PIONEER TX-810
STEREO TUNER ¥50,000
1972年に,パイオニアが発売したFM/AMチューナー。パイオニアは,この当時,「NEW UAシリー
ズ」として,SA-910をトップとする一連のプリメインアンプを発売し,さらに,ペアとなるチューナーとし
TX-910,TX-810,TX-710を発売しました。こうした「NEW UAシリーズ」のチューナーの中間
の売れ筋価格帯に位置するモデルがTX-810でした。

FMフロントエンドは,低雑音のデュアルゲートMOS型FETを厳選したてRF段,ミキサー段に使用し,
実用感度1.8μVを確保し,さらに4連バリコンを使用した同調回路により,イメージ妨害比90dB以
上(82MHz),スプリアス妨害比100dB以上と,高い混信排除能力を実現していました。
局部発振回路には,バッファー回路が設けられ,電界強度の強い局が隣接している場合でも,バッ
ファー回路の働きにより,引き込み現象などの不安定な現象が抑えられていました。

IF部には,新開発した専用の高集積度IC(HA1137)が採用されていました。従来の素子で,トラン
ジスタ88石,ダイオード18石,抵抗83本,コンデンサー14本,合計203素子分に相当するこのIC
は,パイオニアが,チューナーのIF用として独自に開発したもので,従来のディスクリート構成やICで
は難しかった回路構成が実現され,すぐれた特性の高集積度ICとなっていました。
検波部には,広帯域にわたって直線性にすぐれたクオドラチュア検波回路が採用されていました。
また,IF部には,位相特性を重視したフェイズリニアセラミックフィルターが採用されていました。2信
号選択度を確保しつつ,位相歪みの改善を図り,受信帯域内での広い範囲で歪みが抑えられ,さら
にMPXセパレーションも高域まで十分に確保されていました。

MPX部にも,高集積度IC(HA1142)が採用されていました。ダブルバランス型差動復調方式が採
用され,広帯域にわたってセパレーションが大きくとられていました。また,19kHzや38kHzの有害
な残留キャリアをシャープにカットするローパスフィルターの搭載で,キャリアリークもきわめて低く抑
えられていました。



AM部にも,専用IC(HA1138)を採用していました。このICは,電界強度の強弱にかかわらず常に
一定した検波出力が得られるすぐれたAGC特性をもつ高集積度ICで,これにより,強入力時にも安
定度がよく,歪みも抑えられていました。また,平衡型ミキサーの採用で,局部発振波形に歪みが少
なく,すぐれたスプリアス特性が実現されていました。また,3連バリコンを使用した同調型RF1段増
幅付高周波回路の採用で,イメージ妨害比,IF妨害比が大きく向上していました。さらに,セラミック
フィルターの採用により,適度な帯域幅とシャープなスロープ特性で,選択度と音質の改善を図って
いました。

チューニング操作時のノイズを抑えるFMミューティングスイッチは,専用に開発されたICにより,正確
なミューティング動作が行われ,さらにリードリレーを組み合わせたダブルアクション方式で過渡的な
ポップノイズが抑えられ,同調時の不快なショックノイズがない快適な選局が可能となっていました。
また,FMステレオ放送受信時に,音質を損なうことなく雑音をカットするMPXノイズフィルタースイッチ
も装備されていました。

ダイヤルスケール,シグナルメーターとも,当時比較的多く見られたブルーの照明の落ち着いた色調
のもので,特にシグナルメーターは,指示点精度を高めた新方式のメーター回路が採用されていまし
た。入力信号を,各リミッターからとり,レベルディテクターにより検波,直流アンプをとおしてゆるやか
なカーブで,かつリニアリティの良い信号をメーターに加える方式のため,小入力から大入力に至るま
での広い範囲の入力信号に正確に追従するシグナルメーターとなっていました。

出力端子は,FIXED(固定)とVARIABLE(可変)の2系統が装備され,VARIABLEはFM,AM独立
でレベル調整が可能になっていました。チューナーとしては珍しくダーリントン接続のOTL方式のヘッド
ホンアンプを搭載したヘッドホン端子が装備され,前面パネルのレベルコントロールで音量調整も可能
で,チューナーだけで聴くこともできるようになっていました。その他,オシロスコープを接続することが
できるマルチパス端子が装備されていました。



以上のように,TX-810は,当時の最上級機TX-910に次ぐ中級クラスのチューナーとして,性能と
機能のバランスがとれた設計で,主要部分に専用ICを用いるという,上級機の技術を継承しつつコス
トパフォーマンスが高められ,使いやすい1台となっていました。外観同様,雰囲気の良いやわらかさ
のある音は,魅力あるものだったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



IF段に専用開発した高集積度ICと
位相特性を重視した
フェイズリニア・セラミックフィルターを採用

203素子に相当する専用ICの開発
がこの性能を実現しました。

◎周波数直線4連バリコン,デュアルゲート
 MOS型FET(2個)使用のフロントエンド
◎バッファー付の局部発振回路を採用
◎独自の設計で開発した専用高集積度ICの
 採用
◎位相特性の良いリニアフェイズセラミック
 フィルターの採用で充実したIF部
◎セパレーション,SCAビート妨害の対処し
 てMPXにも高集積度ICを採用
◎AMのIF段にもセラミックフィルターを採用
◎AGC特性のすぐれた高集積度AM専用
 ICを採用しています
◎AMにも音質を重視して同調型RF1段増幅
 付高周波回路を採用
◎ポップノイズをおさえ,聴感フィーリング
 を重視したダブルアクションによるミュー
 ティング
◎同調点追従特性にすぐれたシグナルメー
 ターの採用
◎ヘッドホン端子付
◎FMマルチパス端子,MPXノイズフィルター
◎出力端子は可変,固定の2系統を完備




●TX-810の規格●



●FMチューナー●

回路方式
MOS FET RF1段4連バリコン
6段リミッター
クオドラチュア検波
実用感度(IHF)
1.8μV
キャプチュアレシオ(IHF)
1dB
実効選択度(IHF)
80dB
S/N
70dB
イメージ妨害比(82MHz)
90dB以上
IF妨害比(82MHz)
100dB以上
スプリアス妨害比
100dB以上
AM抑圧比
55dB
高調波歪率
モノ:0.2%以下
ステレオ:0.4%以下
周波数特性
ステレオ
20Hz~15kHz+0.2,-2.0dB
50Hz~10kHz+0.2,-0.5dB
ステレオセパレーション
1kHz:40dB以上
50Hz~10kHz:30dB以上
キャリアリーク抑圧比
65dB
アンテナ
300Ω平衡型,75Ω不平衡型
ミューティング
ON-OFF
MPXノイズフィルター
ON-OFF




●AMチューナー

回路方式
同調型RF1段3連バリコン
実用感度(IHF,バーアンテナ)
300μV/m
実用感度(IHF)
15μV
選択度
40dB
S/N
50dB
イメージ妨害比
65dB以上
IF妨害比
85dB以上
アンテナ
フェライトバーアンテナ付




●オーディオ部,電源部その他●

出力端子
(出力レベル/インピーダンス)
FIXED:650mV/4.7kΩ
VARIABLE:70mV~2V/300Ω
HEAD PHONES:150mV(8Ω)
使用半導体
FET 2,IC 4,トランジスター 19,ダイオード他 9
電源電圧
AC100V 50~60Hz
定格消費電力
27W
電源コンセント
電源スイッチ非連動1
外形寸法
430W×138H×345Dmm
重量
7.9kg


※本ページに掲載したTX-810の写真,仕様表等は1974年6月
 のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会
 社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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