SONY TC-K96R
STEREO CASSETTE DECK ¥94,800
1978年に,ソニーが発売したカセットデッキ。カセットデッキのオートリバースデッキは,
アカイなどから比較的早く商品化されていました。ソニー自身も水平型デッキの時代に
1971年には,TC-2300という形で商品化していました。その後正立透視型のコンポー
ネント型デッキの時代に入ってのソニー初のオートリバースデッキがTC-K96Rでした。

テープのA面とB面の録音・再生がそのままでできるオートリバース機構は,オープン
リールデッキの時代から存在していた機能ですが,カセットテープの時代においても
1970年には,アカイのCS-50/CS-50Dですでに採用されるなど,その便利さから
早くから開発・搭載されていった機能でした。しかし,オープンリールデッキと異なりテー
プのローディングがカセットハーフで決められており,テープとヘッドの接触面が限られ
ているカセットデッキにおいては,ヘッドの大きさ,数などにおいて制限が大きくそのた
め,いろいろな機構や工夫が登場しました。正方向(ノーマル方向)と逆方向(リバース
方向)での録音や再生を行うために,ヘッドを4ch化する,ヘッドを回転させる,ヘッド
をテープと垂直方向にスライドさせる,カセットハーフそのものを反転させるなどの方式
が登場しました。ソニー初のオートリバースカセットデッキTC-2300では,4chヘッド
方式を採用していましたが,TC-K96Rでは,ヘッドを回転させる「ロートバイラテラル
ヘッド方式」が採用されていました。



オートリバースを実現するそれぞれの方式にはそれぞれのメリットとデメリットがありま
すが,ヘッドを回転させる「ロートバイラテラルヘッド方式」では,(1)ヘッドが走行方向
に応じて180°回転するのでテープのトラックとヘッドのコアが往復とも同一チャンネル
となり,往復とも同じ録音・再生特性が得やすい,(2)録音・再生ヘッド兼用ヘッドが1
個ですみ,ヘッドの占めるスペースが小さく,カセットハーフの制約の多いカセットデッキ
には有利,(3)リバース機でありながら,Lch・Rchの切替スイッチが不要で,機構部
の複雑化が避けられる,といったメリットがありました。逆に,本来ミクロンオーダーの
精度で固定すべきヘッドを回転させるため,精度の狂いが生じる可能性がありました。
そのため,TC-K96Rでは,ダイキャスト製の高精度なヘッドブロックを採用していまし
た。そして,リバース動作の素早い立ち上がり特性を実現するために,両方向のピンチ
ローラーを備えたディレクショナルピンチローラー方式が採用されていました。

ヘッドには,F&Fヘッドが録音・再生ヘッドとして搭載されていました。F(フェライト)&F
(フェライト)の名の通り,コア部だけでなく,ガード部にまでフェライトを使用したヘッドで
ギャップのスペーサーとコア部の固定には,ソニーが独自開発したフェライトと同硬度の
無歪みガラスによる融合溶着が行われ,耐摩耗性では,従来のラミネート型ヘッドに比
べて200倍以上というものでした。ギャップの加工も非常に高精度で,ギャップの位置
精度(インライン性)も非常に高められた構造をもっていました。ヘッド前面は,鏡面仕
上げされ,ヘッドタッチの良さと,ゴミの付着しにくいヘッドとして,温度,湿度,使用年数
などの影響をほとんど受けないヘッドを実現していました。

BSLグリーンモーター

走行系は,定速走行用と早巻き用のモーターを専用化した2モーター構成で,複雑な
伝送機構を排除した回転ロスの少ない信頼性の高いシンプルなメカニズムを搭載し
ていました。しかも,2つのモーターとも,ソニー自慢のBSLグリーンモーターと採用し
ていました。このモーターは,B(ブラシ・アンド)S(スロット)L(レス)モーターの名の通
り,トルクムラの原因となるスロットとブラシを取り去ったシンプルな構造のモーターで
滑らかな回転とすぐれた耐久性をもっていました。

