YAMAHA AST-1
ACTIVE SERVO SPEAKER SYSTEM
        システム合計価格 ¥135,000

1988年に,ヤマハが発売したスピーカーシステム。一見小型のブックシェルフ型スピーカーという感じですが
専用のアンプと組み合わせることで,超低域までレンジをフラットに広げることができる新技術「アクティブ・サー
ボ・テクノロジー」が搭載された,アンプとのトータルシステムを構成する,まさにスピーカー・「システム」といえ
そうなモデルでした。

AST(Active Servo Technology)は,バスレフ方式の効果を最大限に発揮させようとするもので,小型の
スピーカーから驚くほどの低域再生が可能となっていました。バスレフ方式は,ヘルツホルム共鳴器をスピー
カーで駆動するもので,バスレフスピーカーでは,ダクト内の空気がそのまま振動板の働きをし,駆動するス
ピーカーユニットを超えた低域再生が実現されるというものです。このバスレフ方式の効果を大きくするために
は,(1)駆動するスピーカーの磁気回路を圧倒的に強力なものとする,(2)駆動するスピーカーユニットのイン
ピーダンスをゼロに近づけるといった方法があります。しかし,(1)の方法では,中高域の能率が非常に高くなっ
てバランスとして逆に低音不足となってしまい,(2)の方法では,アンプが対応できず,低音再生が不良となる
というように,実現は困難なものとなります。そこで,ASTでは,これら(1)と(2)の方法を,アンプとスピーカー
をトータルなシステムとすることで可能としていました。

キャビネットの容積とポートの大きさをある条件に合わせると,キャビネット内の小振幅を大きな振幅の音圧とし
て能率よくポートから取り出すことができるヘルムホルツレゾネータ理論を具現化しエアウーファーを実現したの
がASTでした。ASTにより,ユニットとしてのウーファーは不要で,ポート内の空気がそのまま振動板のはたらき
をし,これをエアウーファーと称していました。エアウーファーは,エッジやダンパーなど振幅を制限する要素がな
く,駆動源となるスピーカーユニットも小振幅のため,振幅歪みなどの各種の歪みも非常に少なくなっていました。
また,エアウーファーの低域再生能力は,キャビネット容積とポートの大きさの相対比率で決まるため,キャビネ
ットの小型化,エアウーファーの小口径化が容易に実現でき,使いやすさや音像定位,音場表現力の向上も実
現されるものでした。

ただし,このASTの効果を実現するには,キャビネット内に与えられる振幅は,空気の負荷に負けないだけ強力
で正確でなければならず,このために考案されたのが,専用アンプによる負性インピーダンス駆動(パワードライ
ブ)でした。アンプの出力インピーダンスをマイナスにする負性インピーダンス駆動は,ボイスコイルのインピーダ
ンスを打ち消すようにはたらき,ボイスコイルの電気抵抗(インピーダンス)が理論上ゼロになり,スピーカーユニッ
トの動きはアンプの信号電圧に対して完全にリニアになることになります。結果的に,ユニットの磁気回路を非常
に強力にするのと同じ効果がもたらされることになります。すると,ユニットはFoのピークがなくなり,キャビネット
の容積とも関係なく超低域まで強力でリニアな駆動が可能となっていました。


AST-S1
ACTIVE SERVO SPEAKER ¥80,000(2台1組)

AST-1のスピーカー部AST-S1は,内容積約6リットル,重量6kgという小型の2ウェイブックシェルフ型のスピー
カーで,これほど小型でありながら,AST方式により驚くほどの低域再生が可能となっていました。
2ウェイのユニット構成は,16cmコーン型ユニットと3cmソフトドーム型ユニットという構成で,見かけ上は2ウェイ
ですが,上述のように,バスレフポートがエアウーファーとしてはたらくため,その意味で,ヤマハは,エアウーファー
+16cmコーン型スコーカー+3cmソフトドームトゥイーターという形の3ウェイシステムと称していました。
16cmスコーカーは,ポリプロピレンコーンが採用され,防磁仕様のダブルマグネットにより駆動され,フレームはダ
イカスト製となっていました。ストロークは少なめで,耐入力はかなり大きい仕様となっているものでした。トゥイー
ターはソフトドーム型で,フレームは5mm厚のプラスチック製となっていました。エアウーファーとなるバスレフポート
は,ポート口径3.6cm,ポート長14.5cmでゴムとフェルトで作られた柔らかめの素材で共振を抑える構造となっ
ていました。


