CD-903の写真
NEC CD-903
COMPACT DISC PLAYER ¥280,000

1986年にNECが発売したCDプレーヤー。CD時代になって,1号機CD-803を登場さ
せ,突如オーディ分野での活躍を始めたNECは,持ち前の通信技術,デジタル技術を生
かしつつ,常識を超えた物量を投入し,アッと驚く製品を作り上げていきました。CD-903
は,このようなNECならではの重量級の高級機でした。

CD-903のD/A変換部は,非常にユニークかつ贅沢な設計となっていました。4倍オーバー
サンプリング方式で各チャンネルに2つずつDACを搭載し,合計4DACになっており,それ
ぞれに専用のアンプを持つために,4アンプ方式という形になっていました。この4つのアン
プから出力される段階で,Lch正相,Lch逆相,Rch正相,Rch逆相の4つのアナログ信号
が作り出され,簡単な接続の切り替えだけで,通常の正相出力(L・Rとも正相),逆相出力
(L・Rとも逆相),バランス出力(正相・逆相の+側同士だけをつなぐ)が取り出せ,アナログ
段階での位相反転回路が不要というものでした。また,正相と逆相を同時に使うと,ステレオ
アンプのBTL駆動も可能でした。

DACの前段には当然,NEC自慢のデジタルフィルター,新型のND(ノン・ディレイ)フィルター
が搭載され,位相ズレや歪みを抑えていました。
シリアルデータ用2本,クロック信号,ラッチパルス各1本の,計4本の光ケーブル,コントロ
ール信号用5個のフォトカプラーにより,デジタル信号の光伝送が行われ,デジタル回路と
アナログ回路の間の電気的干渉は遮断されるようになっていました。

光伝送部リレー式アッテネーター

出力ボリュームも,非常にコストのかかった凝った設計となっていました。通常の可変抵抗
器によるものではなく,低歪率のアナログ式アッテネーターによるものでした。4つのアンプ
それぞれに,金メッキクロスバー接点の密閉式リレー5個,合計20個が備えられ,このリ
レーによって高信頼度・高音質の大型の抵抗器を切り替え,0〜29dBまで1dBステップで
ボリュームコントロールするという前代未聞の大がかりなもので,このアッテネーターだけで
専用の大型のガラスエポキシ基板を占有していました。そして,このアッテネーターの部分
だけ独立の銅メッキシャーシに取り付けられ,完全にシールドされていました。

このような設計となっていた背景には,CD登場後しばらくして始まったオーディオシステムの
信号経路の見直しの動きがありました。デジタルオーディオであるCDプレーヤーは,アナロ
グ出力が十分な出力を持ち,デジタル信号での出力も可能であるため,それまでの,「プレ
ーヤー→プリアンプ→パワーアンプ→スピーカー」というオーディオの信号経路とは異なる
形態が可能になっていることが明らかになってきたのでした。
このような流れの中で,CDトランスポート+D/AコンバーターというCDプレーヤーのセパレ
ート化,DAC内蔵アンプ等が登場し,一方で,アナログ出力での,接点をできるだけ減らし,
信号経路を短くするために,プリアンプを介さずにCDプレーヤーを直接に,あるいはパッシ
ブのアッテネーターのみを介してパワーアンプに接続するというシステムの形も出てきました。
CD-903は,パワーアンプ直結での高音質使用を考慮した設計であったと考えられ,内蔵
の凝ったD/Aコンバーター,アナログ回路,出力ボリュームの使用を前提にしてか,デジタル
出力はあえて搭載されていませんでした。

見るからに大型の筐体は,剛性の高い強靱な構造がとられ,振動や外来振動にも強い構造
となっていました。側板と天板及び前面パネルには5mm厚のアルミ板が使用され,天板は,
センターを含めて9本のネジで固定され,側板は6本のネジで固定されていました。底板には
3.2mm厚の鋼板が使用され,内部回転系からの振動を吸収する高い剛性を実現していまし
た。底板には,1個250gの重量を持つ焼結合金製の剛性の高い脚が各2本のネジで固定さ
れ,高剛性に徹した構造となっていました。また,底板の手前中央にも脚を取り付けられるネ
ジ穴があり,ガタツキを抑える3本脚とすることもできるようになっていました。内部のシャーシ
自体も1.6mm厚の鋼板製で剛性の高いものでした。

