Victor XD-Z1100
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥198,000
1987年に,ビクターが発売したDATデッキ。DATの第1世代機は,1987年に各社から一斉に発売
され,DAT(デジタル・オーディオ・テープ)がスタートしました。ビクターのDAT第1号機として発売され
たのがXD-Z1100でした。

1982年のCDのスタート以来,デジタル信号で録音するテープデッキの開発は,オーディオ界では熱
心に進められ,1983年には,DAT懇談会が設けられ,固定ヘッド,ロータリーヘッドそれぞれの方式
で,R-DAT(回転ヘッド方式DAT)とS-DAT(固定ヘッド方式DAT)の規格が策定されました。その中
で,ビデオデッキの技術が生かしやすい回転ヘッド方式がDATとして1987年に商品化されることとな
りました。
DATは,テープスピードが8.15mm/sと,カセットテープの約1/6という超低速ですが,ロータリーヘッ
ドの採用で,ヘッドとテープの相対速度は3.133m/sと大きく高めることができ,高密度の記録で,超
小型のDATカセットに,長時間のデジタル録音が可能となっていました。そして,そこには,ビクター自
慢のVHSビデオの技術が生かされていました。



高精度な駆動系には,ロータリードラムやセンダスト/フェライト複合ヘッドをミクロンオーダーまで仕上げ
て搭載していました。また,MR型DDモーター,ドラム用DDモーターなどをオリジナルに開発し,さらに
特に重要な回転ヘッド部は,2重構造によるデュアルメーカシャーシと特殊なフローティング機構を取り入
れて,テープパス部分の安定化と高精度化を図っていました。そして,テープの動特性を安定させるため
摩擦係数のきわめて低い多空孔構造のセラミック製のガイドポストを採用していました。
また,精密な回転ヘッドメカに直径40mmにも及ぶ大型フライホイールを採用し,ジッターを減少させて,
サーボ回路の信頼性を高めていました。さらに,強力なサーボ回路により,トレース誤差は基準値の半分
以下という高特性を達成していました。加えて,テープの巻き始めと巻き終わりで大きく異なるテープテン
ションを一定に保つために,テンションサーボ機構を搭載し,駆動系を常に安定させるとともに,テープの
耐久性も高めていました。

XD-Z1100は,通常の半分の速度でテープを走行させ,R120テープで4時間の録音・再生ができる長
時間モード(LPモード)を初搭載したDATデッキでした。DATは,標準モードでも,13.591ミクロンのト
ラックを±3ミクロン以内の誤差でのトレースが必要で,その半分になる長時間モードは,上述のような
高SN比,高出力のセンダスト/フェライト複合ヘッド,精密な回転ヘッドメカ,低回転でも強いトルクの得
られるMR型DDモーター,高度なサーボ回路などにより,高精度な長時間録音・再生を実現していまし
た。

こうした高精度なDATメカニズムに振動が与える影響を防ぐため,各所に無共振,無振動設計が徹底
されていました。低重心のソリッドベースや,高剛性重量級制振フロアシャーシ,3mmものアルミ製厚板
トップ&サイドカバーなどで,強靱な筐体とし,大型インシュレーターフットで,スピーカー等の外部振動を
防いでいました。

A/D変換部には,L・Rバランスが全く等しい1チップ構成の高速縦続積分型のD/Aを採用していました。
また,D/A変換部には,オーバーフローリミッター付の新開発DAT用デジタルフィルターとリニアリティ,
SN比にすぐれた1チップ逐次比較型D/Aコンバーターを搭載していました。

D/A間の干渉を徹底して排除するために,デジタル系&サーボ系とアナログ系を完全に独立させていま
した。しかも,オーディオ回路を1枚のガラスコンポジット基板にまとめ,さらにシールドボックスに収納し,
磁気対流や誘導ノイズの発生を抑え,マイコンやサーボ系のノイズからデリケートなオーディオ回路を
保護していました。
電源部にも,干渉を防ぐ設計が施され,電流変化が大きく,アンプ系を揺さぶり音質に大きな影響を与え
るサーボ電流部とオーディオ部,デジタル部の3電源をそれぞれ分離させ,電磁的な影響を排除していま
した。さらに,アナログ電源部には,低インピーダンス設計の±2電源を採用して,安定した電源供給を
実現していました。

入出力系は,アナログはRCAピン入出力が装備され,デジタルは,同軸タイプのデジタル入出力端子と
オプティカル(光伝送)方式の入出力端子を装備していました。
そして,デジタル入力をそのままD/A変換してアナログ系端子に出力できる,アフターサンプリングモニ
ターが装備されていました。アナログ入力時にも,A/D変換後ただちにD/A変換してモニターできるの
で,録音直前の音質の確認やレベルのチェックが可能となっていました。

