Victor TD-2380
OPEN REEL STEREO TAPE DECK ¥238,000
1974年に,ビクター(現JVCケンウッド)が発売したオープンリールデッキ。ビクターは,カセットデッキの
時代になり,多くの機種を展開し,評価を高めていったブランドですが,1970年代には,オープンリール
デッキにも多くの機種を展開していました。そうした中でも最上級機として発売されていたのがTD-2380
でした。

1970年代に入り,オーディオシステム用の録音機も,次第にカセットデッキに主流が移っていき,1970
年代半ばには,各社ともカセットデッキの高性能化を図っていました。そうした中,オープンリールデッキ
においては,マスターデッキとしての性能を求めた,高級機がソニー,ティアック,アカイなどのテープデッ
キに強いブランドから発売されていました。そして,ビクターがマスターデッキとして発売した38センチ2トラ
ックデッキがTD-2380でした。



走行系は,キャプスタン用1,リール用2の,3モーター構成で,キャプスタン用には,安定した回転が
確保できる4/8極ヒステリシス・シンクロナスモーター,リール用には,テイクアップ用,サプライ用双方
とも,トルクが大きく,リール用に最適な垂下特性(電流と電圧の変化特性)をもつ6極インダクション
モーターが搭載されていました。
サプライ側のヘッド前の部分には,テープの微振動を抑え,特にテープの巻き始め,巻き終わり時の
走行を安定化させるためのスタビライジングローラーが設けられていました。このローラーの軸受け
には,摩耗に強く,耐久性の高いジュラコン(ポリアセタールコポリマーで作成された樹脂)を使用して
いました。そして,走行系でテープが当たる箇所は,すべて鏡面仕上げが行われ,テープ走行を滑ら
かにしていました。
メカニズムそのものも,堅牢なアルミダイカストフレームにマウントされており,それぞれが機能別構
成にブロック化され,各部の調整を細かくでき,信頼性,生産性が高められていました。

的確で軽快な動作とテープ保護のために,ロジックコントロールによるメカニズムコントロールが採用
されていました。ロジックコントロール回路は,SCR(サイリスタ,シリコン制御整流子)4石,トランジス
ター7石,リレー4個によるフルロジックコントロール構成で,どのモードからでもワンタッチで次のモー
ドに移れるメカニズムコントロールを実現し,10号リール使用時での早送り,巻戻しからPLAYへの動
作でも,十分な時定数をとっており,早送り,巻戻しの立ち上がりの際には,最初トルクを弱くしてから
強めていくなど,テープを痛めない動作を可能にしていました。コントロール回路はICを使用した定電
圧電源にて駆動されており,電源電圧の変動に対しても安定したコントロール動作を実現していました。
テープ走行にブレーキをかけるブレーキドラムの接触面にはフッ素コーティングが施されており,ブレー
キの急激な効きによるテープへのダメージを抑えていました。上述のようにメカニズムそのもののブ
ロック化により,ブレーキ系の完全微調整を可能としていました。そして,ロジックコントロールにより,
マイクロスイッチによる軽快なタッチのプッシュ式の操作ボタンが搭載されていました。また,頭出し,
編集に便利な,ロック付きキューイングレバーも装備されていました。
テープ走行やその操作時に,発熱の原因となるモーター,プランジャーなどは,低発熱設計の部品を
厳選して使用し,特にプランジャーなどは,減電圧動作のものを使用し,極力半導体を多く使用した
小発熱設計としていました。

ヘッドは,4ヘッド構成で,ヘッド配置は,ワウ・フラッターの目立ちやすい録再時を重視し,2トラック
消去,4トラック再生,2トラック録音,2トラック再生の順に,ワウ・フラッターが少なくなるようにヘッド
配置がとられていました。



