TD-V711の写真
Victor TD-V711
STEREO CASSETTE DECK ¥85,000

1987年に,ビクターが発売したカセットデッキ。ビクターはそれまでカセットホルダーを右側に配置したカセットデッキ
にこだわり続けてきましたが,このシリーズより,オーソドックスなデザインとなり,それまでのビクターのデッキとはデ
ザインイメージも内容的にも大きく変わりました。
1987年,各社からDAT(デジタル・オーディオ・テープ)デッキが発売され,DAT元年となりました。各社ともこれから
はカセットデッキからDATへと主流が移ると考え,DATに注力していった年でした。そんな中,DATに力を入れながら
も,DAT同様にしっかりと技術とコストをかけて開発・発売されたカセットデッキがこのTD-V711でした。

走行系は,ビクターのカセットデッキがそれまでシングルキャプスタン方式を採用していたのに対し,TD-V711では
クローズドループ・デュアルキャプスタン方式が採用されていました。純粋なデータ上でのワウ・フラッターという面に
おいては,走行系がシンプルなシングルキャプスタン方式が有利となりますが,ヘッドタッチやテープテンションの安定
性,変調ノイズの低減などの面において,ヘッドの両側にキャプスタンとピンチローラーを配したデュアルキャプスタン
が有利となってきます。
TD-V711では,さらにキャプスタンの駆動を3相6コイル・セラロックサーボモーターによるダイレクトドライブ方式を
採用し,高精度大型フライホイールの搭載とあいまって,ワウ・フラッター0.022%(WRMS)という高精度なテープ
走行を実現していました。そして,FF/REW用,リール駆動用それぞれに専用のDCモーターを搭載した3モーター構
成という贅沢な走行系となっていました。

TD-V711の走行メカニズム

ヘッドは,3ヘッド構成で,各ヘッドに最適な素材を配した独立構造の3ヘッドを採用していました。録音ヘッドには磁
束密度が高く磁気飽和特性にすぐれたセンダスト合金を使用したSA(センアロイ)ヘッドを,再生ヘッドには,高域特
性にすぐれたアモルファスヘッドを搭載していました。さらに,ヘッドのコイル巻線にはPCOCC(単結晶状高純度無酸
素銅材)を使用し,歪みを改善していました。また,消去ヘッドには,ダブルギャップ・フェライトヘッドを搭載していまし
た。

内部コンストラクション,回路構成等も音質重視で徹底されていました。操作系やディスプレイ関係のマイコン,メカニ
ズム関係のコントロール部から発生するノイズが録音アンプ,再生アンプ,ノイズリダクション回路からなるアンプ部へ
混入することを防ぐために,マイコンや表示部分を1カ所に集め,インナーシャーシで基板ごとに分離したシールド構
造がとられていました。さらに,電源トランスなどからの磁気滞留を排すため,電源部をセンターシャーシで分離した
3ブロックコンストラクションで,相互干渉を排除していました。
オーディオ回路は,録音系も再生系もコンデンサーを排除したDCアンプ構成で,すぐれたリニアリティ,位相特性を
確保していました。さらに,回路ブロックごとに分けて配置した独立構造で,アンプ間の干渉も抑えていました。また
L・R対称の構成をとることで,チャンネル間の干渉を抑えた,徹底したセパレート設計がとられていました。
これらを支える筐体,シャーシは,高剛性・無共振・無振動化が図られ,そのために,上述の3ブロックコンストラク
ションを構成するインナーシャーシが内部から筐体をしっかり補強して,高剛性化を実現していました。さらに,筐体
下部は,分厚い高剛性重量級ソリッドベースで低重心,制振構造となっており,これを大型のインシュレーションフッ
トが支える構造となっていました。

TD-V711の内部

電源部は,大型トランスと大容量コンデンサーを使用した,±トラッキング制御による低出力インピーダンスの電源
を搭載していました。この電源は,アース電位が常にゼロとなるように,+側と−側が連係して動作し,アンプの安定
性が保たれ,しかも,ハイゲインの電圧比較回路と定電流制御回路の組み合わせにより,出力インピーダンスをオー
ディオ周波数全帯域で1mΩ以下まで下げた定電圧回路あいまってきわめて安定度の高い,高安定化電源が実現
されていました。さらに,電源供給は,電流変化を抑えるために,専用ラインで各回路へ供給されるようになっており
回路間の相互干渉も抑えられていました。