この2モーター方式のメカニズムを生かすために,各動作はロジカルコントロールで
電磁ソレノイド駆動のフェザータッチの操作系を搭載していました。このメカニズムの
コントロールの核には当時最新の技術マイコン(マイクロプロセッサー)が搭載され
テープに負担をかけずに,正確で素早い動作を可能とし,オートリバースの確実な
素早い動作も実現していました。
オートリバース機構は,1往復も往復リピートも可能となっており,走行方向は,ディ
レクション・インジケーターで表示されるようになっていました。リピート再生は,3往
復でテープが自動的にストップするようになっていました。また,ノーマル側の録音
かリバース側の録音かを誤操作しないように,カセットハーフの誤消去防止爪を両
方向同時に検出し,RECボタンを押すと録音できる方向にだけ表示ランプが点灯
する機構も搭載されていました。



走行系の操作部は外した状態でリモコンとしても機能するようになっており,ノーマ
ル/リバース録音・再生,早送り,巻き戻し,一時停止,無音録音(REC-MUTE)
の8種類の動作をリモコン操作できるようになっていました。

レベルメーターは,大型の針式VUメーターが搭載され,さらに,0VU/+4/+8の
3段階のピークレベルを表示するLEDピークインジケーターが装備されていました。
テープカウンターは当時標準のメカニカル式でしたが,「999」で巻き戻しSTOP後
停止,あるいは再生に移るメモリーストップ/スタート機構も装備されていました。
また,REC/PLAYのタイマースタンバイ機構も装備されていました。

テープセレクターは,バイアス(LOW/NORM/HIGH),イコライザー(NORM/Fe-
Cr,CrO2)の独立式で,イコライザーは録音・再生独立回路となっていました。
ノイズリダクションとしてドルビーNR(Bタイプ)が搭載され,FMエアチェック時の誤
動作を防ぐMPXフィルターも装備されていました。
入力は,LINEとMICの2系統が装備され,独立したレベルコントロールツマミが装
備され,ミキシングも可能となっていました。
出力は固定と可変の2系統が装備され,出力レベルツマミは,ヘッドホン出力との
兼用となっていました。

以上のように,TC-K96Rは,ソニーのカセットデッキの初期のオートリバースデッ
キとして,各機能がしっかりと考えられた設計となっており,高い完成度を持ってい
ました。当時のカセットデッキにおいてはオートリバースは高度な技術であり,ソニー
のすぐれたデッキ技術が感じられるものとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



性能,操作性,信頼性の
トータルバランスを考えた
ステレオ・カセットデッキ

◎特性・信頼性の完全性を目指した
 ロートバイラテラルヘッド方式
◎安全性・操作性面でもさらに突き詰めた
 リバースデッキ
◎2モーター,シンプルメカニズム
◎バイアス/イコライザー独立3段切替え
 テープセレクター
◎メモリー・ストップ/スタート機能
◎3段ピークインジケーターと
 大型VUメーター
◎タイマー・スタンバイ機能




●主な規格●

トラック形式
4トラック・2チャンネル
ヘッド
消去2,録再(F&F)1
モーター
BSLグリーンモーター2
サーボ方式 ホール素子検出周波数サーボ
ワウ・フラッター
0.05%wrms
周波数特性
(DUADカセット)
20~18,000Hz
30~16,000Hz±3dB
SN比(ピークレベル,
DUADカセット)
59dB(ドルビーOFF)
入力
マイク:0.25mV(-70dB)
    ローインピーダンスマイクに適合
ライン:77.5mV(-20dB)
    入力インピーダンス100kΩ
出力
ライン:
 固定 0.435V(100kΩ負荷)
 可変 0.775V(0dB)100kΩ負荷(ボリューム最大)
ヘッドホン:-52dB~-22dB(8Ω負荷)
電源
AC100V
消費電力
24W
大きさ
430W×155H×325Dmm
重さ
8.5kg

※本ページに掲載したTC-K96Rの写真,仕様表等は
1978年10月のSONYのカタログより抜粋したもので,
ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これ
らの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁
じられていますのでご注意ください。

   
 
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