SONY TC-FX7
STEREO CASSETTE DECK ¥79,800
1980年に,ソニーが発売したカセットデッキ。ソニーは,1980年代に入り,メタルテープ対応,LED
によるレベルメーター,フェザータッチ操作系等を搭載したカセットデッキを「デジックデッキ」の名称で
シリーズ化していきました。その中で,最上級機にあたり薄型のデザインを採用して登場したのが,こ
のTC-FX7でした。
TC-FX7の最大の特徴は,カセットテープを立てて装着する,いわゆる正立透視型としては驚異的な
薄型のデザインが実現されていたことでした。カセットテープのハーフの高さが64mmであるのに対し
てパネルの高さが何と70mm,筐体全体でも80mmしかなく,この厚さは,カセットテープを水平に装着
してローディングするリニアスケーティング方式の
TC-K88と同じでした。
走行系は,定速走行用と早巻用それぞれに専用のモーターを搭載した2モーター構成で,複雑な伝達機
構を排除したシンプルなメカニズムを採用し,フェザータッチとソレノイド駆動によるロジカルオペレーショ
ンで,軽く触れるだけでの操作と,巻き戻し,早送りからすぐ再生へと移れるダイレクトでスピーディーな操
作系を実現していました。ャプスタンの駆動にはダイレクトドライブ方式が採用されていました。キャプスタン
を駆動するDDモーターとして,ソニー自慢のBSL(ブラシ&スロットレス)グリーンモーターにクォーツロッ
クとFGサーボによって2段サーボをかけた高精度なものを搭載していました。このあたりの構成は,同様
に正立透視型メカで,厚さ88mmの薄型の筐体を実現したテクニクスのカセットデッキ
RS-M85を思わせ
るものがありました。
そして,TC-FX7が,さらなる薄型を実現した背景には特殊なヘッドの開発がありました。ヘッドのスペー
スが十分とれない薄型のメカニズムに合わせ,厚さ8.4mmの超薄型S&Fタイニーヘッドを新開発し搭
載していました。S&Fは,センダスト&フェライトの略で,高域特性と耐摩耗性にすぐれるフェライトヘッド
をベースにセンダストチップをヘッド表面に付けたもので,センダストのラミネートではなくソリッド状で使用
することで直線性の良いエッジを形成するとともに,高硬度石英皮膜を蒸着する方法でギャップを形成し
ているなど,高度な技術が結晶したソニー独自のヘッドでした。このヘッドにより,メタルテープへの対応
が可能となっていました。そして,消去ヘッドには,フェライト系のマグネフォーカス4ギャップF&Fタイニー
ヘッドが搭載されていました。
テープセレクターは,ソフトタッチのプッシュボタンによるTYPET,U,V,Wの4ポジションを装備し,ノー
マルテープからメタルテープまで全てのタイプのテープに対応していました。
レベルメーターは,左右独立16エレメントのLEDピークプログラムメーターが搭載されていました。高速な
アタックタイムをもち,−40dB〜+8dBのワイドスケールで,0dBを基準にエレメントが黄色,赤に色分け
され,一瞬一瞬のピーク値と同時にピークホールドを同時に表示するダブルインジケーション方式で見や
すく使いやすいものとなっていました。このワイドレンジのレベルメーターに合わせて,幅100mmのロング
ストロークのスライド式の録音レベルボリュームが搭載され,外観上の特徴ともなっていました。
テープカウンターとして,蛍光管表示の4桁の電子カウンターが装備されていました。この電子カウンターは
テープの走行時間を分・秒で表示するリニア電子カウンターが採用されていました。
アンプ回路は,コンデンサーによる音質劣化を防止したDCアンプ構成が採用され,電源部もFETバッファ
アンプによる±2電源方式の強力なものが搭載されていました。
ノイズリダクションとしてドルビーNR(Bタイプ)が搭載されていました。ドルビー回路をICに凝縮したソニー
製のドルビーNR・コンプリートICが搭載され,信頼性の向上が図られていました。
その他機能的には,自動的に約4秒間の無録音部分が作れるオートスペースつきREC MUTE,巻き戻し
ボタンと再生ボタンをあらかじめ押しておくとテープの初めまで巻き戻して自動的に再生するオートプレイ,
テープカウンターが”999”の位置で自動的に再生に入るメモリープレイなどオーソドックスなものが搭載さ
れていました。さらに,当時のカセットデッキらしくライン入力以外にマイク入力も備えられていました。
以上のように,TC-FX7は,すぐれたテープデッキ技術を持ち,小型化・薄型化技術にも優れていたソニー
らしさあふれるカセットデッキでした。個人的には,ソニーの歴代カセットデッキの中でも,最も美しいデザイ
ンをもつ1台だと思っています。