PIONEER SA-810
STEREO AMPLIFIER ¥70,000
                 ¥80,000(1974年頃)
1972年に,パイオニアが発売したプリメインアンプ。差動増幅,±2電源方式など,当時最新の回路
方式や技術を全面的に採用し,すぐれた性能を実現していたSA-910の弟機として発売されたのが
SA-810でした。

SA-810の特徴は,全回路を±2電源方式とし,各セクションの初段には差動アンプを採用し,直流
NFBを100%かけ,全段にわたって十分な安定化を図った回路構成でした。

イコライザー部は,ノイズ経時変化の少ないキャンシールドトランジスター2石と,ローノイズトランジス
ター2石による,初段差動アンプ使用3段直結SEPP,NFB型イコライザー回路という構成となってい
ました。初段の差動アンプは,直流NFBが100%かけられるため,直流安定度が大きく向上し,厳
選された素子類の採用ともあいまって高S/N,低歪みを実現していました。また,±24Vの高電圧
供給によって,15Vという高出力が得られ,最大許容入力は,定格入力2.5mVに対して250mV
が実現され,当時の従来型アンプに比べて約2~3倍の余裕を確保していました。
イコライザーのNFB素子とNFBを受ける素子に,ニクロム蒸着金属被膜抵抗(誤差1%),スチロー
ルコンデンサー(誤差2%)を採用することで,RIAA偏差は30~15,000Hzにおいて±0.2dBの
高精度な特性を実現していました。また温度,湿度変化にも影響されない信頼性も確保していました。
また,完全な逆RIAAカーブにのるように設計されており,15kHz点でも1kHzと変わらない十分なダ
イナミックマージンがとられていました。
さらに,これまでパワーアンプの高級機では広く使われるようになっていた±2電源方式がイコライザー
アンプにも採用され,入出力点がゼロ電位に近く保たれるため,スイッチの切換時に発生するショック
ノイズが激減していました。

PHONO,AUXとも入力回路は2系統が装備され,PHONO-1,AUX-1はストレートに,PHONO-2
AUX-2はレベルコントロール回路が設けられていました。特に,PHONO-2回路は,高出力カートリ
ッジを使用したとき,入力インピーダンス,ダイナミックマージンに影響を与えずに,レベルコントロー
ルができるように設計されていました。TAPE入出力は2系統装備されていました。スピーカー出力は
A,B2系統装備され,A,B,A+Bに切り替えられるようになっていました。

コントロール部も,初段には100%直流NFBがかかる差動アンプを採用し,3段直結NF型回路構成
となっていました。初段差動アンプには,キャンシールドトランジスターを採用し,長期の経時変化に
対しても高い信頼性を確保し,±2電源方式もあいまって,高利得と同時に低雑音,低歪率,高安定
度を実現していました。

トーンコントロールは,BASS,TREBLEともそれぞれの両側にひとまわり小さなツマミが設けられた
ツイントーンコントロール方式が採用されていました。これは,内側の大きなツマミ(メインコントロール)
を回すと一般的なトーンコントロールができ,メインをフラットの状態にして両側の小さいツマミ(サブコ
ントロール)を回すと超低域と超高域がコントロールされるようになっていました。メインは1kHzを中心
に,BASSは100Hzで±10dB,TREBLEは10kHzで±10dBの増減特性が得られ,サブはBASS
が,50Hzで±5dB,TREBLEが20kHzで±5dBのコントロールができるようになっていました。さらに
メインとサブの特性を独立してコントロールできるだけでなく,両者を組み合わせて従来のトーンコント
ロールではできなかった微細な補正も可能で,組み合わせによっては,約2000種類ものトーン特性
をつくることができる独特な方式でした。また,メイン,サブのポジションに関係なくフラットにできるトー
ンディフィートスイッチも装備されていました。

フィルターはLOWフィルターとHIGHフィルターが搭載されていました。LOWフィルターは,30Hz,
SUBSONIC,OFFの3段切換で,12dB/octで働くようになっていました。HIGHフィルターは,8kHz,
OFFの2段切換で,12dB/octで働くようになっていました。
ボリュームは,メインボリュームツマミと同軸にレベルセットツマミが設けられていました。レベルセット
ツマミは,-15dB,-30dBにレベルを下げる2段階ミューティング的な働きを持ち,小音量で聴く場
合にも,メインボリュームでの音量調整が中央付近(12時付近)で行えるようになり,調整範囲が広
がって使い易くなる仕組みでした。

パワーアンプ部は,差動1段,純コンプリメンタリーOCL回路が採用されていました。差動アンプ1段
とバイアス補償回路の採用により,出力点のオフセット電圧は,-15℃~+60℃の範囲内で0V±
0.005Vの変動に収まっており,高い安定度が確保されていました。
ドライバー,パワー段の純コンプリメンタリーペアトランジスターには,特性のよく揃ったPNP,NPN
型を厳選して使用し,大型放熱器,電流制御回路,電子式保護回路等により,安全で安定した動作
を実現していました。
プリドライバー段の安定化を図り,クロスオーバー歪を追放することで,微小出力時の歪特性を改善
し,さらに,定電流負荷回路の採用で,裸利得を大きくとり,安定した十分なNFB量により,低歪な
特性を広帯域にわたって実現していました。



電源部は,レギュレーションのよい大型の電源トランスと10,000μF×2の大容量電解コンデン
サーが搭載され,上級機同様に,イコライザー段から出力段まで全段にわたって差動増幅±2電
源方式が採用され,安定したアンプ動作を確保していました。
こうした電源部にも支えられ,パワー部は,余裕を持って40W+40W(8Ω)の出力を実現してい
ました。実際に,最低保証値としてこの出力が確保され,1台ごとに実測データが添付されていまし
た。

