SONY
TC-K75
STEREO CASSETTE DECK ¥94,800
1979年に,ソニーが発売したカセットデッキ。「TC-K*5」という型番を持つシリーズの最上級機で,ソニーのカ
セットデッキの中で,いわゆる正立透視型(カセットを立ててセットするタイプ)としては,初の3ヘッドデッキでした。
(水平型では
TC-6150SDが
1973年に発売され,ソニー最初の3ヘッドカセットデッキでした。)
ヘッドは,録音ヘッド,再生ヘッドが独立した3ヘッド構成で,TC-6150SDとは異なり,コンビネーションタイプの
録再ヘッドが搭載されていました。TC-K75にも搭載されたソニーのコンビネーションヘッドは,他社のものと異
なり,独立縣架3ヘッドとなっていました。これは,コンビネーション3ヘッドと独立3ヘッドの中間のような構造で,
通常,録音ヘッドと再生ヘッドが一体化されているコンビネーション3ヘッドに対して,録音ヘッドと再生ヘッドを分
離構造とし,なおかつ全体の形はコンビネーション型のようなもので,これにより。録音ヘッド再生ヘッドそれぞれ
独立してアジマスの精度が高められ,また,テープのヘッドタッチが安定して得られるという巧妙な構造でした。
録音ヘッド,再生ヘッドにはS&Fヘッドが採用されていました。S&Fは,センダスト&フェライトの略で,高域特性
と耐摩耗性にすぐれるフェライトヘッドをベースにセンダストチップをヘッド表面に付けたもので,センダストのラミ
ネートではなくソリッド状で使用することで直線性の良いエッジを形成するとともに,高硬度石英皮膜を蒸着する
方法でギャップを形成しているなど,高度な技術が結晶したソニー独自のヘッドでした。このヘッドにより,メタル
テープへの対応が可能となっていました。そして,消去ヘッドにはフェライトヘッドが搭載されていました。
走行系は,定速走行用と早巻用それぞれに専用のモーターを搭載した2モーター構成で,複雑な伝達機構を
排除したシンプルなメカニズムを採用し,フェザータッチとソレノイド駆動によるロジカルオペレーションで,軽く
触れるだけでの操作と,巻き戻し,早送りからすぐ再生へと移れるダイレクトでスピーディーな操作系を実現し
ていました。定速走行用には,ソニー自慢のBSLグリーンモーターが搭載されていました。これは,B(ブラシ・
アンド)S(スロット)L(レス)モーターの名の通り,トルクムラの原因となるスロットとブラシを取り去ったシンプル
な構造のモーターで優れた耐久性も誇りました。早巻き用には専用のハイトルクのDCモーターが搭載されてい
ました。また,リール台には磁力によってリール台にトルクを伝達するマグネットクラッチが採用され,従来の
フェルトクラッチの難点であった寿命,温度,湿度等に対する特性が改善されていました。さらに,キャプスタン
の回転を安定させるフライホイールには,金属特有の共振を抑えるために,内部損失の大きな物質を充填し
たデッドニングも施されていました。そして,走行系には,クローズドループ・デュアルキャプスタン方式が採用
され,ワウフラッター0.04%(WRMS)の安定した走行とヘッドタッチを得ていました。
テープセレクターは,イコライザーがTYPET,U,V,Wの4ポジション,バイアスがLOW,MED,HIGH,
METALの4ポジションを装備し,ノーマルテープからメタルテープまで全てのタイプのテープに対応していまし
た。さらに,キャリブレーションのための発振器を搭載し,±20%の範囲で録音バイアス設定が行えるBIAS
CALIBRATIONツマミと,テープ感度に合わせた調整が0.5dBの精度でできるREC LEVEL CALツマミ
が装備されていました。
レベルメーターは,左右独立16エレメントのLEDピークプログラムメーターが搭載されていました。1msとい
う高速なアタックタイムをもち,−40dB〜+8dBのワイドスケールで,0dBを基準にエレメントが黄色,赤に色
分けされ,一瞬一瞬のピーク値と同時にピークホールドを同時に表示するダブルインジケーション方式で見や
すく使いやすいものとなっていました。
ノイズリダクションとしてドルビーNR(Bタイプ)が搭載されていました。従来ディスクリートにパーツで組まれて
いたドルビー回路をICに凝縮したソニー製のドルビーNR・ICが搭載され,信頼性の向上が図られていました。
その他機能的には,自動的に約4秒間の無録音部分が作れるオートスペースつきREC MUTE,巻き戻し
ボタンと再生ボタンをあらかじめ押しておくとテープの初めまで巻き戻して自動的に再生するオートプレイ,
テープカウンターが”999”の位置で自動的にストップあるいは再生に入るメモリーストップ,メモリープレイ
などオーソドックスなものが搭載されていました。さらに,当時のカセットデッキらしくライン入力以外にマイク
入力も備えられ,INPUT SELECTで切り換えるようになっていました。また,ライン出力が2系統備えられ
ていました。
以上のように,TC-K75は,オーソドックスながら,技術的には,3ヘッド,クローズドループデュアルキャプス
タン,メタル対応,ドルビーNR・ICなど,この後のソニー製のカセットデッキの重要な技術となるものが開発
搭載され,充実した内容を持つモデルとなっていました。シルバーパネルの機能的な外観に通じるような色づ
けの少ない正確さを持った音もソニーらしさを感じさせるものでした。