TC-FX1010の写真
SONY TC-FX1010
STEREO CASSETTE DECK ¥108,000

1981年にソニーが発売したカセットデッキ。フラットパネルのユニークなデザイン
が印象的な1台で,マイコン(マイクロコンピュータ)技術を前面に打ち出した設計
で,独自性を出したデザイン同様にユニークなデッキでした。

この頃ソニーは,当時オーディオ界で最新の技術であったマイコン(マイクロプロ
セッサー)を積極的に導入し,新しい使いやすさや多彩な機能を目指した「デジッ
クデッキ・FXシリーズ」を展開していました。その中でトップに位置したのが,この
TC-FX1010でした。

走行系は,クローズドループ・デュアルキャプスタン方式が採用され,キャプスタン
駆動用にはBSL(ブラシ&スロットレス)グリーンモーターが搭載され,リール駆動
用にはDCモーターが搭載された2モーター構成となっていました。

走行系BSLグリーンモーター

ヘッドは,「デジックデッキ」のシリーズ中,唯一,録音ヘッドと再生ヘッドが独立した
3ヘッド方式がとられていました。ソニー独自の「独立縣架3ヘッド方式」で,全体と
してはコンビネーションヘッドと同一の大きさとヘッドタッチを実現しながら,録音ヘッ
ドと再生ヘッドが独立していて,独立してアジマスの微調整が行われるもので,コン
ビネーション3ヘッドと独立3ヘッドの両者の特性を併せ持つ巧妙な方式でした。ソ
ニーも後のモデルではこの方式をやめ,通常のコンビネーションヘッドとなりました
が,この独立縣架3ヘッドは,独自の魅力を持ったヘッドだったように思います。録
音ヘッド・再生ヘッドは,S&F(センダスト&フェライト)ヘッドで,センダスト合金の
飽和磁束密度の高さとフェライトの高域特性の良さを併せ持たせ,メタルテープに
対しても十分な対応力を持った高性能ヘッドでした。消去ヘッドには,フェライトを材
質とした4Gap F&Fヘッドが搭載されていました。
再生ヘッドと再生アンプは直結され,カップリングコンデンサーを排除して低域の位
相特性を改善したDCアンプ構成や±2電源方式がとられていました。

TC-FX1010を特徴づけているのが,突起物であるツマミの一切無いフラットなフロ
ントパネルでした。テープ走行系の操作のみならず,電源スイッチからイジェクトボタ
ン,録音レベル操作まですべてフェザータッチのパネル操作という斬新な操作系を持
っているためで,新開発の信号制御用IC・「ASP(Audio Signal Processor)」の
採用により可能となっていました。BEEPスイッチをONにしておくと,各操作キーを操
作するたびに「ピッ」という電子音が鳴り,動作指令がインプットされたことを確認でき
るようになっていました。また,通常使用するイジェクトキー,メモリーキー,テープ走
行キーなど中央部のキーのどれかに触れれば自動的に電源ON,約4秒間のスタン
バイ状態の後,直接動作に移り,ストップ状態が60分続くと自動的に電源OFFとなる
ようになっていました。

TC-FX1010は,基本的に録音にまつわる操作を簡単にできるようにしようとした設
計で,マイコンを生かした自動化,操作の簡便化などが図られていました。
テープセレクターは,ソニーらしく,NORMALl,CrO2, FeCr,METALの4ポジショ
ンで,テープをセットすると検出孔によってバイアス,イコライザがセットされるオート
テープセレクターが搭載されていました。検出孔のないテープに対応してマニュアル
での切替も可能となっていました。
オートキャリブレーションも搭載され,ボタン一つで,リーダーテープを避けてテープ
早送り,録音バイアス,録音感度の自動調整,巻き戻しという動作が約8秒で完了す
るようになっていました。
3ヘッド方式ながら,アフターモニターはできないという仕様でしたが,代わりに「セル
フモニター」機能という,「デジックデッキ」ならではの新しい考え方のモニター機能が
搭載されていました。「セルフモニター」では,録音時に,ソース信号と再生信号を常
時比較し,差が大きい場合は,ディスプレイにエラー表示を行うという形になっていま
した。

録音レベルボリュームも+と−のタッチキー式で,その増減は,ディスプレイにdBで
デジタル表示されるようになっていました。さらに,AUTO ATTをONにしておくと,使
用しているテープ毎に設定されている中低域,及び高域のMOLの値と,録音信号の
中低域,高域のレベルをセルフモニター3ヘッド方式によって比較し,セットされている
アッテネーター値(録音レベル)では,レベルが高すぎる場合,アッテネーターを自動的
に最適値に修正してくれるようになっていました。
さらに,MOLバランスコントロール機能が搭載されていました。このMOLバランスコン
トロール機能は,録音時にバイアス量を3ポイントで設定し,音楽ソースに合わせて,
SOFT/NORM/SHARPがセレクトできる機能で,低域エネルギーが大部分を占める
ソースには,低域MOLが大きくとれるSOFTで,高域の多いソースでは,SHARPでと
好みに応じて味付けでき,周波数の変化分はイコライザーで補正するため,周波数特
性はフラットになるというものでした。
ノイズリダクションとしては,通常のドルビー(Bタイプ)に加えてCタイプを搭載していま
した。

