LUXMAN K−05
COMPUTER TUNING CASSETTE DECK ¥258,000
ラックスが1983年に発売した高級カセットデッキ。ラックスは,ドコーダーの工場を買収してカセットデッキ分野に参入し
音質重視の高性能なカセットデッキを次々に発売していました。残念ながらあまり大ヒットはしませんでしたが,マニア向
けの性能の良いデッキがたくさんありました。このK−05はその中でも最強の部類に入るモデルで,弟機K−04ととも
に新開発の「G.T.transport」などの凝りに凝ったメカニズム部と持ち前のアンプ技術を合体した超弩級のカセットデッキ
でした。K−05の最大の特徴は「G.T.transport」と称する徹底して精度を高めたテープ走行メカニズムにありました。これは,
厚肉の合金ダイキャスト製のモーター・フレーム・シャーシと2組のキャプスタン軸受けを堅固に一体成形しキャプスタン
軸とピンチローラー軸の厳密な垂直性と,相互の軸の完璧な平行性を確保したもので,見るからにごついメカニズムで
した。この高精度なデュアルキャプスタン構造を正確なテープタッチの基本とし,2本のキャプスタンの周速に差を持た
せて相互の共振を防止していました。
キャプスタン駆動用DDモーター,リール用モーター,アシスト用モーターとそれぞれ独立にモーターを搭載した3モーター
構成で,メカニズムの複雑化を避けていました。メカニズム駆動にはソレノイドを使わずモーターを使用したサイレントメカニ
ズムとして,動作モード切替時の振動やショックをなくし,メカニズムに狂いが生じにくく初期性能を維持できるような設計
でした。このような高度なメカニズム部の設計により,0.022%という低ワウ・フラッターを実現していました。アジマスをはじめとするテープタッチの問題に対しては,超精密なコンビネーション・ヘッドをベースにして3次元的に正確
な位置決めが行われ,それを精密なシャーシが支えていました。また,ナカミチやソニーの上級機に見られるテープパッド
リフターがこのK−05にも採用されていました。これは,テープ装着時にカセットテープのテープパッドを押し上げるように
なった構造で,ヘッドへのテープタッチをパッドに頼らずデュアルキャプスタンによるコントロールで行うものでより精度の高
いテープタッチを目指した仕組みでした。ヘッドもオリジナル開発の専用品でした。録音ヘッドは,最大飽和磁束密度が高く歪率の良いセンダスト材を3枚ラミネー
ト構造にしたものでした。再生ヘッドは,高い再生出力と高域特性を両立させるために,高域周波数特性に優れたHIP
(HotIsostatic Press)フェライトを採用し,極端に狭いヘッドギャップをとらずに優れた高域特性を確保し,ギャップ幅を狭
めると高域特性は向上するが再生出力は低下するという2律背反を解消していました。消去ヘッドは,消去効率の高い金
属磁性体と発熱量の少ないフェライトコアの利点を併せ持たせるために,フェライト/センダスト結合ヘッドを開発して搭載
していました。また,消え残りをなくすために,2カ所のヘッドギャップの異なる非対称デュアルギャップという凝った構造に
もなった消去ヘッドでした。K−05では,コンピュータ・チューニングを搭載しており,バイアス,レベル,イコライザを自動で最適に設定できました。そ
れぞれが相関関係があり,一つの値を動かすと他方の最適値が変わるという特性をふまえ,独立して別々に調整するの
ではなく,コンピュータが,相互関連をにらみながら,相対的に調整し,徐々に最適値に追い込む高度なシステムになって
いました。片チャンネルだけでも1,048,576通りの組み合わせの中から最適ポイントを選び出すというものでした。自動
調整に加え,バイアス値は好みに合わせてマニュアル調整できるというマニア好みの設計になっていました。(全てマニュ
アル調整の弟機K−04もまた魅力的でしたが・・・。)アンプ部は,ラックスならではの高性能なものでした。各段とも完全DC構成とし,再生ヘッドと再生アンプの入力間の結線
には無酸素銅線を使用していました。アンプシャーシには銅メッキを使用して磁性体歪みを追放し,電源部は,録音系,再
生系ドルビー系等回路ブロックごとに専用レギュレーターを用いた独立供給で相互の干渉を排除していました。機能的に珍しかったものとして,電源ON時に自動的にヘッドを消磁するオート−ディマグネタイザと家庭用電源の極性が
