PIONEER HPM-100
4WAY SPEAKER SYSTEM ¥62,000
1976年に,パイオニアが発売したスピーカーシステム。パイオニアは,1936年に福音商会電機製作所として
スタートし,最初の製品としてスピーカーユニットを発売したことからも分かるように,スピーカーのメーカーとして
発足したブランドでした。戦後も日本を代表するスピーカーブランドの一つとして知られていました。スピーカーシ
ステムにおいても,ブックシェルフ型のエアーサスペンション方式のARをはじめ海外のブランドに負けじと1967
年にはCS-10を発売するなど,すぐれた技術を見せていました。しかし,当時,日本のオーディオブランドは,す
でに海外への進出も果たし,アンプ等のエレクトロニクス分野では一定の評価を得ていましが,スピーカーにお
いてはあまり良い評価を得るには至っていませんでした。そうした中,元JBLの技術担当副社長・バート・ローカ
ンシー氏を技術顧問に迎え,海外でも評価されるスピーカーを開発しようとするプロジェクトの中,開発・発売され
たスピーカーシステムがHPM-100でした。

HPM-100は,約6万円という中級クラスのブックシェルフ型システムでした。通常このクラスのスピーカーシステ
ムには3ウェイが一般的でしたが,HPM-100は3ウェイ+スーパートゥイーターという4ウェイ構成がとられてい
ました。このクラスに限らず,日本のスピーカーシステムでは,4ウェイシステムは数少なく,珍しい部類に入ります
が,当時の海外,特にアメリカで売られていたスピーカーシステムには比較的見られていたもので,その意味から
も,HPM-100は,日本のスピーカーシステムながら,アメリカ的な設計となっていたといえるでしょう。

ウーファーは,30cm口径のコーン型で,コーン紙にはカーボンファイバー混入コーンを使用し,さらに表面には
特殊な音響ダンプ剤が塗布されていました。磁気回路は,大型のマグネットとロングボイスコイルが組み合わさ
れた強力なもので,センターポールの銅キャップなどで歪み成分が抑えられた設計となっていました。そして,こ
の振動板と大型マグネットを保持するフレームは,強固なアルミダイキャスト製で,フレーム自体も共振が抑えら
れた高い強度が確保されていました。



ミッドレンジは,10cm口径のコーン型で,振動板には,新開発の剛性を高めた軽量コーン紙を使用し,磁気回
路は,大型マグネットとエッジワイズ巻きボイスコイルが採用され,能率の向上が図られていました。また,ウー
ファー同様にアルミダイキャスト製フレームが採用されていました。

トゥイーターは,4.5cm口径のコーン型で,軽量コーン紙を使用し,ボイスコイルアッセンブリーとコーン紙の接
着にエポキシ系接着剤を用い,振動計全体の剛性を高めていました。トゥイーターでも,フレームには剛性の高
いアルミダイキャストが使用されていました。



トゥイーターの上の領域をカバーするスーパートゥイーターは,ハイポリマー素子を振動板に使った,圧電型スピー
カーが搭載されていました。原理的には,ハイポリマーのような高分子膜の両面に交流電圧を加えると起きる膜
の伸び縮みを利用したもので,膜を曲面にしておくと前後方向の振動になり音となります。当時,パイオニアは,呉
羽化学との共同研究により,振動板として製品化し,当初はヘッドホン,そして,トゥイーターやマイクロホンへと応
用範囲を広げていきました。コンデンサー型と同様に全面駆動型の一種で,指向性が良く,共振による特性のあ
ばれがない,動的歪みが少ない,大入力に耐えるなど,多くの特長を持つユニットでした。

エンクロージャーは,しっかりした作りのバスレフ型で,量感のある低域を確保していました。エンクロージャーの要
所には補強が施され,バッフル板には30mm厚のチップボードが採用され,エンクロージャー自体の不要な共振が
抑えられていました。
ネットワークは,各スピーカーユニットの特性向上により,すべて6dB/octのシンプルな回路形式が採用されていま
した。ネットワークに使われているコンデンサーは,すべてロスの少ないMP型が採用されていました。

以上のように,HPM-100は,それまでのパイオニアのスピーカー,いや国産スピーカーの殻を破るべく開発され
たスピーカーシステムで,明るく元気な音は,音楽を楽しく聴かせるものでした。輸出を重視した新しい設計は,当
時のオーディオ大国・アメリカにおいても,JBL L100に次いで2位の売り上げを記録するなど,高い評価を受け
ることとなりました。もちろん国内でも人気モデルとなりました。バート・ローカンシー氏の技術面での功績はこの後
TAD等の業務用システムにも受け継がれ,パイオニアのスピーカーの歴史の中で小さくないものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ダイレクトでパワフル!
明るく個性的!
圧倒的な躍動感を,いま・・・。

音楽への鋭い感覚を,
堅実な設計で実現したHPM-100。

◎部屋の中を音楽の楽しさで満たすこと,
 それがHPM-100の設計の狙い。
◎生演奏にせまる迫力を求めて,
 ウーファーには腰くだけのない強さを持たせました。
◎明るく歌い上げるミッドレンジ,そしてトゥイーター。
 倍音を美しく響かせるスーパートゥイーターは,
 ユニークなハイポリマーユニットです。
◎重低音再生を可能にするバスレフ型エンクロージャー。
 そしてネットワークは,位相特性を重視したシンプルな
 回路が採用されています。




●規格●

形式
位相反転式ブックシェルフ型
使用スピーカー
(4ウェイ4スピーカー)
低音用:30cmコーン型(カーボンファイバーコーン
中音用:10cmコーン型
高音用:4.5cmコーン型
超高音用:ハイポリマー型
インピーダンス
8Ω
再生周波数帯域
30~25,000Hz
出力音圧レベル
92.5dB/W(1m)
最大入力
100W(最大)/50W(定格)
クロスオーバー周波数
300Hz 4,000Hz,12,000Hz
外形寸法
390W×670H×393Dmm
重量
26.7kg
※本ページに掲載したHPM-100の写真,仕様表等は,1976年4月の
 PIOEERのカタログより抜粋したもの,パイオニア株式会社に著作権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をする
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

                        
 

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