DTC-2000ESの写真
SONY DTC-2000ES
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥200,000
ソニーが1993年に発売したDATデッキ。そして,ソニー歴代のDATデッキの中で最後の高級機となってしまいました。
DATの録音の枠48kHz・16ビットの中に20ビット相当の情報量を記録しようとするSBM(Super Bit Mapping)を搭
載し,その音で高い評価を得た1台でした。

DTC-2000ESの最大の特徴は,「SBM(Super Bit Mapping)方式」と名付けられたデジタルデータ変換技術を核と
する「ハイデンシティ・リニアA/Dコンバーター・システム」にありました。1993年当時,DATをはじめとするデジタルレコー
ダーのA/Dコンバーターでは,ΔΣ(デルタ・シグマ)方式が主流になっていました。ΔΣ方式のA/Dコンバーターは,「0」
と「1」のデータ列を生成するΔΣモジュレーターと,生成したデータ列から高精度な演算によって1fsのデジタルデータを生
成するデシメーション・フィルターの2つのブロックから構成されています。従来,ノイズを極端に嫌うΔΣモジュレーターと時
にノイズを発生するデシメーション・フィルターは1個のIC上に展開されていたため,その音質上の影響が見られていました。
DTC-2000ESでは,ΔΣモジュレーターを載せたパルスA/DコンバーターIC(CXD8493)と,デシメーションフィルター
やSBM回路,A/Dダイレクトシンク回路を搭載したSBMデジタルフィルターIC(CXD8482)を新規に開発し,それぞれが
分離したセパレート構造として,ノイズ感の少ない良質なA/D変換を実現していました。

DTC-2000ESのA/Dコンバーター

DTC-2000ESのA/Dコンバーターのアルゴリズム

DTC-2000ESに搭載されたパルスA/Dコンバーターは,64fsの演算レート(=標本化周波)と5次の演算次数のもので
量子化ノイズを高域にシフトするノイズシェーピングと合わせ理論SN比119dBという高精度な変換特性を持っていました。
また,アナログ信号の高速な標本化の結果,前段に置かれるアナログ・ローパス・フィルター(アナログLPF)をゆるやかな特
性にでき,次数の低い群遅延特性の良好なアナログLPFを使用することで音質の劣化を抑えていました。

アナログ信号の24kHz以上の成分や高域にシフトされた量子化ノイズの処理はSBMデジタルフィルターICの中のデシメー
ションフィルターで行われます。デシメーションフィルターは,移動平均フィルターとFIRフィルターで構成され,64fsレートのデ
ータを1fsレートに落とすはたらきをします。DTC-2000ESに搭載のデシメーションフィルターは,5段の移動平均フィルター
と,総合次数213次,係数語長26ビットのFIRフィルターによる大規模演算により,120dB以上の減衰量を獲得し,リップル
が±0.00001dB以内という超平坦な特性を持つ高性能なものでした。

DTC-2000ESに搭載された「SBM(Super Bit Mapping)」は20ビットのデータを16ビットの中に織り込む処理を行うと
いうもので,デシメーションフィルターから送り出されてくる24ビットのデータのうち16ビットとの差である下位8ビットを全て捨
ててしまうのではなく,4ビット分を織り込むことによりアナログ入力からの録音において,より高音質を実現する技術でした。
原理としては,人間の聴覚特性を利用し,量子化ノイズを全周波数帯域にわたって均一に減らすのではなく,感度の高いとこ
ろを十分に下げることで聴感上のダイナミックレンジを拡大するというものでした。そこで,SBMではフィードバック用のノイズ
シェイピングフィルターに,聴感特性を考慮した周波数特性を持たせることで,感度の高い部分の量子化ノイズを重点的に減
らすようにしていました。この結果,量子化ノイズは,人間の耳に付きにくい15kHz以上では,若干ノイズが増えるものの,
3kHz以下では10dB以上改善されていました。

「A/Dダイレクトシンク」は,デジタル信号処理回路を統御するマスタークロック信号の純度を高め,ジッターを少なくする技術
で,従来マスタークロックをデジタル部の基板に載せ,そこから各回路へクロック信号を配分するというスタイルをとっていたの
に対し,マスタークロックをオーディオ部の基板に載せ,SBMデジタルフィルターICの中に設けられた「A/Dダイレクトシンク」
回路を介してパルスA/Dコンバーターに直結し,高純度なクロック信号でA/Dコンバーターを動作させるというものでした。こ
れにより,実際にクロック波形の乱れが少なくなっていました。

DTC-2000ESの内部

DTC-2000ESは,ソニーのDATデッキとしては初めて中央にメカデッキと電源トランスを配置し,左右にデジタル部,オーディ
オ部を振り分けたミッドシップ・コンストラクションを採用していました。これにより,まず,重量的に重いメカとトランスが中央部に
位置するため左右のウェイトバランスが安定して外部からの振動に対して強くなっていました。さらに,デジタル部とアナログ部
が明確に分かれることで,デジタル部からのアナログ部への影響が大幅に低減されていました。そして,3つのブロックは,銅
メッキ処理を施したインナーシャーシで遮断され,振動面からも電気的な相互干渉排除という面からもより強固なコンストラクシ
ョンになっていました。

