EL-7の写真
SONY EL-7
STEREO ELCASET DECK ¥198,000

EL-7Bの写真
SONY EL-7B
STEREO ELCASET DECK ¥204,000

1976年にソニーが発売したエルカセットデッキ。「オープンリールの音をカセットで」のうたい文句のもと
ソニー,ティアック,テクニクスが共同開発したエルカセット規格のデッキ第1号機でした。カセットテープ
の問題点を解消すべく開発された上位規格で,当時,その性能はすばらしいものでしたが,残念ながら
あまり普及することなく消えていきました。

エルカセットは,ソニー,ティアック,テクニクスがこの2年ほど前から共同開発していたテープデッキの
規格で,オープンリールと同じ6.3mm幅のテープをA-6サイズ(文庫本サイズ)のカセットにおさめ,
9.5cm/sのテープ速度と相まって,オープンリールの音をカセットの便利さで実現しようとしたものでし
た。実際,このテープ幅とテープ速度により,単位時間あたりの記録に使われるテープ面積は通常のカ
セットテープの約3.3倍になり,そこに記録可能な情報量がうかがい知れます。

エルカセットのローディングエルカセットとカセットテープの比較

エルカセットのもう一つの特徴が「アウターテープガイダンス方式」でした。カセットテープの場合,カセットハ
ーフの加工精度が大きくテープの走行性能に影響を及ぼすことは知られています。エルカセットでは,カセ
ットハーフの影響を抑えるために,テープをカセットハーフから引き出し,デッキのメカニズムでホールドして
駆動することで,デッキの性能により高い走行精度が実現されるようになっていました。また,この方式によ
りデュアルキャプスタン方式や3ヘッド化が容易にできるというメリットもありました。

EL-7のメカニズム部
EL-7の走行系FGサーボモーター

EL-7の走行系は,エルカセットのメリットを生かし,2つのキャプスタンを備えたクローズドループ・デュアル
キャプスタン方式になっていました。これにより,変調ノイズの低減と安定したテープテンション及びヘッドタ
ッチが実現されていました。
また,モーターは,キャプスタン用1,リール用2というオープンリールデッキ並の3モーター方式で,高精度
高安定度,高耐久性を実現していました。キャプスタン用モーターには,駆動モーターの回転軸にFGを直結
したFG周波数サーボモーターが搭載され,0.04%WRMSのワウ・フラッター特性を実現していました。
リール用のモーターは,鉄芯を除いたコアレス方式で,慣性質量が低く,すぐれた立ち上がり特性を実現し
ていました。
この走行系のコントロールには,ロジカルコントロール回路が搭載され,電磁ソレノイド駆動を通して効率よく
動作することで,精度耐久性,フェザータッチの操作が実現されていました。テープ終了時のシャットオフ機
構は,テープ両端の透明なリーダーテープをフォトトランジスタで感知して動作するもので,テープに負担を
かけない機構になっていました。

ヘッドは,録音,再生,消去の3つのヘッドが完全に独立した3ヘッド方式で,録音ヘッドには7ミクロン,再生
ヘッドには1.6ミクロンの最適なヘッドギャップが設定されていました。また,すべてのヘッドが,コア部だけ
でなくガード部にも同質のフェライトを使用した「F&F(フェライト&フェライト)ヘッド」を搭載し,すぐれた周波数
特性,リニアリティ,磁気飽和特性,高い耐久性を実現していました。
再生ヘッドは,FETを使用して,再生アンプとコンデンサーを介さずに直結されたダイレクトカップリング方式で
ノイズ,高調波歪みが低く抑えられていました。

ノイズリダクションとしてドルビーNR(Bタイプ)が搭載され,FMエアチェックの際に19kHzのパイロット信号
による誤動作を防ぐMPXフィルターも搭載されていました。
入力は,LINEとMICを備え,それぞれ独立してのレベルコントロールができるようになっており,マイクミキシ
ングができるようになっていました。また,スイッチを押すと無録音状態になるREC MUTE機構も装備され
ていました。
テープポジションは,バイアス,イコライザ独立のTYPE-T(NORMAL),TYPE-U(FeCr),TYPE-V(Cr)
が装備されていました。

以上のように,オープンリールデッキの性能をカセットで実現しようとした意欲的な規格であったエルカセットデ
ッキEL-7は,ソニーの最上級機としてメカニズム,機能ともよく練られた完成度の高いものでした。オープンリ
ール,カセットの弱点を十分に研究したその内容,性能はすぐれたものでしたが,テープ,デッキとも高価であ
ることや,カセットテープにメタルテープが出現したことで,カセットの上位規格としての意義が薄れたことなど
から普及するには至りませんでした。しかし,オープンリールに通じる余裕のある音は魅力的なものでした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


3モーター,3ヘッド構成,
オープンデッキのクオリティに迫る
高級機。
◎クローズドループ・デュアルキャプスタン
◎3モーターシステム
◎3ヘッドシステム
◎400Hzキャリブレーターで,正確なドルビー調整
◎フルリモートコントロール可能です
◎高い回転精度を誇る,FG周波数サーボモーター
◎ロジカルコントロールによる信頼のメカニズム
◎ヘッドと再生アンプをダイレクトカップリング
◎REC-MUTE可能
◎高精度ドルビーNR回路
◎時間の異なる番組を連続的に留守録音できます
◎後追い録音可能
◎テープ残量インジケーター
◎光電検出式フルオートシャットオフ
 ●バイアス/イコライザ−独立3段切り換えテープセレクタースイッチ
 ●メモリーストップ/プレイ機構搭載
 ●ライン入力/マイク入力のミキシング可能
 ●プリセットつきマスターボリューム
 ●マイクアッテネータースイッチ
 ●フロントラインイン・ジャック
 ●独立ヘッドホンボリウム
 ●大型レベルメーター
 ●セ−フティロック機構
 ●独立MPXフィルター
 
●EL-7/EL-7Bの規格●


方式 エルカセットシステム
トラック形式 4トラック2チャンネル
テープスピード 9.5cm/sec
テープセレクター BIAS,録音EQ独立 TYPE-T,TYPE-U,TYPE-V
バイアス周波数 160kHz
録音時間 往復90分(LC-90にて)
使用ヘッド 消去ヘッド,録音F&Fヘッド,再生F&Fヘッド
使用モーター キャプスタン用FG付周波数サーボモーター 1
リール用コアレスモーター 2
シャットオフ形式 オートシャットオフメカニズム
早送り,巻戻し時間 60秒(LC-60にて)
周波数特性 25〜22,000Hz(±3dB TYPE-UDUADテープ)
SN比(315Hzピーク) 59dB(TYPE-T,SLHテープ)
62dB(TYPE-U,DUADテープ)
ワウ・フラッター 0.04%(WRMS)
ひずみ率 0.8%(TYPE-U,DUADテープ)
入力 マイクロホン/LOW-IMP/0.3mV(−68dB)
LINE-IN/100kΩ/0.095V(−18dB)
       フロント10kΩ/0.095V(−18dB)
出力 LINE-OUT/負荷10kΩ以上/0.775V(100kΩ負荷時)
HEADPHONES/負荷8Ω以上
電源,消費電力 AC100V,50/60Hz,35W
ACアウトレット 連動200W×1,非連動300W×1
大きさ 430W×170H×320Dmm
重さ 12.5kg
※本ページに掲載したEL-7,EL-7Bの写真,仕様表等は1977年
 12月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著
 作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
   
 
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