SONY ULM-6(SS-7600)
FLOOR TYPE SPEAKER SYSTEM ¥66,000
1971年に,ソニーが発売したスピーカーシステム。ソニーは,そのブランド名の通り(SONYはSONUS(ラテン語で音の意味)
を一つの語源としている。)オーディオには早くから取り組んでいましたが,録音機器,アナログプレーヤー,アンプ,チューナーと
いった機器が主で,スピーカーに関してはスタートはやや遅く,確かに当初はあまり力を入れていませんでした。そんなソニーが,
スピーカーに本格的に乗り出し,1971年に発売したのがULM(ウルム)スピーカーのシリーズでした。その中でも第一号にあた
り,第一世代のトップモデルであったのがULM-6でした。
ULMは,(Ultra Linear Magnetic Path=起直線性磁気回路)の略で,ソニーが新たに開発したスピーカーの駆動系の名称
で,この駆動系を搭載したスピーカーユニット,スピーカーシステムをULMスピーカーと称していました。当時ソニーは,本格的に
スピーカーに進出するにあたり,スピーカーの耳に付きやすい中・高音域の歪み成分に着目し,この低減に取り組みました。スピー
カーの歪みの原因には多様なものがありますが,ソニーはスピーカーに関する基礎研究をしっかり重ね,コーン紙よりも磁気回路
に起因するものの解消を中心に各部の改良を図ったのがULMスピーカーでした。
ULMスピーカーの磁気回路は,従来のスピーカーの磁気回路の鉄芯入りのコイルが抱える非直線性歪みの発生を抑えようとし
たもので,センターポールの中心部に切欠部を設け,その部分に熱い銅メッキあるいは銅キャップを加えるという2つの改良を施
し,中・高音域では1/5以下という歪みの低減を実現したということでした。
ボイスコイルにも,アンプの大出力化に対応して,許容入力を大きくするための改良が施されていました。従来のスピーカーでは
バイスコイルの耐熱性が低く,80℃〜130℃が限界であったのに対し,耐熱性,機械的強度について検討を加え,新開発の特
殊合成樹脂による接着剤を採用して,大きく耐入力を高めていました。また,ウーファーでは金属性のボビン(巻枠)を用いること
で,さらに許容入力を高めていました。これらにより,100W以上の許容入力が確保されていました。
ウーファーとミッドレンジは,コーン型ユニットが搭載され,ウーファーには30cm口径,ミッドレンジには12cm口径のユニットが
使用されていました。コーン紙は,材料のパルプの種類,処理方法を徹底的に検証して作り上げられた剛性と内部損失の両立
が図られたものが使用され,エッジは,クロスエッジにうすい特殊ゴムをひいて気密処理を施して成型した,弾力を増した新しい
エッジが採用されていました。400Hz付近に生じやすい谷をなくし,なめらかな特性を実現し,非直線性歪みも抑えら得ていまし
た。リード線は,断線しないように高純度の輸入銅箔に特殊樹脂加工したものが採用され,寿命が大きく延ばされていました。
トゥイーターには,ホーン・ユニットが搭載されていました。ホーンには,セクトラル・タイプのホーンが採用されていました。セクト
ラル・ホーンは,水平方向が扇状の形をしたラジアルホーンのカーブを複数のエクスポーネンシャル・カーブ(指数関数にもとづく
カーブ)の組み合わせになった形状にしたもので,指向性が広く,比較的どの位置で聴いてもしっかりした音が聞けるというもの
でした。ダイアフラム(振動板)には,トランジェント特性がよい直径18mmのジュラルミンのダイアフラムが搭載されていました。
エンクロージャーは,フロア型のかなり大型のもので,基本的に前面にポートが設けられたセミバスレフ型ですが,ポートを閉め
て密閉型にもできるという,ユニークな完全密閉→セミバスレフ可変型となっており,低域の特性を変えられるようになっていま
した。ウォルナットオイル仕上げの落ち着いた外観で,ユニットの取り付けられたバッフルは,エッジレス(周辺部が一段引っ込ん
でいる形状)となっていて,サランネットのフレームの有害な反射や干渉を起こしにくい形状として,指向性の改善が図られてい
ました。
フロントバッフル上には,ミッドレンジとトゥイーターのレベルをそれぞれ±3dB変えられる,連続可変のレベルコントロールが設け
