M-7070の写真
Victor M-7070
MONOPHONIC POWER AMPLIFIER ¥210,000

1978年に,ビクターが発売したパワーアンプ。実験的高級機として「Laboratory」の名称を冠して開発・
発売した「7070シリーズ」のモノラル・パワーアンプで,「Laboratory」の名の通り,技術的には野心的
ともいえる意欲的な設計がなされた1台でした。

M-7070の最大の特徴は,その電源部にありました。デジタル回路用として開発されたスイッチング・レ
ギュレーターをもとに,電流容量に対して小型・軽量にまとまる反面,過渡応答特性が悪く,整流後の高
調波リップル分が多いなど,オーディオ用としてみた場合の多くの問題点を解消すべく,アナログ信号用
として改良していった「Dクラス電源」を開発・搭載していました。通常のアンプの電源がトランスで電圧変
換した後に整流平滑するのに対し,「Dクラス電源」は,AC100Vをトランスレス整流回路でダイレクトに
整流し,ここで得られた直流(正確には脈流)を35kHzのパルス(方形波)に変換,高周波トランスで変圧
し,再び整流平滑回路を通してDC出力を取り出すというものでした。さらに,DC出力端からフィードバック
をかけ,誤差増幅器でDC変動を基準電圧と比較して誤差信号を検出,パルス幅変調器でスイッチング
素子の導電時間をコントロールするPWM(Pulse Width Modilation)制御方式によって電圧を安定
化していました。このような方式の「Dクラス電源」は,電源効率80%以上,過渡応答特性としての電圧
回復時間は従来方式の15分の1,内部インピーダンスは30分の1を実現し,高速応答性とバッテリー
電源をさえしのぐレギュレーションをずっとコンパクトに実現していました。ここまで読むとお分かりの方も
いらっしゃると思いますが,これはソニー等が採用していたスイッチング電源のパルス電源とほぼ同様の
もので,その意味でも当時最新の電源部といえました。
M-7070では,この「Dクラス電源」を楽音レベルによって消費電流が激しく変動するB級動作の出力段
に採用していました。その前段にあたるA級動作のプリドライブ段は,別の高電圧安定化電源で動作する
ようになっており,M-7070は,ビクター自慢のA・B級独立2電源方式となっていました。

M-7070の内部

回路構成は,初段デュアルFETトリプル差動出力段,完全DC構成というものになっていました。出力段
には,パワーMOS FETが採用されていました。従来高周波領域で活躍していたMOS FETを高耐圧
大電流化したもので,広帯域,低歪率,大電流時のリニアリティの良さ,熱暴走の危険性の低さなど多く
のメリットを持ち,音質面でも魅力のある素子といわれ,当時,高級機を中心に採用が見られていました。
M-7070の出力段は,PチャンネルとNチャンネルのパワーMOS FETによるピュアコン・パラレル・プッ
シュプルという構成で,120W(8Ω),240W(4Ω)というリニアな出力特性と0.003%(8Ω,120W)と
いう低歪率が実現されていました。
入力は,DCとSUBSONICの端子がありDC端子では完全なDCアンプとなり,SUBSONIC側では18Hz
−6dB/octのローカット・フィルターが入るようになっていました。また,SUBSONIC側にはキャノン3Pの
入力コネクター(不平衡)も搭載されていました。
スピーカー出力は2系統あり,フロントパネルのスイッチで切換が可能となっていました。また,出力レベル
コントロールもフロントパネルに搭載されていました。

M-7070のパワーMOS FETプロテクター

フロントパネルには,LEDを用いたピーク表示の12ポイントのパワー・インジケーターが装備されていまし
た。3枚の厚いガラス・パネルを用い,中間の1枚にLEDを埋め込んだ精巧な作りのもので,多重反射が
美しく,高い指示精度も特徴でした。
パワーアンプ自体を守る6つのプロテクター機能を集積した新開発のプロテクターICが搭載されていまし
た。このプロテクターICには,(1)電源ON時のミューティング(2)電源OFF時のミューティング(3)中点電位
検出(4)リレードライブ,そして外部回路の組み合わせで(5)過負荷検出(6)温度検出,の機能が搭載されて
いました。温度検出素子には80℃で働く特殊なマグネットリードスイッチが用いられ,プリント基板とパワー
MOS FETの温度上昇を関知して自動的に信号を切るようになっていました。