AST-A10
ACTIVE SERVO PROCESSING AMPLIFIER ¥55,000

AST-1の専用メインアンプAST-A10は,パネル高94mm,重量8.5kgのヤマハらしいチタンカラーの薄型メインアン
プで,定格出力70W+70W(6Ω)相当,ダイナミックパワー100W+100W(6Ω)相当というものでした。電源部は
コアサイズ80×70×52mmの電源トランスと,63V・8,200μF×2,35V・6,800μF×2と,計4本のフィルターコ
ンデンサーが搭載されていました。
フロントパネルのシーリングパネル内には,バスレンジコントローラーというツマミが装備されており,ローレンジを16Hz
まで,50Hzまで,200Hzまでというように連続可変で調整できるようになっていました。トーンコントロールのようにピー
クを作ってバスブーストするのではなく,フラットに特性を伸ばす形になっていました。
また,シーリングパネル内に専用のカートリッジを装着するスロットがあり,AST-S1に付属しているカートリッジAST-KS1
を装着すると,AST方式のアンプ部として負性インピーダンス駆動をするようになっていました。また,AST-A10に付属し
ているAST-K01を装着すると,普通のメインアンプとして通常のスピーカーを駆動できるようにもなっていました。
スピーカー出力は1系統でしたが,入力はRCAピン端子とスピーカー入力端子の2種類が装備されており,プリメインアン
プやプリアンプのプリアウト,AVアンプのアクセサリー出力以外に,プリメインアンプ等のスピーカー出力を入力して使うこ
ともできるようになっていました。

以上のように,AST-S1とAST-A10を組み合わせたシステムAST-1は,小型ブックシェルフの外観からは想像できな
いほどのしっかりした低音の伸びと量感を実現し,AST方式の絶大な威力を感じさせるものでした。ヤマハはこの後,スー
パーウーファー,スピーカーシステム,ミニコンポ,AV用スピーカー等にASTの技術を展開していきました。また,一時
シャープのCDラジカセなどにも搭載され,その威力を示したものでした。その後,ヤマハ独自の技術ということで,YST
(Yamaha active Servo Technology)という名称となり,様々な分野に生かされていきました。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



一見,何の変哲もない小さなスピーカが
とてつもない低音を現出させます。

いま世界は,全く新しいスピーカを見,
全く新しい低音を聴くことになる。

■わずか6リットルのA4サイズで,
 28Hzからという驚異の低域再生能力
■空気自体が振動板となるエアウーファで,
 各種歪を大幅に低減
■小口径エアウーファで定位感・音場感が
 すばらしく向上
■このハイクオリティ,ワイドレンジを信じ難い
 小型サイズで実現



マニアの夢をのせて,全く新しい小型・超低音用スピーカ誕生

◎フラットに伸びる超低域
ピアノの最低音も基音で聴けます
◎各種の歪を大幅に低減
エアウーファによるハイクオリティ低音
◎見事な音像定位と音場表現力
小口径化がかつてない表現力を実現
◎信じ難い小型化を実現
本棚にも納まる6リットル・A4サイズ
特許出願46件。正統の技術と独創の思想が融合した
Active Servo Technology


◎空気自体が振動板になる
 エアウーファー
◎超伝導状態を作り出して,
 ユニットを強制駆動する
 負性インピーダンス駆動

多彩な製品群が加わって合理的で魅力的な
◎システムアップが図れます。
使い方は全く簡単。お手元のアンプを活かして
◎すぐにでも楽しめます。



●主な規格●



■AST-S1■

型式 2スピーカ・3ウェイ防磁
ウーファ ポート口径3.6cm
スコーカ 16cmPPコーン
ツィータ 3cmソフトドーム
再生周波数帯域 28Hz〜20kHz
最大出力音圧 112dB/SPL
最大外形寸法 188W×297H×230Dmm
重量 6.0kg(1台)



■AST-A10■

入力 0.7V/20kΩ,10V/2.2kΩ
定格出力 70W+70W(6Ω)相当
ダイナミックパワー 100W+100W(6Ω)相当
消費電力 110W
最大外形寸法 433W×94H×372Dmm
重量 8.5kg
※ 本ページに掲載したAST-1の写真・仕様表等は,1988年11月
 のYAMAHAカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に著作
 権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等
 をすることは法律で禁じられていますので ご注意ください。

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