分かるラインフェーズセンサがありました。また,メーターがアナログ式だったのも当時珍しく,独特の高級感がありました。このように,K−05は弟機のK−04と並び,ラックスが凝りに凝って作り上げた高級デッキで,その中身を見ると魅力的な
モデルでした。音質もしっかりしたもので,ナカミチの高級デッキと同様に,その製品そのもので録音した専用のデモテープ
がついていました。残念ながらブランドイメージなどからデッキとして大ヒットとはしませんでしたが,実に性能本位の名機だ
ったと私は思っています。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
「原音楽」の忠実再生は,
究極の走行系を前提とする。
◎堅固な構造体にささえられた超精密な
メカニズム「G.T.transport」が, 大地のように安定したテープ走行を実現。 ◎アジマスだけでなく3次元で きわめるべきテープタッチ。そこで超精密 コンビネーション・ヘッドが生きてきます。 ◎素材論争や数値合戦を超えた 「適材適所」の視点で,オリジナルの ヘッドを開発・製造しています。 ◎バイアス,レベル,イコライザ値を 完璧なキャリブレーション機能で。 Computer Tuning System ◎デュオベータ思想が息づくアンプ部の 充実がカセットデッキの完成度を さらに高次元なものにしています。 |
●K−05 SPECIFICATIONS●
トラック型式 | 4トラック・2チャンネル・ステレオ方式 |
ヘッド構成 | 録再:センダスト/フェライト コンビ録再ヘッド
消去:デュアルギャップ・センダスト/フェライト接合ヘッド |
使用テープ | ノーマルテープ,クロームテープ,メタルテープ |
テープ速度 | 4.75cm/sec |
モータ構成 | キャプスタン用:DD FG SERVO DC×1
リール用:DC×1 ヘッドハウジングリフタ用:DC×1 |
操作方式 | ソフトタッチ・ロジック・コントロール方式 |
ワウ&フラッタ | 0.022%以下(W.R.M.S) |
巻き取り時間 | 80秒以下(C60にて,FF・REWとも) |
周波数特性 | 15〜27,000Hz(20〜22,000Hz±1.5dB):メタルテープ
15〜22,000Hz(20〜20,000Hz±1.5dB):クロームテープ 15〜22,000Hz(20〜20,000Hz±1.5dB):LHテープ |
総合歪率 | 1.2%以下(LHテープ,1kHz,0dB)
(0.5%以下,Real Analized Distortion,LHテープ,1kHz,0dB) |
SN比 | 58dB以上(ドルビーoff,JIS-A補正):メタルテープ
65dB以上(ドルビーB,CCIR補正):メタルテープ 73dB以上(ドルビーC,CCIR補正):メタルテープ 56dB以上(ドルビーoff,JIS-A補正):クロームテープ 65dB以上(ドルビーB,CCIR補正):クロームテープ 73dB以上(ドルビーC,CCIR補正):クロームテープ 53dB以上(ドルビーoff,JIS-A補正):LHテープ 63dB以上(ドルビーB,CCIR補正):LHテープ 71dB以上(ドルビーC,CCIR補正):LHテープ |
入力 | ライン:100mV |
出力 | ライン:550mV ヘッドホン:50mW/8Ω負荷 |
付属機能 | レコーディング・ミュート機能,オート・スペース機能
オート・リワインド機能,オート・プレイ機能, バイアス&イコライザ コンピュータ・チューニングシステム データ・メモリー機能,ピーク・レベルメーター,タイマ録再機能 ドルビーNRシステム,リモート操作可能,ピッチコントロール キュー/レビュー機能,電源の極性を管理できるライン・フェーズセンサ |
電源 | AC100V(50Hz/60Hz) |
消費電力 | 40W |
寸法・重量 | 460W×158H×361Dmm・11.5kg |
※本ページに掲載したK−05の写真,仕様表等は1983年9月のLUXMANのカタログ
より抜粋したもので,ラックス株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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