PIONEER
S-701
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,800
1986年に,パイオニアが発売したスピーカーシステム。パイオニアは中級クラスのスピーカーとして1978年より
S-180シリーズが人気を
博し,ロングセラーモデルとして改良を続けてきました。そうした中,「598戦争」が始まり
各社とも,より物量を投入したモデルを発売していきました。そして,パイオニアがS-180シリーズの後継モデルと
して発売したのがS-701でした。
S-701の最大の特徴は,ウーファーに採用された「ミッドシップマウント方式」でした。これは,エネルギーの最も大
きいウーファーの振動が前面バッフルに伝わり,他のユニットが不要振動するのを防ぐために,ウーファーユニット
を前面バッフル板以外に取り付けるもので,S-701では,50mm厚の底板にガッチリ固定することで,濁りの少な
い低音と,ミッドレンジ,トゥイーターの中高音の透明度を高める効果が実現されていました。そのため,前面バッフ
ル上に取付ネジが見えないのも特徴でした。
ウーファーには,パルプコーンにカーボン繊維を混抄し,通常のパルプコーンより高い剛性と優れた内部損失を実
現した32cm口径のカーボングラファイトコーンが継承されていました。そして,新たに「DRS(Dynamic Respon
-ce Suspension)」と称する支持機構が採用され,パワーリニアリティーの向上が図られていました。これは,振
動板を機械インピーダンスの異なるサスペンションで支持することにより,固定端からの反射モードを防ぐというもの
で,具体的には,空気の透過率が高く,機械抵抗の小さい二重綾織のテーパードコルゲーション・ダンパーを採用し
リニアリティが高められていました。磁気回路には,新たにLDMC方式が採用されていました。LDMC(Linear Dr
-ive Magnetic Circuit)は,磁気回路にポールピースの切れ込みとサブポールを設け,磁束分布を前後対称にし
て,ボイスコイルの振幅による駆動力の非直線性を排除しようとしたもので,振幅歪率が約1/2〜1/3に低減さ
れ,より切れのある低音が実現されるというものでした。
ミッドレンジは,10cmコーン型で,新開発のセラミックカーボン振動板が採用されていました。この振動板は,黒鉛
と樹脂を練り上げて強度を上げた素材であるカーボングラファイトを基材に焼成して作られたもので,99.9%のカー
ボン純度を持ち,ベリリウムに次ぐほどの硬度と高い内部損失,しかも軽量という特性的にすぐれたものでした。し
かもコーン部とドーム部が一体成型されて高剛性化が図られており,バインダーやベース材も一切用いていないた
め,ピュアな振動が実現されていました。また,ミッドレンジにもDRSとして,ケミカルコーティングクロスエッジが採用
されていました。
トゥイーターは,パイオニア伝統のベリリウムリボントゥイーターが搭載されていました。ベリリウムリボントゥイーターは,
振動系そのものが駆動部となり,しかも軽量で高剛性のベリリウムリボン振動板を駆動するため,高いリニアリティが
確保され,めざましいピストンモーション領域の拡大と歪の少ない高域レスポンスが実現され,50,000Hzにいたる高
域再生能力をもっていました。また,このリボントゥイーターにもDRSが採用され,モードの異なる長手・短手方向それ
ぞれに適切なサスペンションを組み合わせ,振幅リニアリティを確保した三重サスペンション構造となっていました。
エンクロージャーは,前モデルS-180シリーズと比べて板厚が大幅にアップされ,バッフル板は25mm厚,天板,側板,
裏板は20mm厚,底板は50mm厚の板が使用され,剛性アップが図られていました。さらに,フロントバッフルは,左右
のコーナーにRがつけられたラウンドバッフルが採用され,音の回折現象が排除され,左右対称のユニット配置と相まっ
て音場の再現性が高められていました。
ネットワークは,チョークコイルの完全直交配置,アース線の独立などにより信号の流れをシンプル化させていました。
さらにESR(等価直列抵抗)の低いコンデンサーが使用され,素子の共振を抑えるために,素子のレイアウト,固定方
法もしっかり吟味されていました。
以上のように,S-701はパイオニアの主力の中級機として,しっかりと物量と技術が投入されたスピーカーシステムで
パイオニアらしい明るい高音を保ちつつ,バランスのとれた音は,広く音楽を楽しめるものとなっていました。外観が,
当時のスピーカーの中に入ると,個性を感じられないものになってしまったことや,当時の熾烈な「598戦争」の中では
特徴を今ひとつアピールできなかったことなどから,地味な存在となっていたきらいはありましたが,使いやすい実力派
の中級機でした。