ESOTERIC X-1
COMPACT DISC PLAYER ¥390,000
1990年にティアックがエソテリックブランドで発売したCDプレーヤー。エソテリックブランド初の
一体型CDプレーヤーで,前年に同ブランドが発売したP-2+D-2を一体化したともいえる内容
を持ち,各部の作り込みもしっかりした,高級機ブランド・エソテリックらしい逸品でした。
CDドライブユニットには,エソテリック自慢のVRDS機構が採用されていました。ディスクと同径,
微妙な角度を持つターンテーブルに,高精度に調整されたクランパーが,ディスク本体を圧着す
ることで,ディスクのソリや歪みを矯正し,ディスクの不要な振動を排除し,さらにターンテーブル
と同角度に微調整されたピックアップにより,常にピックアップ光軸の中心での微細なピットの読
み取りを可能にしていました。X-1では,P-2と同じ亜鉛ダイキャスト製ターンテーブルを採用し,
高精度ヘリコイドを介したクランパーによりディスクを圧着することで,共振周波数と振動モードを
大幅に低減していました。ターンテーブルを滑らかに駆動するために,ブラシレス・ホール・モー
ターには磁束密度の高いサマリウム・コバルト・マグネットを採用し,高トルクを実現して安定した
回転駆動系を形成していました。さ らに,このメカニズムを支えるメカ・ベースとモーター軸受けブ
リッジに亜鉛ダイキャストが用いられ,高剛性,回転安定性,高耐久性,高信頼性が確保されて
いました。
一体型CDプレーヤーであるX-1では,駆動系と信号系が同一筐体に入っているため双方から発
生するノイズ等による相互干渉を抑える必要があります。そのため,新開発のピックアップ・バラン
ス駆動方式が採用されていました。これにより,駆動能力が約2倍に向上し,ピュアなアース電位
を確保していました。
重量級のVRDSメカニズムをボディの重心と一致させるよう,センターマウント方式がとられ,低重
心化と最適な重量バランスにより不要振動を抑えていました。そして,その左右にアナログ基板と
デジタル基板を完全に分離して配置することにより相互干渉も排除されていました。これらは高剛
性の二重シャーシに強固に固定され,内部共振や外部振動に強い構造となっていました。
フロントパネルは,ステンレス・セラミックパウダーを加圧したもので,高密度・高比重を誇り,高い
制振効果,弱導電性によるシールド効果をもっていました。また,このフロントパネルは,優美な
fカーブを形成し,ファンクションキーまでこのカーブに合わせた形状とされ,優美なフロントフォルム
となっていました。フロントパネル中央には,トレー開口部の上部に演奏中のディスクを見ることが
できるライトアップ付のウィンドーが装備され,メカニズムの動きを目で楽しむこともできるようにな
っていました。
D/A変換部は,D-2と基本回路が同一で,ディストーションシェーパー「ZDU」が搭載されていました。
「ZDU」は,ティアック自慢のディザ方式で,小振幅の音楽信号に別の細かく変動する振幅成分(ディ
ザ)を加えることで,小振幅の音楽信号もできるだけ原形をとどめながら量子化できるというもので,
音楽信号を大きく変形させるよりも耳障りにならない小さな雑音成分にしようという「ZDサーキット」の
発展形で,D-2に初搭載されたものでした。ZD-Uでは,高域集中型(ハイパス)ディザを用いること
で,ディザ信号を可聴帯域外においやり,S/N比を向上させ,D/Aコンバーターの変換誤差を分散さ
せ,大幅な低歪率化を実現するディストーション・シェーピング効果をより高めていました。
X-1では,「ZDU」の効果をさらに高めるために,0V付近で本来発生するMSB(最上位ビット)の誤
差を解消させることのできる1/16シフト(デジタルオフセット)方式の小信号重視型のDACを新たに
採用していました。これは,DACの0V動作点をフルスケールの1/16だけシフトすることにより,入力
