STAX CA-Y
AUDIOPHILIA PREAMPLIFIER ¥195,000
1979年に,スタックスが発売したプリアンプ。1938年に昭和光音工業として創立されたスタックスは,創立以来
コンデンサー型のマイク,カートリッジ,スピーカー,ヘッドホンなどを頑固に作り続けてきたブランドで,特に現在
では,コンデンサー型の高品質なヘッドホンで高い評価を得ています。そんなスタックスですが,1970年代に入
り,高品質なアンプも製品化していきました。1974年に純A級パワーアンプDA-300,1976年に,純A級パワー
アンプDA-80,DA-80Mを発売しました。1978年には,オールFET構成・電源部別筐体というプリアンプCA-X
を発売しました。そして,翌年CA-Xの弟機として,より一般的な形態のプリアンプとして発売されたのがCA-Yでし
た。
CA-Yの大きな特徴の一つとして電源部がありました。「スーパーシャントレギュレーター」と名付けられた電源部
はスタックスが開発し,特許も取得されたもので,基本的には,定電流+シャントレギュレーテッド回路というもので
した。電源回路(安定化電源回路)には,シリーズレギュレーター,シャントレギュレーター,スイッチングレギュレー
ターがありますが,シャントレギュレーターは,電力供給側に置いた抵抗器によって電流を制限し,必要な電流以外
の分を電力制御素子に流して熱に変換して安定化させるというもので,常に最大電力に近い電力消費するなど,
効率は非常に悪く,大型化してしまいますが,非常にノイズが少なく,安定した電源となり,オーディオ用としてはす
ぐれた特性をもっています。スーパーシャントレギュレーター方式は,バッテリー電源をも凌駕しようと開発されたもの
で,(1)出力インピーダンスはDC〜100kHzまで1mΩ以下,(2)ACラインから混入するノイズを取り除く性能を
示す電源雑音除去比が100kHzまで−106dB以下,(3)アース電位が負荷変動に影響されない,(4)電源部内
部雑音がきわめて低く,0.2μV以下(IHF-A) という特徴とスペックをもち,信号回路をしっかりと支えるものとな
っていました。
CA-Yは,プリアンプとして,MM入力からプリアウトまでカップリングコンデンサーをもたない,DCアンプとして構成さ
れていました。DCアンプは,低域に位相歪の原因となる時定数をもたない,広い周波数帯域をもつといったメリットを
もちますが,DCドリフトを解決する必要が出てきます。増幅度の大きいプリアンプでは,どうしてもDCドリフトを除去す
るためにカップリングコンデンサーが必要なることもあり,カップリングコンデンサーなしにDCドリフトを除去するため
には,回路は複雑になりますが,サーボ回路や熱帰還法が用いられていました。CA-Yでは,合理的でしかも単純な
回路として多重帰還を考案,採用し,カップリングコンデンサーを排除しつつシンプルな回路を実現し,広帯域設計と
していました。
基本回路は,イコライザーアンプ,フラットアンプともに差動2段にA級SEPPバッファアンプを追加した構成となって
おり,初段にはローノイズワンチップデュアルFETを使用し,2段目から初段に同相帰還を施して直流安定度を高め
ていました。
入力は,PHONO3系統,TUNER,AUX,TAPE2系統が装備されていました。PHONOは,通常のMM型,MC
型のカートリッジを使用する際のMAG PU1,MAG PU2に加え,コンデンサーカートリッジのメーカーでもあるスタッ
クスらしく,コンデンサーカートリッジ用のCOND PUの入力が装備されていました。MAG1は,インピーダンス固定
(47kΩ,MC用ヘッドアンプ内蔵の場合は100Ω),MAG2は,インピーダンス可変(30kΩ〜80kΩ)となっていま
した。TAPE(DECK1,DECK2)は,録音しないときにテープデッキとの間のシールド線の容量負荷が音質に悪影響
を与えないように,録音出力を遮断できるRECORDING OUT ON-OFFスイッチが装備されていました。
音質重視で回路のシンプル化が追求され,トーンコントロールやモードスイッチ,ラウドネス等は装備されていません
でした。バランスコントロールは新回路が採用され,センター位置では音質劣化を少しでも防ぐため,信号が抵抗体を
通らない方式になっていました。可変範囲は各ch0〜−6dBとなっていました。
MCカートリッジ対応は,オプションとなっており,別売でヘッドアンプ・IHA-Y(¥30,000)を内蔵することができるよう
になっていました。回路は,初段にPNPローノイズ・アクティブ・ロードを負荷とする高Gm FETを4個パラレルに接続し
それをインバーテッド・ダーリントン回路で受けた2段増幅構成になっていました。また,増幅部の電流変化を逆相電流
で打ち消して電源から供給される電流を一定に保つ「カレント・バランス・サーキット」を設け,MCカートリッジの微少な
出力電圧にノイズを減らすために流している大量の電流の変化によってうける影響を防いでいました。さらに,内蔵型
であるため,電源はプリアンプ本体のスーパーシャント方式の電源から供給されるため,安定した電流が得られるよう
になっており,独立形のヘッドアンプ等のようにピンコードでの接続を要せず,配線の影響も抑えられるメリットもありま
した。内蔵した場合,MAG1がMC入力となり,MCの文字がインジケーターに浮き出ることになり,前面のスイッチで
切り換えることができるようになっていました。
パーツの面でも厳選して搭載されていました。バリコン型空気コンデンサー(削り出しの真鍮に銀メッキを施したもの)
をはじめ,スチロールコンデンサー,ポリプロピレンコンデンサー,マイらコンデンサー,オーディオ用低インピーダンス
ケミコン,そして,抵抗には金属皮膜抵抗,ボリュームにとバランスコントロールには低雑音低歪CP(コンダクティブ・プ
ラスチック)ボリュームを使用していました。基板は300μ厚無酸素銅箔のガラスエポキシ製で,無酸素銅線に金メッキ
を施したジャンパー線等による配線が行われるなど,細部にわたって測定とヒヤリングによってパーツが選択・使用され
ていました。また,筐体は非磁性体であるアルミ製の筐体が採用されていました。
以上のように,CA-Yは,スタックスのプリアンプ第2弾として,構成はシンプルに,パーツは高品質でという設計で仕上
げられ,透明感のあるすっきりとした音は,コンデンサーヘッドホンにも通じるスタックスらしいものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