られていました。エンクロージャー裏側の端子は,通常のLCネットワーク経由だけでなく,ウーファー,ミッドレンジ,トゥイーターを
独立して駆動できるマルチ駆動対応になっていて,スイッチ一つでマルチへの切換えができるようになっていました。
以上のように,ULM-6は,ソニーが本格的にスピーカー部門への進出を果たした「ULMスピーカー・システム」のトップモデルとし
て,各部に技術的な改良が施された力作でした。歪み感や色づけの少ない音にソニーの技術的な成果が感じられたものでした。
しかし,スピーカーという,より音の感性的なものが重視される分野であったため,純技術的アプローチがすぐに高評価に結びつく
まではいかず,「ULMスピーカーは音が潤む」などと揶揄する評価も見られましたが,ここでの研究の成果は,後の同社のスピー
カー(オーディオ用のみならず,ラジオやラジカセなどの小型機器においても)に生きていくことになりました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
「いくらボリュームを上げてもうるさくならない」
「ギラギラした感じ」がまったくない」
「疲れない」「オペラが実に生々しい」
「スピーカーの存在を忘れさせてくれる」・・・・
視聴者の感想です。
あなたも一度,ULMを聞いてから
スピーカをお選びください。
秘密はセンターポール。
新しい理論にもとづき,耳につきやすい
非直線性の<ひずみ>を追放・・・ソニー
音響技術の粋を結集した画期的な改良です。
◎ダイナミックスピーカが世に出て半世紀
ひずみを1/5にした,はじめてのスピーカです
◎ソニーULMスピーカ・システムの
画期的な特長
●ひずみのない澄んだ音
ベールをはがした感じです
●許容入力が大きく,最近の
ハイパワーアンプを使用しても安心です
●美しいだけでなく
理論的にもすぐれたキャビネット
●部屋の状態に合わせられるよう
レベルコントロールつき
●マルチ用セレクタースイッチつき
●ULM-6規格●
ウーハー | タイプ:30cmコーン型 総磁束:170,000maxwell 磁束密度:12,200gauss 出力音圧レベル:94dB/W 周波数範囲:fo〜1,500Hz クロスオーバー周波数:−600Hz カットオフ周波数:20Hz±3Hz 最大許容入力:150W |
ミッドレンジ | タイプ:12cmコーン型 総磁束:85,000maxwell 磁束密度:12,400gauss 出力音圧レベル:94dB/W 周波数範囲:fo〜7,000Hz クロスオーバー周波数:600Hz−4,500Hz カットオフ周波数:75Hz±10Hz 最大許容入力:150W |
ツィータ | タイプ:ホーン型 総磁束:21,000maxwell 磁束密度:12,400gauss 出力音圧レベル:97dB/W 周波数範囲:3,000〜20,000Hz クロスオーバー周波数:4,500Hz− カットオフ周波数:2000Hz 最大許容入力:60W |
再生周波数範囲 | 30〜20,000Hz |
共振周波数(fo) | 40Hz±5Hz |
クロスオーバー周波数 | 600Hz(6dB/oct),4,500Hz(12dB/oct) |
ネットワーク | L.C型 |
入力インピーダンス | 6Ω |
出力音圧レベル | 92dB/W(Normal) |
最大許容入力 | 100W(フルレンジ,Weighted pink noise) |
レベルコントロール | ツィーター±3dB,ミッドレンジ±3dB(連続可変) |
入力端子 | フルレンジ,セパレート切換 ツィーター保護用コンデンサーつき |
エンクロージャー | 完全密閉−セミバスレフ可変 ウォルナットオイル仕上げ |
大きさ・重さ | 560W×800H×430Dmm,39kg |
※ 本ページに掲載したULM-6(SS-7600),CF-1900の写真・
仕様表等は,1971年,1975年4月のSONYのカタログより抜粋
したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これ
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