PX-3の写真
YAMAHA PX-3
NATURAL SOUND LINEAR TRACKING PLAYER
                            ¥135,000

1981年にヤマハが発売したリニアトラッキングプレーヤーシステム。ヤマハは,1977年に超弩級機PX-1,1979年に
PX-2とリニアトラッキングプレーヤーの秀作を発表し,技術を蓄積していました。それらの技術を受け継ぎ,洗練された実
用性の高いプレーヤーとして完成したのがこのPX-3でした。ヤマハは,これ以降リニアトラッキングプレーヤーを出してお
らず,同社最後の本格的リニアトラッキングプレーヤーとしても記憶に残る1台だったと思います。

PX-3の最大の特徴はリニアトラッキングシステムでしたが,アームの駆動は非接触・光学式トラッキングエラーセンサーを
用いたベルトドライブによるものでした。アームの回転がわずかでも起こるとCd Sに不平衡電圧が発生し,サーボ回路によ
りコントロールされたDCコアレスサーボモーターがアームベースを駆動するというものでした。このサーボ回路には,±0.5
mmの不感帯が設けられ,レコードの偏芯が0.5mm以下ならアームベースは前進運動をするようになっており,無駄なアー
ムベースの動きを抑えていました。特性的に見ると,針先の偏位置が±0.5mm,アームの角度誤差がが0.15°以下とい
う高調波歪がほとんど発生しない範囲に抑えられるようにアームベースがコントロールされるようになっていました。
このようなリニアトラッキングシステムのトレース能力を支えるため,(1)アームダウン時のみにサーボが働く,(2)ディスクの
導出溝の粗いピッチに対して3倍の余裕をもって対応できるサーボモーター,(3)アームベース駆動部の雑音や振動を抑制
するために施工されている,徹底的な防振設計,など,上級機のPX-2と同等の設計がなされていました。

PX-3のリニアトラッキングシステム

トーンアームには,ヤマハオリジナルの無共振構造をうたったARS(アンチ・レゾナンス)アームを搭載していました。この
アームは(1)剛性の高い材料を用いる,(2)部品の加工・組立精度を高める,といった基本の部分をしっかりとした上に
(3)原理的に共振し難い形状とするということで,独自の形状と構造を持つアームとしていました。
そのために,オフセット角もフィンガーフックもない左右対称構造としてパイプの振れや振動を発生しにくくするし,ピボット
間のスパンを超ワイドにしてガタを減らすようにしていました。そして,パイプホルダ部を30mm前方まで二重構造として剛
性を高め,水平トラッキングエラーのないことを生かして190mmのショートアームとしてさらに比剛性を高めていました。ま
た,バランスウェイトを大型の横型矩形として支点に近づけ,回転軸まわりの慣性モーメントを高くとり,振れ振動を抑えて
いました。アームの低域共振をカットオフする周波数(fo)を低周波と音楽信号のクロスオーバー周波数にあたる12Hzに
設定するためにトーンアームの実効質量を最適な17gとして。多くのカートリッジに高いマッチングを示すように工夫もされ
ていました。

PX-3のARSアーム

このアームには,純アルミ鍛造のヘッドシェルが付き,ローインピーダンスのPUコードNEGLEX#2496が使用されてい
ました。リード線は23芯と26芯の二重円筒構造として往復直流抵抗を1Ω以下としていました。針圧印加には,一般的
なカウンターリング方式ではなく,上級機と同じスライディングウェイト方式を採用し,針圧調整を細かく正確にできるように
していました。

PX-3のモーターは,原理的にゴギングがなく滑らかな回転を実現するコアレスタイプで,非接触方式のホール素子を採
用したDC4相8極コアレスホールモーターを搭載していました。全周積分型FG(周波数発電機)によりターンテーブルの
回転は高精度に検出され,クォーツ制御により回転数偏差±0.002%という水晶レベルの高精度で安定した回転を実
現していました。ターンテーブルは1.6kgの重量を持つ重量級アルミダイカスト製ターンテーブルで,慣性モーメント210
kg・cm2によりピッチの細かい負荷変動を抑え,ワウ・フラッター0.015%(FG直読)という安定した回転のターンテーブル
となっていました。

PX-3の上面

PX-3はフルオートプレーヤーで,ダストカバーの形状の工夫とあわせ,ダストカバーを閉じた状態でもボタン操作によりトーン
アームの操作が可能なデザインとなっていました。基本的には,上級機のPX-2と同じヤマハ製ロジックLSI(YM-294)を中
心とした純電子的操作系を受け継いでいました。17cm/30cmというレコードサイズ選択のボタンを押すだけのワンタッチで
自動的に1曲目の先頭にリードインするPXシリーズ共通の操作性を持ち,オートリターン時も含めアームの位置検出は,非接
触式の3ビットフォトセンサにより行われ,フルオート動作による音質への悪影響をなくしていました。ダストカバーを閉じた状態
でのボタンによるマニュアル操作も可能となっていて,2段階のストロークを持つボタンの操作により,アーム位置の移動速度
を2段階に切り換えられるようになっていました。アームのアップダウン時にはアームの左右の動きが自動的にロックされ,オ
イルダンプによりアーム先端を安全に上下動させるプランジャーに信号が送られ安全にアップダウンが行われるようになって
いました。

