AIWA AD-FF90
STEREO CASSETTE DECK ¥120,000
1982年にアイワが発売した3ヘッドデッキ。ハイコストパフォーマンスで高い人気を得ていた「FFシリーズ(FF-8,7R,6,5,3)」
のモデルチェンジを機に登場した最高級機で,それまでの同社の走行系などの技術の蓄積の上に,新開発のヘッド,ドルビーHX
PROの搭載,大幅な自動化機能の搭載など,技術的に大きく前進した先進的なデッキでした。この当時,アイワは積極的に音質面
機能面に工夫を凝らしたデッキを開発していたことは記憶に新しいところでしょう。AD-FF90は基本的には,1ウェイの3ヘッドデッキで,走行系には,先代の「FFシリーズ(FF-8,6)」から受け継いだデュアルキャ
プスタンメカニズムを搭載していました。アイワのデュアルキャプスタンメカニズムは,「スーパー・スタビライズドテンション・デュアル
キャプスタン」と称され,テイクアップ側のキャプスタンに「スーパーグレインプロセッシング」という高精度な加工が施され,キャプスタ
ン表面に滑り止めとなる微細なディンプルを設け,テープにかかるテンション安定化して走行性を高める工夫がされていました。録再ヘッドには,それまでの硬質パーマロイ6層ラミネートのDXヘッドにかえて,新たに「ピュアモルファスヘッド」が搭載されていま
した。このころ登場したアモルファスヘッドは,非結晶質(アモルファスという)の材料を使ったヘッドのことで,従来の通常の金属や
合金などの結晶質のものに比べ優れた特性を持つといわれていました。AD-FF90に使われたアモルファス素材は,磁束密度で
従来の数倍〜数十倍,透磁率は磁気ヘッドのコア材としては最大級,パーマロイに比べ約10倍という高い摩耗性などを誇るもので
した。AD-FF90のピュアアモルファス・コンビネーションヘッドでは,4μというギャップ幅の広い録音ヘッドを採用して透磁率を高め,
50μという薄さに加工したアモルファスを12枚ラミネートした構造にして過電流損失を低く抑え,優れた高域特性を得ていました。
また,アイワ独自のADMS(Automatic Demagnetizing System=自動消磁システム)を搭載し,電源スイッチを入れたとき,ま
たはADMSスイッチを押したときに自動的に消去電流が流れヘッドの消磁が行われるようになっていました。ドルビー回路には,従来のBタイプCタイプを搭載していました。さらにアイワはデンマークのB&O社の開発した「DOLBY HX PRO
システム」をいち早く導入し,より高精度に実用化して「アクティブ・サーボ・バイアス」システムとしてこのAD-FF90をはじめとする新し
い「FFシリーズ」に搭載していました。この「アクティブ・サーボ・バイアス」システムは,録音時に録音ヘッドに流される固定されたバイ
アス電流が,録音信号の高域成分の量により深さが変わってしまうという現実に注目し,録音信号を含むトータルなバイアス量を一定
に保つように,入力信号の周波数成分とそのレベルに応じてバイアス量を自動的にコントロールするもので,高域のダイナミックレンジ
周波数特性が大幅に改善されるというものでした。実際,FF-90では,0dB録音時のノーマルテープの高域特性がメタルテープ使用
時に近いところまで改善されたということでした。AD-FF90では自動化機構にも力が注がれ,それまでのFFシリーズにはなかった新機構も搭載されていました。その一つが「オート
レックレベル」でした。つまりカセットデッキで難しい録音レベルの設定を自動化するものでした。ラジカセなどに見られるようなリミッター
のようなものではなく,Automaticボタンを押し続けている間の音楽信号のピークレベルを検出し使用するテープにあった録音レベルを
自動設定するというもので,ある意味でセミオートといった感じでもありました。もちろんマニュアルで録音レベルの調整もできました。
2つ目が,「オートNRセンサー」でした。これは,ドルビーNRのON/OFF,BタイプかCタイプかを,録音時に特殊な超低周波信号で
テープに記録しておき,再生時には,それを検出してNRが自動的に設定されるというユニークな機構でした。FF-90での自己録再で
は非常に便利な機構だったと思います。
