SONY
CDP-555ESD
COMPACT DISC PLAYER ¥150,000
1986年にソニーが発売したCDプレーヤー。前年に発売された
CDP-553ESDの
後継機で,
内容を見ると,各部に強化が行われ,しかも定価が1万円安くなっているなど,戦略的価格設
定も見られ,当時各社から15万円クラスで各社のCDプレーヤーのトップモデルが出そろって
きた中で,発売された当時のソニーのCDプレーヤーの最上級機でした。
CDP-555ESDの最大の特徴は,ベースとなった前モデルCDP-553ESDに対し,不要振動
の排除を徹底した設計となっていることでした。そのためにベース部分を中心に筐体が大幅に
強化されていました。そのため,筐体の厚さが約4cm,重量も約4kg増えて,全体的にかなり
大きくなった感じがしました。
筐体のベースとなる底板部分にソニーのプリメインアンプ
TA-F333ESX,
TA-F555ESX等
にも採用されている「Gシャーシ」が採用されていました。そして,ソニーのCDプレーヤーの歴
史の中でも唯一の採用機になりました。「G(ジブラルタル)シャーシ」は,,「アコースティカル・
チューンド・G(ジブラルタル)・シャーシ」の略称で,スペインの最南端の小半島で自然の要塞
と呼ばれる「ジブラルタルの岩」にちなんで,堅く重い岩のようなシャーシということで名付けら
れたと当時のカタログに説明されています。大理石の主成分である炭酸カルシウムを不飽和
ポリエステルに加え,グラスファイバーで強化した素材を一体成形したもので,CDプレーヤー
のベースとしては最大級の重量と鉄板シャーシに比べ格段に優れた剛性を誇りました。非磁
性体,非金属であるため,磁気的な歪みも発生せず,熱にも極めて強いため温度変化による
経時変化もほとんどないという優れたベースシャーシでした。形状も部分振動や分割共振を排
除するために,振動しやすい突起した部分をなくし,厚さを十分にとり縦横にリブを走らせて剛
性を高めていました。脚部は無反発ゴムと金属を組み合わせ,かつ「Gシャーシ」底部との一体
構造がとられ,外部からの振動や電源部などで発生する内部振動を絶ち,不要振動による音
質の劣化を抑えていました。
Gシャーシをベースに,非磁性アルミ引出し材の外装シャーシと,磁気歪みを低減する銅メッキ
処理の内部シャーシによる二重構造で,剛性・強度がさらに高められていました。この剛性の
高いシャーシに,メカブロック部,デジタル部,アナログ部,コントロール系が完全分離して配置
され,各部の干渉,共振をしっかりと抑えていました。
光学メカニズムは,CDP-553ESDと同じく,光学ブロックと一体化したリニアモーターメカニ
ズムが搭載されていました。今では,かなり一般的なものですが,ベルト,ギヤ等を使用して
いたメカニズムから大きく進歩して,リニアモーターを登載した当時最新のメカニズムで,その
静粛性,選曲のスピード(最大1秒以内)は,その後長く他機を圧倒していました。
光学メカニズムを支えるベースユニットは,「ブラック・セラデッドベースユニット」と称されるも
ので,内部損失が極めて大きいセラミックパウダー入りの特殊樹脂とメタルの複合成型で,
異種素材の組み合わせで制振効果を高め,共振鋭度を大幅に下げるとともに,剛性も高め
たものでした。
また,メカブロック全体もフローティング構造とされ,外部振動の影響を遮断するようになって
いました。さらに,チャッキングアームも樹脂と金属の二重構造とされていたほか,ディスク回
転時の面ブレを防ぐ空力学的な対策も施され,不要振動によるサーボ電流の乱れを抑えた
設計となっていました。
リニアモーターによるトラッキングメカニズムの制御には,新開発の「Sサーボ」が搭載されて
いました。これは,新開発のRFICが,ディスク上の汚れやホコリの位置・大きさを検出,ディ
スクの回転周期から次に現れるタイミングを瞬時に予測,トラッキング,フォーカスサーボ回路
のサーボ量をマイコンで制御するもので,一種の予測制御方式でした。その予測時間精度は
1/8000秒の高精度で,しかもCDのCLV(線速度一定)に対応しており,回転数の異なる
内・外周どの位置でもこの精度を維持することができるようになっていました。これにより,ドロ
ップアウトが生じてからサーボ量を制御するそれまでの方式に比べ,トレース能力が各段に向
