NEC CD-10
HIGH GRADE CD PLAYER ¥99,8001989年にNECが発売したCDプレーヤー。一見シンプルなデザインの普通のCDプレーヤーながら,A-10
シリーズの5世代目・1989年発売のプリメインA-10Xとのペアを想定されたCDプレーヤーで,中身の充実
した実力派の1台でした。CD-10最大の特徴は,NEC自慢の16倍オーバーサンプリング方式・16fs TFC(Transversal Filtering
Circuit)の採用でした。この技術は,1988年発売のCD-830DSで初めて開発搭載されたもので,当時世界
でも例を見ない独自の方式で,デジタルのNECを感じさせたものでした。
この16fsTFCは,8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターをチャンネル当たり2個搭載し,8倍オーバー
サンプリングの信号を半波長ずらせて重ね,2つの8倍オーバーサンプリングの信号の中間データを平均値補間
によって作りだし,等価的に16倍オーバーサンプリングの信号を得るという方式でした。これによって,16倍オー
バーサンプリングに相当する精度を確保し,サンプリング周波数を一気に16倍の705.6kHzにまでシフトアップ
することになり,ローバスフィルターの負担を軽くすることになりました。この16fsTFCでは,ホールドアパチャー
タイムが14μsecになり,20kHzにおいてもローパスフィルターの必要性がほとんどないほど滑らかな波形が得
られていました。CD-10では,さらに16fsTFCのゲートアレイ化が行われ,よりシンプルでストレートな構成が実
現されていました。D/A変換回路も,16fsTFCに対応したもので,DACを4個使用していました。直線性の良さで選別されたフィリッ
プス社製DAC・TDA-1541AをLch・Rchそれぞれ2個使用したバランス型変換回路で,聴感上のダイナミックレ
ンジの拡大とピアニシモ時の正確な表現が実現されていました。また,ユニポーラ型DACをバランス動作させるこ
とで,いままで不可欠だったカップリングコンデンサーを不要とし,アナログ部の信号経路のシンプル化を実現して
いました。
内部構造は,シャーシ内部をメカニズム・デジタル系とD/A変換・アナログ系に分けた2BOX構造で,A/D完全分離
のレイアウトをとっていました。デジタル系,アナログ系は各々の基盤を持ちアースポイントも独立されており,デジタ
ルノイズのアナログ系への影響をシャットアウトしていました。
電源部も,A/D完全独立の2トランス構成で,各ステージごとに2次側の巻線を分割する独立給電方式により,電源
部でのアナログ系とデジタル系の相互干渉を抑え,すぐれたレギュレーションとクオリティを実現していました。ACコ
ードは極太のOFCコードを採用し,ケミカルコンデンサーには,すべてに余裕ある50Vの高耐圧品を使用してダイナ
ミックレンジの拡大をめざしていました。また電源ラインの要所にはパターン配線に頼らず断面積が大きく皮膜の厚い
線材(♯18)が使用されていました。A-10シリーズでNECが展開していた剛体構造設計「メカニカルグラウンドコンストラクション」がCD-10にも採用され
ていました。
メカベースの脚に焼結合金を採用してがっちりと支え,メカトレイに防振材を充填して共振を防止していました。CDプレ
ーヤー内部で最も大きな振動源となる電源トランスは,1mm厚の特殊防振材を介してシャーシより絶縁された3.2mm
厚鉄板のトランスベースに強固に固定され,シャーシから振動的にも電気的にもアイソレートされていました。内部の剛
性の高い2BOX構造に加えて,シャーシの底板に通常の1mm厚の鉄板に2mm厚,1.6mm厚の鉄板をプラスした3重
構造を採用し,筐体全体を高剛性化していました。そして,モノコック化された高剛性の筐体全体の振動を大型で重量
級の脚(65φ380g)で支え,内部振動を抑える構造となっていました。CD-10には,出力端子としてキャノンタイプバランス出力端子とRCAアンバランス出力端子が備えられていました。
CD-10のD/A部はバランス型D/A変換回路を採用しているため,トランス,反転アンプなどを用いずにD/Aコンバーター
の段階からバランス伝送が行われるようになっていました。
また,RCAアンバランス出力端子も,正相,逆相それぞれの出力が備えられ,バランス出力も可能となっていました。
RCAアンバランス出力端子には,アースを共用しない独立型の高級な削り出しタイプが採用され,強固な接点を実現し
ていました。この出力端子は出力端子パネルとともに非磁性体化して,磁気歪みも抑えられていました。
さらに,システム全体の極性を合わせるアブソリュートフェーズ(信号極性)切換スイッチが装備されていました。以上のように,CD-10はデジタルオーディオにこだわりをもって頑張っていたNECらしい1台で,アンプのA-10シリーズ
同様に,美しいというよりクリアで骨格のしっかりした音をもち,使いこなしがいのある1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
音楽に触れる。
鮮やかな音場がある。
新リファレンスCDプレーヤ,CD-10。
◎シンプル&ストレートな16fsTFC
(Transerval Filtering Circuit)
◎選りすぐられたDACによる
4DAC B.S.S
(Balanced Summing System)
◎デジタルノイズの混入を防ぐ
A/D完全分離型2BOXシャーシ
◎相互干渉を断ち切り,ゆとりある
A/D完全独立2トランス
ハイクオリティ電源
◎こだわりの高剛性
ダイレクトメカニカルグラウンドコンストラクション
◎理想的なバランス伝送を実現する
バランス出力装備
◎理想を突き詰めた
高級削り出しピンジャック装備
◎音質への干渉をカットする
3段階ディスプレイ ディマースイッチ
◎システム全体の極性を合わせる
アブソリュートフェーズ
(信号極性)切換スイッチ装備
周波数特性 | DC〜20kHz(±0.5dB) |
全高調波歪率 | 0.0018%以下 |
ダイナミックレンジ | 98dB以上 |
S/N比 | 110dB以上 |
チャンネルセパレーション | 105dB以上(1kHz) |
ワウ・フラッター | 測定限界値以下(水晶発振精度) |
出力レベル | アナログ:2.5Vrms
デジタル:0.5Vp-p/75Ω(COAXIAL) |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 21W |
外形寸法 | 430(W)×117.5(H)×367(D)mm |
重量 | 13.2kg |
※本ページを制作するにあたり,じぱんぐ様より資料の御協力を
いただきました。ありがとうございました。※本ページに掲載したCD-10の写真・仕様表等は1989年11月
のNECのカタログより抜粋したもので,日本電気ホームエレクトロ
ニクス株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等
を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,
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