DENON TU-500
STEREO TUNER ¥89,800
1974年に,デンオン(現デノン)が発売したFMステレオチューナー。FM専用機として作られた,当時のデンオンの
チューナーの最上級機で,同社のプリメインアンプPMA-500やPMA-700とのペアを想定され,サイズやデザイン
的にも統一感がある重厚さも感じさせる落ち着いたスタイルのチューナーでした。
フロントエンドは,デュアルFET,5連バリコンを採用したしっかりしたものとなっていました。入力信号をまず,バリコ
ン1連の単同調回路を通し,直ちにデュアルゲートMOS FET1個の高周波増幅を行い,微弱な電波に対する高SN
比を確保していました。そのあとバリコン3連のトリプルチューンを通し,デュアルゲートMOS FETで局部発振周波
数と混合・増幅し,適度な利得設定で強い電波にも歪まず,ブロッキング現象を起こさない構成となっていました。
デュアルMOS FETは,1個でカスケード回路同等の増幅回路が組める構造のFETで,カスケード回路は,FET本
来の高入力インピーダンス,低雑音,高調波歪の発生が少ない自乗特性など,高周波増幅と周波数変換のための
すぐれた特性をさらに高め,安定・確実にする回路でした。そして,トリプルチューン結合回路は,位相特性が平坦
かつシャープな選択特性で,すぐれた妨害波排除能力が得られるものでした。
受信・増幅・選択された放送波に混合し,新しい信号・10.7MHzの中間周波をつくるもとになり,周波数が正確・
安定で,スプリアス妨害の原因となる高調波を含まない純粋な波形が要求される局部発振回路には,変形スクラッ
プ型発振回路が採用されていました。この回路は,コレクタ接地型なので,トランジスターの働きが電源電圧や温度
変化の影響を受けにくく,出力は波形のきれいな共振回路から直接引きだされる方式なので高調波が少ないなどの
特徴をもっていました。そして,厳選された温度補償コンデンサーやすぐれた耐温・湿度特性の発振コイル,浮遊容
量を少なくするための手配線などを採用し,さらに発振出力は混合用デュアルゲートMOS FETの第2ゲートに注入
する形のため,発振周波数がきわめて安定するものとなっていました。
こうした構成のフロントエンドは,見かけ上の選択度を損ねたり,いわゆる引き込み現象を起こしかねない自動周波
数制御(AFC)回路の省略を実現していました。
中間周波(IF)部は,本来の増幅部のほかに,コントロール系,つまりシグナル・メーター,マルチパス出力端子およ
びミューティング回路など,補助機能のための副増幅部(トランジスター4石構成)と,それぞれ目的に沿う2系統構
成となっていました。
IF主増幅回路は,理想的なリミッティング(振幅制限)作用をもつ動作が安定した差動増幅3段直結のIC 2組を主
体に,ダイナミックレンジの広いトランジスターを併用して直線性のよい多段増幅を構成していました。その間の結
合・選択素子には,セラミック2素子型で選択度が高く音質を重視した位相特性が平坦なフィルター4組を使用して
いました。そして,最終のFM検波には,出力インピーダンスが低く,広帯域のレシオ検波回路が搭載されていまし
た。
こうした構成のIF部は,フロントエンドの特性とあいまって,実用感度1.7μV,実効選択度80dB,スプリアス妨害
比110dB,キャプチャーレシオ1.0dBという受信能力を実現していました。
MPX部は,当時の最新技術PLL(フェーズ・ロックド・ループ)スイッチング・パルス発振回路などを集積したステレ
オ・デコーダー用ICを採用していました。これにより,同期が正確な復調スイッチング,適切なパルス幅が確保され
チャンネルセパレーション45dB,歪率0.2%,ビート障害もなく,IC回路のため長期にわたっての安定した性能が
実現され,さらにディエンファシスも正確な特性が確保されていました。
低周波増幅部は,左右各チャンネルとも,2段直結増幅回路を2組重ね,計4段の構成で低歪みの設計がなされ
ていました。また,不要になったパイロット信号(19kHz)や副搬送波(38kHz)などのリークを,新開発の3段構
成ローパス・フィルターでカットし,その結果,キャリアリーク抑圧比65dB,SN比75dB,周波数特性は,放送規
格最大限15kHzで-1.5dB以内とすぐれたオーディオ特性を実現していました。
パネルデザインは,デンオンの個性を感じさせるものとなっていました。ダイヤルスケールが,通常の横長の横行
タイプではなく,固定指針,スケール可動の回転ドラム式ダイヤルとなっていました。目盛りの全長は,従来の横
行スケールタイプに比べ約1.5倍の28.3cmと長くなっており,周波数等間隔で一目盛り200kHzと見やすい
ものとなっていました。ダイヤル回転機構には,オイルレスの含油性ポリアセタール樹脂を使用し,チューニング
つまみの初期の操作性を長く保てるようにしていました。
面積をとらないドラム式ダイヤルスケールのメリットを生かして,パネル面には,左右に2つの大型の針式レベル
メーターと中央左寄りに針式のセンター式チューニングメーターが装備されていました。左側のメーターは,Lchの
レベルメーターとして働くとともに,スイッチの切換でシグナル・メーターとして働くようになっていました。右側のメー
ターは,Rchのレベルメーターのほかに,ステレオ回路のバランス・コントロールをする際のナル・バランスのチェッ
クメーターとして働くようになっていました。また,左右のレベルメーターは,放送局級VUメーターの規定に準じた
精度の高いもので,チューナー出力のレベル表示以外に,独立した測定器としても使えるようになっていました。
パネル上のLEVEL/SIGNAL/EXTERNALの切換をEXTERNALにして,外部入力につなぐことで測定メーター