以上のように,M-7070は,「7070シリーズ」のパワーアンプとして,先進的な設計がなされ,音の方も
かっちりしたデザインが示すとおり,ビクターの中でも最もクリアで辛口な音を持ち,独自の魅力がありまし
た。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



俊速応答Dクラス電源,MOS・FETの
モノフォニック・パワーアンプ。


◎アンプを変える”Dクラス電源”。
◎広帯域・低歪率パワーMOS・FET。
◎12ポイントLEDピーク・パワー・インジケーター。
◎6大機能プロテクターIC。
◎キャノン入力コネクター。



●M-7070型規格●

型式
MOS・FETモノフォニック・パワーアンプ
回路方式
初段デュアルFETトリプル差動出力段
MOS・FETパラレルPP
電源回路
A級・B級(Dクラス)独立2電源
実効出力
4Ω負荷=240W(20Hz〜50kHz)
8Ω負荷=120W(5Hz〜100kHz)
高調波歪率
0.003%(8Ω)=20Hz〜20kHz,120W出力時
0.007%(8Ω)=5Hz〜50kHz,120W出力時
0.02%(8Ω)=5Hz〜100kHz,120W出力時
SN比(8Ω)
120dB(IHF・A,入力ショート)
周波数特性
DC〜100kHz+0,−0.5dB
SUBSONICフィルター
18Hz,6dB/oct
入力感度/インピーダンス
1V/50kΩ
ダンピングファクター
200以上(8Ω,1kHz)
Dクラス電源部
入力電圧=100V
入力周波数=50Hz〜60Hz
出力電力=440W
出力インピーダンス=40mΩ(EIAJ)
電圧レギュレーション=0.5%
スイッチング周波数=35kHz
消費電力(電気用品取締法)
180W
寸法/重量
H160×425W×D360mm/15.5kg


CF-7070の写真
Victor CF-7070
ELECTRONIC CROSSOVER NETWORK ¥105, 000

1978年に,ビクターが発売したエレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク。「7070シリーズ」には
マルチアンプ方式でシステムを組むためのクロスオーバー・ネットワークがラインナップされていました。
ビクターの製品の歴史の中でも数少ないクロスオーバーネットワークでした。

CF-7070は,基本的には2ウェイのクロスオーバー・ネットワークで,合成振幅特性平坦方式と称する
位相特性にこだわった設計が大きな特徴でした。マルチアンプ方式では,周波数を分割するチャンネル
フィルターによって音質が大きく変化し,特にクロスオーバー周波数付近では振幅特性の乱れが生じて
しまい,スピーカー出力の振幅特性をフラットに保つことが難しいという問題点があります。
CF-7070の合成振幅特性平坦方式は,周波数分割された音楽信号がそれぞれのスピーカーユニット
から輻射されて空間で再合成される際に,周波数レスポンスがフラットになるように設計されたもので,
従来の方式と異なるフィルター配列法をとると同時に,フェイズ・シフター回路(位相反転回路)を挿入す
ることで全チャンネルの位相変化特性を等しくするというものでした。

フェイズシフター使用によるフィルター接続4ウェイ構成

リアパネルのフィルターモードスイッチには,HPF(ハイ・パス・フィルター)-LPF(ロー・パス・フィルター)と
BPF(バンド・パス・フィルター),3Dの3ポジションがあり,HPF-LPFでは低音用と高音用出力が得られ
1台で2ウェイが構成され,BPFではバンド・パス・フィルターとなって中音用出力が得られるようになって
いました。このとき,他の1台をHPF-LPFポジションで併用すれば3ウェイになり,同様な方法で3台以上
を組み合わせることができるようになっていました。このように,1台で2ウェイに対応し,2台で3ウェイ,3
台で4ウェイというようにチャンネル数を増やしていくことができ,2台以上を組み合わせたときも,再生音
のクオリティをできるだけ損なわないように信号系に入るバッファアンプは最少限必要な台数だけとする構
成がとられるようになっていました。また,3Dポジションにすると,3D方式のセンターウーファー用の出力
が得られ,3D方式に対応するようになっていました。以上のように,リアの結線を組み替えていくことで通
常のチャンネル・フィルターと同様に,また,振幅特性平坦方式にもなるという多様な使い方が可能となっ
ていました。