信号回路の引き回しを抑え,信号経路の最短化にも配慮されていました。フロントパネルの入力セレクター,入力ボ
リュームは,どちらもリモートバーを介してリアパネルの入力端子の間近で切換,コントロールするような構造がとられ
ていました。各回路ブロック間の伝送ルートも最短になるように設計され,信号ラインには,PCOCCのリードワイヤー
が,回路基板にはOFCパターンが採用されていました。
ノイズリダクションとして,ドルビーB/Cが搭載され,さらにHX-PROも搭載されていました。そして,これらの回路は
OFFにすることで,信号の回路内から完全に外してしまうことが可能となっており,付加回路を通らないシンプルな信
号経路,コンストラクションを実現していました。
また,入力系も,通常のLINE INに加えて,CD等のハイレベルの出力をプリメインアンプ等を通さずに接続して,よ
り信号経路の最短化を図るためのDIRECT端子が2系統装備されていました。

機能的には,オーソドックスでシンプルなデッキでしたが,前後1曲の頭出し機能,ソース/テープが自動的に切換える
オートモニター,バイアス微調整ツマミなどが装備されていました。バイアス調整は,基準発振器が内蔵されていない
ため,少し難しいですが,聴感で行うようになっていました。また,DAT時代のカセットデッキらしく,主要操作ができる
ワイヤレスリモコンが付属していました。

以上のように,TD-V711は,DAT時代に登場した,音質重視の設計が貫かれたビクターの力の入った1台でした。
DATデッキが著作権問題等でもたついている間に,その音の良さからカセットデッキ自体も見直されることとなった
きっかけの1台でした。このデッキの登場後,8万円前後のカセットデッキが各社から出たのも偶然ではなかったと
思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ダイレクト主義。
いい音を録るために,回り道しない。
純音に直結するテクノロジーを凝縮した,
ピュア&ダイレクト設計。


◎必要最小限の回路構成により,ピュア&
 ダイレクト録音・再生が可能。
◎CDプレーヤーなどが直接インプットで
 きるダイレクト入力。
◎信号ワイヤーに,PCOCC(単結晶状高
 純度無酸素銅材)を,基板にはOFC(無酸
 素銅材)パターンを採用。
◎消去,録音,再生専用ヘッドで高域性を
 実現した独立3ヘッド。
◎ダイレクトドライブによるクローズドループ
 デュアルキャプスタン方式。
◎アンプ部/コントロール部/電源部3ブ
 ロック独立分離構造。
◎ゆとりあるエネルギーを供給する低出力
 インピーダンス強力電源。
◎全段DCアンプ構成。
◎高剛性・無共振・無振動設計を追求した
 ボディ&ソリッドベース。
◎高音質設計でさらに映えるドルビーHX-
 PRO,ドルビーB/C・NR。
◎シンプルで確認しやすい大型ディスプレイ。
◎ほとんどの操作が手の中でできるワイヤ
 レスリモコン。

●録音時は録音直後のテープの音を,ポーズ待機中は
  ソースの音を,自動的に切換えるオートモニター
●自動選曲
●極性表示付極太電源コード
●金メッキ入出力端子
●バイアス調整
●タイマースタート(録音,再生)
●ボリューム付ヘッドホン端子




●主な仕様●

ヘッド
消去:2ギャップフェライト×1
録音:SA×1
再生:アモルファス×1
モーター
キャプスタン用:3相6コイル・セラロックサーボDD×1
FF/REW用:DC×1
リール用:DC×1
ワウ・フラッター
±0.05%W・Peak(EIAJ),0.022%(WRMS)
早巻き時間
約100秒(C-60)
周波数特性
メタル:15〜21,000Hz±3dB(−20dB録音・EIAJ)
クローム:15〜19,000Hz±3dB(−20dB録音・EIAJ)
ノーマル:15〜19,000Hz±3dB(−20dB録音・EIAJ)
SN比
56dB(メタル・EIAJ)
59dB(WTD・1kHz・3%3次高調波ひずみ率・メタル)
ひずみ率
0.5%(1kHz・3%3次高調波ひずみ率・メタル・EIAJ)
チャンネルセパレーション
40dB(1kHz・EIAJ)
クロストーク
65dB(250Hz・EIAJ)
入力端子
CDダイレクト×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
ダイレクト×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
ライン×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
出力端子
ライン×1系統:0.3V(出力インピーダンス600Ω)
ヘッドホン×1:0〜1mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω〜1kΩ)
その他の端子
コンピュリンク-1/シンクロ(×2):弊社のCDプレーヤーとシンク ロ録音可能
電源
AC100V,50/60Hz共用
消費電力
18W(電気用品取締法基準)
最大外形寸法
435W×140H×336Dmm
重量
約10.0kg


TD-V721の写真
Victor TD-V721
STEREO CASSETTE DECK ¥81,000

1988年に,TD-V711がモデルチェンジされてTD-V721が発売されました。好評を得たTD-V711をさらに強化し
価格は引き下げられるという,コストパフォーマンスの高いモデルとなっていました。

TD-721では,3ヘッド構成は変わらないものの,録音・再生ヘッドに,新開発のファインアモルファスヘッドを搭載し
ていました。このヘッドは,高域特性にすぐれたアモルファスに,磁気特性がよく耐摩耗性にすぐれたSAヘッドの特性
をプラスしたもので,両者の長所を兼ね備えたバランスにすぐれたヘッドの特性を実現していました。

