ＳＡＮＳＵＩ　ＡＵ-Ｄ９０７ＧＥＸＴＲＡ
ＩＮＴＥＧＲＡＴＥＤ　ＡＭＰＬＩＦＩＥＲ　￥１７８，０００

１９８３年に，サンスイが発売したプリメインアンプ。サンスイは，１９７６年に，ＡＵ-６０７，
ＡＵ-７０７を発売し，「０７シリーズ」をスタートさせました。この「０７シリーズ」がロングセ
ラーとなり，サンスイの主力となっていくことになりました。１９７８年にダイヤモンド差動
回路を搭載した「ＡＵ-Ｄシリーズ」が発売され，高い評価を受けました。その最上級機
ＡＵ-Ｄ９０７は，ＡＵ-Ｄ９０７Ｆ，ＡＵ-Ｄ９０７Ｆ ＥＸＴＲＡと続き，第４世代として発売された
のが，ＡＵ-Ｄ９０７Ｇ ＥＸＴＲＡでした。

ＡＵ-Ｄ９０７Ｇの最大の特徴は，型番の”Ｇ”に表された「グラウンドフローティング回路」
の搭載でした。
アンプ回路で，音質に大きく影響を与えるものにアース系がありました。アンプにとって
アース回路は，すべての動作基準点となっており，入力系アース回路，出力回路の一
端となるアース回路，電源リターンとなるアース回路は，アンプの構成の大事な基本と
なっていました。しかし，これら３つのアース回路が最終的に結ばれているために，入
力側の数μＶの電圧，数ｎＡの電流が５０００万～１億倍にも増幅された出力側の数１０
Ｖの電圧，数１０Ａの電流となる際に，数１０Ｖ，数１０Ａの電源電圧の電源部の直流成
分，ノイズ成分が，入力側にアース回路を通じて影響を与えてしまい，サンスイが提唱
するＩＨＭ（Ｉｎｔｅｒｅｆａｃｅ　Ｈｕｍ　Ｍｏｄｕｌａｔｉｏｎ）というある種の混変調歪が生じるというこ
とでした。



「グラウンドフローティング回路」は，（１）出力アンプＡ２，電源，負荷ＲＬ（スピーカー）を
すべてクローズドループとし，スピーカーにより発生した逆起電力による電流はすべて
クローズドループ内で処理されるようにしたこと，（２）電源部をフローティング電源とし
入力系アースと切り離し，電源回路で発生したリップル電流などの雑音成分の入力系
アース回路への影響を抑えたこと，（３）電源トランス巻線をプラス電源用とマイナス電
源用とに独立させ，それぞれを２組のブリッジで整流するデュアルブリッジ構成とした
電源回路とし，個々のブリッジが個々のコンデンサーを充電することで，歪み成分の
あるリップル電流を入力系に流さないようにしたことなどの対策をしたものでした。
具体的には，独立ブリッジ電源に加え，電源トランス中点に流れる汚染電流を抑制す
るために１０Ωの抵抗をシリーズに挿入し，さらに，電源の０Ｖ中点を１０Ωの抵抗を
介してシャーシに接地するという形になっていました。抵抗４本増加だけに，コスト的
にも抑えられながらも，音質的に躍動感が増すという効果が得られていました。



さらに，電源部は，イコライザー/トーンアンプ，パワーアンプ部プリドライブ段のＬｃｈ・
Ｒｃｈ，パワー段のＬｃｈ・Ｒｃｈを独立させたトータル５電源の伝統の強力な電源部と
なっていました。特に，電解コンデンサーには，上級機のパワーアンプＢ-２３０１に
採用されたピュアフォーカスコンデンサーをそのまま搭載していました。

パワーアンプ部は，ドライブ段にサンスイ自慢の「ダイアモンド差動回路」を搭載し，
ていました。「ダイヤモンド差動回路」は差動回路を上下２段重ねにしたような形に
なっており，通常では，２組の差動回路として動作して，大入力が入ると，上下方向
にトランジスタがＯＮになって，電流制限がない大電流対応増幅回路となるというも
ので，電流マージンを非常に大きくとっていました。
パワー段には，ＮＦＢとフィード・フォワードを組み合わせて使用するサンスイ自慢の
「スーパー・フィードフォワード・システム」を搭載し，ＮＦＢの弱点である高域から超高
域の歪みやＮＦＢで打ち消しきれない歪みの改善を図っていました。また，歪み打ち
消し信号の増幅のためのＡ級増幅のエラーコレクションアンプには，バイポーラトラ
ンジスターの５倍以上のハイスピード能力をもつＭＯＳ-ＦＥＴを採用し，最新のコン
ピュータ技術を駆使して，２ポール（極）位相補償に対しても歪みをキャンセルできる
シンメトリカル２ポール出力サミング（加算）ネット・ワークを搭載していました。こうし
た構成により，高調波歪，混変調歪，スイッチング歪，クロスオーバー歪などあらゆ
る歪を大きく低減すると同時に，ＴＩＭ歪，エンベロープ歪などの動的歪の低減が実
現されていました。

ヒートループ採用の放熱システムも継承され，ヒートパイプにフィンを設けたこの放
熱システムにより，従来のヒートシンクでは難しかった電源部とパワー段を近づける
設置で，大電流が流れる出力トランジスター付近の線材の引き回しを排除し，ここ
で発生する電磁波フラックスがプリアンプ部へ影響することを防ぎ，かつ通常のヒー
トシンクを用いるアンプより，全体を大幅に軽量に仕上げることができていました。