として使えるようになっており,入力インピーダンスは200kΩ以上で,フロントのEXTERNAL ATTで-30dB
(24.5mV)から+33dB(34.6V)まで6段階に切り換えることができ,オーディオ定常信号電圧を測ることがで
きるようになっていました。また,メーターを通してのスピーカーへの出力端子も設けられており,レベルメーターを
装備していないアンプと組み合わせて出力メーターとしても使えるようになっていました。
その他,機能としては,局間の雑音を抑えるミューティングスイッチ,セパレーションをコントロールして雑音を抑え
るハイブレンドスイッチ,L・Rバランスを調整するバランスツマミ,MONO/AUTO/STEREO-ONLYのモードをも
つファンクションスイッチなどが装備されていました。STEREO-ONLYは,放送がステレオの時だけ自動的にステ
レオ出力を送り出し,モノに変わるとストップするという独自の機能で,ステレオ放送中の局のみ探すことができる
機能でした。
オーディオ出力は,インピーダンス47kΩの固定出力と,200Ωの可変出力(背面に調整ツマミ),加えてボリュー
ム付きのヘッドホン端子が装備されていました。アンテナ入力端子は,同軸75ΩF型コネクタと75Ωと300Ωの
フィーダー用端子が装備され,さらに,アンテナの調整用にマルチパス端子が設けられていました。
以上のように,TU-500は,当時のデンオンのチューナーの最高級機として,性能と音質のバランスがとれた1台
でした。デンオンらしい独特のデザインに,多機能を搭載した高精度な設計は,デンオンの技術力を感じさせるも
のでした。PMA-700Z等,同社のアンプと組み合わせるとデザイン的にもいい雰囲気になり,滑らかな薄っぺら
でない音は魅力あるものでした。チューナーではブランドイメージが強くなかったデンオンであったためか大きく話
題にはなりませんでしたが,オーディオ機器として使いやすいチューナーでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎精度が高い同調システムと独特のデザイン
◎幅広く活用できる大形レベル・メータ
◎アンテナ重視の入力端子とマルチパス端子
◎双ゲートFET,5連バリコンの採用,AFC不要
の局発など,練り上げられたフロントエンド
◎伝達特性を重視した二系統の中間周波部
◎ステレオ復調を安定・忠実におこなう
P.L.L.デコーダ
◎過大入力にもゆるぎない低周波増幅部,
使い方を重んじた二種類の出力端子
◎ステレオ放送ファン好みのステレオ・オンリー
◎音量調節可変のハイ・クオリティ・ヘッドホン
ジャックつき
◎確実な局間雑音除去スイッチ「ミューティング」
周波数特性をくずさない雑音消去スイッチ「ハイ・
ブレンド」つき
●仕様●
形式 |
ドラム式ダイヤル,ソリッドステートFMステレオチューナー |
FM |
|
回路方式 |
スーパーへテロダイン方式 |
受信周波数範囲 |
76~90MHz |
中間周波数 |
10.7MHz |
実用感度 |
1.7μV(IHF規格) |
実効選択度(2信号法) |
80dB(IHF規格) |
イメージ妨害比 |
110dB(83MHz) |
IF妨害比 |
110dB(83MHz) |
スプリアス・レスポンス | 110dB(83MHz) |
AM抑圧比 |
60dB(IHF規格) |
キャプチャ-・レシオ |
1.0dB(IHF規格) |
不要輻射 | 50μV/m |
AUDIO |
|
回路方式 | フェーズ・ロック・ループ式ステレオ復調回路採用 |
周波数特性 |
20Hz~15kHz+0.2dB,-1.5dB(19kHzフィルタ付) |
SN比 |
75dB |
全高調波ひずみ率 |
ステレオ:0.2%(1000kHz・90%変調時) 0.3%(50Hz~5kHz・同上変調) モノーラル:0.2%(1000kHz・100%変調時) 0.3%(50Hz~10kHz・同上変調) |
ステレオセパレーション |
45dB(1000Hz) 40dB(100Hz~10kHz) |
19kHz,38kHz抑圧比 |
65dB |
出力電圧 |
固定:1Vrms(100%変調時) 可変:0~1.5Vrms(100%変調時) |
出力インピーダンス |
固定:4.7kΩ,可変:200Ω |
ヘッドホンアンプ |
適合負荷インピーダンス:8Ω 定格出力:100mW(0.28Vrms) 周波数特性:50Hz~10kHz+0,-1.5dB |
レベルメーター (シグナル及び外部オーディオ信号測定可能) |
|
指示誤差 |
±0.2dB以内(各レンジ 1kHz VU目盛0附近) |
外部オーディオ測定レンジ |
-20,-10,0,+10,+20,+30dB(0dB:0.775Vrms) |
外部オーディオ入力インピーダンス |
200kΩ以上 |
周波数特性 |
20Hz~15kHz±0.5dB |
動特性 |
JIS C-1504に準ずる |
|
|
接続端子 |
アンテナ端子:75Ω F形コネクター 300Ω,75Ωネジ式 マルチパス検出端子,検波出力端子(4ch&SCA用出力) オーディオ出力端子(固定,可変),ヘッドホン・ジャック レベル・メーター外部端子,同パス端子 AC SCKET UNSWITCHED 250Wmax,1個 |
電源電圧 |
AC100V 50/60Hz |
消費電力 |
25W |
寸法 |
430W×140H×350Dmm |
重量 |
9kg |
※本ページに掲載したTU-500の写真,仕様表等は1975年1月の
DENONのカタログより抜粋したもので,デノン株式会社に著作権
があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
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