アンプ系も改良・強化されていました。高S/N・DCサーボアンプを採用し,パーツの面においても見直しが図られて
いました。同時に,バイアス周波数を210kHzへと高めたハイバイアスとして,信号電流とのビートを抑えていました。
電源部は,±トラッキング制御による低出力インピーダンスの電源は継承しながら,電源トランスに新たにOFC巻線
の大型トランスを搭載していました。電源コードも新たにOFCコードが採用されていました。
内部コンストラクションも,3ブロックコンストラクションは継承しながら,アンプ部も録音系と再生系を分離し,それぞれ
を専用の銅メッキシャーシでシールドする構造となり,相互干渉の排除がより徹底していました。そのため,内部を見
るとアンプ系の部分の基板が2段重ねになっているのが分かります。
さらに,細かなところでは,デジタルノイズの発生源となり得るFLディスプレイのOFFスイッチが新たに装備され,録
音・再生時の相互干渉の排除の徹底がここでも図られていました。
機能的には,バイアス微調整に加えて録・再レベル微調整も装備されていました。

TD-V721の内部

以上のように,TD-V721は,TD-V711をベースにより改良が行われ,重量も増加しているなど,物量の面でもより
充実が図られていました。DAT時代にあって,DATにも対抗できる高音質かつハイコストパフォーマンスのカセットデッ
キであったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



デッキを超える音をめざして。
ピュア&ダイレクト設計を
徹底させたDDモーター
デュアルキャプスタン
独立3ヘッドデッキ。


◎高剛性・無共振・無振動の徹底防振設計。
◎耐摩耗性と磁気特性のバランスに優れた
 新開発ファインアモルファス録再独立3ヘッ
 ド搭載。
◎ダイキャストメカベースで走行性能を向上。
 ダイレクトドライブによるクローズドループ・
 デュアルキャプスタン方式。
◎高性能高級再生アンプが生み出すピュア
 サウンド体験。
◎ゆとりあるエネルギーを供給する低出力
 インピーダンス強力電源。
◎電源部/アンプ部(録・再独立)/コントロー
 ル部の3ブロック独立分離構造。
◎ディスプレイ部からのノイズ干渉を追放し
 たFLディスプレイON/OFFスイッチ。

●ワイヤレスリモコン付属
●録音時は録音直後のテープの音を,ポーズ待機中は
  ソースの音を,自動的に切換えるオートモニター
●自動選曲
●極性表示付OFC極太電源コード
●金メッキ入出力端子
●RECキャリブレーション(レベル・バイアス)
●タイマースタート録・再(別売りタイマー使用)
●ボリューム付きヘッドホン端子




●主な仕様●

ヘッド
録音:アモルファス×1
再生:アモルファス×1
消去:2ギャップフェライト×1
モーター
キャプスタン用:3相6コイル・セラロックサーボDD×1
リール用:DC×1
メカニズム駆動用:DC×1
ワウ・フラッター
±0.05%W・Peak(EIAJ),0.022%(WRMS)
早巻き時間
約95秒(C-60)
周波数特性
メタル:15〜21,000Hz±3dB(−20dB録音)
クローム:15〜19,000Hz±3dB(−20dB録音)
ノーマル:15〜19,000Hz±3dB(−20dB録音)
SN比
57dB(メタルテープ)
61dB(WTD・1kHz・3%3次高調波ひずみ率・メタルテープ)
DOLBY B NR ON時:1kHzで5dB,5kHz以上で10dB向上
DOLBY C NR ON時:500Hzで約15dB,1kHz〜10kHzで最大20dB向上
MOL改善効果10kHzで4dB向上
ひずみ率
0.5%(1kHz・3%3次高調波ひずみ率・メタルテープ)
チャンネルセパレーション
40dB(1kHz)
クロストーク
65dB(250Hz)
入力端子
CDダイレクト×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
ダイレクト×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
ライン×1系統:80mV(入力インピーダンス50kΩ)
出力端子
ライン×1系統:0.3V(出力インピーダンス600Ω)
ヘッドホン×1:0〜1mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω〜1kΩ)
その他の端子
コンピュリンク-1/シンクロ(×2):弊社のCDプレーヤーとシンク ロ録音可能
電源
AC100V,50/60Hz共用
消費電力
20W(電気用品取締法基準)
最大外形寸法
435W×140H×336Dmm(足・つまみ含む)
重量
約10.3kg

※本ページに掲載したTD-V711,TD-V721の写真,仕様表等は
 1987年8月,1989年4月のVictorのカタログより抜粋したもので,
 日本ビクター株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
 真等を無断で転載・引用等することは 法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

   
 
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