STAX DA-80
CLASS-A DC STEREO POWER AMPLIFIER ¥270,000
1976年に,スタックスが発売したパワーアンプ。1938年に昭和光音工業として創立されたスタックスは
現在「イヤースピーカー」と称されるコンデンサー型ヘッドホンで有名なブランドですが,創立以来,コンデ
ンサー型のマイク,カートリッジ,スピーカー,ヘッドホンなどを頑固に作り続けてきたブランドで,多数派
ではないものの,独特の高品位な音は熱心なファンをつくってきました。アンプの分野でも,1974年に
純A級ながら150W+150Wの出力を持つDA-300を発売するなど,意欲作をつくっていました。そうし
たスタックスのパワーアンプの2号機がDA-80でした。
DA-80は,パワースイッチ,ACコード,シャーシだけがL・R共用で,電源部から完全に独立した純Aク
ラス45Wのモノフォニック・パワーアンプ2台分を1つのシャーシに組み込んだ,ツインモノラルという構
成になっていました。
回路構成は,初段に低雑音デュアルFETをカレント・ミラー負荷で使用し,二段目カスケード,終段ダーリントン
ピュアコンプリメンタリー方式の全段Aクラス回路となっていました。
DC増幅で,直線性を重視した設計となっており,超低域まで十分なダイナミック・レンジが確保されていました。
入力インピーダンスは高く設定され,プリアンプの出力による音の変化を抑えていました。NFBも適量かつ安定
にかけ,様々な負荷の接続に対して安定したアンプの動作を実現していました。
電源部は,L・R独立で電源トランスが搭載され,各chそれぞれ2つずつ,計4つのシリコン・ブリッジ・ダイオード
を通り,8個の大容量ケミコンによって平滑化された±8電源となっていました。こうした±8電源は,プリドライバー
段,パワー段にアイソレーションのすぐれた十分なパワーを供給できる能力が確保されていました。
A級プッシュプルのパワー段は,大容量33,000μF×4の電解コンデンサーとこれを補うTanδ(誘電正接:コン
デンサー内でのエネルギー損失の度合い)の少ない,すぐれた特殊コンデンサーによって,ノイズ成分の少ない
内部抵抗の低い電源でドライブされ,さらに,プリドライバー段専用に6,800μF×4の電解コンデンサーが設置
され,パワー段からの影響を抑えて,直結差動増幅器の動作を安定させるようになっていました。
パーツのや構造の面でも厳選されていました。信号を扱う部分の抵抗は金属皮膜抵抗を使い,コンデンサーには
Tanδのすぐれた特殊なものが取り入れられていました。基板のランド(部品の取付け及び接続に用いる導体パ
ターン)も直流抵抗を下げる工夫が優先され,並行ジャンパーの採用で,信号の通るラインに余分なインダクタンス
(電流の変化による誘導起電力)や電気抵抗が入らないようにしていました。
スピーカー端子も,接触抵抗の低い金メッキされた大型のアメリカ・ハーマン・H・スミス社製が採用され,また,ドラ
イバーユニット,パワーユニットは,万一の事故に備えて,プラグイン方式が採用され,それぞれ独立して交換できる
などサービス性の向上も図られていました。
さらに,発熱の多いAクラスパワーアンプであるため,ヒートシンクは余裕のある大型のものが使用され,熱の対流
を十分計算したシャーシ構造がとられ,自然空冷のみでパワートランジスターのTj(ジャンクション温度)を安全な温
度に保つようになっていました。
アンプやスピーカーを守る保護回路は,(1)出力ショート保護回路,(2)過大入力保護(3)温度保護,(4)スピーカー
保護の4種類が設けられていました。これらの4つの保護回路のうち,温度保護とスピーカー保護では,回路が働く
とただちに電源をOFFにしてパイロットランプは点灯したままパワースイッチのランプが消えた形になりますが,再び
パワースイッチを入れ直すことによってアンプの動作は復帰するようになっていました。また,ほの保護回路は,パ
ワースイッチON-OFF時のミューティング回路の働きも兼ねていました。
以上のように,DA-80は,同社のアンプへのデビュー作であり純Aクラスアンプの1号機DA-300を小型化し,より
実用的な形にまとめたパワーアンプで,品位の高いしっかりした再生音をもっていました。知る人ぞ知る実力派の
パワーアンプだったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
