な条件に耐えぬける性能。
そして,もっと小型・軽量に・・・・。
ソニーのデッキ技術が成しとげた,
超小型のカセットデンスケ新登場。

ポータービリティとは,
より小さくすることだ。
ソニーのデッキ技術とマイクロカセットの技術から生まれたカセットデンスケD5。
このサイズからは推測できないほどの内容を持っています。
ここまでくると「小型・軽量」に超がつきます。

小型(幅237mm高さ48mm奥行168mm),
軽量(1.7kg)。
しかも,忠実な録音・再生を目指した,
密度の高い内容を持っています。

デンスケの歴史はソニーの歴史ともいえます。
●ポータービリティへのあくなき追求から生まれました。

デッキの生命はメカニズム。
真のデッキ技術が問われるところです。
●小型,低ワウ・フラッター,アンチローリング効果を実現さ
 せたディスク・ドライブ・方式,キャプスタン・サーボ・システム。
(1)キャプスタン・サーボコントロール
(2)ディスク・ドライブ方式
(3)コアレスモーター

ポータブルタイプだからといって,
録音特性を犠牲にしてはいません。
●美しい音をいつまでも保つF&Fヘッド
●高忠実録音・再生するアンプ部の礎。
 DC-DCコンバーター。
●効果的にSN比を改善するドルビーNRシステム。
●テープの持ち味を十分に生かすテープセレクター。
●レベルの確認が容易な
 VUメーター/ピークレベルインジケーター。
●オーバーレベル録音による音のひずみを抑える
 ソニー・リミッター録音。
●過大入力によるアンプのひずみを防ぐ
 マイクアッテネーター。
●FM放送の不要な信号をカットする
 MPXフィルター回路。
●適正な音量でモニターできるモニターボリューム
●録音直後のチョイ聴きに便利なモニタースピーカー内蔵。

小型・軽量に加え,操作性の良さも
徹底的に追求しています。
●付属のアルカリ乾電池で5.5時間の連続録音可能。
●安全性・信頼性に重点をおいたフラット構造タイプ。
●機動性を支える3電源方式。
●暗闇でもレベルが読め,又,電池の確認も容易な
 メモリーライト/バッテリーチェック
●電池の消耗をできる限り防ぐオートシャット・オフ・メカニズム。
●録音チャンスを生かすロック式ポーズボタン。
●録音状態がひとめでわかるRECインジケーター。
●録音したソースの頭出しに便利な
 テープカウンター/リセットボタン。
●丈夫で,肩によくなじむキャリングベルト。
 
 
 
 

●主な規格●


トラック型式 4トラック2チャンネルステレオ
録音時間 C-120で往復120分
SN比 ドルビーNRスイッチOFF(ピークレベル):59dB(デュアドカセット)
ドルビーNRスイッチONにてSN比改善量は5dB(1kHz),10dB(5kHz以上)
総合ひずみ率 1.3%(デュアドカセット)
周波数特性 20〜18,000Hz,30〜16,000Hz±3dB(デュアドカセット)
20〜16,000Hz(JHFカセット)
ワウ・フラッター 0.06%wrms
入力端子 マイクジャック(標準端子×2)
 最小入力レベル0.2mV(−72dB)
 ローインピーダンスマイクに適合
ライン入力ジャック(ピンジャック×2)
 最小入力レベル0.06V(−22dB)
 入力インピーダンス100kΩ
出力端子 ライン出力ジャック(ピンジャック×2)
 規定出力0.435V(100kΩ負荷時)
 出力インピーダンス10kΩ以下
ヘッドホンジャック(ステレオ標準ジャック)
 −∞〜−16dB(8Ω負荷時)
 8〜32Ωのヘッドホンに適合 
スピーカー 5cm円形
定格出力 200mW(EIAJ/DC)
電池寿命 約5.5時間(付属ソニー・エバレディ・アルカリAM1で連続録音時)
電源 乾電池(単一×2)3Vで動作可能
DCIN(別売アダプターAC-12使用又はカーバッテリーコードDCC-127A使用)6V動作
消費電力 6.8VA(50Hz),5.5VA(60Hz)いずれもAC-12使用時
大きさ 幅237×高さ48×奥行168mm
重さ 1.7kg(乾電池含む)
※本ページに掲載したTC-D5の写真,仕様表等は1978年5月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作
 権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
   
 
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