DTC-1000ESの写真
DTC-1000ES
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥200,000
DAT(デジタル・オーディオ・テープ)は1987年に第1号機が各社から発売されました。各社価格的にもよく
似ていました。なぜか型番もこのソニー機のように1000というのが多かったようです。各社の1号機は,DAT
デッキのメカからすべて開発するのは大変なことなので,メカ部を他社から買っていたり,OEMだったものも多
かったようです。それらの中の原器的存在がこのDTC-1000ESでした。ソニーの商品化第1号機であるとと
もに,同社や他社の数多くのDATデッキのベースとなったオーソドックスなDATデッキでした。

DATはビデオデッキと同様の回転ヘッドによる記録再生方式をとっていました。DTC-1000ESのヘッドドラム
は,直径30mmの超小型で,2個のヘッドが取り付けられ,テープはドラムの4分の1に接触する「90°ラップ」
という方式をとっていました。この方式により,テープをローディングしたままで高速サーチが可能となっていまし
た。まさにビデオデッキのメカの超小型精密版といった趣で,高いビデオ技術を持つソニーならではという感じで
した。
駆動部は,最も贅沢な4DD(ダイレクト・ドライブ)方式で,ドラム,テイクアップリール,サプライリール,キャプス
タンのそれぞれにダイレクトドライブでソニー自慢のリニアBSLモーターを1個ずつ搭載していました。この他に,
テープローディング用に1個,カセットローディング用に2個のモーターを搭載し,メカ部全体では計7個のモータ
を搭載していました。

DTC-1000ESの内部DTC-1000ESのメカブロック

精密さが要求されるメカシャーシには,非磁性体の高硬質アルミ合金を使い,メカニズムを構成するパーツを
ブロック単位でまとめ,信頼性を向上させていました。高硬質アルミ合金は,加工性の高さと鋼板の強度を併
せ持ち,剛性を増したもので,平面度などにおいて高い精度を持ち,精度を長期にわたって維持できるという
特性をもつ優れた素材ということでした。テープ走行系メカニズムは,@ドラムヘッドブロック,Aキャプスタンブ
ロック,Bリールモーターブロック,Cテンション・レギュレーターブロックに分かれ,それぞれのブロックが数本
のビスで高硬質アルミ合金ベースユニットにマウントされた構造で,ここのパーツをそれぞれにマウントする方
式に比べ高い精度が得やすく,精度が長く維持でき,振動や電気的なシールドも容易であるというメリットを持
っていました。

DTC-1000ESでは,CDと異なり接触式でテープであるという点が大きく異なるため,デジタル信号処理回路
やサーボコントロールもかなり違いがあったようです。2つのヘッドが交代で90°ずつテープに接触して信号を記
録したり読み取ったりする関係で,ヘッドが接触していない空白の時間が生じ,それをうめるため,録音時には信
号をデジタル信号処理回路でプールしておき,ヘッドが接している間に圧縮して送り込み,読み取り時には逆の
動作を行っていたそうです。また,テープである関係上,信号面のキズによるエラーに強くする必要があるため,
「インターリーブ」と「ダブルリード・ソロモンコード」という,CDより大幅に強化されたエラー訂正処理を行っていた
ようです。これらのデジタル信号処理は当然大規模なものになるため,1チップでCD全体を制御できるほどの,
15万〜20万個という高集積度を誇る新開発のLSIを2個搭載していました。(シールドケースに入っていて内部
写真では見えませんが。)
また,サーボ系は,高度な4DDメカニズムに対して,ドラム制御,キャプスタン制御,両リールモーター制御の3
系統に分かれていて,非常に高精度なサーボコントロールが行われていました。ドラム制御は,毎分2000回転
を正確に維持するために専用ICによるデジタルサーボを新開発して搭載していました。キャプスタンサーボには
ヘッドのトラッキングずれを防ぐために極めて高精度なコントロールが必要とされます。記録時に,トラッキングを
コントロールするための信号を書き込み,再生時には,その信号を読み取ってサーボをかけることで自動的にトラ
ッキングを調整するATF(Auto Tracking Finding・自動トラッキング追尾システム)を採用していました。リー
ルモーターは,それぞれDD(ダイレクトドライブ)となっていることを利用し,テープのテンションを一定に保つサー
ボにより極めて正確な回転を実現していました。

