SONY PS-X600(カートリッジレス)/X600C(カートリッジ装備)
D.D. FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥59,800/¥65,000
1980年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。1978年に初登場した電子制御アーム「バイオトレーサー」
を搭載したフルオートプレーヤーシステムで,同方式を採用したプレーヤーとして初めてエントリークラスに投入さ
れたモデルでした。
「バイオトレーサー」は,トーンアームの動きをすべて電子的にコントロールする当時最先端の電子制御アームで,
その名は,生体機能応用工学=バイオニクスの意味を示唆するところから付けられたもので,人間の動作と同じ
ように自由度の大きい動きが可能であることから由来しているということでした。
1978年に高級機PS-B80に搭載されてデビューした「バイオトレーサー」を基本性能,操作性を維持しながらよ
り手頃な価格のモデルに搭載するべく開発・発売されたひとつの到達点がPS-X600でした。
「バイオトレーサー」は,速度及び位置検出センサーと1/1000秒以下の間に数百の論理判断を行うマイクロコ
ンピュータを搭載し,水平・垂直ふたつのリニアモーターでアームを駆動するシステムになっていました。
この「バイオトレーサー」により,音質面の効果として,低域の不要共振のピークを3dB以内に抑え,クロストーク
の改善を図ることができ,低音のしっかりした再生ができるということでした。また,速度型センサーであるため,
低い周波数ほど検出出力が小さくなり,フィードバック量が少なくなる,さらに,速度フィードバックをかけているた
め,振動が起こりにくく振動が発生しても直ちに制動されるなどの理由で,レコードのそりに強くなり,ハウリング
も起こしにくくなるということでした。そして,聴感上のワウ・フラッターが減り,音質向上が図られるということでし
た。
操作性の上では,様々な面でのオート化が図られていました。カートリッジを取り替えるとボタン一つで自動的に
ゼロバランスがとれ,ボリューム操作で針圧印加が簡単に行え,演奏中でも針圧の可変可能と従来にない操作
性を実現していました。同時に,インサイドフォースキャンセラーも針圧に合った適正値を自動的にかけてくれる
ようになっていました。
光電式のレコードサイズ自動判別によるオートリードイン,オートカットなど,アームはボタン一つでフルオート動
作し,2つのボタンの操作により,細かな(約1mm)キューイングも可能でした。アームの動作は電子式の無接触
機構であるため,メカ音がせず,アームリフター連動のミューティング機構も内蔵され,レコードと針先がタッチす
るときのショックノイズがカットされていました。
PS-X600のアームでは,当時のカートリッジの軽針圧・ハイコンプライアンス化に対応し,バイオトレーサーの
追従性の良さをより生かすために,新たにアーム自体のローマス化が図られていました。そのために,強度の
高い硬質アルミ合金をアームパイプに使用し,スパンの短いストレートアームとし,さらにテーパー状に仕上げら
れ,強度の不足を招くことなくアームのローマス化を実現していました。さらに,アームの軸受部は,ボールベア
リングの微妙な隙間によるガタを防ぐために,支点間の距離を長くとった1本のストレート軸で支えることにより
動作点のブレを低く抑えた,ロングスパン軸受けシャフトが採用されていました。
ターンテーブルは,直径32cmのアルミダイキャスト製で,このターンテーブルを「リニアBSLモーター」で駆動し
ていました。「リニアBSLモーター」は,「ブラシ&スロットレス」と称するとおり,ブラシもスロットも必要としないシ
ンプルな構造で,コギング(トルクムラ)の原因となるスロットがないため,トルクムラがきわめて少なく,静かで
滑らかな回転が実現され,かつすぐれた信頼性,耐久性が確保されていました。
さらに,「マグネディスク測度検出」と「クォーツロック」により,正確で高精度な回転を実現していました。「マグネ
ディスク測度検出」は,ミクロン単位以下のものを計測するソニーマグネスケールの高度な精密計測技術を使っ
たもので,回転面積が広範囲にとれるターンテーブルの外周の内壁に磁性体をコーティングし,512波の速度検
出信号を高密度に着磁して,曲面をもたせてターンテーブルとの位置関係を改善したマルチギャップヘッドで平均
