SONY TC-K555
STEREO CASSETTE DECK ¥79,800
1981年に,ソニーが発売したカセットデッキ。前年の1980年に栄光のナンバー「777」を復活させたカセット
デッキの最上級機TC-K777の弟機として発売された3ヘッドデッキで,前世代のTC-K71,TC-K75等の3
ヘッド機をレベルアップした内容を持っていました。

ヘッドは,TC-K777と同じく,ソニー独自の独立3ヘッド方式(後に独立懸架3ヘッド方式と称されるようになり
ます)が採用されていました。この方式は,コンビネーション3ヘッドと独立3ヘッドの中間のような構造で,通常
録音ヘッドと再生ヘッドが一体化されているコンビネーション3ヘッドに対して,録音ヘッドと再生ヘッドを分離構
造とし,なおかつ全体の形はコンビネーション型のようなもので,これにより,録音ヘッド再生ヘッドそれぞれ独
立してアジマスの精度が高められ,また,テープのヘッドタッチが安定して得られるという構造でした。

独立方式S&F録再ヘッド

録・再ヘッドには,F&Fヘッドにセンダスト合金のすぐれた特性をプラスした「S&F(センダスト&フェライト)」ヘッ
ドが搭載されていました。センダスト合金は,磁束密度が大きいため,ダイナミックレンジが広いというすぐれた特
性を持ちますが,フェライト材より高い周波数でのコア損失が大きいため,単独でコア材すべてにするよりも,他
のヘッドコア材と組み合わせて使われるのが通常でした。「S&Fヘッド」では,ガード部とコア部にフェライトが用
いられ,High-μフェライトコアにセンダスト合金チップを複合させた特殊3段構造となっていました。コア部は,コ
ア材を積層する構造ではなく加工技術でなし得たセンダストチップを用いたソリッド構造でギャップ部の高い精度
を確保していました。また,高硬度石英被膜を特殊蒸着する新開発のギャップ形成法の開発・採用により,直線
性のよいシャープなエッジのギャップとなっており,すぐれた高域特性を実現していました。さらに,センダスト合金
(Si-Al-Fe)に第4の元素を添加して耐食性,耐摩耗性を高め,テープ接触部の鏡面処理と合わせ,F&Fヘッド
に迫る耐摩耗性を確保していました。

BSLグリーンモータークローズドループデュアルキャプスタン方式

テープ走行系は,クローズドループ・デュアルキャプスタン方式で,安定した走行とヘッドタッチを得ていました。
キャプスタン駆動用モーターは,ソニー自慢のBSLグリーンモーターでした。これは,B(ブラシ・アンド)S(スロッ
ト)L(レス)モーターの名の通り,トルクムラの原因となるスロットとブラシを取り去ったシンプルな構造のモーター
で,すぐれた耐久性も誇りました。BSLグリーンモーターは,FGサーボで制御され,TC-K777のようなダイレク
トドライブ方式ではないものの,ワウ・フラッター0.04%(WRMS)という走行精度を実現していました。
リール用とメカニズム駆動用には,ハイトルクのDCモーターが搭載されていました。また,リール台には磁力に
よってリール台にトルクを伝達するマグネットクラッチが採用され,テンショントルクの変動を抑え,従来多く用い
られていたフェルトクラッチの難点であった寿命,温度,湿度等に対する特性も改善されていました。
テープ走行の操作系は,ロジカルコントロールによるフェザータッチオペレーションで,ボタンのマークが光る自照
式になっていました。

録音・再生アンプは,L・Rツインモノ構造がとられ,録音アンプ,再生アンプは基板から独立として相互干渉を抑
えていました。ヘッドと再生アンプの間は,コンデンサーが排除されたダイレクトカップリングが採用されていました。
また,音質重視のためにマイクロホン回路はあえて搭載されず,マイクロホン回路は,別売のマイクロホンアンプ
MX-1000(¥48,000)で対応するという形がとられていました。
電源部は,カットコアトランスが周囲をシールドされた形で搭載され,録音・再生回路,メカ部,ディスプレイ部を独
立させ,±2電源としていました。

