ＫＥＮＷＯＯＤ ＤＰ-Ｘ９０１０
ＤＩＳＣ ＤＲＩＶＥ ＯＮＬＹ ＤＩＧＩＴＡＬ ＯＵＴＰＵＴ
ＣＯＭＰＡＣＴ ＤＩＳＣ ＰＬＡＹＥＲ ￥７９，８００
１９８８年にケンウッドが発売したＣＤトランスポート。中級クラスでは珍しくトランスポート
に専用化したモデルで，振動対策等しっかりとした作りを持つ，正攻法で設計された1台
でした。
ＤＰ-Ｘ９０１０は，「プレーヤーの原器」としてあるべき姿を形にするという思想のもと，低
重心のメカニズム部と重量のある電源部をセンターにレイアウトし，サーボ系のアナログ
部と信号処理のデジタル部を左右に分離するというコンストラクションがとられていました。
プレーヤーは回転機器なので，モーターをシャーシの中心に持ってきて重心を低くし，バ
ランスをとり，回転によるシャーシのねじれを少なくして，ＣＤのスムースな回転を得ようと
したものでした。また，メカニズムをセンターレイアウトすることにより，機械系のみならず
電気的にもアナログ部とデジタル部の相互干渉を抑え，Ｄ／Ａコンバーターとのセパレー
ト化することのメリットを生かそうというもので，理想的なコンストラクションによりディスクド
ライブ能力，信号ピックアップ能力を高めようという設計でした。
ピックアップ部の駆動には，高精度なリニアモーターメカニズムを採用していました。センサー
コイルとドライブコイルをもち，トラッキング方向にのみ動くマウントにピックアップが取り付け
られたリニアモーター方式でした。センサーコイルに発生した電圧を増幅し，ＮＦをかけること
により，従来のギヤ駆動ではできなかった，速度制御がかかり，ピックアップは送り信号に応
じ，一定速度での移動が可能で，しかもバックラッシュがほとんどなく，速度制御をかけている
ためマウントのサーボＦ特が高い周波数まで伸びていることで，トラッキング方向に対しての
追従性と収束性が大きく改善されていました。収束が良くなるためにサーチ時にトラッキング
サーボの収束性も良くなり高速サーチが可能となっていました。また，ディスクの偏芯に対して
もトラッキングアクチュエーターに代わってリニアモーターメカニズムでピックアップ全体が追従
するようになり，アクチュエーターは常にセンターで動作するため，良好なＲＦが得られるよう
になっていました。
ピックアップのサーボコントロールは，伝統の「オプティマムサーボコントロール」が受け継が
れ，改良された「スーパーオプティマムサーボコントロール」が搭載されていました。音楽再生
中のサーボゲインをできるだけ下げ，サーチ時のみサーボゲインを上げるゲイン切換を行い，
キズやホコリに対しては，あらかじめ設定されたエラー電圧をサーボ系に与え，余分な力をピ
ックアップに与えない状態で通過させ，その後にサーボコントロールを効かせてビットを正確に
トレースするというシステムで，キズや汚れ，音圧振動に強くエラーの発生を抑え，ミクロン単
位のピット別のトレースの安定性を向上させ，高音質トレースを可能としていました。
外部及び内部の振動対策もそれまでの同社の「マルチインシュレーションシステム」を受け継
ぎ「ＮＥＷマルチインシュレーションシステム」と称して総合的に行われていました。
ピックアップは亜鉛ダイキャストボディを採用して大質量ピックアップを実現し，シャーシに固定
されたかのような状態を実現して高精度の制御を可能にしていました。さらに，ピックアップを
支える部分には，コイルスプリングと特殊弾性ゴムによるハイブリッドインシュレーターを使用し
つり下げ方式の低重心構造となっていました。メカニズム部そのものも，特殊インシュレーター
方式で支えられていました。筐体の脚部は，接地部に特殊弾性ゴムを配して振動を吸収し，さ
らにダブルコイルスプリングサスペンションにより直線性を保ちながら振動を吸収する「ＮＥＷ
ストラットサスペンション」を採用していました。底板は，１．６mm厚の鉄板で空気振動を防ぎ，
ボディは２枚の厚さが異なり共振周波数の違う鉄板をはり合わせ，内部損失によって振動を吸
収する２重構造ケースになっていました。
以上のように，ＤＰ-Ｘ９０１０は，この価格帯では数少ないＣＤトランスポートとして発売された１台
で，同社のＤ/Ａコンバーター内蔵型プリメインＤＡ-９０１０（￥９９，８００）との組み合わせを想定さ
れたトランスポートでした。しかし，中級クラスながら理詰めでしっかりと物量が投入された本格的
な設計で，知る人ぞ知る実力派のトランスポートでした。
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