PIONEER F-005
FM STEREO TUNER ¥58,000
1977年に,パイオニアが発売したFM専用チューナー。パイオニアは,プリメインアンプ「A-00シリーズ」のペ
アを想定したチューナー「F-00シリーズ」としてF-007,F-005,F-003を発売しました。その中で最上級機
F-007の弟機にあたる機種がF-005でした。

フロントエンドは,FM専用5連バリコンを搭載していました。この5連バリコンはゲインが高くSN比のすぐれた
3個のデュアルゲートMOS
FETと組み合わされ,シングルチューン,ダブルチューン,シングルチューンの3
段構成として,IHF感度1.6μVを確保し,弱電界地域でもSN比,歪率においてすぐれた特性を実現するとと
もに,スプリアス妨害比110dB以上,イメージ妨害比120dB以上と高い妨害排除能力を実現していました。

F-005の大きな特徴は,同調回路にありました。TX-9900で開発・初搭載されたAPC(オートマチックフェイズ
コントロール)によるロックドチューニング方式の採用でした。F-005は,バリコン式チューナーでありながら,水
晶制御をとりいれた,クォーツロック回路を搭載し,バリコン式チューナーで最も問題となるドリフトとよばれる
チューニングずれを防
いでいました。水晶発振器から得られる,正確な100kHzごとのパルスで,局部発振器
からの発振周波数をサンプリングし,位相のずれを検知して得られる
電圧変化を局発にフィードバックさせるも
ので,局部発振器からは常に正確な100kHz刻みの周波
数が発振されるようになっていました。こうしたクォー
ツロック回路により,ローカル周波数が100kHz単位で正確に変化しロックされて変調せず,温度や湿度の変
化等によるドリフトの発生が排除されていました。
そして,タッチセンサーにより,チューニングノブに振れると,クォーツロックが解除され,自然な同調感覚が得ら
れ,希望する放送局をとらえるとTUNEのインジケーターが点灯し,手を離すとLOCKEDのインジケーターが点
灯し,100kHz単位で正確な同調周波数に引き込まれる,独特の感覚を実現していました。しかも,同調後に
電源を切っても再び電源を入れれば,同じ放送局の電波をとらえる再ロック回路を内蔵し,留守録音などのと
きも,同調ズレが起きないようになっていました。

IF部は,ディレイ特性にすぐれたリニアフェイズ・セラミックフィルター3段,IF増幅2段で構成され,実効選択度
75dB(400kHz)の高選択度で,高調波歪率0.08%(1kHz・ステレオ)の低歪みを実現していました。IF増
幅には,日立製IC・HA1201を搭載していました。
検波部は,クオドラチュア検波回路で,パイオニア専用高集積度IC・PA-3001Aに搭載されていました。MPX
部は,PLL  MPX回路で,同じくパイオニア専用高集積度IC・PA-1001Aに搭載されていました。また,この
PA-1001Aには,音質に影響を与えずに19kHzのパイロット信号だけを打ち消す,パイオニア独自のパイロッ
ト信号オートキャンセル回路も組み込まれていました。この回路は,パイロット信号の送信レベルが変動しても
(電波法規定8~10%)自動的に追従して,確実に打ち消すことができるようになっていました。
AF部(オーディオ出力部)は,パイオニア専用高集積度IC・PA-1002Aで構成され,ミューティング機能も組み
込まれていました。
こうした,ICを交えた各回路の構成,しっかりした基板や筐体の構造など,しっかりした作りとなっており,特性
的にも,周波数特性20~15,000Hz+0.2,-0.5dB,SN比77dB(ステレオ),セパレーション55dB
(1kHz),35dB(20Hz~15kHz)というすぐれた特性を実現し,パイオニアも当時,ペアを想定したアンプ同
様に,「マグニワイドレンジ」を標榜していました。
機能的にはオーソドックスで,局間ノイズをカットするミューティングスイッチ,330Hz,50%変調レベルのREC
レベルチェック,出力レベルボリューム,信号強度を直読できるシグナルメーター,センターチューニングメーター
マルチパス出力端子などが搭載されていました。
以上のように,F-005は,パイオニアがシンセサイザー方式へと移行する黎明期に登場した中級機で。バリコン
チューナーのよさにクォーツロックを取り入れた使いやすいチューナーでした。選局がしやすく,やわらかな上品
な音をもつ実力派の1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



クォーツロック・タッチセンサーシステム
確実な同調,新しい操作感覚。

◎同調を水晶発振器の精度にまで高め,
 希望電波を確実にロックする,
 クォーツロック回路。
◎新しい同調感覚が得られる
 タッチセンサー方式。
◎再生音の音質を重視した
 マグニワイドレンジ設計。
◎パイロット信号オートキャンセル回路を内蔵。
 送信レベルの変動にも確実に追従。
◎高感度,攻防害排除能力をもつ,
 FM5連バリコンのフロントエンド部。

●エアチェック時のデッキの録音レベル設定に便利な
 レコーディングレベルチェック。
●出力レベルが50mV~1.3Vまで可変可能な
 アウトプットボリウム。
●ミューティングスイッチ
●正しいアンテナ方向が設定できる
 マルチパス出力端子。




●主な仕様●
 

■FM部■


 
SN50dB感度 3.0μV  新IHF14.8dBf(モノ) 
37μV   新IHF36.5dBf(ステレオ) 
実用感度 1.6μV  新IHF9.3dBf
SN比 82dB(モノ,80dBf入力時) 
77dB(ステレオ,80dBf入力時)
高調波歪率 モノ   :0.06%(1kHz)
ステレオ:0.08%(1kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
実効選択度 75dB(400kHz)  
ステレオセパレーション 55dB(1kHz)
周波数特性 20Hz~15kHz+0.2dB,-0.5dB
イメージ妨害比 120dB
IF妨害比 110dB
スプリアス妨害比 110dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比 70dB
ミューティング動作レベル 5μV,新IHF19.2dBf

 

■出力部■


 
出力レベル/出力インピーダンス FM(100%変調) 650mV/4.2kΩ(FIXED) 
            50mV~1.3V/3.6kΩ(VARIABLE)

 
 

■電源部その他■


 
電源電圧 AC100V 50/60Hz 
消費電力 21W(電気用品取締法)
外形寸法・重量 420(W)×155(H)×380(D)mm・8.79kg

※本ページに掲載したF-005の写真,仕様表等は1979年3月の
 PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
 等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。                        
 

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