値検出し,サーボ系に送り込むという高精度な速度検出方式でした。331/3rpm時に約284Hzという高い発生信
号周波数を持っているため,フラッター成分の中でも比較的高い周波数までサーボ補償が可能となっていました。
検出された速度信号は,周囲温度の変化や電源・電圧・周波数の変動にも影響を受けない水晶発振による正確
な基準信号と比較され,正確に位相制御される「クォーツロックサーボ」により極めて正確な回転を実現していま
した。これらを当時,ソニーは「3段ブロック」と称し,スペックだけでなく針先の負荷による変動=ダイナミック・ワ
ウをも低減し,このノウハウによりCBSソニーに導入されたレコードカッティングマシーンが生み出されたという
エピソードも残っています。
キャビネットには,ソニーが開発した音響素材SBMC(ソニー・バルク・モールド・コンパウンド)が採用されていま
した。SBMCは内部損失が大きく共振しにくく,さらに高剛性で収縮率が小さいため成形精度が高いなど優れた
特徴を持つ樹脂素材で,厚さ構造などを総合的に検討して,要所に補強を施し,部分共振を低減した剛性の高い
フレーム構造としていました。また,ゲル状高粘弾性物質をゴムカップに充填し,振動のダンピング効果を高めた
大型のインシュレーターを採用し,耐振性を高めていました。
PS-X600はカートリッジレスのモデルでしたが,ローマス,ハイコンプライアンス設計のMM型カートリッジXL-20
を標準装備したPS-X600Cも発売されていました。
また,弟機として,基本的には同一の内容を持ち,フルオート機構を省略し,演奏終了時にアームが自動的に上が
るオートリフトアップ機構を装備したPS-X500も発売されていました。
SONY PS-X500
D.D. PLAYER SYSTEM ¥52,000
以上のように,PS-X600は,ソニーが自慢の電子制御アーム「バイオトレーサー」の技術をいかに普及価格帯に
まで展開できるかを挑戦したともいえるプレーヤーシステムで,プレーヤーを構成する各部の技術も上級機からしっ
かりと継承され,コストパフォーマンスの高い1台でした。音の面では迫力よりも音のクリアさが特徴で,そこに「バイ
オトレーサー」らしさがあったように思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
<バイオトレーサー>の良さを,音で,操作性で
フルに生かしたフルオートプレーヤー。
デッキとのシンクロプレイも可能にしています。
◎ローマス・ストレートアーム
◎ロングスパン軸受けシャフト
◎3段ブロック回転系
◎SBMCキャビネットと高粘弾性物質封入の
大型インシュレーター
◎電子式針圧印加方式
◎フルオート機構
◎キューイング
◎光電子ディスクサイズセレクター
◎ミューティング機構
◎デッキとのシンクロプレイ
◎標準装備カートリッジ
ターンテーブル | 32cmアルミダイキャスト |
ワウ・フラッター | 0.015%WRMS(回転系) |
負荷特性 | 0%(針圧150g) |
起動特性 | 1/2回転以内(33・1/3rpm時) |
SN比 | 78dB(DIN-B) |
トーンアーム |
バイオトレーサー(電子制御トーンアーム) |
有効長 | 216.5mm |
全長 | 295mm |
針圧調整範囲 | 0~3.0g(電子式) |
シェル自重 | 5.0g(SH-151) |
使用可能カートリッジ自重範囲 (シェル自重含む) |
7.5g~12.5g 12g~17g(補助ウェイト使用) |
●カートリッジ部●
カートリッジ | MM型(XL-20) 交換針ND-200E(¥4,000) |
周波数特性 | 10~30,000Hz |
出力電圧 | 3mV(1kHz,5cm/sec,45°) |
針 | 0.3×0.8mil楕円ダイヤモンド |
自重 | 3.5g |
大きさ | 430(幅)×120(高さ)×385(奥行)mm |
重さ |
8.5kg |
付属品 |
45回転アダプター,補助ウェイト,ヘッドシェル(SH-151) カートリッジ取付けビス,ダストカバー |
※ 本ページに掲載したPS-X600,PS-X600C,PS-X500の写真・
仕様表等は1980年10月,1982年6月のSONYのカタログより抜
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