PIONEER PL-61
PLAYER SYSTEM ¥54,500
1971年に,パイオニアが発売したプレーヤーシステム。パイオニアは,スピーカーからスタートしたブ
ランドですが,アンプ,チューナー,テープデッキ,セットステレオなど,多様な製品を展開し,早くから
総合オーディオメーカーへと発展していったブランドです。そして,アナログプレーヤーにもすぐれた製
品を展開していきました。そんな,パイオニアが,ベルトドライブプレーヤーの1つの完成形として作り
上げたのがPL-61でした。
実は,パイオニアは,1965年に,オーディオファン向けの,単体のプレーヤーシステムの国産1号機
PL-41を発売したブランドでした。1950年代から,アナログプレーヤーは存在していましたが,コン
ソール型のセットステレオあるいはアンサンブルステレオに組み込んだ形か,単体ではプレーヤーユ
ニットやフォノモーターといった形で販売されていました。当時のオーディオファンは,こうしたユニット
やフォノモーターを市販のキャビネットや自作のキャビネットに組み込んでプレーヤーシステムとして
使っていました。
PIONEER PL-41
PLAYER SYSTEM ¥45,100
PL-41は,国産メーカーでは初めて,プレーヤーシステムとして完成された形で販売された本格的
オーディオファン向けの製品でした。横浜工学(コンダクト)のOEMのフォノモーターにトーンアーム
をセットしたプレーヤーユニットに頑丈なキャビネットを組み合わせた完成度の高いもので,その後
各社のプレーヤーシステムにも影響を与えた画期的な製品でした。パイオニア自身も,これ以降バ
ランスのとれた設計のベルトドライブ方式のプレーヤーシステムの製品群を展開していきました。
PL-61は,こうしたパイオニアのベルトドライブプレーヤーの製品群の中の最上級機で,ターンテー
ブル,トーンアーム,キャビネットなど,PL-41以来の技術を継承し,磨き上げて作り上げたバラン
スのとれたプレーヤーシステムでした。
ターンテーブルを駆動するフォノモーターには,それまで多く使用されていたヒステリシス・シンクロナ
スモーターに替わり,新たにブラシレス・DCサーボ・ホールモーターが搭載されていました。このモー
ターは,磁極切換(スイッチング)機構にホール素子を応用したもので,従来DCモーターで必要であっ
たブラシ,コミュテーターを用いておらず,ブラシによる機械的スイッチングに比べて低振動,高S/N
比,高耐久性を実現していました。ホール素子は,固体(半導体薄膜)に電流を流し固体表面に対し
垂直に磁界を加えたとき、電流方向及び磁界方向それぞれに垂直な方向に電圧が発生するという
原理(ホール効果)を利用した磁気量を電気量に変換することができる素子で,現在でもDVDドライ
ブ用などの小型高性能モーター等に使用されている技術です。ホールモーターの駆動磁界は,ホー
ル素子のスイッチングにより働くトランジスター回路からの電流によりつくられ,ホール素子への磁力
変化は,あらかじめ磁化されたマグネットローターにより順次規則的に行われ,正確な回転が得られ
るようになっていました。また,ターンテーブルの10倍の速さで回転する低速モーターで,振動はきわ
めて少なく,SN比,耐久性が高められていました。さらに,定電圧回路による電源供給方式のため,
電源電圧の変動にも影響を受けにくくなっていました。
モーターの回転を制御するDCサーボ機構は,コンデンサー型検出器による回転数検出部と制御回
路から構成されていました。コンデンサー検出器はモーターのローター及びステーターに取り付けら
れた基板により形成されており,回転数の変化はそのまま発振信号の変化にかわり,微少な回転
数偏差も制御回路により,発振周波数をかえて駆動電流を制御し,モーターの回転を常に一定に保
ようになっていました。
起動時間は,331/3rpmで,1/2回転・1.3秒以内で定速回転に入れるというもので,鋭い立ち上
がりを実現していました。駆動力を伝えるベルトには,均一の厚さを持ち,温度・湿度の変化に影響
を受けにくいポリウレタンを使用し,ダンピングにもすぐれた特性で,ワウ・フラッターの低減,SN比
の向上に寄与していました。
モーター自体も比較的低速な回転を実現しており,プーリーの径も太くなっており,安定したベルト駆
