1000ZXLの写真
Nakamichi 1000ZXL
Computing Cassete Deck ¥550,000
言わすと知れた,ナカミチの最高級カセットデッキです。おそらく,世界のカセットデッキの歴史の中でも最高級機
と言えるのではないでしょうか。ナカミチが1973年,「カセットテープでここまでの性能が・・」と世界をあっと言わ
せたモデル1000は7年間世界のカセットデッキのリファレンスとして君臨し続けました。その第2世代モデルとし
て1980年に登場したのが(1000Uを2世代目と見ると3世代目?)この1000ZXLでした。           

ヘッド部は,ナカミチのお家芸である,完全ディスクリート3ヘッドを採用し(コンビネーション3ヘッドではなく,録音
ヘッドと再生ヘッドが完全に別になっている)自社開発のクリスタロイヘッドにより優れた録音・再生性能を誇りまし
た。このヘッドは非常に高性能で,磁気的になかなか飽和せず,そのためか,ナカミチのデッキは録音レベルを高
く取ってもなかなか歪みませんでした。

メカニズム系は,これもナカミチのデッキテクノロジーに一貫した周波数分散型ダブルキャプスタン(キャプスタンの
直径が左右で異なっている)を採用し,特にフラッターの低減を図っていました。カセットテープについているテープ
をヘッドに押しつけるためのパッドの影響も無視できないとナカミチは考え(確かにミクロンオーダーではあのパッド
はでこぼこでしょう。)再生ヘッドの脇にパッドを押し上げる金具(パッドリフターという)をつけて,純粋にメカニズム
の精度を上げて,テープの安定したヘッドタッチを実現していました。このパッドリフターのような考え方は,後に,
ソニーがTC−KA7ESでヘッドにわずかな出っ張りを設けたもの(パッド・プレッシャー・リダクションと言っていた)
しか例はなかったと思います。このように,きわめて独創的で高度なメカニズム系を持っていました。これは,ナカ
ミチのデッキに共通する特徴だと思います。

ナカミチは,このデッキでコンピューター技術を大幅に導入し,高度な自動化テクノロジーを実現していました。その
 一つがA.B.L.E(エイブル)と呼ぶ,自動化されたチューニングシステムでした。録音ヘッドのアジマス,録音バイ
アス,録音再生レベル,録音イコライザーをすべて自動的にテープの特性に合わせてくれるシステムで,これにより
優れた基本性能とあわせ,テープの特性を限界まで引き出すことができました。そのため,本機で録音したテープは
他のカセットデッキでは性能が追いつかず,再生しきれないという困った現象まで起こったほどです。

2つ目は,RAMM(ラム)と呼ぶ,自動選曲システムでした。通常の自動頭出しができる選曲システムは,曲間の一
定の長さ以上の無音部を検出して頭出しを行いますが,RAMMシステムは,テープに音には影響を与えないコード
信号を記録し,その信号を検出して行うものでした。そのため,曲の途中でも頭出しのポイントが作れ,曲の一部をリ
ピートするなどということもできました。そして,15曲までのランダムアクセスを可能にしており,スピードではかない
ませんが,カセットデッキでありながら,CD並の,ランダムアクセス機能を持っていました。

その他の特徴として,「Parametric Erasure(パラメトリック・イレーシュアー)」がありました。これは,バイアス発振
器にクォーツを用いて安定したバイアス電流供給を行うと共に,消去には,このバイアス周波数を1/2に分周して用い
ているというもので,バイアス周波数は,通常の半分の52.5kHzでした。これにより,消去ヘッドのエディカレント(過
電流)・ロスが減少し,消去効率,特に低域における消去率が著しく高くなっているということでした。最近の新しいデ
ッキがバイアス周波数を高くとろうとする傾向と逆であることはおもしろいことです。

ノイズリダクションはドルビーBタイプを標準搭載しているだけですが,外部ノイズリダクションの端子があり,ドルビー
Cなどのノイズリダクションも内蔵しているのと同様な使い勝手で使うことができました。しかし,ノイズリダクションに
頼らずとも十分な性能を持っていましたが。

この1000ZXLが何年間作られ続けたかは,はっきりしませんが,(手元に資料がないので・・)とにかく,これを超え
るカセットデッキはついに現れなかったのは確かです。文字通り,カセットデッキの最高峰でした。

                      

