Victor XL-Z711
COMPACT DISC PLAYER ¥99,800
1988年にビクターが発売したCDプレーヤー。前年発売の
XL-Z701のモデルチェンジともいえるCDプレー
ヤーで,デザイン的には似たイメージを持ち,他社と比べてみても個性的とはいえないものでしたが,技術的
内容的には大幅に強化された1台となっていました。
XL-Z711の最大の特徴は,世界初の「K2インターフェイス」搭載機であったことでした。1987年,ビクター
はビクター音楽産業という関連企業をもつ強みを生かし,協力して「K2インターフェイス」技術を開発し,民生
用オーディオ機器のみならず,CDソフト等の制作現場における音質改善技術の開発に取り組んでいきました。
そして,この「K2インターフェイス」の技術は,同社の中でより展開と発展を見せていくことになりました。
「K2インターフェイス」は,デジタル信号の波形伝送において問題となる,ジッター(時間差歪)やリップル(波形
歪)などの外乱ノイズが波形に付加されることを防ぐために,波形伝送を符号伝送に変換して符号外成分だけ
を取り除くことで信号波形の純度を高める技術でした。具体的には,精密なマスタークロックに制御された検出
回路によって,デジタル入力信号の符号情報(0・1)だけを検出し,符号情報をもとに,前段と完全に分離した
別のブロック上に新たなデジタル波形を作り出すことにより,ジッターなどの影響を受けずに変換出力の精度を
高く保つことができるという技術でした。この「K2インターフェイス」により,次段のD/Aコンバーターへの信号や
光及び同軸のデジタル出力を高純度なものに保つことができるようになっていました。
こうした「K2インターフェイス」は,CDプレーヤーを構成するデジタル部からアナログ部への信号伝送途上に構
造的にも電気的にも独立したブロック基板として配置され,その内部は,デジタル部とアナログ部を3系統もの
フォトカプラによる光伝送と,独立電源供給により,電気的に完全にセパレートし,アナログ部に無相関成分を
完全に取り去ったデジタル符号を生成するようになっていました。このデジタル符号の生成は,具体的には,フォ
トカプラによって伝送されるデジタル信号を半導体の高速スイッチ動作により,信号だけを符号として検出し,そ
の情報をもとに新たなデジタル波形を瞬時に作り出すようになっていました。
XL-Z711のデジタルフィルターは,サンプリング周波数を44.1kHzから一気にその8倍の352.8kHzにま
でシフトアップする8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターを新たに搭載し,後段のローパスフィルターの
負担をより軽減し,位相特性,歪率が改善されていました。
D/Aコンバーターには,量子化レベルを18ビットにアップした「フルタイム18ビット・ディスクリート2+2D/Aコ
ンバーター」が搭載されていました。これは,18ビット情報を上位16ビットと下位2ビットに分離し,特に精度の
追求が難しい下位ビットをディスクリートDAC構成としたもので,高性能な16ビットDACと電流加算することで
直線性にすぐれた高い精度を実現していました。また,各チャンネル間の相互干渉や位相ズレを排するために
L・R独立構成として,より高精度のD/A変換を実現していました。
内部は,各回路の相互干渉を排除するために,デジタル/K2インターフェイス/アナログ回路をそれぞれ基
板ごと独立させ,分離構造がとられていました。デジタル−アナログ間を接続するK2インターフェイス回路内
には,上述のように3系統の光伝送方式が採用され,電気的・機械的に独立分離させていました。
メカニズム,回路を支えるシャーシベースの下には,さらにもう1枚の高剛性重量級シャーシが装備されていま
した。このシャーシーは,鉄と樹脂による内部損失の高い複合素材に,格子状の不均等パターンを採用し,振
動を効果的に分散,吸収するように工夫されたもので,両サイドまで支え込んだ構造により強固な筐体を形成
し,このシャーシもあいまって,XL-Z711の重量は12kgに達するものとなっていました。
また,駆動系への振動・音圧の影響を抑えるため,フット,メカベース,ピックアップベースそれぞれの支持部
にインシュレーターを配し,3重のフローティングメカニズム構造が採用されていました。
XL-Z711は,多機能ともいえる選曲機能を搭載していました。32曲プログラム選曲,ランダムプレイ,イントロ
スキャン,5モードのリピート機能(全曲/1曲/プログラム/ランダム/A−B)などが搭載されていました。また,
テープ等への録音に便利なエディティング機能がさらに進んだマルチディスクエディティング機能になっていまし
た。これは,6枚までのCDから選曲し,テープの長さに合わせてプログラムができる便利な機能でした。テープ
等の残量時間が少なくなってくると,残りの曲で時間的に収まらない曲が点滅し,そこで点滅していない好きな
曲番を指定できるようにもなっていました。さらに,現在MDデッキではよく見られる,ディスクタイトル,各曲ごと
の曲名やメッセージをインプットして文字表示するCDディスクメモリーという機能もはじめて搭載されていました。
出力端子は,アナログは固定と可変の2系統,デジタルは同軸と光の2系統が装備されていました。 アナログ
の可変出力には,モーター駆動できるボリュームが装備され,リモコンでの操作が可能となっていました。
以上のように,XL-Z711は,中級機としてしっかりと技術と物量が投入された充実した内容を持つ1台で,当
時のビクターのCDプレーヤーにかける熱意を感じさせる完成度の高いものとなっていました。ビクターらしい
音楽をバランスよく聴かせる音も魅力的で,使いやすい1台でした。