すべてのヘッドは,新開発のクロニオスヘッドが採用されていました。コア部は,硬質パーマロイ材を使
用し,高い耐摩耗性を確保し,高い透磁率により高出力で,バイアス効率も高く,録音ヘッドで0.1mm
のコアを23枚,再生ヘッドで21枚も積み重ねた多層ラミネート構造により,高域損失が少なく,0VU録
音で30~30,000Hz±3dBという高域まで伸びた周波数特性を実現していました。シールド・ケース
にも硬質パーマロイ材が使用され,コアー部の窓を極力小さくし,テープ摺動面をほとんどカバーした構
造により,クロストークも抑えられ,外部からの誘導ノイズにも強くなっており,偏摩耗も起きにくくなって
いました。このクロニオスヘッドは,プロ用ビデオデッキのヘッド技術を生かした,ビクターの自社開発
の高性能ヘッドでした。

再生イコライザー回路は,PNP-NPN組み合わせ3段直結NF型で,電源効率を良くし,広ダイナミッ
クレンジ,低歪率を実現していました。イコライザーは,SH/ノーマルの切替えが搭載されていました。
バイアスアジャストツマミも装備されており,そのための1kHzの発振器が搭載されていました。
また,マイクアンプも,PNP-NPN組み合わせ2段直結型で40dBのダイナミックレンジを確保し,過大
入力にもしっかりと対応していました。そして,ライン入力とマイク入力のミキシングも可能となっていま
した。録音時のソース/モニターの切替えはL・R独立となっており,チャンネルごとにソース側とテープ
側の異なる側のモニターができるようになっていました。
レベルメーターは,プロ用のBTS規格に準じた高性能VUメーターが搭載されていました。そして,より
精度を高めるため,0アジャストができる半固定ボリュームが装備されていました。

以上のように,TD-2380は,ビクターがマスターデッキとして開発した,同社のオープンリールデッキ
のトップモデルで,テープデッキにおいてはまだまだブランド力が強くなかったビクターが,ビデオデッキ
で培った技術も生かした高性能デッキでした。オーソドックスながら,手堅い作りと設計は,テープデッ
キ専業メーカーにも負けないすぐれた性能と機能性を実現していました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



万全のテープ保護対策,
快適なロジックコントロール,
そして自社開発高性能ヘッド
によるプロ仕様
38cm2トラック・テープデッキ

◎高速テープ走行にマッチした,
 万全のテープ保護対策。
◎メカニズムコントロールはソフトタッチの
 電子式ロジック・コントロール。
◎2トラック録音・再生のほか,
 4トラック・ステレオ・ミュージックテープが再生できる
 4ヘッド方式。
◎ヘッドはすべて,プロ用,ビデオ用の技術をそのまま生かした
 自社開発高性能クロニオス(硬質パーマロイ)ヘッド。
◎テープの性能をフルに発揮させる
 バイアス・アジャスト装置付き。
◎プロ規格に準じた高精度VUメーターと,
 ダイナミックレンジの広いアンプ回路。
◎頭出し,編集に便利な,ロック付きキューイングレバー
◎L,R独立モニタースイッチ
◎SH-ノーマル・テープセレクター
◎ライン・マイク入力ミキシング
◎ワンタッチ・リールロック機構

 




●TD-2380型の規格●

型式  2トラック録再,4トラック再生ステレオ・テープデッキ 
電源  AC100V(50/60Hz) 
消費電力  80W 
モーター  キャプスタン用:4-8極ヒステリシス・シンクロナス
リール用:6極インダクション 
テープ速度  38cm/sec,19cm/sec 
ワウ・フラッター  0.04%(WRMS,38cm/sec) 
周波数特性  20~40,000Hz・30~30,000Hz±3dB
(0VU録音38cm/cm・SFテープ) 
S/N  60dB 
歪率 1% 規定録再レベル 
録音バイアス  133kHz 
使用半導体  IC:1個,SCR:4石,FET:2石,TR:37石,DIODE:21個 
ヘッド  2トラック(消去,録音,再生)4トラック再生,4ヘッド 
寸法  435W×510H×250Dmm 
重量  22kg 
※本ページに掲載したTD-2380の写真,仕様表等は1974年11月の
 Victor
のカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に著作
 権があります。した
がって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられています
のでご注意ください。
   
 
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