上し,サーボ電流の急激な変動により,電源部を介して発生するアナログ部への影響も少なく
なっていました。
電源部も大幅に強化されていました。CDP-553ESDと同等の大容量の電源トランスを2個搭
載し,デジタル系とアナログ系でそれぞれに専用化しデジタル信号に起因するアナログ系への
干渉を抑えていました。さらに,アナログ系のトランスは必要量の10倍近い容量が確保され,整
流・平滑回路も一段と強化されていました。整流容量の大きい高速ダイオードを使用し,新開発
の高音質タイプの電解コンデンサーはトータル44,000μFの大容量を確保して,しっかりした
低音の再生を実現していました。また,電源トランスの取付位置や方向も配慮され,同社のプリ
メインアンプにも搭載されているESフィルターにより,ACラインからのノイズ混入も防止されて
いました。
デジタルフィルターとして,当時最先端の高集積度4倍オーバーサンプリング方式が採用され,
不要成分の周波数下限を156.4kHzに追いやり,D/A変換後のローパスフィルター等の負担
を軽減し,段数も素子数も少ない3次GIC型ローパスフィルターの搭載が可能となり,信号経路
のシンプル化が実現していました。
D/Aコンバーターは,デジタルフィルターの信号処理速度に対応した高速タイプがL・R独立で搭
載され,微小信号レベルでのゼロクロス歪みやグリッチ(雑音)の発生が抑えられ,この結果,
L・Rのスイッチング回路や従来不可欠とされていたサンプル&ホールド回路も不要となり,D/A
変換以降のオーディオ回路構成も大幅にシンプル化されていました。さらに,オーディオ回路は
L・Rch分離の全段ツインモノ構成で,チャンネル間の干渉が排除されていました。
デジタル信号処理系は,すべてひとつのマスタークロックに完全同期させて処理が行われる「ユ
ニリニア・コンバーターシステム」が採用されていました。このシステムを構成するLSI群は,CD
専用に開発された第3世代LSIで,集積度を高めて周辺部の部品点数を半減させ,デジタル系
の安定性・信頼性の向上と消費電力の低減を実現していました。
プリント基板には,ガラスエポキシ製で不要な静電容量の発生を防ぐレジスト(保護皮膜)が施さ
れたES基板が搭載されていました。オーディオ信号系には,OFC配線材を使用し,無誘導電極
構造の複合コンデンサーや金メッキ・キャップの炭素皮膜抵抗エレメントを硬質樹脂でモールドし
た抵抗など,厳選されたパーツが大量に投入されていました。
ラインアウト系には,リニアリティに優れた大型ラインアウトボリュームが搭載され,リモコンによる
モーター駆動も可能となっていました。
デジタル出力系は,出力直前に時間軸補正用のラッチを設け,より厳密にジッター成分を除去す
るラッチド・デジタル出力が装備され,D/AコンバーターユニットDAS-703ES等と組み合わせて
より高音質な再生も可能となっていました。(CDP-555ESD発売当時,D/Aコンバーターユニット
DAS-705ESも登場するか?などと噂もされましたが,その登場はなく,ソニーのセパレート機は
翌年,
CDP-R1/DAS-R1へ
と移行していきました。)
また,アイソレーションパルストランスの搭載に加え,デジタル出力時はアナログ出力を,アナログ
出力時にはデジタル出力をカットして,相互干渉を防止するようになっていました。
操作性も当時の最高水準にありました。(今のレベルでも高水準だと思います。)リニアモーターメ
カニズムの高速性を生かし,20キーによるダイレクト選曲とミュージックカレンダーと称する20曲
目までのプログラム表示,5モードのリピート機能,20曲ランダムメモリー機能,99曲のシャッフル
プレイ機能など,洗練されたプログラムにより,高機能と操作性を両立していました。この洗練され
た機能性は,これ以降の他社のCDプレーヤーにも大きな影響を与えました。
以上のように,CDP-555ESDは,CDのオリジネーターのソニーならではの高度で先進的な内容
を持ったCDプレーヤーでした。低音のしっかりした重厚な音を持ち,その優れた操作性は使い易い
ものでした。そして,ここで開発された技術は,多くの他社のCDプレーヤーにも影響を与え,また
密かに搭載されたりしていたことは周知のことでしょう。