CD-903の内部

電源部は,コアサイズ70×60×35mmのものが2台搭載され,容量は各々33VAと31VAと
いう,民生用CDプレーヤーとしては最大級のものとなっていました。フィルターコンデンサーは
25V・4,700μF×6,16V・4,700μF×2と合計6個とこれも強力なものとなっていました。

リモートコントローラー

CD-903には,通常のものよりずっと大型のリモコンが付属していました。本体の操作ボタンと
ほぼ同じような配列がなされ,ボタンの操作感までこだわったもので,本体のボタンと同じ操作が
同じ操作感覚で可能となっていました。
選曲機能は10キーでのダイレクト選曲,インデックス,時間を指定してのタイムサーチが可能で
メモリー機能は,32曲までのランダムプログラムメモリーが備えられていました。
ディスプレイは,色調を抑えたシンプルかつ見やすく落ち着いた高品位のものが搭載されていま
した。

以上のように,CD-903は,NECが凝りに凝って作り上げた高級機で,その熱意がつまった筐
体は21kgに及ぶ大型・重量級となっていました。その精悍な大型のブラックパネルが表すとお
り,思い切って投入された物量が反映された音は,同社のアンプA-10に通じる厚みのあるエネ
ルギーに溢れたものでクラス最強の力強い音を持っていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



真の音楽愛好家に捧げる,
極めつきのCDプレーヤー。

音をどう再生するかではなく,音楽そのものをいかに忠実に再現するか。つまりCDプレー
ヤの介在を聴く人に意識させない音楽再生の追求。そのためにひとつひとつの厳選され
た素材と凝りすぎとも思えるほど贅沢な回路設計を駆使して,音楽性を極めました。かつ
て,これほどまでに豊潤にして精緻な音楽表現力を備えたCDプレーヤがあったでしょうか。
CD-903,音楽を熱愛してやまない,全てに人に捧げる,至宝の一台。ついに誕生。


”音”ではなく,あくまでも
”音楽”そのものを語る
生き方を選びたい。

◎4ch独立D/Aコンバータで
 完全バランス伝送
◎新開発信号処理LSI及び
 NDフィルター
◎光伝送による
 デジタルノイズディフェンサー方式
◎低歪率1dBステップ
 アナログアッテネーター
◎強じん無比
 高剛性耐振構造のシャーシ採用
◎平衡,不平衡の出力端子
 不平衡は正相逆相とも装備


目をとじたとき,
いっさいの雑念を捨て,
純粋に音楽に浸りたい。

◎CDプレーヤの操作部だけが独立して
 ひとつのスタイルをもった
 フルファンクションワイヤレスリモートコマンダー
◎見やすく,落ち着いた
 高品位ディスプレイ
◎ダイレクト選曲が
 本体でも可能な親切設計
◎ランダムプログラムメモリー
 (32曲)採用
◎曲の中の聴きたいところが
 指定できる2つのサーチ





●CD-903 主な仕様●

型式
光学式(デジタルコンパクトディスク方式)
ピックアップ方式
GaAlAsダブルへテロダイン半導体レーザー
回転数
約500〜200rpm(CLV)
演奏速度
1.2m〜1.4m/s(一定)
エラー訂正方式
CIRC2重エラー訂正方式
チャンネル数
2チャンネル
復号化
16ビット直線
ワウ・フラッター
測定限界値以下(水晶発振精度)
周波数特性
5Hz〜20kHz±0.3dB
SN比
102dB以上
ダイナミックレンジ
96dB以上
全高調波歪率
0.003%以下
チャンネルセパレーション
95dB以上
最大出力レベル
3.0Vrms
ヘッドホン出力レベル
45mW(200Ω)
電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
38W
外形寸法
430W×142H×446Dmm
重量
本体21kg

※本ページに掲載したCD-903の写真・仕様表等は1986年
 11月のNECのカタログより抜粋したもので,日本電気ホーム
 エレクトロニクス株式会社に著作権があります。したがって
 これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁
 じられていますので,ご注意ください。

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