PC-X80ADの写真
Aurex PC-X80AD
STEREO CASSETTE DECK ¥178,000(特別受注生産)

1978年にオーレックスが発売したカセットデッキ。オーレックス独自のノイズリダクション「adres(アドレス)」
を搭載した受注生産の高級機で,カセットデッキとしてメタル対応を最初に果たしたデッキでもあったはずです。

adresはAutomatic Dynamic Range Expansion Systemの略で,オーレックスが1977年に発表した
NR(ノイズ・リダクション)システムで,基本的には,dbxに近い1:1.5の圧縮・伸張型の方式でした。これに,
ブリージング(息つき現象)の目立ちやすい高域にドルビーでおなじみの可変エンファシスを組み合わせ,SN比
を高域で30dB以上改善し,ダイナミックレンジを100dB以上に拡大し,歪みを6分の1に改善するというもので
した。音的には,不自然さが比較的少なく,繊細な音を特徴としていて,広く普及していたドルビーよりクオリティ
的にも優れた部分もあり,一時はかなり評価されていました。単体ユニットも発売され,アドレスでエンコードされ
たアナログレコードも発売されるなど,オーレックスの頑張りは見事でしたが,結局普及はあまりしませんでした。
また,ドルビーノイズリダクション(Bタイプ)も搭載されていました。

adresを正常の動作させるために重要なテープ走行系はしっかりしたものが搭載されていました。キャプスタン
及びリール台駆動をそれぞれ独立したモーターで行う2モーター方式を採用し,キャプスタンドライブには,回転
精度の高いFGサーボモーター使用していました。走行系パーツも工作精度の高いものが使用され,ワウ・フラッ
ター0.03%を実現していました。

PC-X80ADのメカニズム部

操作はICロジックコントロールで,軽快で確実な操作が可能となっていました。主要メカニズムの部分には特殊
エアチェンバーが採用され,メカニズムの機械音を吸収しサイレントメカを徹底していました。ロジック回路には,
1チップ900素子というICよりも高い集積度を誇る新開発のMSI(TC-912P)を搭載し,信頼性を高めていまし
た。

ヘッドは2ヘッド構成で,録再ヘッドは,最大磁束密度が高く,耐摩耗性にも優れたセンダスト使用のAS(オール
センダスト)ヘッドを搭載し,消去ヘッドには,高い消去効果を持つフェライトを用い,消去効率を高める2ギャップ
構造としたAF(オーレックスフェライト)ヘッドを搭載してメタルテープに対応していました。当時は,メタルテープが
技術発表,試作段階で,対応デッキを開発するのも大変だったと考えられますが,いち早くメタルテープ(当時は
合金テープとも言われていた)に対応したポジションを「SPECIALポジション」として設けていました。
 

ASヘッドAFヘッド
テープセレクター部VXコンデンサー

カセットテープの装着は,当時流行していたダイレクトローディングで,直接走行メカニズム部にカセットを装着する
もので,4つのチャックがしっかりとカセットをホールドして微振動を抑える構造となっていました。
フロントパネルは剛性の高いアルミダイカストパネルで,メカニズム部をこのアルミダイカストパネルに直接固定し
メカニズムが安定して支えられ,耐久性の確保が図られていました。

PC-X80ADのadres,メタル対応以外にもう一つ大きな特徴として,レベルメーターがありました。現在ではテレビ
でよく知られているプラズマ方式のレベルメーターが搭載されていました。バー表示としては201セグメント/chと
いう異例の細かな表示が可能で,しっとりと落ち着いた色調が高級感を感じさせました。(実際かなりのコストだった
ようです。)

電源部,アンプ部も強化が図られ,電源部には大型のトランスを搭載し,定電圧回路を設けて全回路に±2電源で
供給していました。特に,adresのセクションには専用のトラッキング定電圧回路を搭載していました。
入力系のアンプにはSRPP(シャンと・レギュレーテッド・プッシュプル)回路を採用し,広ダイナミックレンジを実現し
ていました。再生アンプの初段には新開発のローノイズトランジスターをパラレル使用して,出力段はSEPP構成で
高SN,低歪率,広ダイナミックレンジを実現していました。録音イコライザーはテープポジションごとに独立させてい
ました。
また,パーツの面では音が良く歪みの少ない,オーレックス自慢のVXコンデンサー(縦型誘導ポリエステルフィルム
コンデンサー)を,電源デカップリング,段間,カレントミラー回路等に多数使用し,音質重視の設計となっていました。

以上のように,PC-X80ADは,当時のオーレックスのプレステージモデルとして,adresの威力を知らしめるべく1ウ
ェイ2ヘッド構成のオーソドックスな形の中で性能を追求した,受注生産の高級機でした。かなりレアなモデルですが
知る人ぞ知るといわれる名機だと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


新開発ノイズリダクションシステムadresを搭載。
Dレンジ100dB(1kHz),SN比80dBの高特性。
ソースの持つ鮮度を失わないクオリティの高い再生音。
◎ダイナミックレンジ100dB(1kHz)に飛躍
◎ハイクオリティの音を低コストで
◎余裕を持って録音に対応できます
◎メタルテープが使えるスペシャルポジション付
◎201セグメント/chプラズマ式デジタルメーター
◎2モーターICロジックコントロール方式
◎録再にASヘッド,消去にAFヘッドを採用
◎特殊ホールド機構のダイレクトローディング
◎メカを直接支えるアルミダイカストパネル
◎高品位の音質を確保する回路・パーツ群
 
 
●PC-X80ADの規格●

 
駆動方式 2モーターベルトドライブ方式
使用モーター FGサーボモーター
DCモーター
録音ヘッド AS(オールセンダスト)ヘッド
消去ヘッド AF(オーレックス・フェライト)ヘッド
周波数特性 20〜20,000Hz(±3dB,AXテープ)     
総合SN比 ADRES INで80dB
(ピークレベルWTD・AXテープ)
総合歪率 0.30%(0dB,400Hz,AXテープ)
最大録音レベル +13dB(アドレスIN 1kHz,メタルテープ3%THD)
ワウフラッター 0.03%(WTDRMS)
早送り・巻戻し時間 約70秒(C−60)
バイアス周波数 85kHz
入力端子 マイク:0.25mV(600〜10kΩ)
ライン:70mV(50kΩ)
出力端子 ライン:0.4V(50kΩ)
ヘッドホーン:0.4mW(8Ω)
使用半導体 IC12,トランジスタ71,ダイオード73個
使用電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 45W
外形寸法 420W×148H×384Dmm
重量 12kg
※本ページに掲載したPC-X80ADの写真,仕様表等は1978年10月
 のAurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権があ
 ります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
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