クロスオーバー周波数は,90Hz,180Hz,300Hz,500Hz,800Hz,1.2kHz,2kHz,3.5kHz,
5kHz,8kHz,12kHzの11ポイントが設定されていました。規則的な間隔でないのは,世界の著名な
スピーカーに最も多く見られる周波数を選び出したためで,ローパス側,ハイパス側各々単独にセレクト
ができるようになっていました。また,この11ポイント以外の周波数についても,内部のAUX基板にフィ
ルター用コンデンサーを追加したうえでAUXポジションに切り換えれば設定可能でした。
11点のクロスオーバーは,さらにスロープ特性を6dB/octと12dB/octに(3Dポジションでは,6dB/oct
12dB/oct,24dB/octの3段階に)切り換えることができ,スロープセレクターOFFでは,全チャンネル
の信号が遮断され,PASSではフィルターを通らないフラットな信号が送り出されるようになっていました。
そして,Qセレクターは,クロスオーバーの深さを−6dB(Q=0.5)と−3dB(Q=0.7)に切り換えられ
るもので,スピーカーの特性に応じることができるようになっていました。

CF-7070の内部

CF-7070はフィルターとしての性能を高めると同時に,信号系としての基本性能も配慮されていました。
フィルター・アンプ,バッファー・アンプとも高GmローノイズFETとバイポーラトランジスターのICL構成イン
バーテッド・ダーリントン回路に定電流源出力を組み合わせ,また,特にフィルター特性の誤差を生じやす
いローパス側フィルター・アンプにはインピーダンス変換用エミッター・フォロワーを付加して,フィルター特
性,歪率,S/N,スルーレイトなどすぐれた特性を実現していました。また,厳選された回路素子やチャン
ネル・フィルターとしてはぜいたくなほどの大容量・ローインピーダンス・広帯域電源がしっかりと性能を支
えていました。

以上のように,CF-7070は,「7070シリーズ」のエレクトロニック・クロスオーバーネットワークとして,
「Laboratoryシリーズ」にふさわしいグレードの性能と充実した機能を実現していました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介しま す。



理想フィルターに近づく,
合成振幅特性平坦方式
クロスオーバー・ネットワーク。


◎合成振幅特性平坦方式とフェイズ・シフター回路。
◎正確なフィルター特性,全段ディスクリートの新回路。
◎スロープ・セレクターとQセレクター。
◎AUX基板と任意のクロスオーバー周波数。
◎フィルター・モード・スイッチとインプット・モード・スイッチ。




●CF-7070型規格●

型式
合成振幅特性平坦方式2ウェイ・エレクトロニック・
クロスオーバー・ネットワーク
フィルターモード
LPF-HPF,BPF,3Dの3モード
クロスオーバー周波数
90,180,300,500,800,1.2k,2k
3.5k,5k,8k,12kHz(LPF,HPF独立選択)
AUX(コンデンサー別売)ポジションで任意の周波数設定可能
スロープ特性
6dB/oct,12dB/oct,OFF,PASS(LPF,HPF 独立選択)
3Dポジション6dB/oct,12dB/oct,24dB/oct
Q特性
0.7,0.5(LPF,HPF独立選択)
フェイズ・シフター
180°移相回路
レベル・コントロール
0〜−30dB連続可変(L・R独立)
入力
LPF,HPF,PHASE SHIFTER独立入力端子
(入力インピーダンス330kΩ)INPUT MODEスイッチにより
LPF,HPF入力は内部接続可能
出力
定格出力2V,最大10V
出力インピーダンス
FIXED OUT=270Ω
VARIABLE OUT=2.5kΩ最大
挿入損失
0〜2dB
周波数特性
10Hz〜100kHz+0,−1dB
高調波歪率
0.003%(2V出力時)
SN比
105dB(IHF・A,入力ショート,2V出力時)
消費電力
15W(電気用品取締法)
寸法/重量
H61×W420×D348mm/6.0kg


DS-7070の写真
Victor  DS-7070
PLASMA LEVEL INDICATOR ¥145,000

1978年に,ビクターが発売したレベル・インジケーター。「7070シリーズ」では,高精度なオーディオ・
レベル・インジケーターも単品として製品化されていました。パワーアンプM-7070にも,LEDを用いた
ピーク表示の12ポイントのパワー・インジケーターが装備されていましたが,DS-7070は,より高精度
で多機能なレベル・インジケーターでした。