DTC-2000ESのヘッド

ヘッドは,録音/再生用の1組2個のヘッドとは別に,モニター専用の1組2個のヘッドを設けた4ヘッド構成になっていました。
これにより,録音同時モニターが可能となっていました。
メカデッキには,キャプスタン用,供給側リール用,巻き取り側リール用,そしてヘッドドラム用にそれぞれ専用のダイレクト・ド
ライブモーターを搭載した4D.D.メカニズムが搭載されていました。しかも,これらのモーターには原理的にゴギングの少ない
BSL(ブラシ&スロットレス)モーターを採用し,高精度かつ滑らかなテープ走行を実現していました。

DTC-2000ESのD/Aコンバーターは,同時期に発売されていた同社のESシリーズのCDプレーヤーに搭載されていた「ス
コアデジタルフィルター(CXD2567)」と「アドバンスト・パルスD/Aコンバーター(CXD2562)」の組み合わせが採用されて
いました。
「スコアデジタルフィルター」は,45ビットにも及ぶ高精度演算を行うオーバーサンプリング技術に加え,ソニーでは初めて,D/A
変換前の信号に疑似ランダム信号(ディザ信号)を加えることで,デジタルフィルターの出力部において発生する量子化ノイズを
オーディオ信号と無相関化するというものでした。(SCORE(スコア)とは,Subliminal Correlation=無相関化の略称)これに
より,透明感のある音を実現したということでした。
「パルスD/Aコンバーター」は,1個の電流源と1個の電子スイッチでオーディオ信号を出力する1ビット系のD/Aコンバーターで
「アドバンスト・パルスD/Aコンバーター(CXD2562)」は,それをさらに改良したものでした。可聴帯域の再量子化ノイズを低減
するとともに,可聴帯域外への急激なノイズ増加を避けられる3次ノイズシェイピングを採用し,互いに補数関係にあるPLM(パル
ス・レングス・モジュレーション)波2出力を差動合成,片チャンネル4D/A出力で構成するコンプリメンタリーPLMを採用した当時
ソニーの最新のD/Aコンバーターで,出力密度90メガパルス/秒(毎秒9000万パルス)を実現し,理論ダイナミックレンジ131
dBを誇る1ビットD/Aコンバーターでした。

DTC-2000ESには,ソニーの据え置き型DATデッキとして初めてマイク端子が備えられ,単品の高級マイクロホンアンプと同様
の初段にデュアルFETを使用した贅沢な構成のマイクロホンアンプを搭載していました。44kHzモードでのアナログ録音が可能
になっている仕様と合わせ,アナログ入力で威力を発揮するSBMを生かして,自主制作CDのマスター録音機として活用できるよ
うになっていました。

デジタルデータを受け取り,インターリーブをかけたり,エラー訂正を行ったりするデジタル処理LSIには,第3世代のDSP・LSIであ
るCXD-2605を使用し,これらLSIを高密度4層基板に実装し,高性能とシンプルな内部構成を実現していました。デジタル入力
は,同軸1系統,光2系統を備えていました。

以上のように,DTC-2000ESは,ソニーが持ち前のデジタルオーディオの技術を存分に投入した高性能機でした。残念ながら現
在では生産中止となってしまい,それを惜しむ声も多いはずです。DATを代表する名機の1つだと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 

4ヘッド&4D.D.モーターメカニズム搭載。
銅メッキ高剛性シャーシなど
根本的な部分からしっかり作り上げた
リファレンスモデル。

◎SBMデジタルフィルター搭載
◎4ヘッド構成
◎4D.D.モーターメカニズム
◎高剛性シャーシ&ミッドシップドライブ
◎アドバンスト・パルスD/Aコンバーター
◎44.1kHzでアナログ入力録音も可能
◎豊富なサブコード編集機能
◎デジタル・フェードイン/アウト
◎デジタルピークマージン表示
◎fsマップ機能
◎CDのQコードデコード
 


●DTC-2000ESの主な仕様●


型式 デジタルオーディオテープシステム
チャンネル数 2チャンネルステレオ
サンプリング周波数 48kHz/16ビット直線(録音/再生)
44.1kHz/16ビット直線(録音/再生)
32kHz/16ビット直線(DIGITAL INのみ録音/再生)
32kHz/12ビット非直線(録音/再生)
エラー訂正 ダブルエンコーデッドリードソロモンコード
エンファシス プリエンファシス(録音時,アナログ入力に対して)ON/OFF切替
ディエンファシス(再生時)ON/OFF自動切替え
変調方式 8-10変換
周波数特性 2〜22,000Hz±0.5dB(エンファシスOFF,SBM OFF)
ダイナミックレンジ 94dB以上(エンファシスOFF,SBM OFF)
SN比 94dB以上(エンファシスOFF,SBM OFF)
全高調波歪み率 0.0035%以下(1kHz,エンファシスOFF,SBM OFF)
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下
インターフェース アナログ LINE IN/OUT(ピンジャック)
DIGITAL IN/OUT(EIAJ準拠同軸および光)
電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 46W
大きさ 470(幅)×135(高さ)×380D(奥行)
(サイドウッド取り外し時の幅:430mm)
重さ 約12.5kg
※本ページに掲載したDTC-2000ESの写真,仕様表等は1993年10月のSONYの
 カタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これら
 の写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。        
  
  
★メニューにもどる           
 
   
★デジタルレコーダーのページにもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。                      


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system