LUXMAN
PD555
BELT DRIVE TURNTABLE ¥450,000
(本体¥330,000 スタビライザユニットVS555¥120,000)
1980年に,ラックスが発売したターンテーブルシステム。ラックスは,アンプメーカーとして有名
ですが,アナログプレーヤーの分野では後発組で,あまりメジャーではありませんでした。そうい
った中で,ラックスが威信をかけたかのような思い切った設計で作り上げた高級プレーヤーが,
このPD555でした。
PD555の最大の特徴は,「バキュアム・ディスク・スタビライザ」を搭載していたことでした。いわ
ゆるレコード吸着方式で,ターンテーブルとレコード盤の間を真空状態に保ち,一体化することで
理想のレコード再生を実現しようとするものでした。空気吸入のために,ターンテーブル表面に
溝と吸入口,内部に吸入通路が設けられており,これに外部のスタビライザ・ユニット(いわゆる
真空ポンプ)VS555を接続するようになっていました。
スタビライザをONにすると,大気圧が重量に換算して約250kgのスタビライザがかかったと同等
の力でレコード盤をターンテーブルにしっかり押さえつけることになり,ほぼ完璧にレコード盤とター
ンテーブルが一体化してレコード盤の共振や,ソリに起因するアームとカートリッジの低域共振(5Hz
〜10Hz)をほぼ完璧に防ぐことが可能となっていました。
レコード吸着の際,気密を保つために,ターンテーブル表面には,シーリング・パッド,シールリング
や液体パッキング(シリコン)などが備えられていました。
スタビライザユニットVS555は,動作がスムーズで精度,強度の優れた真空ポンプユニットで,通常
イメージする真空ポンプとは異なり,高い静粛性と信頼性を実現していました。VS555は,空気吸引
の時と解除の時に動作するだけできわめてわずかな音がするだけで,吸着するとそのまま停止する
ので,レコード演奏中には雑音や振動が全く発生しないようになっていました。
スタビライザのON/OFFは,プレーヤー本体上面のフェザータッチスイッチで操作できるようになって
おり,プレーヤー本体とスタビライザユニットとは長さ2mのリモートケーブルと吸引チューブで接続さ
れ,設置条件の自由度も確保されていました。吸着の程度(真空度)は,プレーヤー本体正面のバキュ
アム・メーターでモニターできるようになっていました。このメーターは業務用の高精度のものが採用さ
れていました。
さらに,プレーヤーボード下に設けられたオート・スタビライザ・スイッチをONにすると,レコード回転の
スタートと同時に吸着,停止と同時に解除がワンタッチでできるオート・スタビライザ機能も備えられて
いました。
ターンテーブルはブラシ&スロットレス・DCサーボモーターでベルトドライブされ,静粛な回転を確保
していました。ターンテーブルはメイン・ターンテーブルとサブ・ターンテーブルに分かれた構造になっ
ていました。
メイン・ターンテーブルは,アルミ製の直径30cmのもので,高圧で鋳造するアルミダイキャスト方式
ではなく,純度の高いアルミ材を使って,ゆっくり圧力をかけて精密に鋳造するキャスト方式(低圧鋳
造)で作り上げられていました。この方式により表面の精度も高く,内部に発生する気泡なども徹底
して除去され,きわめて均一な密度で仕上げられていました。形状も,内側の凹面部分の少ない塊
状に仕上げられ,共振を起こしにくい構造となっていました。
サブ・ターンテーブルは,メインターンテーブルを支えるもので,接触面を広くとった”面受け”構造が
採用され,共振が抑えられていました。サブ・ターンテーブルもアルミ・キャスト製で高い精度が確保
されていました。これにより,内部の軸受け部分との接触面や,空気吸入の通路部分には高度な精
度が実現し,気密性保持が維持されるようになっていました。
ターンテーブル全体は,自重8.5kgに及び,慣性モーメント1.2t・cm2の ハイ・イナーシャで静粛で
安定した回転を実現していました。
ターンテーブル横には,ストロボスコープが備えられ,水晶発振器による点滅光でターンテーブル裏
側のストロボパターンが表示され,33rpm,45rpm,78rpmそれぞれ独立で回転数微調整ができ
るようになっていました。
重量級のターンテーブルを支えるシャーシは,一見スリムに見えますが,強固でハウリングに強い構
造がとられていました。3mm厚の鉄板とアルミ押し出し材で24mm厚の積層合板をはさむサンドイッチ
構造で,アルミ材と合板の間には,それ自体が内部損失を持つ制動接着テープが挟まれ,強度を確
保しつつ共振を排除していました。このシャーシをアルミキャストシャーシが支え,それをインシュレー
ターが支える構造となっていました。
インシュレーターは,fo(最低共振周波数)を低くとり,foでのQ(共振の鋭さ)を高くするほど振動全般
に対する遮断特性は高くなりますが,単純にQを高くするだけではfo付近の大振幅振動に弱くなるな
ど相反した条件が伴います。そこで,PD555のインシュレーターは,シャフトをネオプレーンゴム(ウェ
ットスーツなどにも使われ, 非常に密度の高いゴムで空気、水の進入がまったくないやわらかい素材
で衝撃にも強い素材)で支えたハイコンプライアンスの状態で,Qを高くして微少振動を遮断し,大振幅
振動に対してはシリコングリスの粘性制動とスプリングを組み合わせて対処する2段階制動方式がと
られていました。
PD555は,アームレスのターンテーブルシステムですが,多様なアームに対応したユニークなアーム
取り付け構造がとられていました。キャビネットの後部にアームベース取り付け用の溝が設けられてお
り,スライド式のアームベースにアームを取り付けるようになっていました。これは,旋盤のスライドベッ
ドからヒントを得た方式で,簡単な操作で確実に取り付けられ,精密な位置決めが可能なものでした。
ロングアームを含む2本のアームが同時に取り付けられ,アームの取り付け方法ごとに,多種のアーム
ベースが用意されていました。また,このアームベースはハウリング特性が考慮された亜鉛ダイキャスト
製となっていました。通常オーバーハングの調整はカートリッジの固定ネジをゆるめて行う面倒な作業と
なりますが,このスライド式のアームベースにより,アームベースごとスライドさせて簡単に調整すること
が可能となっていました。そのために,キャビネットのパネル面の溝の横にはゲージが備えられていまし
た。
以上のように,PD555はラックスらしいこだわりが各部に表れた高級プレーヤーシステムでした。個性
的な外観と各部の機構,作りは未消化の部分も感じられますが,非常に使いこなしがいのあるもので,
安定した引き締まった再生音にはその実力を感じさせるものがありました。