当時,レベル表示の方法として針式メーターに代わって,LED,蛍光管,液晶などの方法が使われはじ
め,特に,LEDは多く使われるようになっていました。そうした中,DS-7070は,プラズマ表示素子を
使用したレベル表示が採用されていました。プラズマ表示は現在では,テレビなどにも使われるほどポ
ピュラーなものですが,当時はまだまだ少なく,当然オーディオ機器にも使われている例はきわめて少な
いものでした。
プラズマ表示素子の採用により,(1)0.02msec以下の高速応答性 (2)追従遅れはもちろんオーバー
シュートなどの指示慣性がない (3)多ポイント表示が可能 (4)発光部分の形状が自由でメモリーも可能
(5)高輝度・高コントラストで遠距離での視認性も良い (6)発光部分と目盛りを同一平面上に置くことがで
き,斜方向からの視差が生じない (7)消費電力が少ない (8)長寿命で耐損性に富む などのメリットが
生まれ,高い性能と機能性を持つ表示系となっていました。

DS-7070の内部

DS-7070のプラズマ表示素子は,43ポイントにも及び,+10dBから−50dBまでの広いレベル範囲を
ワンレンジでカバーできるようになっていました。+10〜−20dBまでは1dBステップ,−20dB〜−50dB
は2.5dBステップで表示され,指示誤差は±0.5dB以内という高精度なものとなっていました。また,フ
ロントパネルのスイッチの切換で感度を20dB上げることができ,リアパネルの−20dBアッテネータース
イッチを併用するとトータルで+30dB〜−70dBまで100dBにおよぶDレンジがカバーできるようになっ
ていました。

表示機能も多様に装備されていました。BTS(JIS)規格を満たすVU,DINとNBA規格を満たすピーク表
示が装備されていました。ピーク表示では立ち下がり時間1.5secのPEKA SLOWと0.3secのPEAK
FASTが装備され,PEAK FASTでは,連続パルスの谷間の監視も可能となっていました。このVUとピー
クの表示に加えて,平均パワー,ピークパワーの表示機能が装備されていました。パワー表示に対しては
正確な表示のために,4Ω,8Ω,16Ωのインピーダンス切換スイッチが装備され,0dB目盛りが100W
にあたり,トータルの指示範囲は1kW〜1mWとなっていました。
さらに,変動する先端レベルの読み取りを容易にするため,瞬時ロック機能が装備されていました。また,
リアルタイムの変動レベルを表示したまま最大レベルを表示し続けるメモリー機能も装備されていました。

以上のように,DS-7070は,オーディオ用のレベル・インジケーターとして高精度な表示性能と多彩な機
能が装備されていました。「7070シリーズ」の一員として,高級レベル・インジケーターの逸品でした。


以下に,当時のカタログの一部 をご紹介します。



プラズマ表示素子による
高精度・多機能
オーディオ・レベル・インジケーター。


◎高信頼・高速応答,プラズマ表示素子。
◎広Dレンジ高精度43ポイント表示。
◎VU・ピーク・平均パワー・ピークパワー
 4種切換2ch同時表示と,
 正確なトーンバースト・レスポンス。
◎指示先端瞬時ロック機能と
 尖頭値メモリー機能。



●DS-7070型規格●

型式
プラズマ表示素子使用オーディオ・レベル・インジケーター
入力系統
LINE IN(1)(LINE OUT端子あり),POWER IN (1)
入力感度
LINE(ATT 0dB時)=−20.0dBm
LINE(ATT −20dB時)=0,+20dBm
POWER=100W(0dB目盛位置)
入力インピーダンス
50kΩ以上
指示範囲
−50dB〜+10dB
周波数特性
VU=20Hz〜20kHz
PEAK=31.5Hz〜16kHz
メモリー指示時間
永久メモリー(メモリースイッチON時)
応答時間/復帰時間
VU=300msec/300msec
PEAK FAST=10msec/300msec
PEAK SLOW=10msec/1.5sec
目盛間隔
−20dB〜+10dB=1.0dBステップ
−50dB〜−20dB=2.5dBステップ
指示精度 全レンジ±0.5dB以内
消費電力
12W(電気用品取締法)
寸法/重量
H61×W420×D348mm/5.7kg


※本ページに掲載したM-7070,CF-7070,DS-7070の写真,仕様表 等
 は,1978年のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
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