A-150の写真
PIONEER A-150
STEREO AMPLFIER ¥99,800

1983年に,パイオニアが発売したプリメインアンプ。1979年のA-900で 可変バイアスによる「ノンスイッ
チング・アンプ」を開発したパイオニアが,新たに電源部切り換え方式を採用し,作り上げたプリメインアン
プの新シリーズの最上級機A-200に次ぐ弟機で,A-200とは,また違った音の個性があり,新シリーズ
の主力モデルとなっていきました。

A-150の最大の特徴は,電源部切り換えによる「ダイナミックパワーサプライ方式」の搭載でした。これは
低電圧部(VL)と高電圧部(VH)の2系統の電源供給部から構成され,通常信号レベルでは低電圧部(VL)
でドライブし,大入力時には高電圧部(VH)でドライブするという高効率の電源回路でした。切り 換えは高
速の半導体スイッチで行われるため,信号に対する遅れもなく,大入力に対しても追従できるという電源
回路でした。これにより,出力段での損失は大幅に減少し,150W+150Wというクラス最大級の大出力
を実現していました。
「ダイナミックパワーサプライ方式」を支える電源部は,強力なものが搭載されていました。電源トランスに
は,346VAの大型のEIトランスが搭載され,出力段の電解コンデンサーは,トータルで44,000μFの
オーディオ用電解コンデンサーが搭載され,電源インピーダンスが低減されたゆとりある電源部となってい
ました。

出力段には,A-900以来の「ノンスイッチング回路」が搭載され,スイッチング歪みゼロを実現していました。
パイオニアの疑似A級動作アンプである「ノンスイッチングアンプ」は,ハイスピード・バイアスサーボ回路に
より入力信号の強弱に応じて,終段トランジスターのバイアス電流をコントロールし,トランジスターを常に動
作領域で動作させるもので,プッシュプル動作のアンプにつきもののトランジスターのスイッチング動作をし
ないというものでした。プッシュプル回路の+側,−側の両トランジスターが常にONの状態にあり,A級動
作と同じく原理的にスイッチング動作が行われず,また,入力信号に応じてバイアス電流が変化するため,
純A級動作のアンプに比べて電力効率が良く,比較的容易に大出力が得られるという特徴がありました。
この出力段により,歪み感が少なくしっかりした音が実現されていました。
出力段のヒートシンクは,上級のA-200がフィン型のものを搭載していたのに対し,強度が得られ共振が
抑えられるダイカスト製のチムニー型が採用され,フィンの高さもランダムに配置した形状で,共振モード
の分散が図られていました。

チムニー型ラジエーターMCトランス

イコライザー部は,ハイゲインイコライザーにMCトランスを搭載するという変わった構成となっていました。
ハイゲインイコライザーには,回路がシンプルである利点があるが,MMに比較してMC使用時には,NF
が減るため,特性が劣化しやすいという欠点があります。MC昇圧トランスは,SN比もよく電源の影響を
受けないため特性も安定しているが,昇圧比を上げるとレンジが狭くなり,音が甘くなる恐れがあります。
それぞれに利点と欠点があるため,これを克服するには,通常,非常に高価なパーツを使う必要があるた
め,コストが上がってしまうことになってしまいます。
そこで,A-150では,標準的なトランスより巻き線比を小さくして昇圧比を減らした,高価でなくても特性の
すぐれたトランスを搭載し,昇圧比の足りない部分を,イコライザーのゲインを上げたハイゲインイコライザー
で補うという,ハイブリッド方式が取られていました。MCトランスの昇圧比を従来の半分に減らすことで巻き
線数が少ないため,インダクタンス及び線間容量が低減され,高域特性が改善され,低域においてもトラン
ス出力電圧が小さくてすみ,アンプの入力マージンが大きくなり過大入力にも強くなっていました。位相特性
も改善され,直流抵抗が少なくクセの少ない音質が実現されていました。

パーツの面でも,検討,厳選されたものが使用されていました。非磁性リード線使用の半導体,黄銅キャッ
プや銅リード品を採用した抵抗,銅リード線使用のコンデンサーなどが主要な部分に使用されていました。
ACプラグには,非磁性体のニッケリン無電解メッキが施され,主要配線材には無酸素銅線が使用されて
いました。ヒューズにも,銅キャップスズメッキのオーディオ用ヒューズが使用され,磁気歪みを抑える非磁
性化設計となっていました。基板には,プリメインアンプとしては通常の2倍の厚さになる70μmの銅箔プ
リント基板が使用され,アースや信号ラインのインピーダンスを下げ音質の向上が図られていました。
電源コードも0.26mmの無酸素銅線37本による極太のもので,誘電率の小さいポリエチレンの絶縁材が
使用され,線間容量と損失の低減が図られた二重被覆の高級なものが使用されていました。

