marantz CD-650
COMPACT DISC PLAYER ¥79,800
1986年に,マランツが発売したCDプレーヤー。マランツは,1953年にアメリカで生ま
れたオーディオブランドですが,資金難から1964年にスーパースコープ社に買収され,
1968年には,日本のスタンダード工業がスーパースコープ社と提携することとなり,マ
ランツブランドのオーディオ機器の設計・製造も担当するようになって,1975年より社名
も日本マランツとなりました。1980年には,スーパースコープ社からオランダフィリップス
社にマランツブランドが売却され,日本マランツもフィリップス傘下に入ることとなりました。
ソニーとともに1982年に登場したCDプレーヤーのオリジネーターであったフィリップス社
とともにCDプレーヤーの設計・製造にあたっていた日本マランツは,1985年に,フィリッ
プスのベルギー工場で作られた戦略的モデルCD-34を発売し,高い評価を受けていまし
た。その後もフィリップス社と関係の深いモデルを発売してきたマランツが,この年発売し
た主力モデルがCD-650でした。
マランツは,この前年,CD-34の他にもCD-25,CD-45,CD-65といった,フィリップ
スのベルギー工場製のモデルを発売していました。その中のCD-65(¥69,800)の後
継機?ともいえそうなモデルがこのCD-650で,機能的な面を含めて内容が強化されて
いました。
D/Aコンバーター部は,当時最も先進的な16ビット4倍オーバーサンプリング・デジタル
フィルター(SAA7220P/A)が搭載され,サンプリング周波数を4倍の176.4kHzにオー
バーサンプリングし,D/A変換後のローパスフィルターには急峻な特性を要しないことから
位相特性に優れた3次ベッセルフィルターが搭載され,さらに2次構成のローパスフィル
ターが追加できるようになっていました。
D/Aコンバーターには,176.4kHzの4倍オーバーサンプリングにも対応し,L・Rチャン
ネルに独立した専用のDACをもつ2DAC方式となっていました。搭載されたD/Aコンバー
ターLSI(TDA1541)は,1チップ内に2個の16ビット動作DACを搭載した先進的なもの
で,世界に先駆けて開発されたデュアル16ビットD/Aコンバーターでした。16ビット4倍
オーバーサンプリングの優れた位相特性と過渡応答特性に加え,量子化ノイズの超高域
シフトによって18ビット相当分の分解能が確保されているというものでした。
CDドライブメカは,これまでの同社の上級機に採用されてきたCDM-1の基本設計を継
承しつつ,素材・光学系を一新し,合理化を図ったCDM-2が搭載されていました。これは
CDM-1同様に1ビーム・スイングアームメカニズムで,ベース部には,ダイキャストの代わ
りに高比重グラスウールプラスチックを採用し,軽量化と共振周波数の低下を実現してい
ました。さらに,ピックアップ部は,ドイツのローデンシュトック製のガラスレンズに独自のレ
プリカ・テクノロジー(非球面皮膜コーティング)を施して球面収差を抑えることでレンズの構
成枚数を2枚に抑えていました。(当初のCDプレーヤーでは複数枚でした。)そして,フォー
カシングのメカを従来のMM(ムービング・マグネット)型からMC(ムービング・コイル)型に
変更して一層の小型化と軽量を実現していました。
しかし,シーソーの原理を応用したスイングアームメカニズムは,元来振動に強いメカニズ
ムとはいえないため,CDM-2メカニズム自体をシャーシから完全に分離してフローティン
グ構造として,共振・振動を防いでいました。
アナログ出力は,固定出力が2系統搭載されていました。OUTPUT1は,3次ローパス
フィルターが挿入される通常の出力で,OUTPUT2はADDITIONAL FILTERDとなっ
ておりさらに2次のローパスフィルターが追加され5次のローパスフィルターが挿入される
出力になっており,音楽スペクトラムを重視した温かみのあるサウンドを再現する「マイス
ター・アウトプット」と称されていました。デジタル出力は同軸出力が1系統搭載されていま
した。
機能的には,通常のプログラムメモリー機能に加えて,独自のFTSという機能を搭載して
いました。FTSは,(Favourite Track Selection)の略で,ディスク毎に好みの曲をプ
ログラムして,半永久的にメモリーできる機能で,最高226枚までのCDがメモリーでき,
1枚5曲なら150枚,20曲なら約70枚までという具合にメモリーができるというものでした。
サーチ機能としては,リモコンやシーリングパネル内の10キーによるダイレクト選曲,1曲
ずつ前後に選曲するスキップ・プレイ,曲の頭部分を次々の再生するスキャン機能,メモ
リーした再生する曲をプログラム選曲などが搭載されていました。プログラムメモリーは
最大20曲で,リピート機能はFTSリピート,1曲リピート,全曲リピート,プログラム・リピー
ト,A-B間リピートと5モードリピートが装備されていました。
以上のように,CD-650は,当時のフィリップス・マランツグループのCDに関する技術が
そつなく生かされた設計で,バランスのとれた音と機能をもっていました。比較的薄型で
4kgという軽量級の筐体からの音は,迫力や重量感を前面に出さず,きめの細かな上品
な音を聴かせてくれるものとなっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
開発者の新世代CDプレーヤーは,
新しい音と機能を持っている。
◎16ビット4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター
L/R独立2D/Aコンバーターを搭載
●16ビット4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター
●L/R独立2D/Aコンバーター
◎無共振・無振動の完全フローティング
コンパクトCDドライブメカCDM-2
●小型軽量と無共振化を追求したCDM--2
●無共振・無振動の完全フローティング構造
◎先進のデジタル出力端子を標準装備
◎ヨーロッパの伝統の音楽性を重視した
マイスター・アウトプット
◎CDライブラリーを完全プログラム化
画期的なCDファイリング・バンクFTS
●CDを自動判別
●5曲×約150枚ものプログラムをメモリー
◎多彩な機能を充実装備
もちろんリモコン操作可能
●多彩な機能をコントロールする多機能リモコン
●プログラム時間も表示するマルチ・ディスプレイ
●多彩な演奏機能を搭載
●ボリューム装備のヘッドホン端子
●高級サイドウッド装着可
●SPECIFICATIONS●
D/Aコンバーター | 16ビット4倍オーバーサンプリングデジタルフィルター L/R独立2DAC |
フィルター | 3次ベッセルフィルター |
チャンネル |
2チャンネル |
周波数特性 | 2Hz~20kHz |
ダイナミックレンジ | 96dB以上 |
SN比 | 101dB以上 |
チャンネルセパレーション | 100dB |
全高調波歪率 | 0.0015%(1kHz) |
ワウ・フラッター |
水晶精度 |
誤り訂正方式 |
CIRC |
アナログ出力 |
2Vrms |
デジタル出力 |
0.5Vp-p(75Ω負荷) |
レーザー |
AIGaAs半導体 |
波長 |
800nm |
サンプリング周波数 |
44.1kHz |
量子化 |
16ビットリニア/チャンネル |
電源 |
100V 50/60Hz |
消費電力 |
30W |
最大外形寸法・重量 |
420W×89H×300Dmm・4kg |
※本ページに掲載したCD-650の写真・仕様表等は,1987年
6月のmarantzのカタログより抜粋したもので,日本マランツ
株式会社(現D&Mホールディングス)に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすること
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