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



新しい「世界最高」を主張します。
電子テクノロジーを満載して,
1000ZXL新登場。

 ◎A.B.L.E(エイブル)
  (Azimath,Bias,Level,Equalizer)
  あらゆるテープのベストコンディションに
  自動調整。18〜25,000Hz±3dB
  の驚異的なレスポンスを実現します。
 ◎RAMM
  (Random Access Music Memory)
  曲中の1パートを呼び出すことも可能。
  コード化は15のポイントで,メモリー
  再生プログラムは30曲までできます。
 ◎Parametric Erasure(パラメトリック イレーシュアー)
  低域における消去効率を
  飛躍的に高めた
  パラメトリック消去方式。
 ◎Diffused Resonance
   Transport(ディフューズド レゾナンス トランスポート)
  共振拡散型トランスポート,
  周波数分散型ダブルキャプスタンを
  採用しました。
 ◎Discrete 3Head
  Nakamichi独自のクリスタロイ・ヘッド
  による磨きに磨いた独立3ヘッド。
 ◎Digital Tape Counter
  ”−999”から”999”までをデジタル表示,
  正確で便利なテープカウンター。
  


 
●Specifications
周波数特性(A.B.L.E.) 20Hz〜20kHz±0.75dB 
18Hz〜25kHz±3dB 
   EX,EXU(TYPET),SX(TYPEU),ZX(TYPEW)共通
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター(WTD RMS) 0.04%以下Wrms 0.08%WPeak
SN比(IHF A−WTD RMS) BタイプNR ON  66dB以上 (3%THD) 60dB以上(0dB)
CタイプNR ON  72dB以上 
(別売NR−100使用)
歪率 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXUテープ)
消去率 60dB以上(100Hz,+10dB)
チャンネル・セパレーション 37dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
入力 ライン 50mV/50kΩ
マイクロホン 0.2mV/10kΩ
ノイズリダクション 100mV/50kΩ 
出力 ライン 1V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)
ヘッドホン 45mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)
ノイズリダクション 100mV/2.2kΩ
電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大60W
寸法 527(巾)×258(高さ)×322(奥行)mm
重量 19kg
●Features 
ヘッド数
モーター数
キャプスタンモーター方式 PLLサーボ 
周波数分散型ダブルキャプスタン
ピークレベルメーター FL(デジタル蛍光表示)−40〜+10dB
オートキャリブレーション機能 アジマス,バイアス,レベル,イコライザー
テストトーン 400Hz
自動選曲機能 RAMM(コードメモリーによる15曲ランダム選曲)
フィルター MPX サブソニック
テープカウンター LED 4桁
その他の付属機能 録音再生同時モニター,DC録音アンプ,ダブルNF回路,ドルビーNR Bタイプ 
レックミュート,タイマー録再機能,イージーキューイング,ピッチコントロール 
出力レベルボリューム,メモリーストップ,3ポイントマイク入力
         

1000ZXL-limitedの写真
Nakamichi 1000ZXL limited
            
なお,この1000ZXLには受注生産の限定モデル,1000ZXLリミテッドが1981年に登場しました。これは,カセッ
トデッキの最高峰1000ZXLをベースにさらに各部を見直して強化したスペシャルモデルでした。
メカニズムシャーシは,1000ZXLでは,もともと大きな振動減衰特性を持つアルミシャーシを用いていましたが,こ
れにさらにブラックアルマイト処理を施して,異質な層でサンドイッチすることで振動減衰特性をより高めるとともに,
耐食性を高めていました。フライホイールは,ブラス丸棒から削り出された特性のものが使用され,高い精度とワウフ
ラッター特性をさらに高めていました。

ブラックアルマイト処理されたメカニズム部特製フライホイール

録音ヘッド,再生ヘッドは選別品が使用され,ヘッドのシールドケースには純金メッキが施され,表面に停滞する渦電
流を減少させ,外来ノイズをシャットアウトしてS/N比の向上と低域ノイズによる変調を抑えていました。また,全体の
骨格となっているメインシャーシにもブラッククロマイト処理が施され,耐食性を高めて耐久性を高めていました。その他
電源部のヒートシンクにも,熱抵抗,接触抵抗,電気抵抗などに優れた銅板に金メッキ処理が施されたものが用いられ
回路のコネクター類もすべて金メッキ処理が施されていました。

金メッキシールドケースに収められたヘッド1000ZXLl-imitedの内部

外部接続のドルビーCタイプNRプロセッサーNR-100も標準装備されていました。また,フロントパネルは金メッキ仕上
げが行われ,天然木付き板を用いたローズウッド仕上げのキャビネットは風格をいっそう高めていました。そして,フロン
トパネルにはオーナーの名前が刻まれるというまさに限定生産の高級品でした。音の方もベースの1000ZXLより一段
とキメの細かい美しいものになっていました。価格の方も850,000円と超弩級でした。もし,今でも使われている方が
いれば,感想などをお聞きしたいものです。   



 
 
 
※本ページに掲載した1000ZXLの写真,仕様表等は1980年8月のNakamichiのカタ
 ログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
 真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

※本ページの作成にあたり,蒼井様より資料のご提供をいただきました。
 本当にありがとうございました。 
    
 

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