SONY
TC-KA7ES
STEREO CASSETTE DECK ¥120,000
1994年にソニーが発売したカセットデッキ。ソニーのカセットデッキとして最後のESシリーズ
の最上級機として発売され,ソニー最後の本格的な高級デッキともなってしまった1台でした。
走行系は,クローズドループデュアルキャプスタン方式に加えて,キャプスタンを直接モーター
で駆動するダイレクトドライブ方式を採用していました。キャプスタン駆動用モーターには3相
BSL(ブラシ&スロットレス)モーターを搭載し,クォーツロック制御とも相まって,低ワウ・フラ
ッター0.022%を実現していました。さらに,テイクアップ側2.8mm径,サプライ側2.5mm
径の大口径キャプスタンを新たに採用し,ねじれ剛性を強化してモジュレーションノイズの低
減が図られていました。
モーターの軸受けには高硬度,低摩擦係数のサファイアを使用したLapis(サファイアキャプ
スタンベース方式)が採用され,さらに,サプライ側の軸受けにもサファイアが使用され,高精
度で安定したテープ走行と高い耐久性を実現していました。
録音・再生コンビネーションヘッドを搭載した3ヘッド構成で,ソニー自慢のレーザー成形・アモ
ルファス磁性合金を使用したレーザーアモルファスヘッドを搭載していました。ヘッド巻線には
純度99.9999%の6N無酸素銅線を使用し,さらにシールドケースに金メッキを施し,耐振
性を高め,モジュレーションノイズによる音の濁りを抑えた設計となっていました。
さらに,録音・再生ヘッドには,ヘッドギャップの上下に凸状の部分を設け,カセットハーフに付
属したパッドによる余分な圧力が加わらないようにした「パッドプレッシャーリダクション機構」が
採用されていました。ナカミチのデッキに見られた「パッドリフター」との共通性を感じる機構でし
た。
内部レイアウトは,TC-K555ESX以来のメカニズム部中央配置「ミッドシップドライブ・システム」
で,中央にメカデッキ部と電源部を配置し,両サイドにオーディオ回路と操作コントロール系を分離
して配置した構成になっていました。
オーディオ回路は,できるかぎり信号の流れに沿ったレイアウトがとられ,録音アンプと再生アンプ
をそれぞれ独立基板にまとめ,相互干渉を抑えていました。
録音系では,録音時のバイアス信号の周波数を210kHzと高くして,オーディオ信号帯域から離す
ことで,バイアス信号がオーディオ信号に与える干渉を少なくする「スーパーバイアス」とされていま
した。
出力端子の前段にはバッファーアンプが挿入され,出力インピーダンスを下げ,高いドライブ能力
を確保し,外来ノイズの影響も受けにくくなっていました。
シャーシは,十分な厚みと強度をもつメタル材を使用し,外周を取り囲むフレームと,フロントとリア
を渡す前後のビームにより,シャーシ全体を強固にジョイントした「FBシャーシ」が採用され,さらに
銅メッキ処理が施されて電磁ノイズの発生も抑えた仕様となっていました。
シャーシを支えるインシュレーターは,ビス穴を中心からオフセットし,外周からの振動が相互に打
ち消し合うことで振動の減衰を図った偏心インシュレーターが搭載されていました。
また,回路の随所に,純度99.997%以上の単結晶状無酸素銅線材(ESC-OCC)が使用されて
いました。
電源部には「Rコアトランス」が採用されていました。TC-KA7ESでは,この「Rコアトランス」がコント
ロール系とオーディオ系それぞれに独立して搭載され相互干渉を抑え,さらに,シールドケースに樹
脂で封入されて,磁束漏れと振動を徹底的に抑えていました。
カセットホルダーは,カセットテープそのものへの振動や音圧の影響を防ぐために,「リジッドハーフ
ホールドメカニズム」と称して,周辺部とともに強化されていました。高剛性・高比重のファインセラミ
ックコンポジット材をカセットホルダーに使用して,振動を吸収するとともに,カセットリッドにはアルミ
押し出し材を使用して精度アップを図っていました。さらに,吸振性に優れたソルボセインを使用した
スタビライザーを加え,カセットホルダーの両サイドロック機構を採用していました。また,カセットリッ
ドが閉まってからスタビライザーがテープに圧着するようになったディレイドアクションスタビライザー
機構によってテープを確実に固定するようになっていました。そして,分厚いカセットリッドがフロント
パネルにオーバーラップすることで音圧の影響を受けにくいようになっていました。
ノイズリダクションとして,ドルビーBタイプ,Cタイプに加えて,最新のSタイプが搭載されていました。
ドル ビーSタイプは,プロ用に開発されたドルビーSRをカセットデッキ用にアレンジしたもので,従来
のドルビーCタ イプよりNR効果が大きく(約1/16にノイズを低減),高域から低域にいたる全域に
渡るほか,ブリージング等の動的副作用が小さく,多くのカセットデッキに搭載されているドルビーB
タイプともある程度の互換性があり,再生が可能というメリットをもつというものでした。
さらに,バイアス電流を信号の周波数,レベルに応じて1/1000秒単位でコントロールして,高域
特性の劣化を防ぐドルビーHX PROも搭載されていました。
また,テープの特性差に応じて,内蔵発振器によって,400/3000/15000Hzの3ポイントで,
テープの周波数特性をフラットになるように,バイアス値,テープ感度,イコライザー特性をきめ細か
く調整できる「3ポイントRECキャリブレーション」も搭載されていました。
レベルメーターは,−40dB〜+10dBのFL表示のピークメーターで,テープカウンターは減算機能
付きのリニアタイムカウンターが搭載されていました。また,ワイヤレスリモコンRM-J701が付属し
主要なテープ走行の操作がリモコンで可能となっていました。
以上のように,TC-KA7ESは,走行系,ヘッド,内部レイアウト,ドルビーSなど各部にソニーらしい
高い技術を投入した最後の高級デッキでした。低音のしっかりした厚みのある音はソニーのESシリ
ーズらしさを感じさせました。しかし,2001年には遂に生産終了となってしまい,カセットデッキファン
を嘆かせたものでした。そして,これ以降ソニーは音質重視の3ヘッドデッキを発売することはありま
せんでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。