DA-80・・・ファミリーユースの声に応えて放つ
スタックスのA級パワーアンプ第2号です。
あのDA-300から見事に受け継がれたレンジの広さ,
信号を忠実にトランスデュースする解像力の高さに加えて,
このDA-80,一粒一粒の表現力に,明らかにちがう
<新らしい表情>を持っています。
実現させました。AクラスDCアンプにR.L.独立±8電源。
しかも世界中から厳選された音質重視のパーツ群。
まさに”商品化できる限界”を越えた
”忠実な波形伝送に欠かせない贅沢”。
スタックスならではのアンプです。
◎全段Aクラス,初段FET差動増幅
+カスケードアンプによるプリドライバー
終段ピュアコンプリメンタリー方式
45W+45W 2チャンネルDCアンプ
◎Rch,Lch,独立の電源部はさらに
プリドライバー段,パワー段に分けられ
合計±8電源構成。
◎R.C.L.Trはもちろん,プリント基板
ワイヤー,入力ジャック,出力ターミナルに
いたるまで世界中から集め,質による変化を
耳で確かめ,厳選されたパーツのみで構成。
◎放熱効果の高い大型ヒートシンクと
十分に検討されたシャーシレイアウト。
微弱なノイズも排した自然空冷設計。
◎万全を期した,4つの保護回路。
●DA-80の規格●
型式 | ステレオ・パワーアンプ |
回路方式 | A級動作 DCアンプ 初段FETによるピュア・コンプリメンタリー方式 左右独立±4電源(計8電源) |
実効出力 | 45W+45W |
使用半導体 | デュアルFET2,デュアルトランジスタ2,トランジスタ27 ブリッジダイオード4,ダイオード20 |
パワー・バンド幅 | 5〜50kHz THD0.1% −3dB出力時 |
全高調波歪率 8Ω45W出力時 |
1kHz:0.0025% DC〜10kHz:0.005% |
ダンピングファクター 1kHz 8Ω |
600 |
SN比 | 100dB以上 |
入力感度/入力インピーダンス | 0.89V/100kΩ//100PF |
周波数特性 | 1W出力時(DCオペレート):DC〜500kHz/+0〜−3dB (ACオペレート):3Hz〜500kHz/+0〜−3dB |
利得 | 26.3dB |
負荷 | 2Ω以上/音楽再生時 4Ω以上/テスト時 |
スルーレイト | 20V/μsec |
位相差 | +0°−3°/0〜10kHz |
クロストーク | −90dB以下/1kHz |
電源ドリフト | ±3mV ±10% |
時間ドリフト | ±25mV(SW-ON後約10分で安定) |
温度ドリフト | ±10mV 0℃〜40℃ |
信号源ドリフト | 検知不能 |
消費電力 | 320W |
電源電圧 | 100V/117V ±10% |
電源周波数 | 48〜62Hz |
使用温度範囲 | 0℃〜40℃ |
最大入力電圧 | 50V(AC/DC共) |
ショート保護回路 | 2Ω以下で動作 |
スピーカー保護回路 | 約±5Vで動作 |
温度保護回路 | トランジスタ・ケース温度 約120℃で動作 |
アイドリング電流ドリフト | SW-ON時:約130% SW-ON後約10分:100% |
アッテネーター | 0dB/−10dB/−20dB/−∞ |
外形寸法 | 437W×163H×407Dmm |
重量 | 19.5kg |
STAX DA-80M
CLASS-A DC MONAURAL POWER AMPLIFIER ¥250,000
同じ年の1976年,DA-80をベースにモノラルアンプとして作り上げたのがDA-80Mでした。DA-80では,
1つのシャーシに2台のモノラルアンプを組み込んだ構成になっていましたが,DA-80Mでは,モノラルアン
プ1台として,大出力と性能を追求していました。
回路構成は,DA-80と基本的に同じで,初段にはカレントミラー負荷の低雑音デュアルFET2N3922を使
用し,二段目を高周波特性のすぐれたカスケード接続とし,終段ピュアコンプリメンタリー方式の全段Aクラス
回路となっていました。そして,DA-80の45W+45Wに対して,90Wときちんと倍の出力となっていました。
電源部は,大型のトロイダルトランス1基が搭載され,プリドライバー段には22,000μF×2,パワー段には
44,000μF×2の大容量ケミコンが配され,Tanδのすぐれたコンデンサーを含む新回路も含む,内部抵抗
