ZX-7の写真
Nakamichi ZX-7
Discrete Head Cassette Deck ¥188,000

1981年にナカミチが発売した3ヘッドデッキ。それまでの400,500,600等の3桁の型番のシリーズと
は異なる系列の型番をもって登場したZX-7は,マニュアルキャリブレーション機能を前面に押し出し,多く
のツマミをパネルに並べたハードな外観と優れた性能を持った高性能デッキでした。

ZX-7の最大の特徴は,前述のように高度なマニュアルキャリブレーション機能を持つことでした。上級機
の1000ZXL,700ZXLなどに搭載されていたマイコンによるチューニングシステムA.B.L.E(エイブル)
をマニュアル操作に置き換えたとでもいえそうなシステムでした。レベルメーターを見ながら,録音ヘッドの
アジマス,録音/再生レベル(感度),録音バイアスをテープごとにシビアに調整でき,テープの性能を存
分に引き出すことができるようになっていました。また,そのスイッチやツマミを操作する感覚は,いかにも
デッキを自分でコントロールしているという,デッキマニアをも喜ばせるものでした。

キャリブレーション操作

メカニズム系は,ナカミチの上級機の技術を受け継ぐ高性能なものでした。テープの走行はフラッター周期の
重なりをさけるためにテイクアップ側とサプライ側のキャプスタンの直径及びフライホイルの直径を変えて回転
ムラの低減と変調ノイズの改善を果たしたナカミチ伝統の「周波数分散型ダブルキャプスタン」によって行わ
れ,ナカミチ独自のパッドリフターがカセットハーフのテープパッドを押し下げて,2つのキャプスタンの間には
ヘッド以外は存在しない状態におき,純粋に2組のピンチローラーとキャプスタンがテープ走行とヘッドタッチ
をコントロールする仕組みになっていました。ナカミチは,あのパッドの微少なでこぼこと押し上げているバネ
の共振も音を悪くすると考えていたようです。(すごいですねここまで考え尽くしているとは・・・。)
さらに,メカシャーシをナカミチ独自の「共振制動型シャーシ」としていました。これは,シャーシの材料として
鉄に比べて減衰特性の大きいアルミニウムアロイを使用し,樹脂をアウトサートして微振動を吸収するという
もので,すぐれた制振性能を持っていました。また,メカの駆動ギヤ等あえて樹脂製としていることも振動の
低減のためでした。
また,メカニズムの操作をマイクロプロセッサー・コントロールとモーター駆動による「サイレントメカニズム」と
していました。この方式は,通常他社のデッキで使われていたプランジャーメカに比べて,@操作音が静か
Aテープやメカへのダメージが少ない,B温度上昇が少ない,C消費電力が少ない,など数多くのメリットを
持っていたということです。また,操作する立場からは,その俊敏で確実なレスポンスも特筆できるものでした。

ZX-7のテープ走行
ZX-7のヘッド周り

ヘッド部は,ナカミチのお家芸である,完全ディスクリート3ヘッドを採用し(コンビネーション3ヘッドではなく,
録音ヘッドと再生ヘッドが完全に別になっている)自社開発のクリスタロイヘッドにより優れた録音・再生性
能を誇りました。このヘッドは非常に高性能で,磁気的になかなか飽和せず,そのためか,録音レベルを高
く取ってもなかなか歪みませんでした。ナカミチは,ヘッドの材料を選ぶ際に,耐摩耗性より磁気特性を最重
視したということが,この性能につながっているのでしょう。といいつつも耐摩耗時間も1万時間を保証してい
ましたが・・。しかもこのヘッドは,なんとあの1000ZXLとも共通というのが何か凄みを感じます。再生ヘッド
は0.6ミクロンの超ナローギャップで,20kHzを越える高域性能を可能にし,録音ヘッドは3.5ミクロンの
ギャップになっていました。

優れたヘッドを生かすために,単体プリアンプ並に高性能な録音・再生アンプをコンデンサーを介さずに直結
していました。録音イコライザー回路,再生イコライザー回路,及びモニターアンプには,電解コンデンサーに
ネガティブフィードバックをかけるダブルNF回路を採用し,コンデンサーによって発生する歪みを低く抑えると
ともに,直流安定化を図っていました。
ノイズリダクションにはドルビーBタイプとCタイプを搭載していました。チューニングを正確に行うことにより,
ノイズリダクションによる音質の変化や劣化を最小限に抑えることができ,かつ72dB以上(400Hz,メタル)
の高SN比を実現していました。

以上のように,ZX-7はナカミチが伝統の技術やノウハウを傾注して,アニュアル操作の楽しさとテープデッ
キとしての高性能を実現したカセットデッキでした。ブラックのパネルに赤のLEDによる表示が,メカっぽさを
より強調したかっこよさも実現していました。実は,私自身が自分でアルバイトしたお金で自力で購入した初
めてのオーディオ機器がこのZX-7でした。その高性能と音の良さに,オーディオのおもしろさ,テープデッキ
のすばらしさを再認識し,ずるずるとナカミチファンへと引き込まれていくことになったのでした。非常に個人的
になってしまいますが,私自身にとって忘れ得ぬ名機の1つです。
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


