NEC K-537
STEREO CASSETTE DECK ¥79,800
1983年に,NECが発売したカセットデッキ。NECはコンピューターのメーカーというイメー
ジが強く,オーディオにおいては無名に近い存在でしたが,1982年のCDスタートと同時に
突如オーディオ界に進出し,意欲的なモデルを発売していきました。そうした中,発売された
カセットデッキがK-537でした。
走行系は,オーソドックスなワンウェイ・シングルキャプスタンメカニズムでしたが,キャプス
タン駆動,リール駆動独立の2モーターとメカニズムオペレーション用のモーターを搭載した
3モーター・フルロジックメカニズムとなっていました。これにより,プランジャーのショックに
よるダメージやクラッチのトルクのバラツキなどの不安定要素が取り除かれた安定したメカ
ニズムが実現していました。
ヘッドは,録音ヘッドと再生ヘッドが独立し,それぞれの特性を追求した,コンビネーション型
の3ヘッド構成が採用されていました。
録音ヘッドは,広ギャップ,耐摩耗パーマロイ6枚ラミネートコアが採用され,あわせて,セン
ダスト・ダミーコアを使用することで,すぐれた録音特性と高い耐摩耗性を実現していました。
再生ヘッドは,狭ギャップ,高密度フェライトコアが採用され,摺動ノイズ,温度特性も改善さ
れていました。巻線にも高純度の無酸素銅線を使用し,高域の伝達ロスや周波数ひずみの
低減が図られていました。
ノイズリダクションとして,ドルビーBタイプに加え,Cタイプも搭載されていました。K-537に
搭載されたドルビーCは,10dBのスライディングバンド・プロセッサを2個重ねたタイプで,
20dBのノイズリダクション効果を2個のプロセッサに分担させたもので,単一型プロセッサ
に対して特性的にも追い込まれたものとなっていたようです。
テープセレクターは,NORMAL,CrO2,METALの3ポジションが装備されていました。
K-537は,中級機ながら,オーディオ進出にかけるNECの熱意ゆえか,当時のカセットデッ
キとして技術,機能が多彩に盛り込まれたモデルでした。
機能面での最大の特徴は,「サウンド・コントロール・システム」と称するグラフィック・イコライ
ザが搭載されていたことでした。100Hz,330Hz,1kHz,3.3kHz,10kHzの5バンドの
グラフィック・イコライザで,再生時のみでなく録音時にも周波数バランスをコントロールする
ことができるようになっていました。
また,K-537はコンピューターのNECらしくマイクロプロセッサを利用して,レベルメーターの
左側にあるボタンの操作により,カセットデッキとしては,多彩な頭出し選曲機能が搭載され
ていました。”NSPS(NEC SEARCH & PLAY SYSTEM)ボタン”を,再生中に押した
回数によりFF,REWで前後15曲の頭出しができる「サーチ&プレイ・システム」,”スタート
ボタン”を再生中・録音中に押すことで,スタート地点が記録され,REWでその位置まで巻き
戻すと自動的にストップする「メモリー・スタート機能」,録音中・再生中に”エンド・ボタン”押す
ことで,エンド地点が記録され,次に再生するときにその地点で自動的にストップする「メモリー
・エンド機能」,”オート・リピート・ボタン”を押すことで,テープの片面全体の6回までのリピート
が可能な「リピート機能」が搭載されていました。”オート・リピート・ボタン”と”スタート・ボタン”
”エンド・ボタン”を組み合わせることで,一種の2点間リピートも可能になるなど,多彩なリピー
ト機能が実現されていました。
REC MUTEは,録音中にMUTEを押すと,4秒間の無録音部分を作ってPAUSE状態に
なるオート・REC MUTEとなっていました。
以上のように,K-537は,オーソドックスな外観のカセットデッキでしたが,3ヘッド構成,多
機能など,NECの意気込みが感じられるモデルでした。基本的な音質は素直な方向にあり
当時,素性の良さも評価されていました。しかし,NECというブランド故か,人気を得ることな
く消えてゆくことになり,この後NECから本格的なカセットデッキが発売されることはありませ
んでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
5バンド・グラフィック・イコライザ搭載。
システムの中心となるカセットデッキ,
K-537。
リスニングスタイルに合った,
自分自身のサウンドをクリエイトできたら,
どんなに素晴らしいだろう。
カタログを超えて音楽が見えてくるK-537
◎求めるベストのソースを,自分で創る。
カセットデッキに,初めてのサウンド・コン
トロール・システム。
◎録音・再生どちらにも使える5バンド・グラ
フィック・イコライザ搭載。
高い技術に支えられてこそ,
楽しさは無限に拡がる。
ハイクオリティのための,
ハイテクノロジーを満載しました。
◎録音・再生同時モニターが可能になる,
3ヘッド・システムを採用。
◎ダブルドルビーCノイズリダクション
搭載の贅沢な回路構成。
◎コンピュータ制御による,
3モータ・フルロジック・メカニズム。
◎すべてにわたって,高級機に
ふさわしい機能を追求しました。
●100mmロングストローク・スライドボリューム。
●MPXフィルタを装備しています。
●3ステップのテープ・セレクタ。
●蛍光表示管による,集中表示です。
●タイマー・スタンバイ機構を内蔵。
多彩な機能のすべてを,コンピュータが
コントロール。限りなく広がるサウンド・
ライフのあらゆるシチュエーションに応える
イージー&ハイ・パフォーマンス機。
◎すばやい頭出しのできるNEC独自の
サーチ&プレイ・システム。
◎希望のスタート位置を記憶する
メモリー・スタート機能。
◎希望の停止位置を記憶する
メモリー・エンド機能。
◎繰り返しプレイ可能な
メモリーリピート機能。
◎好きな曲だけ繰り返し楽しめる
2点間リピート。
◎エアチェックに便利な
オートREC MUTE機能。
●SPECIFICATION●
トラック方式
|
4トラック2チャンネル
|
ヘッド構成
|
録/再:パーマロイ・フェライトR/Pコンビネーション
ダブルギャップフェライトヘッド
|
モータ
|
電子制御DCモータ
|
ワウフラッタ(WRMS)
|
0.04%以下(WRMS)
|
早送り・巻き戻し時間
|
70sec(C-60)
|
周波数特性
|
NORMAL(−20dB録音時):20〜19,000Hz
CrO2 (−20dB録音時):20〜20,000Hz
METAL (−20dB録音時):20〜21,000Hz
|
SN比(メタルテープ)
|
57dB(DOLBY NR OFF)
64dB(DOLBY NR Btype ON)
72dB(DOLBY NR Ctype ON) |
歪率(NORMAL Tape)
|
1.0%以下
|
入力感度/インピーダンス
|
MIC:0.25mV/10kΩ
LINE:60mV/47kΩ
|
出力感度/適正負荷インピーダンス
|
LINE:400mV/47kΩ
HEADPHONE:65mV/8Ω
|
電源・電圧
|
AC100V 50/60Hz
|
消費電力
|
22W
|
外形寸法
|
450W×110H×310Dmm
|
重量
|
6.5kg
|
※本ページに掲載したK-537の写真,仕様表等は1983年3月
のNECのカタログより抜粋したもので,新日本電気株式会社に
著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・
引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
★メニューにもどる
★テープデッキPART6にもどる
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。