コードが0Vを通過するときに起こる0クロス歪みを,従来方式に比べて1/8に減少させるもので,音
楽信号の集中する信号領域(−18dB以下)のリニアリティを大幅に向上させるというものでした。
結果としてX-1は,D2の18ビット・4DAC+ZDUという構成に対して,20ビット・4DAC+ZDUという
より進んだ構成のDAC部となっていました。また,X-1は,一体型CDプレーヤーの特長である水晶発
振方式により,キャリア純度の高い,高精度な時間軸再現が可能となり,正確な変換が実現していまし
た。
X-1では,デジタル伝送,アナログ伝送ともに完全バランス伝送方式がとられ,アースラインへのノイ
ズ混入を抑えていました。この結果,アースラインに流入するデジタルノイズが逆相の信号によりキャ
ンセルされ,変調ノイズの少ない正確な信号伝送が実現されていました。
電源トランスには,捲線を2等分しそれぞれを逆位相とするバランス捲が採用され,磁界をキャンセル
し電磁ノイズを極小としていました。また,捲線が並列であるため,自己インダクタンス(誘導起電力)
直流抵抗が低減され,すぐれたレギュレーションを実現していました。さらに,正電源,負電源独立の
捲線とした正負独立バランス電源部が構成され,アース電位の明確化も図られていました。
以上のように,X-1は,エソテリックブランド初の一体型CDプレーヤーとして,P2+D2を引き継いだ
あるいは部分的にはより進んだ中身を持った高性能機でした。エソテリックらしいしっかりとした重厚
さに優美な部分も持った外観に,低音の迫力とクリアな高音をもった1台でした。
ESOTERIC X-1s
COMPACT DISC PLAYER ¥490,000
1991年に,X-1はX-1sにモデルチェンジされました。価格は¥100,000のアップとなりましたが,内容面で
さらなる充実が図られ,エソテリックブランドの一体型CDプレーヤーとして熟成が図られていました。
最大の改良点は,VRDSメカニズム部の強化でした。ターンテーブルを従来の亜鉛ダイキャストから,削り出し
の真鍮+アルミの2重構造とされ,2種の異なった金属を合わせて使用することで,不要な共振を排除し,さら
にディスクの圧着面のみならず,全ての面の加工精度が大幅にアップされていました。シャフトも,ターンテーブ
ルの強化に合わせて極太直径6mmのものとされていました。また,ピックアップからのレーザー光の乱反射を
吸収しやすい波長の,グリーン系に染色され,より正確なディスクの読み取りを実現していました。
これらのメカニズム全体を支えるメカベースとモーター軸受けブリッジには亜鉛ダイキャストが使用されていま
したが,X-1sでは,軸受けブリッジが新設計の肉厚補強リブ構造とされ,従来の2倍の質量となり,高剛性
回転安定性,高耐久性を確保していました。
D/Aコンバーター部,アナログ部,電源部等は同一の内容を持っていましたが,パーツ等の面では細かな見
直しが図られていました。特に,デジタル部,アナログ部の基板に新たに24K金メッキシールド基板が採用さ
れていました。この基板は,シールド効果,振動吸収性に優れているため,音質に悪影響を与える振動や高
周波ノイズなどを排除し,物質としての安定度が高く,酸化しにくいなど経年変化にも優れ,温度変化に強く,
基板の温度条件を安定化するなど,音質向上,初期性能の維持などの効果を持ったものでした。
マイナーチェンジともいえるX-1sが登場した際,前モデルとなったX-1からの有償バージョンアップ(新VRDS
メカニズムへのバージョンアップ,X-1sフロントパネルへの交換,X-1s金メッキ基板への交換)ができるよう
になっていました。この点にも高級ブランドエソテリックらしさを感じたものでした。
以上のように,X-1sは,X-1をさらに強化した内容を持ち,音的にもより熟成されたバランスのとれた音にな
り,完成度が高められた1台でした。