録音系のA/Dコンバーターには,世界の録音スタジオで使われているソニーのデジタル・レコーディングシステ
ムPCM-1630やPCM-3324に使用しているディバイスと全く同じA/Dコンバーターを左右独立して使用し,
高い信頼性を実現していました。再生系のD/Aコンバーターには,4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター
と左右独立のデュアルD/Aコンバーターを搭載していました。左右独立のA/D,D/Aコンバーターに対応して
全体もツインモノコンストラクションになっていました。また,アースポイントの電位差に起因するグランドノイズを排
除するため,1ポイントアース設計になっていました。さらに,基板にはバスアースを設けて,基板インピーダンスを
低下させることで,高周波の影響を受けにくくし構造的にも補強を施して,分割振動の低減を図っていました。

デジタル系とアナログ系の相互干渉を防ぐために,電源系もデジタル・アナログ独立構成とされ,電源トランス自体
オーディオ系用とデジタル系とその他コントロール,メカドライブ用を独立させた2トランス構成となっていました。ま
た,2つのトランスのアースポイントを一致させ,グランドループノイズを排除するため,1モジュールの中に樹脂を充
填して封入した構造になっていました。
内部コンストラクションも,右半分がA/D,D/Aを含めたオーディオ回路ブロック,左半分がテープ走行系メカニズ
ム,電源回路,デジタル信号処理回路,システムコントロールはフロントパネルのすぐうしろというように,それぞれ
ブロック構成となっていました。頑丈な外部シャーシに加え,アナログブロック,デジタル信号処理,テープ走行系
メカニズムを分ける形で,サブシャーシに設置され,強度を増すとともにシールドの強化が図られていました。さらに
アナログブロックを取り巻くシャーシには銅メッキが施され,磁気歪みの低減が図られていました。

DATは,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けられ,それを利用したデジタルならではの
高度な機能が実現されていました。スタートIDという信号を自動・手動で打ち込むことにより,自在な頭出しが可能
になっていました。@スキップ再生(スキップIDを打ち込むことにより不要な部分を自動的に飛ばして再生)Aダイレ
クトサーチ(プログラムナンバーによりダイレクトに頭出し再生)Bミュージックスキャン(8秒間ずつ曲頭を再生)Cブ
ランクサーチ(未録音部分を自動的に探す)など,テープデッキながら便利な機能が搭載されていました。

以上のように,録音機として非常に高度で高性能なDATの原器ともいえたのがDTC-1000ESでした。他社製の
DAT,あるいはこれ以降のDATは,何らかの形でこのDTC-1000ESをお手本とした形になっていたと言っても過
言ではなかったと思います。しかし,この第1世代のDATは,その規格のあまりの高性能・高音質ゆえ,著作権問
題で大きくつまずき,CDから直接デジタル録音できなくされているなど,大きな問題を抱えての船出となってしまい
ました。
 

 
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




 
将来にわたって「原点はここにある」と言えるほどの
リファレンスを求めて。あくまでも音質にこだわった
ソニーDATデッキのファーストモデルです。
 

◎超硬質アルミ合金ベースユニット搭載
  4D.D.モーターメカニズム
◎4fsデジタルフィルター採用の
  デュアルD/Aコンバーターブロック
◎大型2電源トランスに代表される
  徹底した音質優先設計
◎リファレンス機として必要な機能に
  絞り込んで採用したサブコード機能
◎ワイヤレスリモコン装備
◎デジタル入/出力端子
 


●主な仕様●



 
 
 
 
 

型式 デジタルオーディオテープシステム
チャンネル数 2チャンネルステレオ
サンプリング周波数 48kHz(録音/再生)
44.1kHz(再生のみ)
32kHz(DIGITAL INのみ録音/再生)
量子化 16ビット直線
エラー訂正 ダブルエンコーデッドリードソロモンコード
エンファシス プリエンファシス(録音時,アナログ入力に対して)OFFに固定
ディエンファシス(再生時)ON/OFF自動切替え
変調方式 8-10方式
周波数特性 2〜22,000Hz±0.5dB
ダイナミックレンジ 90dB以上(録音時,エンファシスOFF)
SN比 92dB以上(録音時,エンファシスOFF)
全高調波歪み率 0.005%以下
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下
インターフェース アナログ LINE IN/OUT(ピンジャック)
DIGITAL IN/OUT(EIAJ準拠同軸)
電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 32W
大きさ 470(幅)×100(高さ)×420D(奥行)
(サイドウッド取り外し時の幅:420mm)
重さ 約12kg
 
※本ページに掲載したDTC-1000ESの写真,仕様表等は1988年3月のSONYのカタログ
 より抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
 無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。        
  
 
 
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