PIONEER CT-A7
STEREO CASSETTE DECK ¥89,800
1984年に,パイオニアが発売したカセットデッキ。パイオニアは,スピーカーやアンプのイメージが強い
ブランドですが,オーディオ総合ブランドとして,オープンリールデッキ,カセットデッキとも力の入ったモ
デルを作っていました。そして,この年,各部にしっかりとこだわった作りのCT-A9を発売し,高い評価
を受けました。その弟機として発売されたのがCT-A7でした。

走行系は,基本的に上級機の「リファレンス・マスター・メカニズム」を継承し,安定したテープ走行性能
を実現していました。「リファレンス・マスター・メカニズム」は,クローズドループ・デュアルキャプスタンメ
カニズムをベースに精度と剛性を大きく高めたものでした。左右のキャプスタン及びピンチローラーの径
を変え,ワウ・フラッターのピーク成分の重なりを分散させる共振分散型のクローズドループ・デュアル
キャプスタンとしていました。キャプスタンはサブミクロンオーダーで高精度に加工されたものを使用し,
表面にはテープのスリップを防止するFS(ファイン・ステイブル)処理という特殊な表面処理が行われて
いました。こうしたメカニズムにより,安定したテープタッチを実現し,レベル変動やドロップアウトを抑え
テープの張力変動による悪影響を低減していました。



録音・再生ヘッドには,ローインピーダンスNEWリボンセンダストヘッドを搭載していました。センダスト
薄膜を積層した構造のパイオニア自慢のリボンセンダストヘッドをさらにローインピーダンス化してリファ
インしたもので,録音・再生特性を大きく向上させていました。特に再生ヘッドのギャップ幅を0.6μmと
一段とナロー化することで,再生周波数は20kHzで約1.5dB向上させ,高域特性を改善していました。
またローインピーダンス化により,ヘッドのインダクタンス成分が減少し,過渡特性を向上させていまし
た。さらに,信号源インピーダンスの低下により,ノイズを減少させ,広いダイナミックレンジを確保して
いました。

また,録音・再生ヘッドを一体化させたコンビネーション3ヘッド構成とすることで,録音・再生ヘッドのギャ
ップは平行に保たれ,アジマスズレを防いでいました。加えて,クロストークとクロスフィードに対しては,
磁気シールドと静電シールドの2重の効果により低く抑えていました。再生側の巻線,リード線に無酸素
銅線を使用し,リード線端子に金メッキ処理を施していました。
ヘッドベースは,工学的治具を用いた精密調整により位相精度を徹底して高め,良好なヘッドタッチ,
テープ走行を実現していました。このヘッドベースは,高剛性と適度な内部損失を合わせ持つ亜鉛ダイ
キャストを組み合わせたダブル構造で,高い防振効果をもっていました。また,ヘッドベースを支えるメ
カシャーシは,従来の素材に比べ,曲げ剛性で約2.5倍の強度の厚肉の鋼板を採用し,共振を抑え
ていました。

再生イコライザーアンプはDual FET,Dualトランジスターによる差動2段SEPP出力段採用のDCア
ンプ構成としていました。ヘッドともダイレクトカップリングとし,コンデンサーを排除していました。しかも
アンプ駆動の電源に,電源ループ内のインピーダンス成分の影響を受けずに定電流を供給できるよう
にカセットデッキ初のシャント電源を,上級機同様に採用していました。