の低い強力な電源部となっていました。この前段後段独立±4電源構成で,パワー段からプリドライバー段へ
の影響を抑えて直結差動増幅器の動作を一層安定させていました。また,アースには,銀メッキの施された2mm
厚の銅板が使用されていました。
パーツ,構造などの面でも,DA-80を継承した内容を持ち,自然空冷でノイズのないAクラス動作の運用が可
能となっており,4つの保護回路により安全な動作が実現されていました。
以上のように,DA-80Mは,DA-80のモノラル化バージョンとして,より性能を追求した形に完成されていまし
た。細やかであたたかさを持つ品位の高い音は同社のヘッドホンにも通じるところがあったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
A級DC増幅を原点として,その極限をめざすスタックスから
DA-300,DA-80に続いてDA-80Mが誕生。
膨大な視聴時間と,測定の裏づけに支えられた
色づけのない音質,力強さ。
極小から極大に至るダイナミックレンジの表現力。
これこそ真の高忠実度=音楽再生を可能にする
90Wモノーラルパワーアンプです。
余裕ある電源部。忠実な波形伝送。
クロストークの根絶。音楽性の表現。
あらゆる妥協を排して,今までオーディオに
求められていた全てをみごとに実現した,
スタックスならではのDA-80Mです。
◎全段Aクラス,初段FET差動増幅+
カスケードアンプによるプリドライバー
終段ピュアコンプリメンタリー方式
90WモノーラルDCアンプ
◎強力な電源部
プリドライバー段,パワー段に分けられ
レギュレーションを超安定化
◎R.C.L.Trはもちろん,プリント基板
ワイヤー,入力ジャック,出力ターミナルに
いたるまで世界中から集め,質による変化を
耳で確かめ,厳選されたパーツのみで構成。
◎放熱効果の高い大型ヒートシンクと十分
に検討されたシャーシレイアウト。
微弱なノイズも排した自然空冷設計。
◎4つの保護回路
●DA-80Mの規格●
型式 | モノーラル・パワーアンプ |
回路方式 | A級動作 DCアンプ 初段FETによるピュア・コンプリメンタリー方式 ±4電源 |
実効出力 | 90W |
使用半導体 | トランジスタ:21石(デュアルFET×1,デュアルTR×1) ダイオード:13石(内ブリッジダイオード×2) |
パワー・バンドウィズス | 5〜50kHz THD0.1% −3dB出力時 |
全高調波歪率 8Ω45W出力時 |
0.004%/1kHz 0.04%/20Hz〜20kHzいずれも90W出力時 |
ダンピングファクター 1kHz 8Ω |
600 |
SN比 | 100dB以上 |
入力感度/入力インピーダンス | 1.26V/100kΩ//100PF |
周波数特性 | 1W出力時(DCオペレート):DC〜500kHz/+0〜−3dB (ACオペレート):3Hz〜500kHz/+0〜−3dB |
利得 | 26.3dB |
負荷 | 2Ω以上/音楽再生時 4Ω以上/テスト時 |
スルーレイト | 20V/μsec |
位相差 | +0°−3°/DC〜10kHz |
電源ドリフト | ±3mV ±10% |
時間ドリフト | ±25mV(SW-ON後約10分で安定) |
温度ドリフト | ±10mV 0℃〜40℃ |
信号源ドリフト | 検知不能 |
消費電力 | 320W |
電源電圧 | 100V/117V/220V/240V ±10% |
電源周波数 | 48〜62Hz |
使用温度範囲 | 0℃〜40℃ |
最大入力電圧 | 50V(AC/DC共) |
ショート保護回路 | 2Ω以下で動作 |
スピーカー保護回路 | 約±5Vで動作 |
温度保護回路 | トランジスタ・ケース温度 約120℃で動作 |
アイドリング電流 | SW-ON時:約130% SW-ON後約10分:100% |
アッテネーター | 0dB/−10dB/−20dB/−∞ |
外形寸法 | 437W×166H×407Dmm |
重量 | 20kg |
※本ページに掲載したDA-80,DA-80Mの写真,仕様表等は1977年
5月,1977年7月のSTAXのカタログより抜粋したもので,スタックス工業
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