その他,機能的には,-20dBのミューティング,ラウドネス,マイク入力,プリとメインをセパレート
して使えるプリアウト・メインイン端子が装備されていました。そして,メインイン入力にもサブソニッ
クフィルターが入れられるようになっていました。

以上のように,SA-810は,SA-910の技術的特徴をほとんどを継承し,新しい技術と物量が投
入された1台でした。上級機よりもスケールダウンとしているものの,パイオニアらしいバランスの
取れた聴きやすい音をもつ使い易いアンプでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



全回路が正負2電源方式
各セクション初段に差動アンプを
きめこまかな音質調整を可能にした
”ツイントーンコントロール”

◎±24Vの高電圧供給。初段に差動アンプを
 使用した3段直結NFB型イコライザー部
◎RIAAカーブの偏差±0.2dBに押えた高精度
 回路素子の採用
◎高域でのダイナミックマージンも十分
◎レベルコントロール付PHONO,AUX回路
◎正負2電源方式でスイッチの切換えノイズ
 が激減
◎トーンコントロール機能が倍加する”ツイン
 トーンコントロール”
◎ボリウムコントロールの調整範囲を広げる
 ユニークなレベルセット機構を装備
◎コントロール部低歪,高利得な2電源方式
◎瞬時にしてトーンフラット特性が得られる
 トーンディフィートスイッチ
◎12dB/octでシャープにカットするLOW,
 HIGH/サブソニックフィルターを内蔵
◎差動1段,高安定性,高信頼度の純コン
 プリメンタリーOCLパワー回路
◎プリドライバー段の安定化で過渡的なクロ
 スオーバー歪を追放,さらに定電流負荷回
 路の採用で低歪率特性を確保
◎電源も十分な余裕。10,000μF×2の
 大容量コンデンサーの採用
◎さらにプリメインアンプ本来の機能をみた
 す付属回路も豊富に完備
◎添付実測データも保証する20~20,000Hz
 出力40W+40W(8Ω)




●SA-810の規格●



●パワーアンプ部●

回路方式 差動1段全段直結コンプリメンタリーOCL
実効出力 20Hz~20kHz両ch駆動
 40W+40W(8Ω) 45W+45W(4Ω)
1kHz,両ch駆動
 44W+44W(8Ω) 50W+50W(4Ω)
1kHz,片ch駆動
 50W/50W(8Ω)  60W/60W(4Ω)
高調波歪率 実効出力時:0.3%以下
1W出力時:0.05%以下
混変調歪率 実効出力時:0.3%以下
1W出力時:0.05%以下
出力帯域幅 IHF両ch駆動
 5Hz~40kHz(歪率0.3%)
周波数特性 7Hz~80kHz+0-1dB
入力端子
(感度/インピーダンス)
POWER AMP IN:500mV/50kΩ
出力端子 SPEAKER:A,B,A+B(4~16Ω)
HEADPHONES:4~16Ω
ダンピングファクター 1kHz,8Ω
 60以上
S/N IHF,Aネットワークショートサーキット
 95dB以上
残留雑音
8Ω,プリ+パワーアンプ
 1mV(0.13μW)以下
サブソニックフィルター
8Hz(12dB/oct)




●プリアンプ部●

回路方式 イコライザーアンプ
 初段差動3段直結NF型
コントロールアンプ
 初段差動3段直結NF型
入力端子
(感度/インピーダンス)
PHONO 1:2.5mV/50kΩ
PHONO 2:2.5~5mV/50kΩ
PHONO最大許容入力(rms/p-p):250mV/700mV
MIC:2.0mV/50kΩ
TUNER:150mV/100kΩ
AUX 1:150mV/100kΩ
AUX 2:150mV~1.5V/50kΩ~100kΩ
TAPE MONITOR 1,2:150mV/100kΩ
TAPE MONITOR 2(DIN端子):150mV/100kΩ
出力端子
(レベル/インピーダンス)
TAPE REC 1,2:150mV
TAPE REC 2(DIN端子):30mV/80kΩ
PRE OUT:2V/5Ω
高調波歪率 20Hz~20kHz
 0.05%以下
周波数特性 PHONO(RIAA偏差):30Hz~15kHz±0.2dB
MIC:10Hz~10kHz+0-1dB
TUNER,AUX,TAPE MON:10Hz~70kHz+0-1dB
トーンコントロール
(1.5dBステップ)
BASS:SUB±5dB(50Hz)
     MAIN±10dB(100Hz)
TREBLE:SUB±5dB(20kHz)
       MAIN±10dB(10kHz)
フィルター SUBSONIC:8Hz(12dB/oct)
LOW:30Hz(12dB/oct)
HIGH:8kHz(12dB/oct)
ラウドネスコンター
ボリウム-40dB時
 +10dB(100Hz)
S/N IHF,ショートサーキットAネットワーク
 PHONO:80dB以上
 TUNER,AUX,TAPE MON:90dB以上
ミューティング
-20dB
レベルセット(3段切換) 0dB,-15dB,-30dB




●電源部その他●

使用半導体 トランジスター49,ダイオード他25
電源電圧 AC100V,50~60Hz
定格消費電力 105W
最大消費電力 260W
ACアウトレット 1(電源スイッチ連動)
2(非連動)
外形寸法 430W×138H×341Dmm
重量 12.1kg


※本ページに掲載したSA-810の 写真,仕様表等は1974年
6月のPIONEERのカタログより抜粋したものでパイオニア
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注
意ください。

 

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