ZX-7 Discrete Head Cassette Deck
多彩なキャリブレーション機能による
シビアな調整で,テープ性能の限界を引き出す,
テープマニアに贈る
高性能カセットデッキです。

Calibration/Operation
テープに最適なアジマス,レベル,バイアスの
マニュアル調整により,21kHzまでのフラットな特性をクリアー。
そして,マイクロプロセッサー制御の軽快な
テープオペレーションを実現しています。

Dolby B-C Type NR
2kHz〜8kHzの高域で
20dBのノイズ低減効果を実現する
最新のドルビーCタイプNRと,
従来のBタイプNRを装備しています。

Mechanism
安定したテープ走行と,不要な共振を抑え
音を汚すフラッター成分の除去をめざした
トランスポート系。そして,
快適な操作感を生むサイレントメカニズム。

Head/Amplifier/Display
ディスクリート3ヘッド構成,
高忠実度アンプの搭載により実現した
超高域再生の世界と,
LEDによる多彩なディジタルディスプレイ。


ZX-9の写真

Nakamichi ZX-9
Discrete Head Cassette Deck ¥228,000

翌年の1982年に上級機のZX-9が発売されました。ZX-7をベースにチューンナップを行ったより強力なデッ
キとして登場し,その高性能ぶりからZX-7の人気をしのぐほどになりました。

最大の改良点は,ナカミチのデッキ初のダイレクト・ドライブの採用でした。それまで,ナカミチのデッキは最上
級機の1000ZXLをはじめとしてすべてベルトドライブでした。これは,ダイレクト・ドライブ方式が,モーターの
フラッター成分をそのまま伝えてしまい,音質を劣化させることをナカミチが嫌ったためでした。
ダイレクトドライブターンテーブルの
TX-1000で開発された「スーパーリニアトルクD・Dモーター」を搭載する
ことにより,フラッターの問題を解消し,ナカミチ初のデッキへのダイレクト・ドライブ採用でした。このモーターは
ローターマグネットを均一に着磁せず,星形に着磁することで,コイルに流れる電流の変化がサインウエーブ
状になるようにした特殊な構造で,これにより,ワウ・フラッターのうち従来のDDモーターで問題になっていたフ
ラッター成分(細かな周期の回転変動)が抑えられ,コギングやトルクムラのきわめて少ないS/N比の高いス
ムーズな回転が得られ,ワウ・フラッター0.022%(WRMS)を実現していました。このモーターは,同じ年に
発売されたあのDRAGONにも搭載され,その高性能ぶりを発揮することになりました。

ZX-9のモーターZX-9のモーターの構造

そのほか,ダイレクトドライブ化に伴い,メカニズムの改良やアンプ部の改良も行われていました。スパーリニアトル
クモーターの搭載をはじめとする強化で,音の方は,高域を中心に,より滑らかさと繊細さが増したように思われま
した。(基本的にはきわめて色づけの少ない音なのですが・・・。)パネル面の文字も白から金色になり,ただ者でな
いことを示してように思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



幸か不幸か,耳が肥えてしまって,
いつも決定的にいい音じゃないと耐えられない。
しかし,そのための労を惜しむどころか,
逆に楽しんでしまう。

ZX-9は,そんな人たちのためのデッキです。



 
 

●主な規格●


 
ZX-7
ZX-9
トラック形式 4トラック・2チャンネル・ステレオ方式
ヘッド 3(消去×1,録音×1,再生×1)
モーター
(テープ駆動用)
PLLサーボモーター(キャプスタン用)×1
DCモーター(リール用)×1
FGサーボ,ブラシレス・スロットレス・コアレス/
スーパーリニアトルクDDモーター(キャプスタン用)×1
DCモーター(リール用)×1
電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大 40W 最大 45W
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター 0.04%以下 Wtd rms,0.08%以下 Wtd Peak 0.022%以下 Wtd rms,0.045%以下 Wtd Peak
周波数特性 20Hz〜21,000Hz±3dB(録音レベル−20dB,ZXテープ)
20Hz〜20,000Hz±3dB(録音レベル−20dB,SXテ,EXUテープ)
総合S/N比 ドルビーCタイプNR on(70μs,ZXテープ)
72dB以上(400Hz,3%THD,IHF A-WtD rms)
ドルビーBタイプNR on(70μs,ZXテープ)
66dB以上(400Hz,3%THD,IHF A-WtD rms)
総合歪率 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXUテープ)
消去率 60dB以上(100Hz,0dB)
チャンネルセパレーション 37dB以上(1kHz,0dB)
クロストーク 60dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
入力(ライン) 50mV 50kΩ 50mV 70kΩ
出力 (ライン)1V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)2.2kΩ
(ヘッドホン)45mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)8Ω
ブラックボックスシリーズ
専用DC出力端子
±10V,125mA最大
大きさ 450W×135H×300Dmm
重さ 約9.5kg
※本ページに掲載したZX-7,ZX-9の写真,仕様表等は1981年11月,
 1982年7月のNakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式
 会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。  
    
 

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