PC-X60ADの写真
Aurex PC-X60AD
adres deck ¥72,800
1979年,オーレックス(東芝)が発売したカセットデッキ。オーレックスが開発したNR(ノイズ・リダクション)
システム「adres(アドレス)」を搭載して発売された初めての中級機でした。それまでアドレスを搭載してい
たカセットデッキは,国産初のメタル対応デッキPC-X80ADでしたが,これが¥178,000もする受注生産
の高級機であったためアドレスが一般に認知されるまでには至りませんでした。このPC-X60ADは,初めて
手が届く範囲にあるアドレス内蔵デッキとして登場し,アドレスの威力を世に知らしめた名機だったと思ってい
ます。
PC-X80ADの写真
PC-X80AD
¥178,000(特別受注生産)
adresはAutomatic Dynamic Range Expansion Systemの略で,オーレックスが1977年に発表したNR
(ノイズ・リダクション)システムで,基本的には,dbxに近い1:1.5の圧縮・伸張型の方式でした。これに,ブリージ
ング(息つき現象)の目立ちやすい高域にドルビーでおなじみの可変エンファシスを組み合わせ,SN比を高域で30
dB以上改善し,ダイナミックレンジを100dB以上に拡大し,歪みを6分の1に改善するというものでした。音的には,不
自然さが比較的少なく,繊細な音を特徴としていて一時はかなり評価されていました。単体ユニットも発売され,アドレ
スでエンコードされたアナログレコードも発売されるなど,オーレックスの頑張りは見事でしたが,結局普及はあまりし
ませんでした。搭載デッキは,オーレックスだけですが,ユニットとしては,OEMでオンキョーやアカイからも発売されて
いました。
AD-4の写真
Aurex AD-4 ¥58,000
NR−5の写真
ONKYO NR-5 ¥59,800
 

AX−10の写真
AKAI AX-10 ¥40,000

PC-X60ADの最大の特徴は,アドレス内蔵デッキであることですが,アドレスを正確に動作させるためにデッキの
基本部分もメタル対応デッキとしてしっかり作られていました。基本は,2ヘッド構成の2モーターメカニズムで,キャプ
スタン専用のDCサーボモーターとリール台専用のDCモーターを搭載し,通常の定速用モーターでキャプスタンとリ
ール台を同時に駆動する2モーター方式に比べ,メカニズムのシンプル化と高精度化,静粛性の向上を図っていまし
た。モーターにはオープンリールデッキで用いられる電圧コントロールを行い,高い回転精度を実現し,0.035%の低
ワウ・フラッターを実現していました。メカニズムのコントロールは,専用のICによるICロジックコントロールで,2モーター
シンプルメカニズムと相まって軽快な動作を実現していました。ダイキャスト製の頑丈なフロントパネルが駆動メカニズ
ムのベースともなっており,メカニズムを安定して支え,かつシンプルな構造になっていました。

録再ヘッドは,最大磁束密度が高く,耐摩耗性にも優れたセンダスト使用のAS(オールセンダスト)ヘッドを搭載し,消
去ヘッドには,高い消去効果を持つフェライトを用い,消去効率を高める2ギャップ構造としたAF(オーレックスフェライト)
ヘッドを搭載してメタルテープに対応していました。 

PC-X60ADのヘッド

録・再アンプは,カップリングコンデンサーを排除したDC構成とし,アンプの録再切換及びアドレスユニットの録再切換に
スイッチング素子Hi-gmFETを採用して電子化し,メカニズム部からのアンプ部への干渉を排除するワイヤリングのシン
プル化,各素子や基板のレイアウトの合理化が図られていました。アンプ用とアドレス用にそれぞれ別系統で電源を構
成し,動作の安定と電源部の充実を行っていました。

このようにPC-60ADは,シングルウェイの2ヘッドデッキとして基本をしっかりした上で高性能ノイズリダクションアドレス
を搭載し,その威力を世に知らしめました。このデッキの宣伝は,テレビCMでも流されました。(今では,カセットデッキの
CMが流されることはまず考えられませんが・・。)美しい海岸の風景をバックに,グリーグのペールギュントの「朝」が流れ
その曲のノイズがアドレスINでぱっと消え,「透明聴界」の文字,今でも印象に残っています。覚えている人は少ないかも
知れませんが,私はこのCMがずっと心に残り,その後アドレスデッキPC-45ADを自ら所有することになったのです。アド
レスが広く知られるようになっていったきっかけとして(私だけがそう感じている?)このPC-X60ADを印象的な1台として
取り上げました。 
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

 



アドレスinでデッキ新時代。

オーレックスは,スペックで主張する。
S/N88dBカセットデッキの新しい基準値。その典型のひとつがSN比です。メタルテープにさえ
                 頑固に残っていたテープヒスが消えて,カセットで今,静寂の録音を可能にします。 
Dynamic Range(1kHz)103dB           
                 録音可能な音の強弱の幅は従来の20倍以上。ピアニッシ
                 モからフォルテッシモまで,そっくりそのまま再現します。 
 

メタル&アドレス。デッキの世界に
こんなスペックがあっただろうか。

◎驚異のノイズリダクションシステム。アドレス内蔵。 
◎シンプル&サイレント。 
  新開発2モーターICロジックコントロールを採用。
◎アンプ部は音質重視のDC構成。
◎メカを支えるクールな顔立ちダイキャストパネル。
◎高精度ピークメーター。そして,さらに多彩な機能群。
◎録音用にAS(オールセンダスト)
  消去用に(オーレックスフェライトのヘッドを採用。 
◎自在の遠隔操作が楽しめる
  ワイヤード,ワイヤレスリモコンが可能。

 
 
 

●PC-X60AD SPECIFICATION●


メカニズム 2モーターICロジックコントロール方式
モーター キャプスタン駆動用DCサーボモーター
リール台駆動用DCモーター
ヘッド 録・再用AS(オールセンダスト)ヘッド
消去用AF(オーレックス・フェライト)ヘッド
周波数特性 −20dB 20〜20,000Hz(MXテープ)
      20〜18,000Hz(AXテープ)
      20〜17,000Hz(ADテープ)
   0dB 20〜12,500Hz(MXテープ)
      20〜8,000Hz(AXテープ)      
総合SN比 ノイズリダクションOUT 58dB
ドルビーNR・IN     63dB
アドレス・IN        88dB
(ピークレベルWTD・メタルテープ)
ダイナミックレンジ 103dB(アドレスIN 1kHz,メタルテープ)
最大録音レベル +13dB(アドレスIN 1kHz,メタルテープ3%THD)
ノイズレベル(アドレスIN) 100Hz −80dB
1kHz  −90dB
10kHz −93dB
歪率 0.3%(400HzアドレスIN,メタルテープ)
ワウフラッター 0.035%WRMS
早送り・巻戻し時間 約70秒(C−60)
バイアス周波数 85kHz
入力端子 マイク:0.25mV(600〜10kΩ)
ライン:70mV(50kΩ)
出力端子 0.4V(50kΩ)
ヘッドホン出力 0.4mW(8Ω)
使用半導体 IC10個,トランジスタ58個,FET28個,ダイオード51個,LED3個
電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 30W
外形寸法 420W×120H×280Dmm
重量 6kg
※本ページに掲載したPC−X60ADの写真,仕様表等は1979年9月のオーレックスの
 カタログより抜粋したもので,東京芝浦電気株式会社に著作権があります。したがって,
 これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く 
 ださい。
    
 
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