TD-V931の写真
Victor TD-V931
3HEAD CASSETTE DECK ¥87,000
 

ビクターが1989年に発売した3ヘッドカセットデッキ。長らく右側カセットドア,シングルキャプスタンにこだわってきたビクターも
1987年のTD-V711よりシングルウェイ,3ヘッド、デュアルキャプスタンという音質重視型デッキの定番という形のデッキに移
行し,音質とコストパフォーマンスをぐっと上げて人気を高めました。本機は,オーソドックスな高級機として同社の最高峰ともい
える高性能デッキでした。センダストヘッドに早くから取り組み,1978年に初のメタル対応デッキのシリーズを出したビクターで
すから,その技術の高さや音の良さは早くから知られていました。本機はその実力発揮という感じではなかったかと思います。

TD-V931の大きな特徴は,その振動対策にありました。約1kgの針葉材を圧縮プレスした高密度圧縮成型ボードをさらに厚さ
3.2mm・重さ2.5kgの鋼板で全面シールドして作り上げられた「アークベース」という強固なベースにガラス繊維入りの剛性の
高いメカホルダーをダイレクトにマウントし,そこにメカニズムを強固に固定して,メカ重量を等価的に約5kgにアップするというもの
でした。これにより,メカニズム自体の動作振動はもちろん外部振動の影響もカットされました。さらに,この「アークベース」に,ア
ナログ部の各パートを5ブロックに区切るインナーシャーシもダイレクトに固定し,シャーシ構造の強化を図るとともに,録音部,再
生部,電源部,バイアス発振部,入力回路部の相互干渉もカットしていました。また,操作系デジタル部を1箇所に集中させるな
ど,徹底した共振・振動・干渉対策がとられていました。

アークベースとメカ構造図

振動対策のもう一つの特徴が「エアタイト電動カセットドア」でした。外部からの振動の影響を抑えるために,カセットドアの密閉度
を高めたものでした。カセットドアに本体との密閉度を高めるためのエアタイトラバーを装着し,電動で開閉することで密閉度を高め
て,スピーカーからの音の侵入を遮断し,メカニズムへの影響を防いでいました。また,カセットハーフそのものの振動はハーフシェ
ルスタビライザーという押さえ機構で防いでいました。

ヘッド系は,録音・再生独立型の3ヘッド方式を採用していました。録音・再生ヘッドには,高域特性に優れたアモルファスと磁気
特性,耐摩耗性に優れたSA(センダストアロイ)の特性を併せ持つファインアモルファスヘッドを開発して搭載していました。ヘッド
の巻線,リードワイヤーには伝送ロスを抑えたPC-OCC(単結晶状高純度無酸素銅材)を採用していました。また,消去ヘッドに
は,2ギャップセンダストヘッドを搭載していました。

走行系には,ヘッドの両側にキャプスタンとピンチローラーを配置したクローズドループ・デュアルキャプスタンメカニズムを搭載し,
ビクター自慢のパルスサーボDDモーターによって駆動されました。また,メカベースにはアルミダイキャストを採用し,キャプスタン
やピンチローラー軸の垂直度,平行度,耐振性を大幅に向上し,さらに,モーター基板にも鋼板を重ねたメカ振動対策を施して,ト
ータルに変調ノイズを低減していました。

TD-V931は,2系統のCDダイレクト入力を備えていました。「CDファインダイレクト入力」と名付けられたこの入力のうち1系統は
通常ボリュームの入力インピーダンスに比べ約1/10の低インピーダンスの高音質ディテントボリュームを採用していました。これ
により,ボリュームから発するノイズが低減され,さらに録音入力回路のインピーダンスが低くなることによって,ピンコードやボリュ
ームの浮遊容量の影響を抑えることができ,高域周波数特性,ひずみ,位相特性を大幅に改善し,録音系アンプのダイナミックレ
ンジがほぼ全域で約6dBも向上していました。また,信号系路でのノイズ混入や信号の劣化を抑えるために,セレクター,ディテン
トボリュームにリモートバーを採用し,入力端子間近でダイレクトにコントロールする仕組みになっていました。