機能的には,TYPEⅠ,TYPEⅡ,TYPEⅢ,TYPEⅣまで,4ポジションのテープセレクターを持ち,ソニー自慢の
DUADカセット(Fe-Crカセット)も使えるようになっていました。さらに,TYPEⅠポジションには,バイアス微調整機
構が装備されていました。ノイズリダクションとして,ドルビーBタイプに加え,新しいCタイプも装備されていました。
表示部は,FLディスプレイで,レベルメーターは,-40dB~-8dBのピークプログラムメーターが搭載され,テー
プカウンターは,テープ残量を表示できる減算表示も可能な4桁デジタル(分秒表示)の電子式・リニア電子カウン
ターが装備されていました。
その他,カウンターを利用したオートプレイ,オートスペース付きREC-MUTE,タイマースタンバイスイッチなど,
オーソドックスな機能が搭載されていました。

以上のように,TC-K555は,カセットデッキの中級機として,技術的にも機能的にもオーソドックスに性能を高め
た1台となっていました。安定してしっかりとした録音・再生の性能は,ソニーの技術を示したもので,音質的にも
前モデルよりステップアップしたものを実現していました。


SONY TC-K555ES
STEREO CASSETTE DECK ¥89,800


翌年の1981年に,TC-K555をベースに,改良・強化が行われたTC-K555ESにモデルチェンジが行われま
した。



最大の改良点は,録再ヘッドでした。録再ヘッ ドには当時最先端の非結晶構造のアモルファス磁性合金を採用
し,レーザー加工技術により精密な加工が施された「レーザーアモルファスヘッド」が新たに採用されていました。
アモルファス磁性合金は,従来のフェライトに比べて磁束密度が2倍以上と高く,センダスト合金をも上回るという
特性をもち,しかも,薄い帯状に加工しやすいため,渦電流損失も少なく,積層ラミネート構造がとりやすいなど,
多くのメリットがありました。ヘッドに直結される録再アンプ系もパーツの見直しなどの強化が行われていました。
これにより,TC-K555に比べてよりクリアな高域の伸びのある音が実現されていました。
外観は,パネルレイアウトは同一でしたが,「ESシリーズ」に共通するブラックパネルになり,精かんなイメージに
なっていました。カセットドアは大きくなり,窓も大きくとられ,テープの視認性が高められていました。
そして,これ以降,TC-K555シリーズは主力モデルとなっていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



TC-K555
独立3ヘッド,クローズドループ・デュアルキャプスタン,
ドルビーNR・Cタイプ搭載で音質徹底重視の設計。
さらに減算機能つきリニア電子カウンターを加えて
操作面でも飛躍的な向上を図りました。



TC-K555ES
K777ESの基本ポリシーを継承し,最先鋭の技術を
投入したESシリーズのベーシック・デッキです。




●主な仕様●

   TC-K555  TC-K555ES
ヘッド  消去1,録音1,再生1  消去1,録音1,再生1 
モーター  DCサーボモーター1,DCモーター1  リニアBSLモーター1,DCハイトルクモーター1 
SN比  56dB(EIAJ)
60dB(ドルビーOFF,ピークレベル,METALLICカセット)
73dB(ドルビーNR・Cタイプ) 
56dB(EIAJ)
60dB(ドルビーOFF,ピークレベル,METALLICカセット)
73dB(ドルビーNR・Cタイプ) 
周波数特性(EIAJ)  25~17,000Hz(METALLICカセット)  25~18,000Hz±3dB(METALLICカセット) 
周波数範囲(EIAJ)  20~19,000Hz(METALLICカセット)   20~19,000Hz(METALLICカセット) 
ワウ・フラッター  ±0.06%W・PEAK(EIAJ)
0.04%WRMS 
±0.06%W・PEAK(EIAJ)
0.04%WRMS  
ひずみ率  0.5%(DUADカセット)
0.8%(METALLICカセット) 
0.5%(DUADカセット) 
大きさ  430W×105H×285Dmm  430W×105H×285Dmm 
重さ  6.1kg  6.1kg 
消費電力  22W  22W 
※本ページに掲載したTC-K555,TC-K555ESの写真,
 仕様表等は1981年11月,1983年8月のSONYのカタ
 ログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で 転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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