電源コード

機能的には,オーソドックスな構成で,MC入力のインピーダンス切換(3Ω/40Ω),サブソニックフィルター
ミューティング(−20dB),トーン回路とモード回路をパスするラインストレートスイッチなどが搭載されていま
した。その他,出力のピーク値を3ポイント表示するLEDピークパワーインジケーターも上級機と共通した機
能でした。

以上のように,A-150は各部にバランスのとれた設計がなされた実力機でした。デザイン的に特徴の少ない
モデルであったためか,あまり目立つ存在ではなかったようですが,低音の支えのしっかりしたマイルドながら
クリアさもある音楽をクセなく聴ける音は使いやすいものでした。当時,各メーカーとも10万円前後のクラスに
実力機を投入し,競争も激化していました。そうした中で,地味ながらもパイオニアならではの物量がしっかり
投入された力作であったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ダイナミック・ノンスイッチングアンプ
MCトランス・・・。
時代のダイナミックレンジを伝えきる
150W+150W。
パイオニアのA-150。


  150W+150Wをクオリティ高く実現した,
◎ダイナミック・ノンスイッチングアンプ。
  ダイナミック・人スイッチングアンプを最大限に生かす,
◎強力電源部。
  SN比76dBを獲得した,
◎高SN比MCトランス方式。
  純度の高い信号伝送を可能にする,
◎ラインストレートスイッチ。
  磁気歪みの発生を抑える非磁性化など,
◎パーツの厳選使用。
  音質向上のために無酸素銅線
◎極太電源コード。
  フィンの振動を防止し音質を高める,
◎チムニー型サイレントラジエーター。



●主な仕様●

実効出力 150W+150W(20Hz〜20kHz,両ch駆動,8Ω)
高調波歪率
(20Hz〜20kHz)
0.003%(実効出力時)
混変調歪率
(50Hz:7kHz=4:1)
0.003%(実効出力時)
出力帯域幅 5Hz〜55kHz(IHF,両ch駆動,THD0.01%)
出力端子 TAPE REC:1,2:150mV
SPEAKER(4〜16Ω):A,B,A+B
ダンピングファクター 80(20Hz〜20kHz,8Ω)
入力端子
(感度/入力インピーダンス)
PHONO(MM):2.5mV/50kΩ
PHONO(MC):0.15mV,0.25mV/3Ω,40Ω
TUNER,CD/AUX・TAPE PLAY1・2:150mV/50kΩ
PHONO最大許容入力 MM:300mV(1kHz,THD0.003%)
MC:18mV(1kHz,THD0.003%)
周波数特性 PHONO(MM):20Hz〜100kHz±0.2dB
TUNER・CD/AUX・TAPE PLAY1,2:5Hz〜100kHz +0,−3dB
SN比
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット)
PHONO(MM):90dB
PHONO(MC):76dB
TUNER・CD/AUX・TAPE PLAY1,2:110dB
トーンコントロール BASS:±10dB(100Hz)
TREBLE:±10dB(10kHz)
フィルター LOW:15Hz(6dB/oct)
電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力 300W(電気用品取締法)
外形寸法・重量 420W×150H×420Dmm・16.8kg


A-150Dの写真
PIONEER A-150D
STEREO AMPLFIER ¥118,000

1985年に,A-150はA-150Dへとモデルチェンジされました。A-150がオーソドックスな地味なデザイ
ン故,人気を得るまでには至らなかったこともあったのか,内部の見直しが図られ,物量の投入等による
中身の強化が行われていました。外観上は,ブラックパネルのモデルが登場し,オプションでサイドウッド
(JA-A120,¥4,000)も用意され,高級感も増していました。

A-150Dは,「トライ・アングル・ドライブ・システム」の名の下に,アンプを構成する(1)電源供給部,(2)
回路構成,(3)構成部品から見直し,強化が図られていました。

電源部供給部は,3トランス構成へと強化されていました。パワーアンプ部には,Lch,Rchそれぞれに
専用の独立したパワートランスが搭載され,それぞれの出力段,電圧増幅段へパワーを供給するように
なっていました。また,イコライザーアンプの電源部にも専用のトランスが配置され,パワー部との独立性
も保たれ,アンプ全体で,合計3トランス7パワーサプライというクラスを超えた贅沢な構成となっていまし
た。