メタルテープなどの高S/N比のテープ性能を引き出すために,アンプ系はローノイズFET差動入力やカスコード接続と共に,これ
までのデッキでは例を見ない高S/N・DCサーボアンプを採用し,低域で3〜4dB,高域で1〜2dBのS/N比の改善を図っていま
した。同時に,バイアス周波数を210kHz(消去105kHz)という3ヘッドデッキでは最も高いレベルに設定し,信号電流とのビート
がほとんどないクリアな音を実現していました。NRとしてはドルビーB/C・NR,さらにHX PROを搭載していましたが,デッキ本
来の性能を向上させた結果,ドルビーなしの特性も向上し,ドルビーOFF録音時に付加回路を通さず,回路からの影響を排除した
NRディフィート回路を搭載していました。また,スイッチ一つで最短距離で効果的な信号伝送へと切り換えができるダイレクトシグ
ナルパス機能も装備していました。

電源部は,OFC巻線大型トランスと大容量コンデンサーを使った±トラッキング制御による低出力インピーダンス電源を採用し,外
乱ノイズに強い高安定化電源として,極性表示付のOFC極太電源コードとあわせ,高密度・高エネルギーのデジタルサウンドに対
応していました。
また,機能的には,ノイズ干渉を防ぐためのFLディスプレイON/OFFスイッチや,テープとソースの切替を自動的に行うオートモニ
ター機能を備えていました。さらに,入出力端子は金メッキ仕様となっていました。また,レベル・バイアスが調整できるRECキャリ
ブレーションも搭載していました。操作系では,赤外線ワイヤレスリモコンを標準搭載していました。

以上のように,TD-V931は,ビクターがそれまでのデッキ技術,アンプ技術等を集大成して作り上げたという感じの高性能デッキ
となっていました。ビクターもこれ以降このような本格的な音質重視型デッキは作っていないため,ビクター最後の高級デッキといっ
た感じでした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 

時代の音を聴かせてくれる。
心の奥にまで響かせてくれる。
無振動設計の徹底。
ピュアな音質に磨きをかけた
ビクターの最高級モデル。

◎メカニズムとシャーシベースを一体化。
 新開発アークベースがデッキサウンドの本質を鳴らす。
◎リスニング状況下での音圧による共振をカット。
 ドア内部を密封したエアタイト電動カセットドア。
◎磁気特性/耐摩耗特性にも素晴らしい特性を発揮する
 ファイン・アモルファス録再独立3ヘッド。
◎クリアな音質を実現したDDモーター搭載の
 クロ−ズドループ・デュアルキャプスタン・メカニズム。
◎回路からのノイズ混入をカット。ピュアな音をそのまま
 録音するCDファインダイレクト入力。
◎テープ性能を引き出す高S/N・DCサーボアンプ&
 ローノイズFET差動入力カスコード接続。
◎サウンドの純度に迫るクオリティを追求する
 ダイレクトシグナルパス機能&ディフィート回路。
◎CDサウンドのクオリティを再現する
 余裕のある高安定化電源。
 
●主な仕様●


ヘッド 録音:アモルファス×1
再生:アモルファス×1
消去:2ギャップ センダスト×1
モーター キャプスタン用(パルスサーボDD)×1
リール用(DC)×1
メカニズム駆動用(DC)×1
ワウ・フラッター ±0.05%W・Peak 0.022%WRMS
周波数特性 メタル 15Hz〜21,000Hz(−20dB録音)
SN比 57dB(メタルテープ)
ひずみ率 0.5%(1kHz3次高調波歪率,メタルテープ)
電源 AC100V,50/60Hz共用
最大外形寸法 435W×152H×333Dmm
重量 約13kg
※本ページに掲載したTD-V931の写真,仕様表等は1990年12月のVictor
 のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があります。した
 がって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられています
 のでご注意ください。
   
 
★メニューにもどる        
 
 

★テープデッキPART2にもどる
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system