TEAC X-1000R
THE dbx OPEN MASTER ¥198,000
1981年に,ティアックが発売したオープンリールデッキ。ティアックは,テープデッキのブランドとして
すぐれた技術と歴史を持ち,オープンリールデッキの分野では,アカイ,ソニーなどと並んでトップブラ
ンドでした。そんなティアックが,1980年代に入って新しいオープンリールテープの規格EEポジショ
ンに対応して新設計したデッキが第1号機がX-1000Rでした。
EEテープは,テープデッキメーカーのティアック,アカイ,テープメーカーのTDK,マクセルの4社が共
同で立ち上げた規格で,EXTRA EFFICIENCYの略でした。カセットテープのハイポジションやビデ
オテープに用いられている磁性体による,オープンリールテープのハイポジション的な規格で,従来の
テープよりも高密度記録を可能にしていました。
X-1000Rは,4トラック往復録音再生(オートリバース)で,テープスピードは19cm/s,9.5cm/sの
オープンリールデッキでした。最も大きな10号リール使用時,19cm/sで,往復3時間,9.5cm/sで
往復6時間の録音・再生が可能で,しかもEEテープの使用により性能も19cm/sで従来の38cm/sの
性能に匹敵し,さらに,半分のスピードの9.5cm/sでも19cm/sに匹敵する性能が実現されていま
した。
走行系は,2組のキャプスタンとピンチローラーがテープを確実にはさんで駆動するデュアルキャプス
タン方式が採用されていました。消去ヘッドはそれぞれのキャプスタンシャフトの外側の配置され,ルー
プ内テンションは常に一定に保ちつつ,テープスパンを短くしていました。こうした走行系により,テープ
走行は,フォワード,リバースとも安定し,ハードな操作にも正確に,迅速に応答でき,変調ノイズやフ
ラッター成分も大幅に低減されていました。
オープンリールデッキで重要なテープテンションをコントロールする左右のテンションアームには,フォト
インタラプタ(通過型光センサ)の働きにより,テンションサーボが正確に働き,走行がきわめて安定す
るようになっていました。この左右のテンションサーボは,テープの巻始めと巻終わり,正転・逆転・早
送り巻戻し動作のすべてに働き,テンションを自動的にサーボコントロールするものでした。また,フー
テージローラーの回転を検知してテンションサーボをコントロールしながら,早巻きの速度をセーブする
役目も持ち,テープの走行の安定化とともに,テープを保護する働きも果たしていました。
さらに,早巻きからプレイ操作への移行がスムーズに行えるモーションセンシング機構,テープを保護
する電磁ブレーキも搭載されていました。
ヘッドは,録音,再生,消去の各ヘッドを往復とも独立させた6ヘッド構成で,録音・再生用には新型の
高硬度パーマロイヘッドを採用し,経時変化の少ない,クリアな音質を実現していました。消去ヘッドに
は残留磁束密度の高いEEテープに対応したダブルギャップフェライトヘッドを採用していました。
また,高密度記録用磁性材を使用したEEテープに対応するため,新システムのバイアス発振回路とイ
コライザー回路を開発し,搭載していました。EEテープ用に対応したバイアス,録音・再生イコライザー
を設定した独立のテープセレクターポジションが搭載され,ヘッド,アンプ,発振器系統も含めた改良で
周波数特性の飛躍的な向上とダイナミックレンジの拡大,ノイズレベルの低減を実現していました。
編集のマスターとしても用いられるオープンリールデッキにおいて編集機構は重視されていたことから,
X-1000Rには,5桁LEDリニア電子カウンターと,カウンターと連動しマイコンでコントロールされる編
集メカニズムとしてCES(コンピュートマチック・エディット・システム)が搭載されていました。
5桁電子カウンターは,時・分・秒を”0.00.00”から”9.59.59”まで,規則正しく1秒ごとにフーテー
ジローラーの回転によって作動するもので,加算,減算のシステムは正転・逆転の回転方向を,フーテー
ジローラーが回転した瞬間にマイコンが判断して行うティアック独自の機構で,このリニア電子カウンター
によって,録音のトータル時間,曲の正確な時間測定,オートスペーサー(無信号録音)の正確な秒設定
録音スタート時のタイミング取りなどが可能となっていました。また,PROGRAMボタンを押すと,任意に
その曲の時間を測定し,正転・逆転に関係なくテープ走行により加算されるプログラムカウンターとしての
機能も持っていました。
STZ(Search to Zero)ボタンを押すと,テープのどこからでも,カウンター0表示まで,早送りか巻戻し
かマイコンが判断して距離的に近い方を選択してテープを戻すことができ,STC(Search to Cue)ボ
タンを押すと,CUEボタンを押した位置をマイコンに記憶させ,その位置まで早送り,巻戻しでテープを
送れるようになっていました。STCは,テープリフターでも行えるようになっており,リフターを上げてテー
プキューイングしながら止めたい地点でリフターを下ろすと,マイコンが記憶してSTCでサーチできるよう
になっていました。また,STZ,STCのサーチ中にPLAYボタンを押すとマイコンがそれを記憶し,サーチ
終了後に,すぐにゼロまたはCUE位置からプレイ動作に入るようになっていました。これらの動作を行う
際の停止機構は,目的位置に近付くと自動的に電磁ブレーキがモーターにかかり,一度スローダウン
(約38cm/s)しながらサーチして止まるようになっていました。
その他,1-3,4-2トラック選択キューが可能なキュー機構,エンドレス再生ができるオートリバース・