TC-FX1010には,最適な録音/再生の設定を記録しておくステイタスメモリーという機
能が装備されていました。4つのステイタスメモリーキーに,(1)オートキャリブレーション
で設定した録音バイアスと録音感度 (2)”AUTO ATT”のON/OFF (3)テープのタイプ
(Normal/CrO2/Fe-Cr/Metal (4)録音レベル (5)録音レベルL・Rバランス (6)ライン
ヘッドホン出力レベル (7)ドルビーNRポジション(B/C/OFF) (8)MPXフィルターのON
OFF (9)MOLバランス (10)操作時のBEEP音のON/OFF の10項目の内容をプリセ
ットしておくことができ,ワンタッチで呼び出せるようになっていました。

レベルメーターは,16セグメントの蛍光管表示タイプで,テープタイプ別の最適録音レベル
も表示されるようになっていました。ピークホールドとリアルタイムのピーク値を同時表示す
るようになっており,レベル設定がしやすいようになっていました。
テープカウンターは,テープの走行時間を分秒でデジタル表示するリアルタイム電子カウン
ターで,テープ残量を知るのに便利な減算機能も装備されていました。

以上のように,TC-FX1010は,マイコン技術を積極的に導入した斬新な操作系をもった
個性的なデッキで,当時「未来的・・」といったような評価を得ていた1台でした。デッキとして
の基本的な性能はオーソドックスな1ウェイの3ヘッドデッキらしく手堅いもので,テープの
個性をきちんと出してくれるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



これからのデッキのデザイン
感覚と操作感覚を示唆する,
フラットパネルフェイスと
マルチファンクション。
マイコン技術を集大成した
最高級〈デジック・デッキ〉。


Computerized Self-Control Deck
全身がデジタル感覚。
〈デジック・デッキ〉の頂点に立つFX1010。


コンピュータ・テクノロジーを
手中にすると,デッキはこうなる。

DIGIC DECK FX1010

◎オールファインフェザータッチ・オペレーションの
  フラットパネルフェイス
◎安定したテープ走行を実現する
  クローズドループ・デュアルキャプスタン方式
◎信頼性の高い2モーター・シンプルメカニズム
◎音質の劣化を防止する,再生ヘッドとアンプの
  ダイレクトカップリング,DCアンプ構成
◎独立懸架型S&Fヘッド採用の
  セルフモニター3ヘッド方式
◎録音の異常を知らせるセルフモニター機能
◎どのキーに触れても電源ON,60分動作指示
  がないと自動的に電源OFF
◎テープ残量がひと目でわかる減算機能つきリニ
  ア電子カウンター
◎4タイプの録再状態をプリセットできるステイタス
  メモリー機能
◎軽快なフェザータッチ録音レベルボリュームと,
  レベル表示
◎マルチディスプレイの蛍光管表示多機能ピーク
  プログラムメーター
◎4パターンのリモコンプレイが楽しめる,多目的
  リモコン対応
◎メモリーストップ/メモリープレイ機能
◎オートスペースREC MUTE機能
◎再生時,本体の動作と無関係にメモリー状態を
  確認できるCHECKキー
◎タイマースタンバイ機能
◎MPXフィルター装備
◎”静寂”の意味を変える,ドルビーNR・Cタイプ搭載
◎テープポジションを自動的に選び出す
  オートテープセレクター
◎録音特性を好みに応じて味つけできる
  MOLバランスコントロール機能
◎動作を電子音で確認できるBEEPスイッチ
◎録音バイアス,録音感度を自動調整する
  オートキャリブレーション
◎録音時のオーバーレベルを自動補正する
  オートアッテネーター





●主な仕様●

トラック形式 4トラック・2チャンネル
ヘッド
消去1(F&F),録音1(S&F),再生1(S&F)
モーター
キャプスタン用1(リニアトルクBSLモーター),リール用1(DC モーター)
SN比
     NR    ※OFF   OFF    ドルビーNR・Bタイプ ドルビーNR・Cタイプ      
BHFテープ     :53dB   56dB      63dB         69dB
JHFテープ     :56dB   57dB      64dB         70dB
DUADテープ   : 57dB   61dB      68dB         74dB
METALLICテープ:56dB   60dB      67dB         73dB   
周波数特性
※25〜18,000Hz±3dB(DUAD,METALLICテープ)
周波数範囲
20〜20,000Hz(DUAD,METALLICテープ)
ワウ・フラッター
※±0.06%W・Peak(0.04%WRMS)
ひずみ率
※0.5%(DUADテープ),0.8%(DUAD,METALLICテープ)
入力
       ジャック/個数,最小入力レベル  ,インピーダンス 
ライン:ピンジャック/2個,77.5mV(−20dB),50kΩ
出力
         ジャック/個数,        規定出力レベル       ,インピーダンス 
ライン  :ピンジャック/2個,      −5〜−35dB(50kΩ負荷時),10kΩ以下
ヘッドホン:ステレオ標準ジャック/1個,−20〜−50dB(8Ω負荷時) ,LOW
電源
AC100V,50/60Hz
消費電力
31W
大きさ
430W×105H×330Dmm
重さ
8kg


※本ページに掲載したTC-FX1010の写真,仕様表等は1981年
 11月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
 等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
 
   
 
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