電源重視の思想が,
またひとつプリアンプの名品を生みだしました。

音楽の,演奏家の自由闊達なステージを支えるものが弛まぬレッスン
の積み重ねであるのと同じように,オーディオアンプにおいてもその電
源部は信号回路が能力をフルに発揮するためのゆるぎない大地でな
ければなりません。新しいプリアンプCA-Yの開発にあたってもやはり
その電源部を重視したのは言うまでもありません。CA-Xで完成した
スーパーシャントレギュレーターを採用したのをはじめ,アンプの音を決
める3要素−回路,電源,使用パーツのそれぞれに最善を尽くし,さら
に操作性,デザインにも私たちのポリシーを反映させたのがこのCA-Y
です。再生される音が測定やスペックを超えて,演奏家の”熱”を伝える
音楽となることを祈って−いまCA-Y。




●SPECIFICATTIONS●

回路構成 初段Nch Dual FET差動2段
2段エミッタ接地カレントミラー負荷
終段プッシュプルエミッタフォロア3段直結
入力感度/インピーダンス MAG PU1:2mV/47kΩ(MCヘッドアンプ70μV/100Ω)
MAG PU2:2mV/30kΩ〜80kΩ(連続可変)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2:143mV/42kΩ
最大許容入力 MAG PU1,2(高調波歪0.03%以下):
  180mV(1kHz)r.m.s.(MCヘッドアンプ30mV/20〜20kHz/r.m.s.)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2(高調波歪0.01%以下):
  2V(20〜20kHz)r.m.s.
出力レベル/インピーダンス OUT PUT1:1V/60Ω(1kHz)
OUT PUT2:1V/160Ω(1kHz)
REC OUT1,2:143mV/220Ω(1kHz)
周波数特性 MAG PU1,2:20〜20kHz,±0.3dB以内
          (MCヘッドアンプ 2.5Hz〜1MHz+0,−3dB)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2:
          0.33Hz〜1.5MHz+0,−3dB
SN比(IHF-Aネットワーク入力ショート) MAG PU1,2:78dB(2mV定格入力時)
          (MCヘッドアンプ 68dB/70μV定格入力時)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2:110dB(143mV定格入力時)
歪率 MAG PU1,2:0.003%以下(ボリウムMAXで3V出力時)
          (MCヘッドアンプ 0.03%/100mV出力時)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2:
          0.0015%以下(ボリウムMAXで3V出力時)
クロストーク −70dB/10kHz(ボリウム−6dB時 MAG→OUT PUT間)
増幅度 MAG PU1,2→OUT PUT1,2:54dB(MCヘッドアンプ 29dB)
COND PU/TUNER/AUX/TAPE PLAY1,2→OUT PUT1,2:17dB
電源 スーパーシャント方式(定電流+シャントレギュレーテッド回路)
定電圧電源入力雑音除去率 −100dB/DC〜100kHz
電源部出力インピーダンス 1mΩ以下/DC〜100kHz
残留ノイズ 0.2μV以下/IHF-A
電源電圧/周波数 100V,117V,220V,240V/50〜60Hz 各±10%
定格消費電力 28W
外形寸法 435W×88H×381Dmm
重量 6.0kg
※本ページに掲載したCA-Yの写真,仕様表等は1980年のSTAXの
 カタログより抜粋したもので,スタックス工業株式会社に著作権があり
 ます。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは
 法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
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