そのほか,テープの種類に応じて約16秒でバイアス値,録音感度,イコライザー値をそれぞれ32ステップの中から選び,3万通り以
上の組み合わせの中から最適値を設定するオートチューニング機構「コンピュ・ブレイン・システム」は先代のFF-8から受け継がれて
いました。もちろんテープセレクターは自動化されていました。録音再生時のソース/モニターの自動切換機構,テープ装着時に何分
テープかを選んでおけば残量時間の表示もできる多機能電子カウンターなどの機構も装備されていました。
さらに,曲の頭を約8秒ずつ再生していく「イントロ・プレイ」,曲の頭出しができる「ミュージックセンサー」,任意の2点間の繰り返し再
生ができる「メモリーリピート機能」などの便利な機能も搭載され ていました。以上のように,AD-FF90は,メカニズム系をはじめ,エレクトロニクス系,自動化機構など各部にユニークで先進的な技術やアイデア
が投入された先進的なデッキだったと思います。音の方もややハイ上がり気味ながら,シャープな音を聴かせてくれたものでした。それ
ほど話題にはならなかったかもしれませんが,私にとってはかなり印象的なデッキでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
夢のピュア・アモルファス3ヘッドと
アクティブ・サーボ・バイアスが
ここまでの高音質を達成。
フルオートマチックで,
いい音を快適にドライブする
FFシリーズの頂点。
◎録音レベル調整をオート化したオートマチックレベル
◎ドルビーB/CのON,OFFを自動的に選別,
切り換えを行うオートNRセンサー
◎テープに最適のバイアス,録音感度,イコライザーを
オートセレクトする「コンピュ・ブレイン」
◎コンピュ・ブレインで調整されたデータが,
テープの種類別にメモリーされる
3ポジションデータメモリー
◎自動的に曲の頭を8秒間ずつ再生するイントロプレイ
◎ワンタッチで曲の頭を探し出すミュージックセンサー
◎テープ残量がひと目でわかるテープタイム表示つき
多機能電子カウンター
◎操作状態に応じて,自動的にソースとテープのモニター
を切換えるオート−テープモニター
◎夢の素材を使った
ピュアアモルファス・コンビネーション3ヘッド
◎デジタルオーディオ時代に応える
「アクティブ・サーボ・バイアス」
◎高精度メカ
「スーパースタビライズドテンション・デュアルキャプスタン」
◎自動消磁システム,ADMS
◎オート/マニュアルレックミュート
◎ピークホールドつきFLメーター
◎テープ別ピークレベル・ディスプレイ
◎ダブルドルビーB/C
●AD-FF90の仕様●
型式 | アクティブサーボバイアス,ピュアアモルファス搭載3ヘッドデッキ |
トラック方式 | 4トラック2チャンネル |
モーター | キャプスタン用 システムサーボモーター
リール用 DCモーター |
ヘッド | 録音・再生 ピュアアモルファスコンビネーション
消去 ダブルギャップセンダスト |
ワウ・フラッター | 0.025%(WRMS),±0.045%(W・Peak) |
周波数特性 | メタルテープ:(−20dB録音)20〜21kHz±3dB
(0dB録音) 20〜18kHz±3dB CrO2テープ:(−20dB録音)20〜20kHz±3dB (0dB録音) 20〜15kHz±3dB ノーマルテープ :(−20dB録音)20〜19kHz±3dB (0dB録音) 20〜12kHz±3dB |
SN比 (WTD,1kHz, 3%3次高調波歪率,メタルテープ) |
60dB(Dolby NR OFF)
68dB(Dolby Btype ON) 75dB(Dolby Ctype ON) |
歪率 | 0.8%(メタルテープ) |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 40W |
寸法 | 420W×110H×286Dmm |
重量 | 5.5kg |
※本ページに掲載したAD-FF90の写真,仕様表等は1983年3月のAIWAのカタログ
より抜粋したもので,アイワ株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。