YAMAHA TX-900
NATURAL SOUND AM/FM STEREO TUNER ¥49,800
1986年に,ヤマハが発売したFM/AMチューナー。ヤマハは,1980年代に入り,シンセ
サイザーチューナーを次々と開発・発売し,すぐれた技術・性能をもち,コストパフォーマンス
にすぐれた中級機を出していました。そして同社のシンセサイザーチューナーは,「T-1桁」
のシリーズから,「T-2桁」,「T-3桁」へと続き,1980年代半ばより,型番にTXのつくシリー
ズに移行していきました。そしてTXの型番をもつシリーズの中級機として,プリメインアンプ
AX-900のペアとなるチューナーとして発売されたのがTX-900でした。
TX-900の同調システムには,ヤマハ自慢のCSL(Computer Servo Locked)チュー
ニングシステムが搭載されていました。CSLチューニングシステムは,基本的には,PLLシ
ンセサイザーと,高忠実度・高妨害排除特性を両立したFMアナログサーボチューニングシ
ステムとを,受信状態に応じてコンピュータがコントロールする方式でした。CSLチューニン
グシステムでは,ステップ選局とプリセット選局時の呼び出し時にはPLL動作で非常に正確
な呼び出しが行われ,また,わずかでも入力信号があればアナログサーボ動作に切換わり
IF帯域の中心点にロックされるようになっていました。そして,そのときには,PLL動作が停
止するので低周波数部,高周波部への妨害はほとんどゼロになるというもので,アナログ
チューニング方式とデジタル方式の良い点を組み合わせた方式でした。
TX-900のPLLシンセサイザーは,0.01MHzステップで,通常のシンセサイザーチュー
ナーの10倍の精度を持つファインチューニングシステムを採用していました。0.01MHz
ステップで同調点を最適ポジションに追い込むことができ,隣接局の影響から逃れられる
最良の同調点にチューニングできるようになっていました。
AM部も,通常の9kHzステップではなく,1kHzステップの微調ができるようになっており,
混信の影響を抑え,受信聴取能力が高められていました。
フロントエンド部は,シングル同調・ダブル同調・OSC(Oscilation)同調という構成で,4連
バリキャップが搭載され,RF段にFET,ミックス段にデュアルゲートFETが搭載され,高感
度と高妨害排除特性を実現していました。IF段は,WIDE/NARROW/SUPER NARROW
の3モードIF帯域自動切換が搭載されていました。WIDE時には,ユニフェーズ・セラミック
フィルター2段(フィードバック制御付き)のみで構成され,これにセラミックフィルターが1段
追加されたNARROW,2段追加されたSUPER NARROWという構成となるようになって
いました。これらの3段階の切換は,妨害信号のない時は広帯域の選択度となるWIDE,
妨害信号のあるときは,狭帯域の選択度となるNARROW,そして,強い妨害波のあると
きには,急峻な選択度となるSUPER NARROWと,受信状況に合わせて自動的に切換
えられるようになっていました。
検波部は,伝統のウルトラリニアダイレクトディテクタを継承し,10.7MHzのIF信号をダイ
レクトに広帯域レシオトランスに入力して検波する,広帯域レシオ検波が搭載されていまし
た。IFT(IFトランス)は1段構成ながら,検波歪を補正する回路も搭載されていました。
MPX部には,フラットな変調周波数をもつ信号が入力されたときにも,38kHzのサブキャ
リア信号による干渉を防いだ新開発のMPX ICが搭載されていました。
機能的には,AUTO/MANUALチューニングモード切換,AUTO STEREO/MONOの
モード切換,IF帯域3モード切換スイッチ,ハイブレンドスイッチなどが装備されていました。
チューニングは,AUTO/MANUAL以外に20局までのメモリー選局も可能で,FM/AM関
係なくランダムにプリセットできる20局ランダムアクセスプリセットとなっていました。さらに
プリセットメモリーは,局周波数のみのメモリーではなく,(1)STモード:STEREO/MONO
(2)ハイブレンド:ON/OFF,(3)IFモード:WIDE/NARROW/SUPER NARROWの受
信コンディションも含めたメモリーができる3WAYマルチステートメモリー機能が搭載されて
いました。
表示部は,大型のマルチカラーLCD(液晶ディスプレイ)が採用され,明るく見やすい表示
が実現されていました。メタルマスク方式の新開発のもので,非点灯部分への光漏れがゼ
ロで,ハイコントラストを実現することで,発光素子の透過率向上が図られ,視野角も広げ
られていました。表示機能としては,局周波数,プリセットチャンネル,24セグメントバー表
示のシグナルメーター,IFモードの表示が設けられていました。LCDは低消費電力であると
ともに,パルス性ノイズの発生が少ないため,信号経路への悪影響,電源余裕度などによ
り,SN比の向上にも寄与していました。
以上のように,TX-900は,FM/AMチューナーとして,ヤマハのチューナー技術を継承し
て手堅くまとめられ,実用的なチューナーとして完成度が高いものでした。ヤマハらしい繊
細なデザインの印象どおりの繊細でやわらかな音をもっていました。このチューナーをベー
スに,後にヤマハ最後の高級チューナーTX-2000が生まれることになりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CDシステムと同等の
高S/N受信を実現した
CSLチューニング。
スーパーナロー付IF切換装備。
電波ジャングルに打ち克つ
都市型チューナー。

◎高S/N比,低歪率受信の
 CSLチューニングシステム。
◎0.01MHzステップの同調精度。
 ファインチューニングシステム。
◎高選択度スーパーナロー付
 3モードIF帯域自動切換回路。
◎MOS FETフロントエンド。
 低歪率,高セパレーションMPX回路。
◎低消費電力・ローノイズの
 高品位・大型マルチカラーLCD。
◎各種受信モードを合せて記憶。
 3WAYマルチステートメモリー機能。

●FM/AM20局ランダムアクセスプリセット
●選択度をマニュアルで切換えられるIF帯域切換スイッチ。
●AUTO/MANUAL・チューニングモード切換スイッチ。
●AUTO STEREO/MONO・モード切換スイッチ。
●ハイブレンドスイッチ。
●75Ω専用FMアンテナ端子。
 (75Ω/300Ω両用アンテナプラグ付属)
●AMループアンテナ装備。
●RSリモートコントロール端子装備。





●主な規格●



■FM部■

S/N比50dB感度 1.55μV(15.1dBf)/75Ω(mono)
20μV(37.2dBf)/75Ω(stereo)
実用感度 0.9μV(10.3dBf)/75Ω
キャプチュアレシオ 1.2dB(WIDE)
イメージ妨害比 90dB
IF妨害比 110dB
スプリアス妨害比 110dB
AM抑圧比 70dB
実効選択度 90dB
SN比 100dB(MONO),91dB(STEREO)
歪率(1kHz・LOCAL) 0.015%(WIDE・1kHz・stereo)
0.0095%(WIDE・1kHz・mono)
ステレオセパレーション 65dB(1kHz)
周波数特性 20〜15,000Hz,±0.5dB



■AM部■

実用感度 250μV/m
イメージ妨害比 40dB
スプリアス妨害比 50dB
S/N比 52dB
全高調波歪率 0.3%



■総合■

電源/消費電力 100V 50・60Hz/10W
外形寸法 435W×94H×282.5Dmm
重量 3.3kg
※本ページに掲載したTX-900の写真,仕様表等は
1986年11月のYAMAHAのカタログより抜粋した
もので,ヤマハ株式会社に著作権があります。した
がって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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