イコライザー部は，ダイレクトカップル方式によるダイアモンド差動回路を搭載した
ＤＣサーボ構成のＯＣＬイコライザーを搭載していました。ＲＩＡＡ偏差２０Ｈｚ～３００ｋＨｚ
±０．２dBという超ワイドレンジと高精度，そして，ダイアモンド差動回路により高速
応答性を実現していました。



ＭＣカートリッジへの対応は，前モデルのＡＵ-Ｄ９０７Ｆ　ＥＸＴＲＡ以来の昇圧トランス
が搭載されていました。前モデルで初搭載された「リニアステップＭＣトランス」をさら
にリファインしたもので，純度がきわめて高いマグネティック・インク社製ハイグレード
パーマロイコアを採用し，さらに特殊アニール処理（熱処理の一種）が施され，歪の
発生を極小に抑えていました。
また，ＭＭカートリッジ，ＭＣカートリッジの負荷インピーダンスを完全に独立させて
最適ロードを設定し，よりカートリッジに適合するようになっていました。

素子やコンストラクションにおいても，しっかりこだわって作られていました。信号経路
を最短距離にシンプル＆ストレートにという基本に従い，上述のヒートループを採用し
た新しい放熱システムをはじめ，信号を三次元的に流したりするなどの工夫がなされ
ていました。また，磁界による信号波形の変調作用”マグネティック・ディストーション”
に対しても，銅メッキシャーシ，ＮＭ（ノンマグネティック）素子などを採用し，コンストラ
クション，素子の両面から対策がとられていました。

機能的には，プリメインアンプとして，オーソドックスにまとめられていました。入力は，
ＰＨＯＮＯ-１，ＰＨＯＮＯ-２，ＴＵＮＥＲ，ＡＵＸ/ＤＡ（このモデルからＤＡの表示が付きま
した），ＴＡＰＥ-１，ＴＡＰＥ-２が搭載され，ＴＡＰＥは相互ダビングも可能となっていまし
た。出力は，スピーカー出力がＡ，Ｂ２系統で，ＯＦＦ，Ａ，Ｂ，Ａ＋Ｂの切替えスイッチ
が装備されていました。また，ヘッドホン端子も装備されていました。トーンコントロー
ルはＢＡＳＳ，ＴＲＥＢＬＥ独立式で，それぞれ３００Ｈｚと１５０Ｈｚ，６ｋＨｚと３ｋＨｚのター
ンオーバー周波数切替えが装備され，ディフィートイッチも装備されていました。その
他，サブソニックフィルター（１６Ｈｚ－３dB，６dB/ｏｃｔ），スーパー・ソニック・フィルター
（２０ｋＨｚ－３dB，６dB/ｏｃｔ），オーディオミューティング（－２０dB）が装備されていまし
た。また，サンスイ伝統のブラックパネルに加え，シルバーパネルのモデルもありまし
た。



以上のように，ＡＵ-Ｄ９０７Ｇ　ＥＸＴＲＡは，「０７シリーズ」の最上級機ＡＵ-Ｄ９０７以来
の第４世代として，「ダイアモンド差動回路」，「スーパー・フィード・フォワード・システム」
そして「グラウンドフローティング回路」と，技術を積み重ね磨き上げてきた１台で，前
モデルに比べ，弾むようなクリアさが高まった音となっていました。そして，ここで始まっ
たアース系への改良は，この後バランスアンプ化の方向へ向かうことになっていきまし
た。

以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。

革新の回路を搭載，
音質を根本から改善したアンプは
価値観が違う。

◎現代アンプに残された課題
　”アース回路”を根底から見直した
　グラウンド・フローティング回路。
◎ハイグレード・パーマロイコア採用の
　新開発リニアステップＭＣトランス
　と最適ロード。
◎信号系の歪の発生を限りなくゼロと
　するスーパーＦＦ＆ダイアモンド
　差動回路搭載パワーアンプ。
◎超ワイドレンジ，高速応答性のダイ
　アモンド差動回路搭載ＤＣサーボ
　ＯＣＬイコライザー。
◎マグネティック・ディストーションを
　根本的に排除した素材と理想の
　コンストラクション。
●ＤＡ，ＰＣＭ用入力端子の設置。
●より正確な電力供給するために極性表示
　されたＡＣ電源コード。
●１６Ｈｚ（サブソニックフィルター）と２０ｋＨｚ
　（スーパーソニックフィルター）のフィルター
　装備。
●ＢＡＳＳ，ＴＲＥＢＬＥ，ターンオーバー周波
　数切替え付きトーンコントロール。
●２系統のソースが独立するレコーディング
　セレクターと２回路テープモニター/コピー
　機能。
●経年変化による音質劣化のない金メッキ
　フォノ入力端子。

●ＡＵ-Ｄ９０７ＧＥＸＴＲＡ規格●


■パワーアンプ部■

■イコライザーアンプ部■

※本ページに掲載したＡＵ-Ｄ９０７Ｇ　ＥＸＴＲＡの写真，仕様表等は
１９８３年２月のＳＡＮＳＵＩのカタログより抜粋したもので，山水電気株
式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載
・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　
　

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