キャビネットは,高剛性かつ内部損失が大きい素材であるBMC(Bulk Moliding Compound)製で直線と矩形による,ブ
ラックとシルバーを基調にした機能的な美しいデザインでした。ダストカバーは前面操作を実現するために形状を工夫した4mm
厚1.1kgのアクリル製で,独特のデザインを持つ美しいキャビネットとマッチしていました。インシュレーターは高域の防振効
果の高いゴムと低域の防振効果の高いスプリングを組み合わせた複合型で,外部振動を効果的にカットしていました。

以上のように,PX-3は機能的で美しいデザインと優れた操作性,基本性能を持ったリニアトラッキングプレーヤーでした。これ
以降ヤマハもこのような本格的なリニアトラッキングプレーヤーを出しておらず,ヤマハ最後のリニアトラッキングプレーヤーの
名機として記憶に残っている1台です。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



無共振化を目指した新開発ARSアームによる
リニアトラッキング方式と0.015%という実測ワウ・フラッタに
代表される高い完成度の回転系を操作性豊かに結合した
電子制御フルオートリニアトラッキングプレーヤー

◎リニアトラッキングシステム
◎無共振構造のYAMAHAオリジナルARS
 (アンチレゾナンスストレート)アーム
 ◆ワイドスパンサポート
 ◆大型バランスウェイト
 ◆二重構造パイプホルダー
 ◆ショートアーム
◎最適実効質量(17g)
◎スライディングウェイト方式針圧印加
◎±4mmのアーム高さ調整可能
◎純アルミ鍛造ヘッドシェル
◎ローインピーダンスPUコード:NEGLEX#2496採用
◎DC4相8極コアレスホールモーター
◎全周積分型FG(周波数発電機)
◎クォーツ制御
◎重量級ターンテーブル
◎ワンタッチ式・2サイズ・電子制御フルオートシステム
◎LSIコントロールのアップダウン,オートリターン,
 オート−リピート,オートカット
◎フロントオペレーション,マニュアルアップダウンと,
 2スピードマニュアル・アームアクセス
◎人間工学重視のパネルレイアウトおよびフォルム
◎キャビネットはハウリングに強い高比重BMC
 (Bulk Molding Compound)製
 


●PX-3の主な規格●

●トーンアーム●


アーム形式 リニアトラッキング・ストレートアーム
サーボ形式 光電式トラッキングセンサ+コアレスサーボモーター+ベルトドライブ
全長/実効長 236mm/190mm
針圧印加方式 スタティックバランス・スライディングウェイト式
0〜2.5g(0.1gステップ) 
アーム実効質量 針圧比例型
 針圧1.5g(カートリッジ重量は含まず)17g
適用カートリッジ重量範囲                5〜11g
サブウェイト使用時 10〜16g 
水平トラッキングエラー 最大±0.15°(針先偏位換算±0.5mm)
アーム初動感度 水平 10mg  垂直 10mg
アームリフタ オイルダンプ式(プランジャードライブ)
アーム高さ調整 ±4mm
ヘッドシェル 純アルミ鍛造・重量8.0g
EIA規格プラグイン型・金メッキ付
PUコード NEGLEX24962重円筒コード
 容量130pF・往復抵抗1Ω

●回転系●


ドライブ方式 ダイレクトドライブ
サーボ方式 クォーツ制御
モーター DC4相8極コアレスホールモーター
FG 全周積分型
回転数 2スピード(331/3rpm,45rpm)
ピッチインジケーター LEDロックインジケーター
ターンテーブル 直径・材質    30cm・アルミダイキャスト
重量        1.6kg(ゴムシートを含む)
慣性モーメント 210kg・cm2(ゴムシートを含む)  

●フルオートマティックコントロール●


制御方式 YAMAHAロジックLSI(YM-294)制御
フルオート機能 2サイズ(17cm/30vm)オートリードイン,オートリターン,オートリピート(クイックリピート)
オートカット,オートアップ(POWER OFF時),フェイルセーフ
マニュアル機能 2スピード(スロー,ファースト9アーム送り,アームのアップダウン

●エンクロージャー●


キャビネット BMC(Bulk Moliding Compound)
操作形式 フロントオペレーション
ダストカバー 4mm厚アクリル製・1.1kg
ヒンジ 着脱型
インシュレーター スプリング・ゴム複合型

●総合●


SN比 77dB(DIN−B IEC98A WTD)
W&F 0.015% WRMS(FGダイレクト)
0.025% WRMS(テストレコード法)
定格電源電圧・周波数 100V,50/60Hz
定格消費電力 25W
寸法・重量 469W×149H×428Dmm・12kg
※本ページに掲載したPX-3の写真・仕様表等は1981年5月のYAMAHAの
カタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられ
ていますので,ご注意ください。
 
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