動を可能にしていました。
331/3・45rpmの回転数切替は,純電子式で,回路定数を切り替えることで行われ,ベルトの掛け
替えを必要としない機構で,ベルトや機械的切替機構に起因するトラブルが排除されていました。ま
た,331/3・45rpmとも,独立した微調整ツマミを装備し,±2%の範囲内で回転数の調整が可能
となっていました。
DCサーボ方式による電子的特性の追求,高精度なベルトドライブメカニズム部を生かすため,ターン
テーブルは,直径30cmのアルミダイキャスト製・重量1.4kgものが搭載され,センターシャフトの仕
上げ,ターンテーブルのダイナミックバランス調整など,ターンテーブルの基本メカニズム部分の工作
精度もしっかりと高められていました。
以上のような構成のターンテーブル全体として,ワウ・フラッター0.05%以下(WRMS),SN比55dB
以上というすぐれた特性を実現していました。
トーンアームは,S字型パイプアームで,新方式のサポート機構により,感度を高めた軸受け部は,
耐久性もしっかりしたものでした。また,ヘッドシェルも穴あきの軽量型を採用し,トレース能力を高
め,追従性も大きく向上させていました。
インサイドフォースの打ち消しには,磁気の反発作用を応用したパイオニア独自のアンチスケーティ
ング機構を採用していました。針圧目盛数値がそのままアンチスケーティングバイアス値を示す方
式で,本体内部に組み込まれた内蔵型の機構のため,操作の邪魔にならず,高い耐久性も備え
ていました。
出力コードには,将来の(当時の)4ch再生をも想定し,低容量のコードを採用し,超高域での減衰
が少なく,カートリッジの特性をしっかりと伝達できるものとなっていました。
トーンアームの昇降は,ボタン操作によるスムーズな動作の油圧式アームエレベーション機構が搭
載されていました。また,プレーヤー本体は,大型のインシュレーターで支えられる構造となってい
ました。このインシュレーターは,高さ調整が可能で,パネル左端には水準器が装備されており,確
実な水平調整が可能となっていました。
キャビネットは,PL-41以来の,厚板を組み合わせた構造の頑丈な箱形キャビネットで,モーター
ボードにあたる天板が外側に少し出ている,俗に「マナイタ型」と呼ばれたデザインも継承されてい
ました。PL-41以前のプレーヤーキャビネットは,単なる箱で,モーターボードも薄く剛性も低いも
のでしたが,プレーヤーボードを厚く頑丈にして,さらに側板で補強するという構造で剛性を飛躍的
に高めたPL-41のマナイタ型のキャビネットは,キャビネットの重要さを認識させた画期的なもの
でした。
以上のように,PL-61は,パイオニアのベルトドライブプレーヤーとして高い完成度を実現した1台
でした。性能と操作性のバランスがとれた設計と作りは,音楽再生機器として使いやすいものとなっ
ていました。
PL-61には,アームレスプレーヤーのPLC-61,フォノモーターのMU-61も発売されていました,
これは,当時のオーディオファンの楽しみ方を想定し,選択の範囲を広げるもので,自作派を含め
たオーディオファンには嬉しいものだったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
速度微調整の出来る
ブラシレスDCサーボ・ホールモーター
が理想的なオーディオ特性を実現
◎ブラシレスDCサーボ・ホールモーター
◎微少の回転偏差をも見逃さない回転制御装置
◎高い工作精度
◎純電子式スピード切換機構,速度の微調整も
できます。
◎余裕ある起動トルク,経年変化のない
ポリウレタンベルト
◎4ch再生も難無くこなす高感度S字型トーンアーム
◎磁気反発型アンチスケーティング機構
◎4ch再生を見越した低容量出力(Low Stray
Capacity)コード
◎太径のモータープーリー
◎ボタン操作による油圧式アームエレベーション機構
そして大型インシュレーター
●規格●
■PL-61■
モーター | ブラシレスDCサーボ・ホールモーター |
駆動方式 | ベルトドライブ |
ターンテーブル | 31cm径アルミ合金ダイキャスト製(重量1.4kg) |
回転数 | 331/3,45rpm(微調整可能) |
回転数調整範囲 | ±2%以内 各回転数独立調整 |
