PIONEER
XLC-1850
QUARTZ PLL DIRECT DRIVE
STEREO TURNTABLE
¥90,000
1977年に,パイオニアが発売したアームレスプレーヤーシステム。パイオニアは,どちらかというとスピーカー
やアンプのイメージが強いブランドですが,回転系を持つ機器にも強さを持ち,国産初の本格的オーディオ用
プレーヤーシステムPL-41を発売したように,伝統的にアナログプレーヤーシステムにもバランスのとれた優
れた製品を作ってきたブランドでした。当時のパイオニアのプレーヤーではPLの型番が多かったのですが,
回転数制御にクォーツロックシステムを搭載したモデルにはXLの型番が付けられていました。その型番から
分かるように,XLC-1850は,同社初のクォーツロック搭載のアームレスプレーヤーシステムでした。
ターンテーブルは,直径32cmのアルミダイキャスト製で,慣性質量340kg-cm2の 大型のものが搭載されて
いました。そして,このターンテーブルを1/2回転で定速回転させるハイトルクのブラシレスDCサーボホール
モーターが搭載されていました。このモーターは,磁極切換(スイッチング)機構にホール素子を応用したもの
で,従来DCモーターで必要であったブラシ,コミュテーターを用いておらず,ブラシによる機械的スイッチング
に比べて低振動,高S/N比,高耐久性を実現していました。ホール素子は,固体(半導体薄膜)に電流を流し
固体表面に対し垂直に磁界を加えたとき、電流方向及び磁界方向それぞれに垂直な方向に電圧が発生する
という原理(ホール効果)を利用した磁気量を電気量に変換することができる素子で,現在でもCD−ROM、DV
Dドライブ用などの小型高性能モーター等に使用されている技術です。パイオニアは1969年に他社に先駆け
て真空蒸着による量産化技術を確立し,ホールモーターを開発,翌1970年には,このホール素子を用いた
ホールモーターの商品化を実現していました。
モーターの回転を制御するサーボ回路に,上述したようにこの時代ではまだ少なかったQuartz PLL(位相制
御方式)を採用していた点もXLC-1850のもう一つの大きな特徴でした。モーターの回転軸に取り付けられた
ジェネレーター(発電機)の出力パルスと基準信号発振器のパルスを比較し,位相差を検出することによって
モーターの回転数を制御するものですが,基準信号発振器に高い精度を持つ水晶発振器を用いることにより,
より高精度な制御が行われるようになっていました。
クォーツPLLによって制御を行う回路は,従来のものに
比べて10数倍の複雑な回路が必要となるため,IC化が図られ,駆動回路用にはバイポーラ型ICが,制御回
路用にはMOS型ICが採用され,高精度な制御が可能となっていました。
さらに,ストップボタンを押すと,制御回路がモーターを逆方向に回すトルクが発生するように切り替わり,急激
にブレーキをかける電子式クイックストップ機構が搭載されていました。また,クォーツPLLによって制御される
駆動回路は,正方向と逆方向に動作する両方向駆動回路で,モーターの回転が速くなったときにも電子式ブレ
ーキがかかり,素早く応答するようになっており,45rpm,33・1/3rpmの切換時にも,サーボがかかって素早
く定速回転に入れるようになっていました。
XLC-1850の外観上大きな特徴となっていたのが,操作パネル上の設けられたピッチインジケーターでした。
従来のストロボスコープに代わって設けられたもので,正確な回転数に対する偏差を(%)で直読できるように
アナログ表示のメーターとしたもので,回転数の微調整(±6%)のツマミを回す際に,メーターの指示角と同じ
感覚で回せるよう,微調整ボリュームには特殊な抵抗カーブが採用され使いやすくなっていました。また,クォー
ツロックONの際には,メーター表示が消え,「Quartz Lock」の文字が点灯され,正確な回転数に同期してい
ることを表示するようになっていました。
キャビネットは,厚さ4mm,重さ4.7kgのアルミダイキャスト製で,共振モードの解析によるハウリング防止構
造が採用されていました。キャビネットの周辺を24のリブを活用したボックス構造としたほか,底ブタにはQの
低い新素材を活用し,特殊ゴムとダイキャストを組み合わせたインシュレーターをダイキャスト製キャビネット本
体にダイレクトに取り付けるなどの対策により,ハウリングマージンが高められていました。
電源部には,リーケージフラックス(磁束漏れ)が少なく,レギュレーションにすぐれたカットコアトランスが採用さ
れ,キャビネットボードにフローティングマウントされ,音質への悪影響を抑えていました。
アームレスモデルであるXLC-1850には,ユニバーサル式のアーム取り付けボードが標準装備されていまし
た。メタリック仕上げが施された積層合板のボードで,穴あけ加工が容易で,様々なトーンアームが使用できる
ようになっていました。
以上のように,XLC-1850は,好みのトーンアームやカートリッジを選んで取り付けるオーディオファンのため
に作られた,パイオニア初のアームレスタイプのクォーツロックDDプレーヤーシステムで,各構成パーツや構
造にもしっかりした作りがなされた1台でした。メーカー製らしい完成度の高さも魅力的ではなかったかと思い
ます。