DATデッキであるXD-Z1100には,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けら
れ,それを利用したデジタルならではの機能が実現されていました。スタートIDという信号を自動・手動
で打ち込むことにより,自在な頭出しが可能になっていました。①リモコンの10キーを使ってのダイレク
ト選曲,②99曲中,50曲の予約ができるランダムアクセスプログラム,③不要部分を自動的に飛ばし
て再生できるスキップ機能,④END情報またはテープ巻き終わりで自動停止しテープ頭まで巻き戻す
オートリワインド機能,⑤曲の頭の部分を約10秒ずつ再生するイントロスキャン,⑥END情報または
未録音部分を捜し出すブランクサーチ,⑦テープ全体/好みの曲/あらかじめ決めた2点間を繰り返し
再生するリピート機能,⑧録音中,自動的に曲間に無録音部分をつくることができるオートレックミュー
トなどが搭載されていました。
さらに,キャプスタン駆動による3倍速サーチ機能も搭載され,音声を聴きながら早送り・巻戻しができ
編集時,マニュアルによる頭出しがしやすくなっていました。

大型FL管を採用したディスプレイ部が搭載され,レベルメーターは,-40~0dBを16ドットで表示する
もので,フルビットまでの余裕をデジタル表示する機能も装備されていました。プログラムナンバー表示
が2桁,時間表示が5桁になっており,多彩な表示機能が搭載されていました。

以上のように,XD-Z1100は,ビクターのDATデッキの1号機として,各部にしっかりとした設計や作り
がなされていました。すぐれたビデオデッキの技術を生かしたメカニズム部の設計は,いかにもビクター
らしいものでした。第1世代機だけに,CDからのダイレクトなデジタル録音はできませんでしたが,しっか
りとコストのかかった作りは,1号機ならではと思えるものでした。そして,ビクターは,これ以降もDATに
おいてはいくつもの機種を展開し,存在感を見せていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ビクターのVHSとCDの先端技術が結合して
生まれた新しい系譜。ビクターの優れた血統と家系を受け継ぐ,DATだ。
だから名付けて「ビクター系DAT」

ビクター系DAT XD-Z1100 誕生

先進の長時間モード搭載。
高音質と使いやすさが結集した
ビクターのDATデッキ。

◎DATの心臓部,回転ヘッド関係にミク
 ロンオーダーの高精度を実現したファ
 イントラッキング・メカニズム。
◎テープの安定性を高める強力なサーボ
 回路。
◎連続4時間の録音・再生が可能な長
 時間モードを含む4モード対応。
◎音質重視設計のA/D・D/A変換部。
◎相互干渉を徹底排除するD/A分離
 2ボックス構造。
◎ピュア伝送に対応した光デジタル入
 出力。
◎無干渉を追求した3電源設計。
◎有害な振動をシャットアウトする厳重な
 防振構造。
◎他のシステムの操作性をさまたげない
 ガルウイング・ドア。
◎デジタル入力信号もすぐにチェックでき
 るアフターサンプリングモニター。
◎音声を聴きながら早送り・巻戻しがで
 きる3倍速サーチ。
◎デジタルレベルが,目で確認できる多
 機能メーター。
◎多彩な機能,情報が確認しやすい大
 型FL管採用のマルチモードディスプレ
 イ。
◎DATの便利な操作性をフルに発揮さ
 せるサブコードシステム。




●XD-Z1100の仕様●

形式  回転ヘッド方式デジタル・オーディオ・テープデッキ 
ヘッド  センダスト/フェライト複合ヘッド 
周波数特性  5~22,000Hz±0.5dB(標準モード)
5~14,500Hz±0.5dB(長時間モード) 
SN比  90dB(エンファシスOFF,JIS-A) 
ダイナミックレンジ  90dB(エンファシスOFF,JIS-A) 
ワウ・フラッター  測定限界以下 
全高調波ひずみ率  0.005%以下(1kHz) 
早送り,巻戻し時間  約50秒(R-120) 
高速サーチ時間  平均アクセスタイム約15秒(R-120) 
アナログ入出力端子  ライン・イン RCAピン×2
ライン・アウト RCA×2 
デジタル入出力端子  同軸入力端子 RCAピン×1
同軸出力端子 RCAピン×1
光入力端子×1
光出力端子×1 
ヘッドホン端子  φ6.3標準ジャック×1 
シンクロ端子  φ3.5ミニ×2 
電源  AC100V 50/60Hz 
消費電力  30W 
最大外形寸法  435W×110H×327Dmm 
重量  約9.0kg 
※本ページに掲載したXD-Z1100の写真,仕様表等は1987年3月の
 Victorの
カタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に著作
 権があります。したがっ
て,これらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられています
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