回転数切換 | 電子式 |
回転ムラ | 0.05%以下(WRMS) |
S/N | 55dB以上 |
トーンアーム | スタティックバランス方式S字型パイプアーム |
カートリッジ | PC-20(MM型) |
付属機構 | アームエレベーション機構 磁気反発型アンチスケーティング機構 ラテラルバランサー アーム高さ調整可能 プラグイン方式ヘッドシェル 大型インシュレーター ストロボスコープ 水準器 |
電子回路 | トランジスター22石,ダイオード15個,IC1個,ホール素子2個 |
外形寸法 | 498W×201H×429Dmm |
重量 | 11kg |
■PLC-61■
モーター | ブラシレスDCサーボ・ホールモーター |
駆動方式 | ベルトドライブ |
ターンテーブル | 31cm径アルミ合金ダイキャスト製(重量1.4kg) |
回転数 | 331/3,45rpm(微調整可能) |
回転数調整範囲 | ±2%以内 各回転数独立調整 |
回転数切換 | 電子式 |
回転ムラ | 0.05%以下(WRMS) |
S/N | 55dB以上 |
付属機構 | 回転数微調ツマミ ストロボスコープ 水準器 大型インシュレーター |
電子回路 | トランジスター22石,ダイオード15個,IC1個,ホール素子2個 |
外形寸法 | 526W×217H×429Dmm |
重量 | 11kg |
■MU-61■
モーター | ブラシレスDCサーボ・ホールモーター |
駆動方式 | ベルトドライブ |
ターンテーブル | 31cm径アルミ合金ダイキャスト製(重量1.4kg) |
回転数 | 331/3,45rpm(微調整可能) |
回転数調整範囲 | ±2%以内 各回転数独立調整 |
回転数切換 | 電子式 |
回転ムラ | 0.05%以下(WRMS) |
S/N | 55dB以上 |
付属機構 | 回転数微調ツマミ ストロボ 水準器 |
電子回路 | トランジスター22石,ダイオード15個,IC1個,ホール素子2個 |
外形寸法 | 317W×133H×353Dmm |
重量 | 6kg |
■PL-41■
オート機構 | モーター電源オートスイッチ トーンアーム昇降機構(オイルダンプ・アームエレベーション機構に連動) |
モーター | ヒステリシスシンクロナス型 |
ターンテーブル | 31cm径アルミ合金ダイキャスト製(重量2.2kg) |
回転ムラ | 0.08%以下 |
SN比 | 50dB以上 |
回転数 | 331/3,45rpm |
カートリッジ | PL-C9(MM型) |
周波数特性 | 15~21,000Hz(±2dB) |
チャンネルアイソレーション | 30dB以上(1kHz) |
出力電圧 | 5mV(1kHz 50mm/sec) |
出力バランス | 1dB以下(1kHz 50mm/sec) |
直流抵抗 | 500Ω |
負荷抵抗 | 50kΩ |
針 | PL-N9,0.62milダイヤ針 |
針先コンプライアンス | 12×10-6cm/dyne |
適正針圧 | 2~3g |
トーンアーム | 十字型ジャイロスタット式軸受使用軽金属製スタチックバランス型 針圧直読ゲージつきメインウェイト |
トラッキングエラー | ±1° |
使用電圧 | AC100V(50Hzor60Hz)切換可能 |
外形寸法 | 500W×195H×405Dmm |
■MU-41■
型式 | 2スピード・ベルトドライブ |
モーター | 4極ヒステリシス・シンクロナス型 |
ターンテーブル | 31cm径アルミ合金ダイキャスト製(重量2.2kg) |
回転ムラ | 0.08%以下 |
SN比 | 50dB以上 |
回転数 | 331/3,45rpm |
電源 | AC100V(50Hzor60Hz)切換可能 |
外形寸法 | 340W×138H×340Dmm |
重量 | 5kg |
※ 本ページに掲載したPL-61,PLC-61,MU-61,PL-41
PU-41A,MU-41の写真・仕様表等は,1972年,1969年
のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式
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