カウンターリピート機構,任意の区間を繰り返し再生するブロックリピート機構,無信号部分を作るREC
MUTE機構と,リニア電子カウンターと連動して,最大8秒間まで正確なタイム設定で無信号部分を作れ
るオートスペーサー,録音・再生の両方に働くピッチコントロール,ティアックのカセットデッキと同期させ
てカセットへ録音できるDUPLI SYNC機構などの機能が搭載されていました。
そして,X-1000Rの大きな特徴として,dbxの搭載がありました。ティアックは,1975年に,民生用の
オープンリールデッキとして初めてdbxを搭載したA-7400RXを発売したブランドで,その経験と技術
を生かしたものでした。アメリカ・マサチューセッツ州にあるdbx社が開発したdbxシステムは,対数圧
縮・伸張を1:2で行うことにより,100dB以上のダイナミックレンジを実現するデシリニア・ノイズリダク
ションシステムの通称で,非常に強力な効果を誇るものでした。dbxシステムにより,30dB~40dBの
ノイズリダクション効果,録音レベル飽和点の実効値7~10dB程度の上昇,伝送系のダイナミックレ
ンジの拡大が実現され,X-1000Rでは,100dBのSN比と115dBのダイナミックレンジを得ていまし
た。
以上のように,X-1000Rは,ティアックが持ち前の積み上げてきたオープンリールデッキの技術をベー
スに,新規格の高性能なEEテープに対応したより高い性能を実現しようとした画期的な1台でした。
録音機としての基本性能の高さからくる余裕のある音と長時間録音可能な性能は魅力あるものでした。
また,X-1000Rには,ブラックモデルのX-2000RBLも発売されました。X-1000Rではオプション
であったウッドケースが標準装備され,独特の精かんなデザインが特徴的でした。
TEAC X-1000RBL
THE dbx OPEN MASTER ¥210,000
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
The dbx Open Master
音体験・新次元,X-1000R到来。
音を大切にして,6時間ノンストップ。
アクティブな
サウンドライフへのチャレンジ。
dbx搭載,安定した走行メカニズム,
自在な編集機構,EEテープ対応。
◎クルーズドループデュアルキャプスタン方式
◎走行系を安定させるフルテンションサーボシステム
◎マイコンによる正確な編集メカニズムC.E.S.
●5桁LEDリニア電子カウンター。
●編集に便利なサーチトゥゼロ,サーチトゥキュー
●正確なタイム設定ができるオート・スペーサー。
●手軽にカセットへダビングできるDUPLI SYNC。
◎X-1000Rのその他の主要フィーチャー
●録音,再生,消去の各ヘッドを往復とも独立させた
本格的な6ヘッド構成。
●早巻きからプレイ操作への移行がスムーズな
モーションセンシング機構。
●1-3,4-2トラック選択キュー機構。
●録音ポーズからの立ち上がりがスムーズな
リアルタイムポーズ。
●録音・再生の両方に働くピッチコントロール。
●テープを保護する電磁ブレーキ。
●リバースタイマー録音ができる独立タイマースイッチ。
●エンドレス再生ができるオートリバース・カウンター
リピート機構。
●CMカットなどのためのREC MUTE機構。
●任意の区間を繰り返し再生するブロックリピート機構。
◎新時代対応,The dbx Open Master
◎原音を忠実に再現するためにdbx搭載
●’75年,世界初のdbx搭載オープンデッキ誕生。
●驚異的なノイズリダクション効果による透明感。
●dbxシステムは,高性能デッキでこそ活かせる。
◎EEテープに対応するための新機構
◎EEポジション・オープンリールシステム
●仕様●
トラック方式 | 4トラック・2チャンネルステレオ |
リール | 26形(10号),17形(7号) |
ヘッド構成 | 消去(フェライト)×2
録音(硬質パーマロイ)×2 再生(硬質パーマロイ)×2 |
モーター | キャプスタン用×1 リール用×2 |
駆動方式 | クローズドループデュアルキャプスタン |
テープ速さ(偏差) | 19cm/s,9.5cm/s |
ワウ・フラッター | 19cm/s:0.03%(WRMS) 9.5cm/s:0.04%(WRMS) |
周波数特性
(総合) |
19cm/s:30~34,000Hz 9.5cm/s:30~24,000Hz (40~22,000Hz±3dB -30VU) |
総合SN比 | 65dB(WTD,3%THDレベル)(dbx OUT) 100dB(WTD,3%THDレベル)(dbx IN) |
ダイナミックレンジ | 115dB(dbx IN,1kHz,ピークレベル) |
総合ひずみ率 | 0.8%(規準レベル) |
ステレオチャンネルセパレーション | 50dB(1kHz) |
入力端子 | マイク:0.25mV/-72dB
(適合インピーダンス200Ω以上) ライン:60mV(入力インピーダンス50kΩ) |
出力端子 | ライン:0.45V(入力インピーダンス10kΩ以上)
ヘッドホン:8Ω |
電源 | 100V AC 50/60Hz,88W |
外形寸法 | 432W×452H×262Dmm 474W×490H×262Dmm(X-1000RBL) |
※本ページに掲載したX-1000R,X-1000RBLの写真,仕様表等
は1981年9月のTEACのカタログより抜粋したもので,ティアック
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
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