電源トランス

コンストラクションの上でも,各部のセパレーションが高められていました。パワーアンプ部は,電源トラン
スだけでなく,整流回路もLch,Rch独立,電源コンデンサーもLch,Rch専用にそれぞれ20,000μF
の大容量のものが搭載され,各部品や配置,放熱器のレイアウトまで完全にL・R分離され,信号が交差
しないように,モノラル構成が徹底されていました。イコライザーアンプの電源部もトランスをはじめ全て専
用に設けられ,小信号と大信号の干渉も排除されていました。

出力段は,パワートランジスターを片chあたり3個並列接続したトリプルプッシュプル構成がとられ,強化
された電源部とあいまって,通常の同クラスのアンプ2〜3倍の32Aという電流供給能力を達成していまし
た。その結果,4Ω負荷時200W+200W(1kHz),2Ω負荷時270W+270W(1kHz)というパワーリ
ニアリティが実現されていました。
出力段の「ノンスイッチング回路」は,改良型の「ノンスイッチング・サーキットTypeU」となっていました。こ
れは,スイッチング歪ゼロの領域を拡大してさらに広帯域化を図り,さらに,電源スイッチON直後や大信号
入力時,そして外気温変化などにより絶えずドリフトしているアイドル電流を瞬時に安定化させ,サーマル歪
の発生を抑えたものでした。さらに,入力信号と出力信号の差を検出・補正することで,出力段の非直線歪
が約1/30に低減されていました。

機能面では,新たにCDポジションのLINE入力が1系統追加され,この入力は回路的にも最短配線とされ
パーツ面でも配慮され,パネル上の位置的にも最上段のPHONOの上に置かれ,CD入力優先の仕様と
なっていました。

以上のように,10万円クラスの競争の中で,A-150もより強化されたアンプとなり,より力強い音を持つ
アンプとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



高級セパレートアンプの
クオリティを凝縮,
音楽性豊かにデジタルソースを
鳴らし切る。
「トライ・アングル ドライブ・システム」
A-150D。


   アンプの原点から理想の姿を追求した
◎3トランス7パワーサプライ。
  デジタルソースの高セパレーションを再現する
◎モノラル構成パワーアンプ。
  低負荷ドライブ能力を飛躍的に高めた
◎ゆとりの電源部と出力トランジスター。
  純度の高い信号伝送を可能にする,
◎ラインストレートスイッチ。
  アイドル電流を瞬時に安定させ,さらに低歪みを実現した
◎ノンスイッチング・サーキットTypeU。
  高い音楽性追求のために選びぬいた
◎高品質パーツ類。
  アナログにも高音質を追求した
◎ハイブリッドMCトランス。
  ソースの多様化に対応。CD優先の
◎5入力ファンクション。


●主な仕様●

実効出力 150W+150W(20Hz〜20kHz,両ch駆動,6Ω)
120W+120W(20Hz〜20kHz,両ch駆動,8Ω)
200W+200W(1kHz,両ch駆動,4Ω)
160W+160W(1kHz,両ch駆動,6Ω)
130W+130W(1kHz,両ch駆動,8Ω)
高調波歪率
(20Hz〜20kHz)
0.003%(実効出力時)
混変調歪率
(50Hz:7kHz=4:1)
0.003%(20Hz〜20kHz,120W,8Ω)
出力帯域幅 5Hz〜60kHz(IHF,両ch駆動,THD0.01%)
出力端子 TAPE REC:150mV
SPEAKER(4〜16Ω):A,B,A+B
ダンピングファクター 100(20Hz〜20kHz,8Ω)
入力端子
(感度/入力インピーダンス)
PHONO(MM):2.5mV/50kΩ
PHONO(MC):0.15mV/3Ω,0.25mV/40Ω
CD・TUNER・AUX・TAPE PLAY1・2:150mV/30kΩ
PHONO最大許容入力 MM:250mV(1kHz,THD0.003%)
MC:18mV(1kHz,THD0.003%)
周波数特性 PHONO(MM):20Hz〜20kHz±0.2dB
CD・TUNER・AUX・TAPE PLAY1,2:2Hz〜100kHz +0,−3dB
SN比
(IHF,Aネットワーク,ショートサーキット)
PHONO(MM):90dB
PHONO(MC):76dB
CD・TUNER・AUX・TAPE PLAY1,2:110dB
ステレオセパレーション
90dB(1kHz)
トーンコントロール BASS:±8dB(100Hz)
TREBLE:±8dB(10kHz)
フィルター LOW:15Hz(6dB/oct)
電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力 350W(電気用品取締法)
外形寸法・重量 420W×151H×427Dmm・16.6kg


※本ページに掲載したA-150,A-150Dの写真,仕様表等 は,1983年
 3月,1985年12月のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオ
 ニア株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で
 転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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