機能的には,上級機よりシンプルながら,そのエッセンスを受け継いだものとなっていました。自動的
にローディングし,自動的にテープのたるみを即座に巻き取るALTCも搭載したモータードライブ式の
オートローディング,PLAY中でもEJECTボタンを押せばメカニズムをSTOPし,自動的にイジェクトす
るパワーイジェクト機構などを搭載していました。メカニズムコントロールは,すべてマイクロコンピュー
ター制御のモータが駆動するデジタルフィードバックサーボ方式モータードライブメカニズムを採用し,
静かで優れた操作フィーリングを実現していました。
その他,SOURCE/TAPEを自動的に切り換えるオートモニター,ワンタッチで4秒間の無録音部分を
つくって録音スタンバイ状態になるオートRECミュート,ワンタッチでカウンター0付近まで自動的に早
送り,巻き戻しするテープリターン,次曲,現在曲の頭出しができるワンタッチMS,録音ボタンを押す
と録音ポーズ状態になるオートRECポーズなどが搭載されていました。テープポジションは,ノーマル
クローム,メタルの3ポジション式のオートテープセレクターが装備され,ノイズリダクションは,ドルビー
Bタイプ,Cタイプが装備されていました。
表示部は,-20dB~+10dBを18セグメントで表示するバーグラフ式FLレベルメーターが搭載され,
テープポジション連動した録音レベルのウォーニング表示も装備されていました。テープカウンターは
4桁FL表示の電子カウンターが装備されていました。



以上のように,CT-A7は,当時のパイオニアが発売したカセットデッキの意欲作CT-A9の弟機として
技術的内容をしっかりと継承し,中身の充実した3ヘッドカセットデッキとなっていました。当時,すぐれ
た性能は評価され,「中身は素晴らしいが,デザインがあか抜けない」と評されていた質実剛健型の
デッキだったといえますが,別売のサイドウッド (JT-A9・¥4,000)を装備すると高級感のある外
観となり,なかなか魅力的な1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CT-A9のすぐれた基本設計を継承して
クオリティの高い音質を実現したCT-A7。

 クオリティの高い録音・再生を支える
◎クローズドループデュアルキャプスタン。
 デジタルオーディオへの対応能力にすぐれた
◎NEWリボンセンダストヘッド。
 充実した機能をフル装備
◎オペレーションシステム。
●オートローディング/パワーイジェクト
●ウォーニングゾーン自動切換ワイドレンジFLピークメーター。
●ドルビーCタイプNR
●オートモニター
●オートRECミュート
●テープリターン
●ワンタッチMS
●ワンタッチRECポーズ




●CT-A7の仕様●


トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
ヘッド NEWリボンセンダスト再生ヘッド
NEWリボンセンダスト録音ヘッド コンビネーション型×1
特殊合金消去ヘッド×1
モーター キャプスタンドライブ用 DCサーボモーター×1
リールドライブ用     DCモーター×1
ワウ・フラッター 0.028%(WRMS・JIS)・±0.048%(W・Peak,EIAJ)
早巻時間 約80秒(C-60)
周波数特性(EIAJ) メタルテープ-20dB録音   25~20,000Hz±3dB
メタルテープ0dB録音      20~16,000Hz
クロームテープ-20dB録音 25~19,000Hz±3dB
クロームテープ0dB録音    20~11,000Hz
ノーマルテープ-20dB録音 30~19,000Hz±3dB
ノーマルテープ0dB録音    20~11,000Hz
SN比 56dB(EIAJ/ピーク録音レベル,聴感補正)
 ドルビーOFF               58dB以上
 ドルビーBタイプNR ON/5kHz  10dB改善
 ドルビーCタイプNR ON/5kHz  19dB改善
  ※第3次高調波歪率3%,聴感補正
ひずみ率 0.8%(EIAJ/1kHz,第3次高調波歪率,メタルテープ)
入力 ライン 63mV(入力インピーダンス・100kΩ)
出力
(出力ボリュームMAX)
ライン    0.63V(出力インピーダンス・7kΩ)
ヘッドホン  0.45mW(負荷インピーダンス・8Ω)
電源 AC100V,50/60Hz
外形寸法 420W×130H×374Dmm
重量 7.9kg
付属機能 ●ドルビーBタイプ/CタイプNR●オートローディング&パワーイジェクト
●ワンタッチMS●テープリターン●4桁電子カウンター●オートモニター
●オートテープセレクター●タイマースタンバイ(REC/PLAY)
●オートRECミュート
●録音レベルウォーニングゾーン切換付FLピークメーター(-40dB~+14dB・35セグメント)
※本ページに掲載したCT-A7の写真,仕様表等は1984年3月の
 パイオニアのカタログ
より抜粋したもので,パイオニア株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写
真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください  

    

 
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